自然素材が叶える安心・安全
美しさと頑丈さを兼ね備えた「せがい」の家

産業廃棄物にならない素材を選び、パッシブデザインを取り入れた家づくりを常に心がけている清水建築工房一級建築士事務所の清水國雄さん。菊川市につくったI邸では、清水さんが培ってきた木組みの技術を惜しげなく活用。確かな技術力を持つ職人たちにより、安心・安全と美しさが備わった家を見てみよう。

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繊細さと力強さが両立する理由は
上質な木材と確かな技術力による木組み

清水建築工房一級建築士事務所の清水國雄さんは、地元の木材を使用し、木組みで家をつくるスペシャリストだ。

清水さんが建てた家の数々の中でも、熟練した木組みの技術がよくわかる作品のひとつが、静岡県菊川市にあるI邸。清水さんはI邸を「せがいの家」と呼ぶ。

「せがい」は「船枻」と書き、もともとは和船において両側のヘリに渡した板の、ヘリから外側に突き出た部分のことをいう。和船でせがいをつくる目的は櫓(ろ)を漕いだり棹をさしたりする場所にするほか、荷を多く積めるように船の面積を拡張するためでもあるそうだ。

I邸の外観を見ると、2階の床が1階の壁面からぐっと前に突き出ている。その、深い軒のような箇所がせがいであり、そこに2階が乗っている。要するに1階より2階のほうが大きいのだ。

1階と2階がほぼフラットにつながるプランも考えたが、すると外観がのっぺりしたものになってしまう。そこで、家の顔となる場所にせがいを取り入れることにしたという。せがいをつくるからには、美しく、効果的に見せたいと考えた清水さん。1階は土、2階は木材と、各階の外壁に表情の異なる素材を用い、せがいそのものの美しさと、太陽の位置で変化する影の表情を際立たせた。2階を支えるせがい部分に見えるのは、一目で頼りがいがありそうと感じられる太い木材。1階部分の土壁と相まって、どっしりした家という印象を受ける。

室内はさらに潤沢に木材を使用しており、とくに暮らしの中心であるくつろぎの間の雰囲気は最高だ。吹き抜けで開放的なのに加え、木の温もりや木目の美しさを存分に享受できる贅沢な空間になっている。

木材の美しさにこだわりを持つ清水さん。「より美しい木組みができるよう、プランがある程度固まったら、木材の確保を始めます」という。上質な木材を揃えるためにはプランニングがしっかり固まってからでは遅いのだそうだ。

せがいもそうだが、室内で使用されている木材はそれぞれに木目の表情が豊かでほれぼれする。また組み手ひとつひとつを見ても、がっちりとしたゆるぎなさが感じられる。「そんな印象を抱いていただけるのも、理にかなった構造計画(力の流れをイメージし、プランと架構を整理していくプロセス)の結果でしょうか」と清水さん。

実際に木組みの家は、それぞれの木材が複数の箇所で組み合わされ、互いに面接触して応力を伝達し、外力(地震など)に抵抗するのだそうだ。

木組みの家は、並列に連なる多数の接点(接合部)で外力は分散し、接合部に作用する力は小さくなるなど、特定の接合部に力が集中しない仕組みを有している。だから、例えば地震で木組みの一部が破損しても、他がそれを補完し大きく耐力を失うことはないという。

木組みとの相乗効果でさらに家を強固なものにしているのが、土壁だ。地震や風の衝撃を受けたとき、塗り固めた土が割れたり剥がれたりしながらエネルギーを吸収、分散する。つまり、木組みと土壁によって、木組みや壁のあらゆる箇所がお互いに補完しあっている状態ゆえに、地震に際し変形は大きいけれど、完全に倒壊することはほぼないのだそうだ。

清水さんが土壁を提案する理由はほかにもある。木材や土壁は産業廃棄物にならないため、次世代へいい環境をつなげることができるという。

思わず清水さんに「頑丈そうな家ですね」と言うと、「力強さの表現も美しさのひとつだと考えていますから、そのように感じていただけたのなら嬉しいです」と朗らかに答えてくれた。
  • 南から外観を見る。せがいは、左のバルコニー側が1200mm、右の窓側が910mm張り出しており、日射を十分に遮蔽する。I邸ではパッシブデザインを多く取り入れており、屋根の上に乗っているのは太陽熱給湯機のパネル

    南から外観を見る。せがいは、左のバルコニー側が1200mm、右の窓側が910mm張り出しており、日射を十分に遮蔽する。I邸ではパッシブデザインを多く取り入れており、屋根の上に乗っているのは太陽熱給湯機のパネル

  • 玄関に向かうアプローチは洗い出し仕上げ。木材は杉材だが、雨風による影響を防ぐため浸透性の塗料を塗った

    玄関に向かうアプローチは洗い出し仕上げ。木材は杉材だが、雨風による影響を防ぐため浸透性の塗料を塗った

  • 玄関の壁面。左官職人からの提案で、土壁にモミジの柄が入っている。確かな技術力と丁寧な仕事ぶりが光る一角だ。昔ながらの技法を伝承していくことも、大事な仕事のひとつだと考えている、と清水さん

    玄関の壁面。左官職人からの提案で、土壁にモミジの柄が入っている。確かな技術力と丁寧な仕事ぶりが光る一角だ。昔ながらの技法を伝承していくことも、大事な仕事のひとつだと考えている、と清水さん

  • 2階から土間を見下ろす。土間には薪ストーブを設置した。この1台で家中をまんべんなく暖められる

    2階から土間を見下ろす。土間には薪ストーブを設置した。この1台で家中をまんべんなく暖められる

薪ストーブと土壁は相思相愛
輻射熱を土が蓄え、朝までぽかぽか

リタイヤ後に都会から地元に戻り、コンパクトで風通しのいい家で暮らしたいと希望されていたI様夫妻。ご要望のひとつは「庭」だった。

話を詳しく伺ううちに得られた、野菜づくりも楽しみたいという深いニーズにこたえるため清水さんは土間を提案。リビングと庭の間に土間があることで、家の内と外を頻繁に行き来できるようになった。また、リビングに直接置くには躊躇する汚れ物も、土間になら置ける。土間によって庭の可能性も拡がり、今は思いきり野菜づくりを楽しまれているI様夫妻。2階の書斎から庭を眺める時間も気に入られているとのこと。

庭は一番日当たりのよい南にあり、土間へは大きく開口した窓から出入りする。土間を通してリビングまで豊かに日差しが入るほか、土間と2階の納戸に設けた窓を開ければすっきりと風が通る。リビングはI様のご希望通りの明るく風通しの良い空間となった。「大きく突き出たせがいが、ほどよく日射を遮蔽しますから、暑すぎることもありません」と清水さん。

パッシブデザインにも注力する清水さん。土間に設置した薪ストーブはI様夫妻の要望だったが、取り入れた理由はそれだけではない。清水さんは「薪ストーブは、相思相愛といってもいいくらい、土壁と吹き抜けとの相性がすこぶるいいのです」と説明する。

まず、1階の土間にある薪ストーブによって暖まった熱は、吹き抜けを通して上に上がる。2階にある寝室のドアをあけておけば、空間が一つになって家中が暖められるというわけだ。さらに、薪ストーブから発される熱は太陽と同じ輻射熱。輻射熱を蓄えることに優れている土壁により、夜寝る前に薪ストーブの火を落としても、朝寒いということがない。底冷えする冬の朝、あらためて家を暖めるのは大変なこと。自然素材にこだわった、土壁の家だからこそ受けられる恩恵といえよう。
  • リビングから土間、吹き抜けから2階までを見る。土に木材と、自然素材がふんだんに使われた室内空間は温もりがあり、穏やかな時間を過ごすのにうってつけの場所だ。現しにした木材や木組みの組手からは、力強さも感じられる

    リビングから土間、吹き抜けから2階までを見る。土に木材と、自然素材がふんだんに使われた室内空間は温もりがあり、穏やかな時間を過ごすのにうってつけの場所だ。現しにした木材や木組みの組手からは、力強さも感じられる

  • 土間からキッチンを見る。奥様のご要望に応え、リビングから器などが見えないようにキッチン棚を配置した

    土間からキッチンを見る。奥様のご要望に応え、リビングから器などが見えないようにキッチン棚を配置した

お施主様、職人、建築家が対等な関係。
交流を図りながら、よりよい家をつくる

I邸をはじめ清水さんが建てる木組みの家は、施工期間が7カ月から8カ月ととても長い。一般的には2,3カ月といわれているから、3倍程度かかることになる。

「その間、お施主様にも家づくりに参加してもらうようにしています」と清水さん。お施主様が自分に対してだけでなく、職人ともコミュニケーションを取れるよう働きかけるという。I邸でも、ご夫妻が土壁の芯となる竹を編んだりしたほか、ご夫妻の親戚など皆で集まって土壁を塗ったり土間の三和土を叩いたりしたそうだ。

清水さんは常に、建築家とお施主様、職人たちまでが皆対等な関係であろうと心がけている。なぜなら、最初は遠慮があっても、清水さんが間に入ってお施主様と職人たちがともに作業し、たくさん話をしているうちに、お互いの人となりを知るようになる。それは、職人にとってもお施主様にとっても、どちらにもいいことだと考えているからだ。

職人たちは、清水さんが発起人となった『掛川の風景を創る会』という任意団体のメンバー。いわば、清水さんお墨付きの技術力と探求心をもった一流たちだ。責任感をもって仕事するのはもちろんだが、親密さが増すことでプラスアルファの何かが生まれる。

たとえば玄関の壁面に施されたモミジの意匠。これは当初の予定にはなかったが、日が進むにつれ気心が知れた左官職人が、お施主様に提案し取り入れられたもの。お施主様にとってはお気に入りの箇所が一つ増え、左官職人にとっては自分の技量を発揮する機会が与えられた。家づくりに関する人のすべてをつなぐ清水さんの存在の大きさが伺い知れる一幕だ。「このような信頼関係をつくるのは、短い期間だと難しいかもしれません。全てのことに意味があります」と清水さんは語る。

DIYをされる方も多い昨今、家づくりにも能動的に参加したいというお施主様は増えるのではないだろうか。「そんな方々にはぴったりだと思います。巻き込みますから(笑)」と清水さん。清水さんと一緒なら、完成が日ごとに楽しみになる家づくりができるに違いない。
  • せがいを下から見る。せがいの表情を生かすため、1階と2階の壁面は素材を変えた。「せがいは、加工や組手の技術を意匠として表現できるほか、ファザードに陰影をつけ深みを与えます。外観を印象的に見せるデザインとして優れていると考えます」と清水さん

    せがいを下から見る。せがいの表情を生かすため、1階と2階の壁面は素材を変えた。「せがいは、加工や組手の技術を意匠として表現できるほか、ファザードに陰影をつけ深みを与えます。外観を印象的に見せるデザインとして優れていると考えます」と清水さん

  • お施主様やご親戚、職人さんや清水さんまで一緒になって作業している様子。木材で叩いて叩いて、すこしずつ固めていくのだそう

    お施主様やご親戚、職人さんや清水さんまで一緒になって作業している様子。木材で叩いて叩いて、すこしずつ固めていくのだそう

  • 土壁を塗っている様子。土壁の芯となる竹を編むところから皆で作業を始めるのだという。乾かし、塗り、また乾かし、を繰り返し、最終的に壁は70~80mmの厚さにする

    土壁を塗っている様子。土壁の芯となる竹を編むところから皆で作業を始めるのだという。乾かし、塗り、また乾かし、を繰り返し、最終的に壁は70~80mmの厚さにする

間取り図

  • 平面図

お家のデータ

作品名
せがいの家
所在地
静岡県菊川市
家族構成
夫婦
敷地面積
259㎡
延床面積
104.34㎡
予 算
2000万円台