シンボルツリーは「ひかりの木」。
みなとみらいの絶景を望む5層の家

横浜らしい眺め、家族がつながる5層のフロア、光を放つシンボルツリー……。建築家の岡本浩さんは高度なスキルで施主さまの希望をかなえ、嬉しい驚きもある住まいを設計。住み心地がよく建築としての創造性も高いこの家は、日常をとても豊かにしてくれる。

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施主の理想にとことんコミット。
横浜らしい景色を楽しめる家に

施主のSさまご一家が自邸建築のために購入した敷地は、横浜市内の住宅街。高台の頂上に位置し、みなとみらい地区の景色や花火などの眺望を期待できそうな土地だった。

共働きで、仕事と子育てで多忙な毎日を送り、住まいには「家族のコミュニケーションが生まれやすい空間」「家事効率」「収納力」という要望をおもちだったSさまご夫妻。できることなら、立地を活かして眺めのよい家にしたいとの思いもあったという。

しかし設計を担当したOASisの岡本浩さんは、「高台の頂上ですが周囲は住宅が立ち並ぶ環境。斜線制限(建物の高さの上限を定める法規)に収まる高さの2階建てだと周辺住宅に視界を遮られ、みなとみらい地区の眺めを楽しめないと考えました」と振り返る。

一方で、「施主さまのご要望は全て受け入れたいと思っています」とも話す岡本さん。無理・できないといった言葉を可能な限り口にせず、希望をかなえようと奮闘する。そこに空間の豊かさ、デザインの美しさなど、建築としての魅力や嬉しい驚きを添えるのが岡本さんのスタイルだ。

斜線制限に則る設計ではベストな眺望を得られないと判断した岡本さんは、天空率(一定の条件を満たせば、斜線制限の高さよりも高い建物を建築できる規定)を利用することに。精緻な計算を重ねてみなとみらい地区に向かった建物南側をできるだけ高くし、横浜を象徴する景色や花火を眺められる眺望抜群の家を完成させた。

そうしてできあがったS邸は、南側がスッと立ち上がったモダンな外観。建築基準法的には2階建てだというが、外からは3階建てのようにも見え、中に入るとさらなる驚きが待ち受ける。なんと邸内は、5層ものフロアがある5階建てのような造りなのだ。

いったいどんな家ができたのか、詳しくご紹介していこう。
  • モダンな外観。スキップしたバルコニーが2段あって2階建てとは思えず、どんな家なのか気になってしまう

    モダンな外観。スキップしたバルコニーが2段あって2階建てとは思えず、どんな家なのか気になってしまう

  • 1階LDK。吹抜けのハイサイド窓からたっぷりと光が入り、とても明るくて開放的。写真はキッチンからダイニング、リビングを見たところ。大きな窓の先には庭が広がり、元気に遊ぶお子さまの様子がキッチンからもよくわかる。写真左手に行くと洗面・浴室があり、家事動線も良好

    1階LDK。吹抜けのハイサイド窓からたっぷりと光が入り、とても明るくて開放的。写真はキッチンからダイニング、リビングを見たところ。大きな窓の先には庭が広がり、元気に遊ぶお子さまの様子がキッチンからもよくわかる。写真左手に行くと洗面・浴室があり、家事動線も良好

既成概念にとらわれない設計で、
豊かな空間と暮らしやすさを両立

5層のフロアから成るS邸の1層目は、1階のLDKと水まわり。2階から上はスキップフロアで、階段をのぼっていくと『中の間』『奥の間』『空の間』『天の間』と名付けられた4つの空間が順々に現れる。

岡本さんは要望の1つだった「家族のコミュニケーションが生まれやすい空間」を実現するために、これら5層のフロアに「タテのつながり」を創出した。

例えば、LDKには陽光が降りそそぐ開放的な吹抜けがあり、2層目の『中の間』からは吹抜けを介してLDKを見下ろせる。その『中の間』は、部屋の上部から4層目の『空の間』の一部が見える……というように、要所要所で上下の空間がつながって視線が通るように計画。その結果、どの空間にも一体感と適度な距離感が生まれ、部屋の用途をフレキシブルに変えられる使い勝手のよさももたらした。

「家事効率」という要望へのアンサーも完璧だ。洗濯機を置く洗面・浴室はキッチンのすぐそばに配置。洗面室には着替えをしまうリネン棚やアイロン台も造作した。おかげで一連の家事が水まわり周辺で完結し、かつ、リビングや庭で遊ぶお子さまに目が届く理想的な間取りに。また、3層目の『奥の間』にはクラと呼ばれる大きな床下収納も設け、「収納力」も見事にクリア。

日頃から、「既成概念にとらわれないことが大切だと思います」と話す岡本さん。S邸は人目を引く存在感があり、全ての要望が反映されて住み心地も眺望もパーフェクト。だが、何階建てと表現すればいいのか、何LDKと表現すればいいのか迷ってしまう不思議な家だ。

この、枠にはまらない設計こそが岡本さんの大きな魅力。だからだろうか、S邸を含め、岡本さんが手がけた家はオリジナリティのある住宅を紹介する人気テレビ番組でいくつも取り上げられている。建築としての創造性と暮らしのリアルを両立させる岡本さんの手腕を、メディアも放っておかないのだ。
  • 1階の吹抜け部分は天井高約5m。Rの天井や壁が柔らかな印象を醸す。上部は2層目の『中の間』とつながる

    1階の吹抜け部分は天井高約5m。Rの天井や壁が柔らかな印象を醸す。上部は2層目の『中の間』とつながる

  • 1階の大黒柱は照明を仕込んだ「ひかりの木」としてデザイン。S邸のシンボルといえる美しいオブジェだ

    1階の大黒柱は照明を仕込んだ「ひかりの木」としてデザイン。S邸のシンボルといえる美しいオブジェだ

全てがデザインされた愛せる我が家。
家族の居場所を照らす「ひかりの木」

S邸のデザインについてもご紹介したい。南側が塔のように立ち上がった独創的な外観は、都会的なクールさというよりは上品で柔らかな印象がある。その理由は、玄関まわりの外壁に用いられたR(曲面)のデザインによるところが大きいだろう。

このR壁、実は建ぺい率をクリアするために思いついたアイデアだという。ここを普通に四角くすると建ぺい率をオーバーするが、「角を丸くすれば収まることに気づいたんです」と岡本さん。

玄関のR壁と呼応するように、邸内も天井や壁にRのデザインが多用されている。曲面をバランスよく配した建築デザインのメリットは、光のグラデーションが和らぎ、空間の広がりを感じられること。こうした品のいい造形美は肩の凝らない心地よさを与えてくれる。

また、1階LDKの中央には家を支える大黒柱が必要だったが、岡本さんはこの柱にもひと工夫。天井との接点が見えないように設計し、上部に間接照明とスポットライトを仕込んで照明塔のようにデザインした。

天井に向かってなめらかに広がり、やさしい光を放つ大黒柱は、例えるなら「ひかりの木」。家族の居場所を照らす光のオブジェであり、シンボルツリーであり、この家が唯一無二であることを示すアイコンでもある。

「絶対」という言葉は安易に使うべきではないだろうが、それでも、空間デザインにせよ間取りにせよ、岡本さんがつくる家には「絶対に」ほかと被らないオリジナリティがある。

もちろんそのオリジナリティは、施主の要望がスタートライン。ただ、岡本さんの手にかかると、思いもよらないアーティスティックな形で具現化される。

もし家づくりでピンとくるプランに出合えないと感じたら、一度、OASisの門を叩いてみてはどうだろう。目からウロコの発想に心をときめかせているうちに、一生愛せる自慢の家が完成する──。岡本さんの設計は、そんな幸福を予感させる魅力に満ちている。
  • 2層目『中の間』。写真左のカウンターに座ったときの目線の高さが空いており、吹抜けを介して1階のLDKを見下ろせる。その上部はガラスがはめられ4層目の『空の間』の気配がわかる。北側の部屋だがトップライトなどの窓のほか、吹抜けや『空の間』からも光が入り、明るい

    2層目『中の間』。写真左のカウンターに座ったときの目線の高さが空いており、吹抜けを介して1階のLDKを見下ろせる。その上部はガラスがはめられ4層目の『空の間』の気配がわかる。北側の部屋だがトップライトなどの窓のほか、吹抜けや『空の間』からも光が入り、明るい

  • 4層目『空の間』。左奥上の5層目『天の間』はロフト。バルコニーや『天の間』からはみなとみらいが見える

    4層目『空の間』。左奥上の5層目『天の間』はロフト。バルコニーや『天の間』からはみなとみらいが見える

  • 法規の制約の中で内部空間をできるだけ広くとるために、玄関まわりはR壁に。カドが丸い庇もかわいい。庇は上面が箱のようになっていて雨水がたまる仕組み。その雨水を壁際の小さな穴から落とすという岡本さんのアイデアだ。おかげで竪樋が不要になり、玄関まわりはすっきり

    法規の制約の中で内部空間をできるだけ広くとるために、玄関まわりはR壁に。カドが丸い庇もかわいい。庇は上面が箱のようになっていて雨水がたまる仕組み。その雨水を壁際の小さな穴から落とすという岡本さんのアイデアだ。おかげで竪樋が不要になり、玄関まわりはすっきり

間取り図

  • 平面図

  • 断面図

基本データ

作品名
ひかりの木の家
施主
S邸
所在地
神奈川県横浜市
家族構成
夫婦+子供2人
間取り
3LDK+ロフト
敷地面積
95.04㎡
延床面積
90.96㎡
予 算
2000万円台