北向きリビングで、明るさと開放感を。
天空光と緑あふれるスキップフロアの家

ともすると敬遠されがちな「北向きの敷地」。でも、建築家の岡本浩さんは、空から降りそそぐ明るい光と公園の緑を活かし、居心地抜群の北向きリビングを設計。光を自在に操り上質な住空間を生み出す岡本さんの、センスあふれる家づくりを紹介する。

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空に向かって視界が広がる心地よさ。
スキップフロア×吹抜けのLDK

横浜市内の、最寄駅からほど近い住宅街に佇むA邸。2階のLDKに上がると、爽やかな青空とみずみずしい緑が目に飛び込んできた。ダイニングからのスキップフロアを一段上がったところは、ハイサイドライトを設けた吹抜けのリビング。光の中で高い空を感じる気持ちのよい空間だ。

「実は、ここは北向きのリビングなんです」。設計を担当したOASisの岡本浩さんの言葉に驚く。敷地は北西角地で南東には隣家が迫り、メインの採光は北か西から得るしかなかったというのだ。

こう聞くとネガティブな敷地条件のように思いがちだが、「どの方角でも、設計の仕方で光は十分に採り込めます」と岡本さん。「とはいえ、単に窓を多く取ればいいわけではありません。重要なのは、高い位置から光を得ることです。明るい光は空から入ってきますから」

北の道路向こうは公園で、緑の借景を期待できるという幸運もあった。そこでAさまの要望に沿いつつ岡本さんが設計したのが、北側に吹抜けとハイサイドライトがあるスキップフロアのLDK。3階建ての2階に位置し、3階部分のハイサイドライトからそそぐ天空光と、公園の緑を満喫できるのびやかな空間だ。

中でも、ダイニングと並ぶキッチンからの眺めは圧巻。スキップフロアによって段階的に上へ広がる景色を一望でき、気持ちまで解き放たれるかのようだ。「採光は南東がベスト」という既成概念が覆る、目からウロコな住宅といえるだろう。
  • 張り出した角に丸みをつけた西の外観。影のきつさが和らぎ、フォルムの美しさが際立つ印象的な佇まいに

    張り出した角に丸みをつけた西の外観。影のきつさが和らぎ、フォルムの美しさが際立つ印象的な佇まいに

  • キッチンからの眺めは抜群の開放感。スキップフロアとハイサイドライトの効果で、上へ上へと視線がのびる

    キッチンからの眺めは抜群の開放感。スキップフロアとハイサイドライトの効果で、上へ上へと視線がのびる

洒落た存在感で目を引く住宅。
光を巧みに操り、広がりと美しさを生む

住宅街を歩いていると、「人目を引く家」というものがある。A邸はまさにそういうタイプの住宅だ。

チャコールグレーの塗り壁に、ピーラーと呼ばれる木目が美しいベイマツを合わせたモダンな外観。道路からは北西の2面がよく見えるが、この2面の対比が面白い。窓が多く開かれた印象の北側はバルコニーの軒天がピーラーで、窓枠も木目調。1階ガレージにも風合いのある素材が使われ、表情豊かな佇まいだ。

対して西面は、西日対策のために壁で閉ざされている。しかし岡本さんは、西面の張り出した角にアールをつけて大胆な曲線ラインをつくった。曲線のおかげで張り出した部分の影は和らぎ、グラデーションを描いて消えていく。この陰影で閉じた壁面に柔らかさが生まれ、造形美が際立つ外観となった。

A邸の美しいデザインは、邸内に入っても次々と現れる。チークの床と漆喰壁で仕上げた空間に、宙に浮くような片持ち階段、気品あふれる白い列柱、和紙をセンスよく取り入れた畳スペースなど、細部までこだわりが息づく。

そして、A邸を語る上で外せないのが光の巧みな取り入れ方だ。例えばダイニング天井の間接照明。広範囲をほんわり照らす光が空間の広がりを生み、華やぎも添えている。また、2階バルコニーの光も印象的。ここの手すり壁はガラス製で、上が透明、下が乳白色の2トーン。手すりの根元の照明がともると乳白ガラスが光をぼかし、家そのものが発光しているような幻想的な佇まいになる。

こうした光の演出は枚挙にいとまがなく、自然光も人工光も全て意味のある使い方がなされている。岡本さんは光でしか表現できない空間の美しさや広がりを、最大限に引き出す達人なのだ。
  • 吹抜けの2階リビングは3階の個室窓と面しており、家族の気配がそれとなくわかる

    吹抜けの2階リビングは3階の個室窓と面しており、家族の気配がそれとなくわかる

  • 2階リビング。吹抜け上部のハイサイドライトから入る光と公園の緑に包まれ、北向きとは思えない明るさ

    2階リビング。吹抜け上部のハイサイドライトから入る光と公園の緑に包まれ、北向きとは思えない明るさ

要望を全て受け止め、「驚き」もプラス。
さりげない個性で愛せる住まいに

A邸の住み心地についても紹介したい。上へ広がる開放感や光の演出、センスあふれるデザインは、いうまでもなく心を豊かにしてくれる。加えて、3階の個室からリビングを見下ろせる造りや、LDKを通って3階に行く動線など、家族の会話が生まれる仕掛けも豊富。断熱材にこだわったり、奥さまの個室近くに水まわりを配したり、リビングの床下に大容量収納を設けたりと、「生活しやすさ」への配慮も手厚い。

美しさ・住み心地ともに大満足の住まいが完成したのは、岡本さんの「聞く力」と「発想力」によるところが大きいだろう。

岡本さんは「曖昧でとりとめのないご要望でも、遠慮なく教えてください。それを全て受け止め、整理・具現化するのが僕らの仕事ですので」と話す。イメージをしっかり共有できるまで親身に耳を傾けてくれるのもうれしいが、何より、ソフトな語り口の岡本さんになら、どんなことも気兼ねなく相談できそうだ。

さらには、「ちょっと驚きのある提案も加え、その住宅だけのキャラクターを生み出したいとも思っています。モノにも個性が加わると、より愛着が湧くと思うんです」と岡本さん。

岡本さんは理屈で語れない独自の発想力で、「そんなアイデアがあったか!」と膝を打ちたくなるユニークな住まいを多数つくり出してきた。それは決して奇をてらったものではなく、さりげないけれど唯一無二の魅力を生み、暮らしを豊かにしてくれる。岡本さんのような建築家となら、きっと、「ほかとは違う愛せるわが家」をつくっていけるに違いない。
  • インテリアのアクセントになっている2~3階へのらせん階段。写真中央は下に向かう階段の入口。この階段の先には、大人がちょっとしゃがんで入る高さの広い床下収納がある。天井を低めにした1階ガレージと、2階リビングの間を有効活用したものだ

    インテリアのアクセントになっている2~3階へのらせん階段。写真中央は下に向かう階段の入口。この階段の先には、大人がちょっとしゃがんで入る高さの広い床下収納がある。天井を低めにした1階ガレージと、2階リビングの間を有効活用したものだ

  • 3階の奥さまの個室から見たリビング。写真右の窓は子ども室の窓。家族それぞれの居場所が適度な距離感でつながっている

    3階の奥さまの個室から見たリビング。写真右の窓は子ども室の窓。家族それぞれの居場所が適度な距離感でつながっている

間取り図

  • 断面図

  • 平面図

基本データ

作品名
天空光の家
所在地
神奈川県 横浜市
家族構成
夫婦+子供1人
間取り
3LDKS
敷地面積
97.34㎡
延床面積
177.21㎡