300名の園児が過ごすこども園。
安全にのびのび過ごす園舎は「大きな家」

幼稚園から幼保連携型認定こども園へと移行するにあたり、園舎の建て替えを行った千葉県の千成幼稚園。里山教育を取り入れているこども園であり、園舎も木材をふんだんに使用した温もりある仕上がりに。子どもが元気に遊ぶ園舎は、まるで大きな家のようだ。

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園舎、地域交流施設、里山をひとつに。
地域の皆に愛される幼保連携型認定こども園

千葉県佐倉市にある千成幼稚園。昭和49年に設立した伝統ある幼稚園が、幼保連携型認定こども園に生まれ変わったのは平成31年のこと。子どもの増加に加え、取り巻く環境の変化や、多様化する保護者のニーズに応えてのことだったという。

幼稚園は3~5歳児の子どもが通うのみだったが、保育園の機能も備えるこども園は0歳児から受け入れられるため、園児の数も約300名と以前と比べて大幅に増える。さらに、必要な設備も変わることから園舎を建て替えることになった。また園舎の隣には、佐倉市が運営する学童保育や子育て支援施設、町内会の集会所などに利用される地域交流施設がある。同園はこちらの運営にも新たに加わることとなり、建物の老朽化も進んでいたため一緒に建て替える計画が行政から提案された。

このプロジェクトに設計者として参加したエイチ・アーキテクツの橋本啓太さんは、「千成幼稚園は裏手に里山があり、自然に触れる外遊びを大切にされています。地域交流施設を利用する人たちも里山で過ごすことがありますから、こども園と地域交流施設、そして里山が一体になるように考えました」と語る。

橋本さんはまず、2つの建物のデザインを統一。ともに寄棟屋根とし、外壁には杉板を貼って雰囲気を合わせた。それだけではない。こども園と地域交流施設それぞれに「大きな庇下」と呼ぶ半屋外空間をつくった。屋根付きのデッキである大きな庇下には天気を問わず人が集い、また外部であるため、園児や利用者がそれぞれのエリアへと気軽に行き来できる。こども園側ではミニコンサートが行われたり、地域交流施設側ではそこで休んでいた高齢者のもとへ子どもたちが遊びに来たりするのだそうだ。

核家族世帯も多い中、祖父母と孫のような交流も生まれているそうだが、子どもたちだけで集中する時間も当然必要だ。そこで、地域交流施設とこども園の間には広場を設け程良い距離を確保している。

建物の背面にある里山と前面にある園庭は一続きになっており、広場は地域交流施設とこども園を結ぶ以外にも里山と園庭を繋ぐ役目も担っている。それぞれの建物から出てきた地域の人たちと子どもたちが一緒に里山で活動することも多いという。地域活動を担う場としても親しまれる千成幼稚園。そこに通う子どもたちは、地域の人たちみんなから愛されている。
  • 手前の地域交流施設と奥の園舎は外壁の素材や屋根の形を揃え、裏側にある里山とともに一体となるように計画。地域交流施設の屋根が張り出した「大きな庇下」は地域交流施設利用者と園児との交流の場となっている。「大きな庇下」は園舎にも設けられ、相互に行き来できる

    手前の地域交流施設と奥の園舎は外壁の素材や屋根の形を揃え、裏側にある里山とともに一体となるように計画。地域交流施設の屋根が張り出した「大きな庇下」は地域交流施設利用者と園児との交流の場となっている。「大きな庇下」は園舎にも設けられ、相互に行き来できる

  • 園舎側、「大きな庇下」のウッドデッキ。写真中央、庇の一部分を開けてつくられた吹き抜けから日光も落ちる半屋外空間。1歳児、2歳児の保育室とフラットにつながり、園児たちがここで遊ぶことも多い。地域の人たちとの交流の場として、イベントに使用されることもある

    園舎側、「大きな庇下」のウッドデッキ。写真中央、庇の一部分を開けてつくられた吹き抜けから日光も落ちる半屋外空間。1歳児、2歳児の保育室とフラットにつながり、園児たちがここで遊ぶことも多い。地域の人たちとの交流の場として、イベントに使用されることもある

  • 1階玄関。2階の玄関へは写真奥の柵を開け、階段を上がって向かう。多くの園児が一斉にここで靴を履き替えるため、自然な流れで並べるように沓脱をアールで計画した。それに合わせ、受付も曲面で構成されている。温もりを演出する薪ストーブも設置

    1階玄関。2階の玄関へは写真奥の柵を開け、階段を上がって向かう。多くの園児が一斉にここで靴を履き替えるため、自然な流れで並べるように沓脱をアールで計画した。それに合わせ、受付も曲面で構成されている。温もりを演出する薪ストーブも設置

  • 1階玄関から待合スペースを見る。車いすでも容易く移動できるよう、玄関をはじめあらゆる場所でできる限り段差を抑えている。奥の保護者向けの待合スペースはペンダント照明や本棚を配置し、落ち着ける場に。施設運営者が応接間のように使用することも多い

    1階玄関から待合スペースを見る。車いすでも容易く移動できるよう、玄関をはじめあらゆる場所でできる限り段差を抑えている。奥の保護者向けの待合スペースはペンダント照明や本棚を配置し、落ち着ける場に。施設運営者が応接間のように使用することも多い

子どもたちが触れるものだからこそ本物を。
木の温もりを大切にした、明るい園舎

令和元年に完成した千成幼稚園の新しい園舎は、0~3歳児の保育室を1階に、4・5歳児の保育室と遊戯室を2階に設けている。1階2階それぞれに広々とした玄関をつくり、園児が一斉に外遊びに向かうときでも、安全に、スムーズに動ける。

300人の子どもたちが過ごす園舎を、スケールは違うけれども家づくりと同じような考えで設計したという橋本さん。フローリングは無垢材を採用し、保育室の棚やフックに至るまでふんだんに木材を使用しているのは、本物の木の温もりを感じてほしいというお施主さまの気持ちが込められている。

また、1階に畳敷きの和室や、玄関の奥に保護者のための待合を配置するなど、一般の家づくりでよくみられるスペースも取り入れられ、本当に「家」のよう。待合の照明はリビングで使われるペンダント照明を用いるなど細かい点にもこだわり、アットホームな雰囲気を生み出している。

里山から冷たい風が吹き下りてきても、玄関を暖かくして子どもたちを迎えられるようにストーブが置かれている。木の温もりと同じように、子どもたちには本物に触れてほしいという思いから本物の薪ストーブを選んだという。「デザイン性も重視して日本の気候に合う、海外製のものを選びました。幼稚園に来て初めて薪ストーブを見る子どももきっといるでしょう。近づくと熱いということも含めて、いい体験をしてもらえたら」と橋本さん。

家と同じように、との考えは居心地のよさについても変わらない。園舎は1階2階ともに中心に中廊下が走り、両側に保育室などの部屋がある。広々とした中廊下は保育室から出てきた園児たちが遊ぶ場所のひとつとして計画されたが、部屋と部屋に挟まれているため、そのままでは風も通らない暗い空間になってしまう。

自然に囲まれた環境に園舎があり、室内もこれだけ自然素材が使われているのに、廊下だけは昼間から照明をつける状況になってはもったいない。自然光を中廊下まで届けるために橋本さんが見出したのは、寄棟屋根の頂点を段違いにして高窓を設け、南からの光を中廊下に落とす方法だ。2階の中廊下に降り注ぐ自然光は吹き抜けを通じて1階までを照らし、同時に北側の保育室も明るくする。さらに、頂点の高窓には網戸を取り付け開閉できるようにした。そのおかげで、中廊下は窓がある保育室と比べてもそん色ない、豊かに自然光が入るうえに心地よい風も抜ける快適空間となったのだ。
  • 1階、2歳児のための保育室1。耐火建築とするため構造材の木材露出に制限はあるが、家具はそれに含まれないため園児が使用する棚は木製とした。大きな庇下までフラットにつながり、外を感じながら気持ちよく過ごせる

    1階、2歳児のための保育室1。耐火建築とするため構造材の木材露出に制限はあるが、家具はそれに含まれないため園児が使用する棚は木製とした。大きな庇下までフラットにつながり、外を感じながら気持ちよく過ごせる

  • 2階北側保育室。写真右、里山側は北になるため光が入りにくい。それを補うため、廊下側にも窓を開け、中廊下の高窓から入る光を保育室に取り込んでいる

    2階北側保育室。写真右、里山側は北になるため光が入りにくい。それを補うため、廊下側にも窓を開け、中廊下の高窓から入る光を保育室に取り込んでいる

  • 2階中廊下。上部右側の南側高窓から柔らかな間接光を取り込み、廊下や山側の保育室まで明るくする

    2階中廊下。上部右側の南側高窓から柔らかな間接光を取り込み、廊下や山側の保育室まで明るくする

お施主さまの理想や理念を大切にしながら
要望を叶えたい

木の温もりにあふれる千成幼稚園の園舎だが、「2階に保育室を配置した場合は耐火建築物としなくてはならない」という千葉県の条例を踏まえ、構造は耐火木造とした。構造材に石膏ボードを2枚重ねて貼る方法で耐火性能をクリアしたが、この規模の建物だと、一般には鉄骨造のほうが手間もコストもかからないという。それでもあえて耐火木造としたのは、お施主さまから「緑豊かな場所にある園舎だからこそ木造で」という要望を受けてのことだった。

広い中廊下や、寄棟屋根もご要望を叶えたものだ。橋本さんは、お施主さまがお持ちだったイメージをなるべくそのままに、デザイン性・快適性を高める提案を心掛けた。「やはりご要望は叶えたいですから。建築家に設計を依頼する醍醐味でもあると思っていますし、難しくても、どうしたら良いかたちで叶えられるかを考えます」と橋本さんは言う。

1階の大きな庇には2階の保育室が乗っている造りのため、庇部分だけは鉄骨造にするなど柔軟な対応をしてくれるのも橋本さんの魅力的な部分だ。造り付け家具を家具メーカーではなく施工を請け負う職人たちにつくってもらうことでコストを抑えたり、着工後に打診されたストーブのご要望にも妥協なく応じたりと、確かな経験を重ねてきたからこその設計センスや臨機応変に応えてくれる力は本当に心強い。

園舎の建て替えにより、お施主さまの理想や願いがこれまでよりも強く叶えられた千成幼稚園は、2021年度のキッズデザイン賞を受賞。子どもたちが安心安全に暮らせる、豊かな想像力や感性を育むことができる場として公にも認められた。どれだけ優れた施設なのかは、子どもたちが笑顔で元気いっぱいに遊ぶ姿を見れば自然とわかることだろう。
  • 園舎の外観。地域交流施設とこども園の活動時間は重なっている。施設の利用者と交流するときと子どもたちだけで過ごす時間を明確に分けられるよう、間に広場を設け適切な距離が保たれている。2階、広場側には職員室がある。園庭方向にも視線が抜けるため、敷地全体を見渡せる

    園舎の外観。地域交流施設とこども園の活動時間は重なっている。施設の利用者と交流するときと子どもたちだけで過ごす時間を明確に分けられるよう、間に広場を設け適切な距離が保たれている。2階、広場側には職員室がある。園庭方向にも視線が抜けるため、敷地全体を見渡せる

  • 1階談話室。畳敷きの談話室の机は掘りこたつとし、家にいるようなリラックスした雰囲気を得られるように配慮されている。奥の扉を閉めれば個室にできるが、手前は常に開放されており、園児が寝転んでのびのび過ごす様子もよく見られるという。左の小窓からは調理室が見える

    1階談話室。畳敷きの談話室の机は掘りこたつとし、家にいるようなリラックスした雰囲気を得られるように配慮されている。奥の扉を閉めれば個室にできるが、手前は常に開放されており、園児が寝転んでのびのび過ごす様子もよく見られるという。左の小窓からは調理室が見える

  • 1階から2階に上がる階段の踊り場を利用して計画された図書コーナー。気軽に絵本が読める場所として、園児の人気スポットのひとつとなっている。このスペースの下も有効活用し、1階からアクセスできる倉庫を設けた

    1階から2階に上がる階段の踊り場を利用して計画された図書コーナー。気軽に絵本が読める場所として、園児の人気スポットのひとつとなっている。このスペースの下も有効活用し、1階からアクセスできる倉庫を設けた

撮影:川辺明伸

間取り図

  • 平面図

基本データ

作品名
千成幼稚園
所在地
千葉県佐倉市
敷地面積
3012.14㎡
延床面積
1837.56㎡