自宅を建てるため、土地探しから始めたHさま夫妻。見つかったのは街区の先端に位置し、斜線制限もある三角形の狭小敷地だった。建築家の橋本啓太さんは最先端の技術も駆使しながら問題を解決し、居心地よく、使い勝手も申し分ない空間をつくりあげた。
3Dイメージツールを使って、完成形を共有しながら丁寧に設計します。寄り添った家づくりで「こんなはずじゃなかった」を無くします。建築家の役割は、「敷地の特性」と「クライアントの思い」を知的に誠実に読み解いて、その敷地とクライアントにしかないかたちを提案することだと思います。
建築家の詳細
上から見たH邸。画像手前に高層アパートがあるため、壁を建て視線を遮りつつ一部を開口し、光を内部に入れている。テーブルと椅子がある3階バルコニーの反対側にサービスバルコニーを設け、室外機を置いた。寛ぎの場所に余計なものを置かないという橋本さんの配慮が光る
外観。斜線制限があるため3階は建てられないと考えられていたが、天空率を適用し制限をクリア、十分なスペースを確保した。壁の開口部の奥には2階テラスがある。外へ視線が抜け、また3階のバルコニーにも視線が届くため、小さいながら気持ちがいい場所になっている
玄関。画像左のハンガーやガラス棚を設置しているレール状のディスプレイシステムはドイツ製。壁の緑は海外製の塗料で塗装し、美術館らしさを追求。奥はアートを飾る一角を設け、背後の壁に切り文字も入れ格調高い空間に。奥の扉は水回り、右はゲストルーム、左は階段室へと繋がる
親御さまがお住まいになるかも、と計画された1階ゲストルーム。三角形の先端を利用して小さなテラスや庭もある。現在はご主人が音楽を楽しむ部屋として使用されているという。ゲストルームは隣家に接していない位置にあるため、多少大きな音が出ても気兼ねなく過ごせる
2階ダイニングから階段を見る。LDKの扉の右に、ガラスの壁を設けた。玄関からの緑の壁に鉄骨階段の白が映えて美しく、また階段奥の壁面まで視線が抜けるためダイニングが広く感じられる。階段と居室の間に壁を設けたことで、暖気や冷気が外に逃げず空調効率が高まった
2階リビングからキッチンまでを見る。LDKのそれぞれを整形でとりながら、三角形の斜辺いっぱいに配置したことにより、リビングからキッチンまで視線が斜めに飛び、コンパクトな空間だということを忘れてしまうほど広く感じる
2階リビング。向かいの公園の木々の景色を十分に享受できるよう、連続する横長窓を設けた。壁と壁の角にあたる部分のギリギリまで窓を大きく開けるため、この部分は鉄骨造としている。窓の下にはサイズの大きな洋書などを収納する棚を造作した
2階LDK、キッチンからリビングまでを眺める。ガラス壁を通して階段の奥まで視線が抜け、室内が広々と感じられる。ダイニングテーブル横のブラインドを開ければ公園の緑も目に入り贅沢なしつらえだ。階段室の奥に見える扉は奥様の書斎へ続く
2階キッチンは台形に取られているため、画像右側の一角が三角形のカウンターになっているが、場所に合わせたトータルなデザインにより、それに気が付かないほど自然な仕上がり。冷蔵庫の横にあるのは構造壁。冷蔵庫の大きさと一緒に壁の位置を決め、周りの仕上げと合わせた
3階、ご主人の書斎。本を収納することを何よりも優先し、壁一面に書棚を設けた。コンパクトな空間こそ、少しのずれから印象が変わると橋本さん。そのため、書棚とデスクをひとつに考えたデザインとした。居心地がよく、ご夫妻ともに各々の書斎で長い時間を過ごされているそう
3階寝室からバルコニー。高い位置にあり、公園の木々の伸びやかな枝に茂る緑を存分に楽しむことができる。3階は斜線制限では不可能とされたが、空と建物の比率で計算する天空率を適用してつくることができた
橋本さんが作成したBIMモデル。竣工後に撮影した同じ位置からの写真を見ても、寸分たがわずに表現できてきることがわかる。家具の配置やデザインも、実際にその場所にいるかのように試してみることができ、完成後がイメージしやすい
2階ダイニングからリビング方向を見る。打合せ時にBIMモデルを作成し、メーカーが出しているデータを当てはめて検討したおかげで、すべての家具がしっくりと室内に収まっている。「狭小の場合は特に家具のバランスがとても難しく、BIMは有効です」と橋本さん
撮影:杉野 圭
3Dイメージツールを使って、完成形を共有しながら丁寧に設計します。寄り添った家づくりで「こんなはずじゃなかった」を無くします。建築家の役割は、「敷地の特性」と「クライアントの思い」を知的に誠実に読み解いて、その敷地とクライアントにしかないかたちを提案することだと思います。
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