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ピアノを楽しみ、お昼寝も。家族をつなぐ吹抜けの広い土間

2017年03月27日 ── 神奈川県・家づくり ── 5530

ハウスメーカーとの打ち合わせで「ピアノの部屋が欲しい」と要望したら、ピアノがぎりぎり入る小さな部屋を提示され、しっくりこなかったSさん。新たに相談を受けた建築家の松岡淳さんが提案したのは、なんとピアノを土間で楽しむという斬新なアイデアだった。しかもこの土間には、ほかにもさまざまな役割があるという。S邸の象徴的な空間となった大きな土間の魅力とは?

書いた人 KLASIC編集部

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    作った人 松岡 淳

    住んでいる人 夫婦+子ども2人

    暮らしの楽しみを広げる土間。実家との温かな交流も
    • 外観/住宅街の風景に馴染みつつも、存在感のある外観。密集地であるためプライバシーに配慮しており一見閉鎖的に見えるが、中に入ると開放的な空間が広がっている。建物の手前を奥へ入っていくと玄関がある

    S邸のエントランスは、ちょっとびっくりする。玄関扉を開けると、10畳以上ある吹抜けの広い土間。しかも、そこにはグランドピアノがどーんと置かれ、思いもよらない空間の始まりにわくわくしてくるのだ。

    実家の敷地内に新居建築を計画し、ハウスメーカーとの打ち合わせを進めていたSさん一家は、ご夫妻と小学生の息子さん・娘さんの4人家族。奥さまと娘さんはピアノが趣味で、グランドピアノを置く部屋が欲しいとの要望をもっていた。だが、提案されたのは本当にピアノを置くだけの狭い部屋。「今思うと、その小さなピアノ部屋という提案が、そのまま話を進める気になれなかった要因かもしれません」とSさんは振り返る。

    もっと気持ちを汲み取ってくれて、もっと暮らしが楽しくなるような家をつくってくれるところはないだろうか──。そう考えたSさん夫妻は、奥さまの中学時代の同級生である建築家の松岡淳さんに相談をもちかけた。そこで松岡さんから提案したのが、玄関土間を広く取り、ピアノを置くという斬新なアイデアだ。

    「ピアノを置く部屋が欲しいということは、ピアノを弾く人と聴く人がいる、ということ。単にピアノを置ければいいのではなく、音楽を楽しむための空間が必要だと考えました」と松岡さん。依頼者の言葉を額面通りに受け止めず、その奥にある“どんな風に暮らしたいか”を読み取るのが松岡さん流の家づくりだ。

    では、それがなぜ、土間になったのだろうか?
    「ご要望のひとつに、隣接したSさんのご実家とのつながりが欲しい、というものがありました。そうなるとご家族が集まるLDKはご実家と行き来しやすい1階のほうがいいのですが、ここは住宅密集地で、日当たりを考えるとLDKは2階にするのがベスト。そこで、ご実家と行き来しやすい1階にも、ご家族が憩える空間をつくろうと考えた。打ち合わせを重ねる中で、それは必ずしも部屋でなくてもいいと思い、ご提案したのがこの土間です」

    松岡さんの言葉を受けてあらためて眺めると、確かに、S邸の土間はエントランスとして使うだけではもったいない空間だ。大きな窓の先に広がるテラスは、ピアノの鑑賞席にもなるウッドベンチ付き。隣のご実家の庭に面しており、大きな桜の木を始めとする四季折々の花や緑を眺めてくつろげる。天井は開放的な吹抜けで、白い壁にはハイサイドの窓からそそぐ光が映す柔らかな草木の影。風が通り、光が差し、なんとも居心地がいい。

    2階の和室が土間の吹抜けに張り出した部分は、オイル塗装したスギ板張り。白壁の空間に茶色い木箱がぽっかり浮いているようで面白い。さらに、ここには4つのフックを隠してあり、インテリア小物やカーテンを吊るすなど自由に彩ることができる。実際、Sさん一家はここにハンモックを吊るし、子どもたちの格好の遊び道具になっている。

    「いろいろな使い方ができるのはもちろんですが、広さがあるから、家族4人が同時に靴を履けるのが嬉しくて。先に出た家族を追いかけたりすることなく、みんなで一緒に靴を履いて出かけ、帰ってきたときも一緒に家に上がる。その一体感がいいなあと思っています」とSさん。奥さまも「娘がピアノを練習するほか、息子もよく土間で友達と遊んでいます。隣の実家の庭でおばあちゃんが草むしりしていると、土間で遊んでいた子どもがいつの間にか一緒に草むしりしていることもありますね」と、にっこり。

    ご実家との間には塀も柵もなく、土間にいるとご実家の庭がとても身近になるそう。家族が憩える大きな土間があることで、二世帯の温かな交流もおのずと増えているようだ。

    • 1階 土間のハンモック/写真はピアノを入れる前に撮影したもの。大きく開口したテラス側に緑が広がり、開放感たっぷり。ここのハンモックでまどろむひとときは、まさに至福の時間

    • 1階 土間 ピクチャーウインドー/白壁に映る木の葉の影は、大きなキャンバスに描かれた絵画のよう。小さなピクチャーウインドーからのぞく緑も楽しい

    • 1階 土間にピアノ/空間がシンプルだからこそ屋外の緑がいきいきと輝き、ピアノそのものが美しいオブジェとして映える(※)

    • 1階 土間から和室を見上げる/吹抜けの一部には2階の和室が張り出している。ここはオイル塗装した杉板張り。空中に木箱が浮いているアートのような空間だ。和室の吹抜け側は断熱性のある和紙ブラインドで、写真は全開した状態。適度な開口を設けたおかげでピアノの音響もいい

    • 1階 土間を上がった廊下/廊下から写真右へ入ると2階への階段があり、写真奥へ進むと2つの子ども部屋と主寝室。廊下は2階のLDKや和室などのパブリック空間と、主寝室などのプライベート空間を分ける境界線の役割も果たしている

    • 1階 吹抜けを見下ろす/土間の上部は壁の隅まで開いたハイサイドの窓があり、明るい光がさんさんと降りそそぐ。ウッドベンチ付きのテラスの床は、土間と同じ石のスレート。少しサビが入っていて、独特のニュアンスを醸す。汚れやキズが目立ちにくく使い勝手は抜群

    • 1階 アトリエ/土間の庭側の奥には、美術関係の仕事をしているSさんのアトリエや洗面室・トイレがある。アトリエではものづくりのプロであるSさんが、趣味として家具やインテリア小物などの制作を楽しむ(※)

    どこまでも美しく、四季を感じる開かれた住まい
    • 1階 土間から外を見る/土間からテラスへの開口は大きな掃き出し窓。左右に壁を残していないので見た目がとてもすっきり。土間が屋外とひと続きの空間になり、開放感をもたらす

    • 2階 LDKの入口から/写真奥のキッチンの背後には床から天井までの開口を設けてある。階段をのぼりきるとこの窓が視界に入る仕掛け。空間をより明るく、広く感じられる。写真右の南の方角は隣家が密接しているため大きな開口は避け、複数のハイサイド窓で採光を確保した

    • 2階 キッチンからリビングを見る/キッチンに立つと、正面にバルコニーへの窓が見える。ここも上下の壁を残さず床から天井まで開口してあり、視線が抜ける。造り付けの長いテレビ台も功を奏し、空間全体がのびやかな印象になっている

    • 2階 夜のLDK/天井埋め込みのダウンライトのほか、キッチン背後やテレビ台の下には間接照明を設置。夜は柔らかな光でゆったりとくつろげる。ダイニングは、手もとを明るく照らすペンダントライトを採用(写真では消灯)。照明を吊るす部分のコードが見えないすっきりしたデザインを選んだ

    • 2階 LDK/リビングの家具は松岡さんが一緒に選んだ。大きなソファは「昼寝にぴったり」とSさん。リビングテーブルはウォルナットの床と同じ色調に塗装した。ソファの後ろには和室があり、写真は和室の障子を開けて壁の中に引き込んだ状態。見えるところに障子が残らず、和室とリビングの一体感が増す(※)

    • 2階 和室/リビング隣接の和室は、1階の土間の吹抜けに面している。吹抜け側は断熱性のある和紙ブラインドで、すべて開けると土間のハイサイド窓を通して隣の実家の桜が見える。ブラインドとリビング側の障子を閉めれば完全な個室になり、客間として使用できる

    • 2階 和室からリビングを見る/和室はリビングより少し床が高く、畳に座ったときの目線の高さとテレビの高さ(写真はテレビを置く前)がちょうど合うように計算されている。和室をリビングの一部として使えるように、という松岡さんの配慮だ

    • 2階 家事室/キッチンの横にはパントリーとしても奥さまのワークスペースとしても使える多目的な家事室がある。パソコンなどを置ける造り付けのカウンターのほか収納棚もあり、使い勝手がいい

    • 1階 主寝室/写真は手持ちの家具を入れる前。家具のない状態だと、窓の位置が少し右に偏っている。ところが、「手持ちのタンスなどの家具を置いたときに左右対称になるよう計算しました」と松岡さん。どこまでも細やかな心配りはさすが

    • 夜の外観/隣の実家の庭から見た夜のS邸。土間の明かりが桜の木のあたりにほどよく漏れ、高級感あふれる佇まい

    S邸には、空間をすっきりと広く感じさせるための仕掛けがあちこちにちりばめられている。例えば、実家の庭に面した土間の開口部分。ここはテラスに続く大きな開口で、両端の壁まですべて開けてある。「両端に少し壁が残ると、窓は“壁に空けた穴”になり、そこに壁が存在することを意味します。そうではなく、空間の角まで全部開ければ、その窓は建築の独立した構成要素になる。屋内と屋外の連続性が高まります」

    ほかにも、階段から2階のLDKに入るときの視線の先に床から天井までの窓を取ったり、LDKから2階のバルコニーを見る視線の先にやはり床から天井までの窓を設けるなど、視線の行き止まりをつくらないこだわりが随所に。また、リビングの造作テレビ台はあえて6mもの長さとし、連続性で奥行きを演出することで広くのびやかな空間を表現した。

    松岡さんは、こう話してくれた。「もともと日本の家は、天井と床と柱、そして紙(ふすまや障子)だけでつくられていました。それがいつしか壁が多い家が主流になり、外とのつながりを感じにくくなった。僕は昔の家づくりをそのまま再現しようとは思いません。でも、現代のライフスタイルに合わせつつ、光や風、自然豊かな眺めを家の中に取り込みたい。昔の家のように屋内と屋外の境界があいまいな、開かれた家を提案したいと思っています」

    この考え方が表れている空間のひとつが、2階のLDKに隣接する和室だ。和室は1階の土間の吹抜けに張り出しており、吹抜けに面した部分の和紙ブラインドを全開すると、土間を見下ろす開放的な空間になる。このとき、畳に座った目線から見えやすい位置にあるのが土間のハイサイドの窓。この窓からは、隣の実家の庭にある桜の木が見えるのだ。「桜って、きれいに紅葉するんですよ」と奥さま。春は満開の桜、夏は新緑、秋は紅葉。暮らしの中で自然に目に入る景色が、季節の移り変わりを教えてくれる。

    S邸はどこをとっても洗練され、無駄のない美しいデザインだ。でも、無機質、殺風景といったイメージとは明らかに違う。その理由は、屋内にいながら外の自然とのつながりを感じさせる松岡さんの技術が、至るところに活きているからかもしれない。


    写真撮影:石田 篤 ※印のあるものは松岡 淳撮影

    作った人 松岡 淳

    土間にピアノを置くアイデアは一見突拍子もないですが、そもそも土間は日本家屋の特徴的な空間のひとつ。昔は土間でご飯を炊き、食事をすることもありました。現代の生活でまったく同じ使い方ができなくても、何をしてもいいという土間の魅力を最大限に活かしたいと思って設計しています。第2のリビングとして、趣味やくつろぎの時間、おもてなしなど、ご家族の変化に合わせて末永く自由に使っていただけたら嬉しいです。

    住んでいる人 夫婦+子ども2人

    松岡さんのプランはそこで暮らすイメージが湧き、土間に置く家具などを選ぶ時間がとても楽しかったですね。土間のハンモックは子どもたちのお気に入り。子どもたちが成長したら、ガラッと趣向を変えたり、1階のアトリエとの一体感を高めたりと、将来的に土間をどんな風に使うか考えるのも楽しい。デザインや屋外とのつながりなどにもさりげないこだわりをたくさん取り入れていただき、暮らしを満喫できるいい家ができました。

    スペック
    所在地
    神奈川県横浜市
    家族構成
    夫婦+子ども2人
    構造
    木造
    規模
    地上2階
    設計期間
    2012年08月~2013年11月
    施工期間
    2014年01月~2014年07月
    竣工年月
    2014年2014月
    敷地面積
    123.62㎡
    延床面積
    126.70㎡
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