この家には、どこかで見たことのある“ごく一般的な家のイメージ”が、別の姿へと静かに変容して現れる瞬間がある。
施主による実用的な素材選択や素朴な判断は、そのまま住宅の輪郭を形づくる一方で、アーチ開口のような個人的な嗜好も顔を出し、
生活の延長にある“夢”が具体的な要素として混入している。実用と嗜好が同じ地盤で共存し、住まい手のリアリティを等しく構成している。
しかし空間は、その“一般的な像”に素直に収まらない。奥に見える柱列と腰壁は、
かつての住宅のありふれた要素のようでありながら、柱は異様に背を伸ばされ、既視感をわずかに裏返す。
左の窓は通常より低く据えられ、視線の出口が別の角度から外を引き寄せる。
見慣れた住宅の断片が、寸法のわずかな変調だけで別の相として立ち上がる。
その揺れは、同じ場面が違う色を帯びて現れ直すホン・サンスの映画的な反復にも似ている。
設計者の関心は、こうした素材の選択とは別に、光の入り方や高さの連なり、距離の操作といった構成の抽象にあった。
生活の具体と構成の抽象は一度にまとめられず、むしろ互いの“ずれ”が空間を単一の意味へ収束させない。
まとめきらないことが、空間を揺らし続ける条件になる。
要望は「2階に大きく明るいワンルーム。ただしプライバシーは確保したい」という現実的なものだった。
1階は天井高2.1mの圧縮された領域として諸室をまとめ、
余白のすべてを2階に託した。3.5m/2.7m/2.1mの高さが密度を変えながら連なる大きなワンルームは、
断面が呼吸するように場の感触を変え続ける。
1階の低い軸を抜けて2階に上がると、南のハイサイドライトが天井を沿って滑り、光と影が歩みとともに微かに位置を変える。
空間の構図は変わらないのに、同じ場所が別の場所として立ち上がるのは、具体と抽象、普通と非普通が一度に回収されずに並存しているからだ。
この住宅は、統一を目指さず、“まとめきらない”状態そのものを受け入れている。
一般的な家の像が変容し、同じ場所が何度でも違う瞬間として現れ続ける。その生成し続ける揺れこそが、この家の核心である。
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