おもてなし精神が生んだ賃貸併用住宅
選ばれる賃貸住戸と仲間が集う住まい

賃貸住宅において「選ばれる物件」であることは、オーナーにとって最大のミッション。そんな課題を抱えたオーナーのKさんの期待に応え、「稼げる物件」に仕上げたばかりか、誰もが羨むオーナー住戸も実現させたのは、中尾英己建築設計事務所の中尾さん。唯一無二の賃貸併用住宅の秘密に迫る。

隣地購入というウルトラCで
賃貸住戸数を増加

杉並の閑静な住宅地、駅近の線路沿いにその建物はあった。その名もRED ROCKS。
一般賃貸住宅とオーナー住戸がセットになった5階建ての集合住宅だ。線路側からは、この鉄筋コンクリートの建物は大きな窓がなく、ホールや公共施設かのように感じられる。これは、駅のホームや踏切からの視線を防ぎ、入居者のプライバシーを確保するための工夫。

一般的に、賃貸併用住宅を建てる際は、ハウスメーカー系のデベロッパーに依頼することが多いが、オーナーのKさんが設計を依頼したのは、建築家の中尾さんだった。賃貸住宅は個人宅と違い、建物の設計に留まらず収益計画も大きな要素となる。その両方をこなせ、いわば「稼げる物件」を作ることができる数少ない建築家の1人が中尾さんなのだ。

中尾さんは、この土地を見たときに1つの問題点に気づいたという。それは接道幅が小さかったこと。現状の接道では容積率の関係で、賃貸住戸の部屋数や面積が思ったよりとれない。そうすると収益もあがりにくい。「接道幅がもっと大きくとれれば、容積率は上がるが、それにはわずかに土地の幅が足りない」というジレンマ。

そんなときに思いついたのが「隣家の土地を購入する」というものだった。
お隣さんにとっても悪い話ではない。庭先のごくごくわずかな土地が相場以上の値で売れ、境界の壁もキレイに整うというオマケまでつくのだ。両者にとってWin-WinなウルトラCを思いつき、実現させてしまう建築家はそうはいない。これは与えられた土地の条件をみるだけでなく、実際の土地に足を運び、現場をつぶさに捉える中尾さんの視野の広さ、発想の柔軟さがあればこそ為せたことなのだ。
  • 1階から3階が賃貸住戸、4階5階がオーナー住戸。シャープな印象の外観は、年月が経っても色褪せない

    1階から3階が賃貸住戸、4階5階がオーナー住戸。シャープな印象の外観は、年月が経っても色褪せない

  • 駅近という立地のため、線路側には窓は少なくシンプルなフォルムとすることでプライバシーを確保

    駅近という立地のため、線路側には窓は少なくシンプルなフォルムとすることでプライバシーを確保

入居者専用フィットネスジムも
価値の落ちない賃貸住宅

1階から3階は、全15戸の賃貸住宅。部屋のタイプは概ね5種類あり、どれも空間を大きく取り、仕切りを極力なくすことで、入居者が自由な使い方ができるようになっている。そのどれもが、ここにしかないといった個性を持っている。
ハウスメーカーの物件は効率重視のため、どうしても間取りは画一的になりがちだが、ここではあえて異なる間取りを取り入れ、差別化を図っている。画一的な部屋は、年月が経ってくるとどうしても家賃勝負に陥りがち。そうなると建築当初の収益計画に狂いが生じてしまうことになりかねない。
「この部屋だから住みたいといった選ばれる部屋にすることが重要です。10年後20年後も価値が変わらない部屋を目指して設計しました」(中尾さん)

またこの物件の大きな価値の1つに、入居者専用のフィットネスジムがある。本来このスペースは、もう1部屋貸室にするか店舗として利用できるスペースだ。そこをオーナーのKさんが自分専用のジムにすることを考えていたので、そのジムを入居者に無料開放して使用してもらうことにした。これも入居者の満足度を高め、物件の価値を維持する方法の1つ。実際、このジムスペースの利用者は多く、特に女性の入居者には好評だという。確かに女性は、外部のジムに行くとなるとシャワーやメイクなどのことも考えねばならないし、夜遅く出歩くリスクもあり、男性のように気軽にジムに通うのは難しいかもしれない。それがここでは、いつでも好きなタイミングでトレーニングでき、終了後すぐに自室でシャワーも浴びられるのだ。
事実、こういった工夫により、オープン以来ほぼ空室がなく推移しているという。
  • 一通りのトレーニング機器が揃った入居者専用の無料ジム。この設備が決め手となり入居する方も多いという

    一通りのトレーニング機器が揃った入居者専用の無料ジム。この設備が決め手となり入居する方も多いという

  • 中庭には植物を配置し、自然が感じられる空間に。背の高い木は建物の建築前に設置したという

    中庭には植物を配置し、自然が感じられる空間に。背の高い木は建物の建築前に設置したという

開放感と落ち着き
男の夢が詰まった、人々が集う家

オーナー住戸であるKさん邸は、4階と5階のメゾネット。4階のエントランスを入り左サイドには、LDKとファミリーリビングという広々とした空間。床から天井までの全面開口が広がり、開け放つとベランダまでオープンな空間として使うことができる。この場所は人々が集い語らうパブリックスペースの役割を果たしている。晴れた日には、ダイニングからの富士山を望むことができ、訪れる人へのちょっとしたギフトとなる。一方、右サイドは寝室や子供部屋、ウォークインクローゼットといったプライベートスペースとなっており、公私のゾーニングがはっきりとしている。
 
5階には、寝室とバスルーム、そしてSKY LOUNGEと名付けられたルーフテラス。ルーフテラスには、シンク付きのバーカウンターも設置され屋上バーベキューなども楽しめる場となっている。そしてなんといっても魅力的な場所は、バスルーム。ルーフテラスとフラットに繋げられたバスルームは、サッシをフルオープンにすることで一気に露天風呂へと変身。この場所は、他に高い建物が無いため、周囲からの視線を気にすることなく、季節の景色や風を感じながら風呂に入ることができるのだ。

友人たちが集まることが多いというKさん邸。広々としたリビング、バーカウンターまである屋上テラス、そして眺望抜群のバスルーム。訪れた人々は、パーティースペースを借りたかのような気分になること間違いなし。ここはまさに男の夢が全て詰まった邸宅だ。その根底には、自分や家族にとっての暮らしやすさはもとより、訪れる人が喜んでくれる場であることという、Kさんのおもてなしの心の現れでもあるのだろう。賃貸住戸の部屋のオリジナリティの高さや無料フィットネスジムの設置も、そういった思いからであるに違いない。

中尾さんもまた然り。施主のKさんの想いを上手く汲み取り、見事に建築に落とし込んでみせた。建築にあたり、中尾さんは施主との対話を重視するという。「時間をかけ、しっかりと寄り添うことで、施主様がどんな暮らしがしたいかがわかり、それを実現する方法のイメージが湧き上がります」(中尾さん)

建築家とオーナーが、高いホスピタリティーをもって丁寧につくりこんだ住宅は、入居者の満足度を高め、高い入居率となってオーナーへ還元される。「三方良し」の賃貸併用住宅の新たなあり方を見た気がした。
  • 広々としたLDKは、打ちっぱなしのコンクリートと、ウエスタンレッドシダーのコントラストが美しい。

    広々としたLDKは、打ちっぱなしのコンクリートと、ウエスタンレッドシダーのコントラストが美しい。

  • LDKは、ベランダとフラットな床となっている。掃き出し窓をフルオープンにすると内と外が一体化し、さらなる大空間に。

    LDKは、ベランダとフラットな床となっている。掃き出し窓をフルオープンにすると内と外が一体化し、さらなる大空間に。

  • LDKに隣接したファミリーリビング。2つを合わせると約100㎡の大空間となり、大勢の人が集まっても十分なパーティースペースに

    LDKに隣接したファミリーリビング。2つを合わせると約100㎡の大空間となり、大勢の人が集まっても十分なパーティースペースに

  • スカイラウンジと名付けられたルーフテラス。キッチン付きのバーカウンターを設置し、BBQなどが行われるという

    スカイラウンジと名付けられたルーフテラス。キッチン付きのバーカウンターを設置し、BBQなどが行われるという

お家のデータ

所在地
東京都杉並区
敷地面積
425.65㎡
延床面積
910.00㎡ うちオーナー住戸253.44㎡
予 算
5000万円〜
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