偶然と必然、
アートと本棚が織りなす世界で一つだけの空間

O様ご一家は、40代のご夫婦と8才と5才のお嬢さんの4人家族。ご夫婦の仕事の関係上、家にはアート作品と、収まりきらないほど無数の書籍がある。これらすべてを押し入れや納戸にしまい込んでしまうと、探す手間が掛かるし、埋もれてしまうことだってありうる。今回はO邸の設計を担当した建築家の石田さんの偶然と必然の融合により生まれた素晴らしい住まいの過程を伺った。

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拘りとコストパフォーマンスを両立させた土地探し

住まいに選んだ西荻窪周辺というエリアは個人経営の店舗が多い。それは飲食店に留まらず、雑貨屋や衣類の店舗などあらゆる業態におよんでいる。道路沿いを歩いていて、気づかなければそのまま通り過ぎてしまうようなほど、しっくり街に馴染んでいる店舗も少なくない。そんな西荻窪周辺の気風をO様は気に入った。

現在の住まいを構えることとなった土地は奥様が見つけたのだという。奥様が地元の不動産屋を何軒も何軒もまわり、その成果として一般公開前の「掘り出し物件」と巡り会ったのだ。

ご主人曰く
「商業地区と計画道路に掛かっている土地で、相場よりも価格が下がるんですね。その分、良い形でコストパフォーマンスが出せたんだと思うんです。」とのことだ。
西荻窪周辺の物件を探している人が多い中で、今回のケースは実に幸運だったというべきだろう(もちろん、奥様の行動力あってのことだ)。


そんな土地探しから行動力を持って行ったO様夫妻の家の設計を託されることとなった、石田設計室の代表としてご活躍される建築家の石田さん。

Oご夫妻との出逢いはどのようなきっかけだったのだろうか?
O様によると「義理の母の親友と石田さんが友人だった」とのことだ。それが縁となり、奥様が主体となってO邸のイメージを創り上げていった。1階は賃貸に。2階が子ども部屋と夫婦の寝室、3階がロフトを加えたリビングという形だ。現在の住まいの大枠は初期のラフスケッチの段階で決まったが、詳細を煮詰めて設計図が固まるまで1年近くを要した。さらに施工期間はおよそ8ヶ月。足掛け2年近くを費やしたという。

南北に縦長の土地をどのように有効活用するか?ラフスケッチには「冬至でも日差しが差し込むレイアウト」や「子ども部屋から見える樹木の借景」、「アート作品を飾るための天井の高いリビング」、「家族が増えた場合を想定して」…等々、注文建築ならではの、O様ご夫妻と2人のお子さんが365日を気持ちよく暮らすための重要なポイントが詳細に書き込まれている。

O様ご一家の暮らしを映すアイコンの役目も果たしているといえる外壁は、ニューヨークのアジアセンターや世界の美術館の壁画の描く30代前半の作家であるDex Fernandez(デックス・フェルナンデス)氏の作品だ。


フェルナンデス氏がO邸の外壁を描くにあたり、奥様から「家族が家に帰ってくるのが嬉しくなる」とリクエストしたところ、このような見事な作品を創り上げてくれた。建築時の足場を解体する日程を2日だけ延ばしてもらい、フェルナンデス氏が一気に描き上げた。当初は他の色(黒)を考えていたが、条例で使えないことが分かり、現在の色合いとなった。結果としてこの方がよかったのではないかとのことだ。壁画には「不思議なところに迷い込んでしまった家族」といったテーマが込められており、よく見るとO様ご一家も描かれている。家という真っ白い外壁キャンパスにして、素晴らしい作品が誕生した。それは、近所の人の目も楽しませてくれる素敵な作品となった。

アートと本、細部までこだわりを追求した住空間

1階は賃貸物件として貸し出す予定だが、すでに最終的な入居者が絞られているようだ。どうやらO様ご一家だけでなく、近所の人も気軽に足を運べる店舗となりそうな予感がする。ご近所の方も気になって仕方がないようだ(O様ご夫妻も「何ができるんですか?」と訪ねられることもあるという)。西荻窪エリアにまたひとつ、魅力的な店舗がオープンする日はそう遠くないかもしれない。

玄関から1階からリビングに通じる階段を登っていくと、壁面が本棚になっている。漫画から小説、CD、アートや美術関連書、お子さんの絵本までまるで図書館のように収められている。本棚の板はかなり厚みがあり、重量のある書籍が収められても反り返る心配はない。また、漫画の単行本に縦幅を合わせて造られており、収まりもよく、見た目にも美しい。

2階はお子さんと夫婦の寝室となっている。女の子2人いうこともあり、北側に面した部屋の窓は採光を意識しつつ、プライバシーが保てるようになっている。反対に、夫婦の寝室は採光を取り、気持ちの良い朝が迎えられそうだ。

3階部分は家族の憩いの場だ。極めて機能的に配置されたキッチンは奥様と石田さんの「作品」といっていいだろう。見せる部分と隠したい部分、すぐに取り出せるものとそうでないもの。女性同士、使い勝手を細部まで煮詰めたに違いない。ダイニングのテーブルは、なんと義理の父のお手製だという。O邸の雰囲気に合う板を探し出し、家族が集う場であることを考えながら造り上げた1点モノだ。失礼ながら、明らかに日曜大工の域を超えている。売り物として展示されていても何ら違和感のない仕上がりだ。

「アート作品を飾るための天井の高いリビング」は、キッチン・ダイニング部分よりも天井高が高く、開放感あふれるものだ。実際、壁面いっぱいのスペースを使って作品が飾られている。O様はここでくつろぐことが多いという。夕食後、家族がここに集い、笑い声が聞こえてくるかのような暖かみの感じられるスペースだ。ロフト部分は天窓もあるため、暖かい日差しが差し込んでくる。ここにも本棚があり、たっぷりと収納できる。また、近隣の家の間を縫うようにしてテラスに通じる窓があり、そこから柔らかい日差しが差し込むようになっている。

つい数年前までは廃屋同然の家があった土地に、こんな素敵な家族と住まいができたことを近所の人も喜んでいるようだ。1階にオープンするはずの店舗にも期待が集まる。2人のお子さんも転校先ですぐに友だちができ、自慢の家に招くことも多いという。自分たちの暮らしを大切にし、周辺への気配りも忘れない。こうした人々の交わりが、いつの時代も西荻窪エリアを魅力的な街と感じさせてくれる大切な要因に思えてならないのだ。
  • アートの飾られた一味違う特別な空間

    アートの飾られた一味違う特別な空間

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基本データ

施主
O邸
所在地
東京
家族構成
夫婦
予 算
3000万円台