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農業と建築。二足の草鞋を履くからこその家づくり。

農業×建築。その原点は生家にあり

 一見、無関係に見えるこの二つを、若い力いっぱいに形にしているのが富田健太郎建築設計事務所の富田健太郎さんです。

 「地元・小田原には想定外に早く戻ってくることになりました。」
と富田さん。本業である設計の仕事のほかに、家業である農家も継ぎ、良き仲間とともに無農薬農業に積極的に取り組んでいます。「おいしいはたけ」の代表として開催している田植えやかまど炊き体験などのプログラムには、横浜など近隣から多くの子ども達が参加しています。

 事務所となっているご実家に伺うと、そこには文化財かと思うような立派な日本家屋がありました。

「もともと祖母が住んでいた家で、移築して70年になります。小さい頃はここでよく遊びましたね。」

 玄関土間から左手に長く続く幅広の縁側、ガラスがはめ込まれた昔ながらの障子、飴色に艶やかさを増している柱や梁、今では少なくなった立派な床の間・・・これぞ和室といえる要素が一つも欠けることなく揃った素晴らしい家です。

 さらに素晴らしいのが、住居に隣接している土間。今でも現役で使えるかまどは、「おいしいはたけ」プログラムで、子ども達が美味しいご飯を炊いてます。いまだ当時の生活感がたっぷり残るこの土間は、今では大変貴重な文化資料。富田さんいわく「補修して小田原の文化財として残したい」というのも頷けます。

 昔ながらの風情をたたえ、四季の移ろいを肌で感じることができる自然豊かな家で、富田さんの感性は豊かに育まれていったようです。

小さい頃から育まれてきた、感じ取る力

 「長男だから、いずれは継ぐものと思っていた」という農業。小さいころから親しんできた農家の環境が、今の富田さんの仕事のベースになっています。

 一つの作物を育てるためには、日々微妙な変化に気づかなければなりません。天候、日照、湿度、風、育ち具合など、毎日変化して行く様子を観察し、よりよく育つよう添え手を出すのが農家の仕事といえるでしょう。

 日々作物と「対話」しながら、時間をかけてゆっくりと育て上げていく。自然に身につけたこの感覚が、富田さんの「感じ取る力」となって設計にも生きています。
 たとえば、富田さんにはモノの微妙な差異に気づき、違和感を感じ取る力があります。

 「この家も手入れしないといけないんですけど、古い家ほど直すのが難しいんですよ。ただ新しいものを入れ込むだけでは、古いものとマッチしない。経年変化のこの色に丁寧に合わせないと。ひと言で緑と言っても、色合いは一つじゃない。薄い緑、濃い緑、いろんなニュアンスがありますよね。だから、その差異を見極めないといけないんです。」


 富田さんは、モノの色や手触り、質感や雰囲気などにとても敏感です。ほんのわずかな違いに気がつき、ベストなバランスを見極める。自然素材にこだわる富田さんの建築には、こうした絶妙なセンスが欠かせません。

その人ごとの豊かさの基準を大事に、ライフスタイルを見つける

 富田さんの「感じ取る力」は、お施主様とのコミュニケーションにも発揮されています。

 「豊かさの基準は人それぞれ。だから、コミュニケーションを大切にして、様々なパラメーターを見つけ出したい。そして、そのパラメータを生かして豊かな生活ができる空間造りを提案していきたいと考えています。」

 建築家は、お施主様の思いを形にする仕事です。そのお施主様にとっての真の豊かさとは何なのかを見つけ出し、バランスを取り、形にするのが建築家の仕事。打ち合わせの中で富田さんは、単に言葉だけでなく雰囲気などからもお施主様の思いを読み取ると言います。
 お施主様自身もうまく言葉では言い表せない価値観や思いも汲んで設計に生かしてくれる。富田さんの設計には、温かい心配りがあります。

農業を通じて、街を創りたい

 「今は設計の仕事が7割ですが、農業にももっと力を入れていきたい」という富田さん。全く別のことを二つ同時にやっていくのは、なかなか大変では?との問いに、こう答えてくれました。

 「確かに大変です。一日中仕事に追われてしまうこともありますね。でも、無農薬を発信していくことでここに人が集まってくれれば、、街おこしになるでしょう?建物を造るだけでなく、広く街を創っていくことが建築家の仕事だと思っています。」

 単にモノを造るのではなく街そのものを創るのが建築家の仕事、という言葉にハッと目が覚める思いがしました。

 広い視野で建築を考えている富田さんですが、「生まれ育った街をもっと魅力的にするために、今後はどんな仕事をしていきたいですか」と尋ねたところ
 「これからは、農業と建築のイベントや街中の空き家問題を解決していきたい。街にひらいた図書館なども手掛けてみたいですね。」とのこと。その楽しそうな様子に、小田原を愛する気持ちがあふれていました。
 
 建築と農業二つの分野で、これからも小田原の町に新鮮な息吹を吹き込んでくれることでしょう。
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