店舗と母屋、程よい距離感で暮らしが交わる「ハナレ」の家 | KLASIC[クラシック]

KLASIC

TOP > 家づくり > 店舗と母屋、程よい距離感で暮らしが交わる「ハナレ」の家

店舗と母屋、程よい距離感で暮らしが交わる「ハナレ」の家

2017年03月17日 ── 埼玉県・家づくり ── 1810

かつて城下町で、今も路地や町並みにその風情を色濃く残す埼玉県行田市。Kさんは子育てのため故郷であるこの地に戻り、ご実家の敷地内に家を建てようと計画。Kさんのお母様が住む母屋は残し、空いた土地に新居を建設しようと考えた。依頼を受けた金子さんは、1階はお母様が営む店舗、2階がKさんご家族の住居という、それぞれの生活が交わる「ハナレ」を提案する。

書いた人 KLASIC編集部

この記事をスクラップする

この記事をスクラップした人

一覧で表示

    作った人 金子 正明

    住んでいる人 夫婦+子ども2人

    家族の生活が重なり合う。行き来のしやすさを考えた設計
    • 外観/通りから見た画像。人が目にする機会が最も多い顔の部分ともいえる。防水などメンテナスの大変さも考慮し、フラットではなく緩やかな片流れ屋根に

    • 外観/東から見た画像。右にあるシュロの木はK邸のランドマーク

    • 外観/店舗の入り口となる南西は大きな窓を設けて開放的なイメージに

    「Kさんのご実家は、敷地内に母屋とお母様が営むプレハブ造りのコーヒー豆焙煎・販売店『風恋人珈琲』がありました。Kさんのご要望は、お母様が住んでいらっしゃる母屋はそのまま残し、お店を解体。空いた土地に2階建ての店舗兼住居を建てるというもの。ややコンパクトな敷地のため、2階の住居部分は必要な部屋を厳選。お風呂は母屋のものを使うことにしました」

    金子さんの言葉通り、K邸は同敷地で別棟の二世帯というより「ハナレ」に近い。Kさん一家はお風呂を使うために、お母様は店舗を営むためにお互いの家を行き来する形だ。

    そこで、金子さんは母屋との行き来がしやすいよう、細い路地を挟んで母屋と新居の玄関を向かい合わせて配置、2階にも通路を渡した。これにより、気軽にKさんのお子さんが母屋へ遊びに行くことができ、自然と奥様がお店を手伝うようになったそうだ。つかず離れずの距離感でコミュニケーションが取れるのも、別棟ながら行き来が多い「ハナレ」の良さかもしれない。

    また、K邸の一角には樹齢100年を超すシュロの木がある。本来なら伐採して家を広げるところだが、K邸はシュロをよけるように角をへこませた。

    「シュロの木は残したいというKさんの希望がありました。ただ、シュロの木は普通の木より揺れ幅が大きいのですが、家と距離を開けるゆとりもない。家屋に当たってお互い傷つけ、音が響くことが考えられます。そこで、屋根にゴム製のクッションを付けました。残したい思いも、住み心地も大切ですから」

    さらに金子さんは、へこませたイリズミに細長い窓を設けた。思いの詰まったシュロの木が家の中からも見えるようにとの心遣いが感じられる。

    一方で、通りに面したお店の顔となる外壁にも細やかな工夫がなされている。

    「店舗の顔となる箇所は塗り壁の左官仕上げです。コーヒーを扱っているので、柔らかい生豆色をイメージしています。窓は大きく取らず少なめで、埋め込むようにして設置しました。日が落ちると陰影ができ、壁の厚みを感じられます」

    お店の顔は蔵を彷彿とさせ、マットに仕上げた外壁に窓の陰影が落ちるとまた違った表情が出る。素朴な色合いも相まって、K邸は古くからそこに存在していたかのようにしっくりくる佇まいとなった。

    • 外観/樹齢100年を超えるシュロの木。揺れて家屋に当たることを考慮して屋根にクッションを設けてある。イリズミの窓から、ご家族もランドマークを身近に感じられる

    • 路地/一部に砂利を敷き詰め、城下町・行田の風情を演出。砂利の部分は草が生えるなどの変化があり、路地に深い味わいを与えてくれる。画面右の建物はお母様がお住まいの母屋。お母様やお子さんが行き来しやすいように、それぞれの玄関が向かい合っている

    • 玄関/光を通す大きなひさしは、ポーチに光を採り入れつつ雨天時も母屋と行き来しやすい。また、母屋との間を走る路地によりプライバシーが守られる玄関の入り口は、透明のガラスにすることでより明るく

    • K邸イラスト/金子さんは手がけた家をイラストに起こし、名刺や冊子のアイコンとしても使用している。まとまりのある可愛らしいイラストながら、のっぽなシュロの木と窓がK邸の特徴をよく捉えている

    • 1階 図面/金子さんは、どの家を手掛ける際にも手描きで図面を仕上げている。フリーハンドながら丁寧で分かりやすい。右上のへこんだ部分にシュロの木がある

    • 2階 図面/風呂は母屋、キッチンは1階のプロ用を使用。住居部分は必要な部屋のみで構成し、各部屋はそれぞれ必要最小限な間取りに

    目線の面白みと居心地の良さを大切に
    • 1階 カウンター/厨房側のカウンター。金子さんがつくった空間にマッチする椅子はKさんが古道具屋で購入

    • 1階 テーブル席/大きな窓から日差しが差し込んで気持ちいい。テーブルは大工さんの足場板を活用

    • 1階 カウンター/大通りに面したカウンター席。普段は見ることのない目線で大通りを眺めることができ、思い思いにくつろげる

    • 2階 洋室/シュロの木の脇の洋室から通りに面した洋室を望む。廊下左側には横長の細い窓があり、採光が計算されているので明るさは十分

    • 2階 洗面台/廊下にある洗面台のエリアには杉材を使用。床の無垢材と異なる素材は場所の区分けにもなる。経年とともに味わいが出てくるのも楽しみのひとつ

    • 1階 棚/店舗の棚も金子さんのデザインで大工さんの手づくり。枠の足場板がラフな雰囲気を演出

    • 外観/Kさんが購入した古板に大工さんが店名を刻んだ「風恋人珈琲(フレンドコーヒー)」の看板。金子さんこだわりの街灯にも合う。街灯は光の広がり方にもこだわり、傘に収まる小さめの電球に付け替えている

    1階は現在、お母様がコーヒー豆の焙煎・販売のみを行っているが、フレンチシェフのKさんは将来的にカフェの経営をしたいと考えていた。そこで、店舗部分には焙煎室のほかにプロ用のキッチンを導入。カウンターやテーブル席を設置し、カフェを想定した造りにした。

    「店舗のカウンターやテーブルの素材、実は大工さんの足場板なんですよ。飾らない風合いをKさんがとても気に入り、大工さんにお願いして譲り受けました」

    希望を取り入れ、最大限に生かすことを考えた金子さんが、その板をカウンターやテーブル、棚などに活用したとのこと。経年による味の出た板は、砂しっくいの壁とコンクリート土間の床とも相性が良く、Kさん好みのレトロな雰囲気の店舗に仕上がっている。

    さらに、こだわりは窓にも感じられる。通りに面したカウンター席には、横長の細い窓をやや低い位置にしつらえた。これなら通りを歩く人と視線がぶつからず、落ち着いて食事やコーヒーを楽しめそうだ。一方で、駐車場と接する南西側の窓は大きく開けている。

    「カウンター席にある横長の窓は視線が交差しない以外に、低い位置から街を眺める視点が面白いと思って設けました。その分、眺望が良い南西側は大きく開けることによって、あたたかな日差しを感じられますし、遠くに忍城という城の天守閣を見ることもできます」

    2階の住居部分は居心地の良さ、住みやすさを考え、軽やかでシンプルにまとめ上げた。床は明るい無垢のナラ材を使用し壁も白で統一。開放的ですっきりとした印象を与えつつ、木の風合いが温かみを感じさせる室内となった。廊下に設置されている洗面所も節目が美しい杉材を使用。床と同じく木材ではあるが、それぞれの表情が大きく違うため洗面所のエリアが独立して感じられる。

    「K邸は長い面が隣地と接近しています。隣地は駐車場ですが、将来、家が建つかもしれない。そうなると人目が気になりますよね。そこで、2階の窓は採光を考えつつ高い位置に横長に設けました。これなら、光の入りもよく人目も気になりません。もちろん、そのほかの窓も風の流れを考えて設けています」

    また、1階、2階ともに部屋の扉は引き戸を採用している。ドアよりもスペース的にゆとりができ、風通しや見通しも開けるのを狙ってとのこと。これなら、家族がどこにいても気配を感じることができる。

    「K邸は1階の店舗部分もKさんの希望が多く盛り込まれました。でも、現在の店主であるお母様もとても喜んでくださっています。午後の日差しが心地よい日には、ご近所の方が集まってちょっとしたサロンになっているそうです」

    現在、プロ用のキッチンはご家族の調理で活躍。お子さんも、家庭用キッチンとは一味違う器具で料理を楽しんでいるそうだ。今後、Kさんがカフェを経営するころには、店舗も家も味わいも増していることだろう。お母様を含めKさんご家族がカフェを経営する日が楽しみである。

    作った人 金子 正明

    味わいのある素材や古道具が好きで、家づくりの際にも取り入れたりします。Kさんも古道具がお好きで、椅子などの家具や細かい内装は古道具屋で調達して店舗の雰囲気をより良いものにしてくださっています。2階の無垢材の床はご夫婦でオイルを塗り、家により愛着を持っていただいているようで、嬉しく感じています。

    スペック
    所在地
    埼玉県行田市
    家族構成
    夫婦+子供2人
    構造
    木造在来工法
    規模
    2階
    設計期間
    2009年06月~2010年03月
    施工期間
    2010年08月~2011年03月
    竣工年月
    2011年2011月
    敷地面積
    211.02㎡
    建築面積
    98.21㎡
    この記事をスクラップする

    この記事をスクラップした人

    一覧で表示

    お問い合わせ

    気になったところは聞いてみよう

    詳しく聞く(Q&A)

    カテゴリ

    記事一覧

    オススメ記事

    クリエイター家族自ら提案!私も使いたいリノベコンセプトとは?
    敬老の日を前に考たい!二世帯が明るく、広々暮らす術とは?
    急斜面を逆手に絶好の借景! 目を落とせば室内にも本気の庭
    趣味も仕事も!「思い出の実家」のリノベは生き方をどう変えた?
    ほぼ事務所な空間を、すべて快適な家族の居場所に変えたリノベ

    週間ランキング

    【話題】こんな庭で遊びたかった!子どものための庭づくりのコツ
    【コツ】障子もカンタンリメイク!布×障子のオシャレインテリア
    家族の暮らしがストンと納まる、工夫に満ちた普段着仕立ての家
    ここまで開放的な平屋だから、自然満喫と落ち着く空間を両立!
    ローラのクリエイティブに脱帽!?リビングで美しさに息を飲む

    TAG一覧

    事例一覧