タワーマンションを自然素材の住まいに。
暮らしを豊かにするマンションリノベ

眺望や最新設備が魅力のタワーマンション高層階。でも、マンションの内装素材はビニールクロスなどの新建材が一般的。「マンションでも、天然の木や漆喰を使った自然素材の心地よさを味わいたい」という希望を見事にかなえ、“住まい方”までをも豊かにしたBois設計室のリノベーションを紹介しよう。

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天然の杉、漆喰、土壁…
マンションとは思えない、心落ち着く住空間

タワーマンションの高層階に位置する住戸に入ると、外観からは想像もつかない温かみのある空間が広がっていた。その理由はずばり、自然素材。床や建具は杉、天井や壁は漆喰や土壁が使われており、マンションの一室であることを忘れてしまいそうになる。

新築でこの部屋を購入して約10年。特に不具合があったわけではないものの、施主のNさんはビニールクロスなどの新建材でできた住まいにどことなく「居心地の悪さ」を感じていた。しかしあるとき無垢材で建てた親族の家を訪れる機会があり、居心地のよさに感銘を受けて「木の家に住みたい」と考えるようになったという。

そんなNさんがリノベーションを託したのは、自然素材の家づくりに定評のあるBios設計室の藤田敦子さんだ。

「マンションでも、リノベーションで内装を自然素材にすることは可能です」と藤田さん。この住戸でも、床、天井、建具の全てに自然素材を使っている。

まず床は、藤田さんが厳選した徳島県の杉。柱などの構造材は60~70年生の和歌山県熊野の杉。いずれも地元の製材所や組合から直接仕入れ、コストダウンにもつなげている。

徳島・和歌山の杉について藤田さんはこう話す。「穏やかな気候で育った杉は成長が速い分、木目が粗くなります。しかし徳島や和歌山のように雨量が多い地域では、木目と木目の間が詰まった杉が育ち、強度の高い良質な製材をつくることができます」

中でも藤田さんが仕入れている徳島の製材所でつくる杉のフローリング材は、天然乾燥と低温乾燥などを組み合わせた乾燥技術で木の油分を奪うことなく余分な水分を抜いており、品質が非常に安定しているのだそう。22cmの幅広でも反ったり割れたりすることがほとんどないため、藤田さんはこのフローリング材を建具や造作家具にも使う。

次に、天井と壁は主に漆喰を使用。一部は土壁で仕上げているが、ただの土ではない。土に、焼き物に使われる呉須(ごす)という顔料を混ぜ、色付けしている。
「土に呉須を混ぜるのは、陶芸にお詳しいNさんのアイデアでした。呉須は古伊万里などの染付の磁器に使われる鉱物でできた顔料ですが、焼く前は青色ではありません。土に混ぜただけだと焼成後の青とは異なり、なんともいえないやさしい色合いが出るんです」

自然の質感、自然の色合いだけで構成された空間は、理屈抜きでリラックスできる穏やかな心地よさに満ちている。利便性の高いタワーマンションでありながら、ひとたびわが家に入れば自然のぬくもりに包まれる──。このリノベーションはある意味、“マンションと戸建てのいいとこ取り”を極めているといえそうだ。
  • 玄関と居室の境の引き戸を開けると、左手に和室、奥にLDKがある。写真左手前のシューズクローゼットも徳島の杉板。好きなものを飾ることができるニッチ棚の壁は、土壁に光沢を出す大津磨きの技法を用いている。藤田さんと懇意にしている若い左官職人の手によるもの

    玄関と居室の境の引き戸を開けると、左手に和室、奥にLDKがある。写真左手前のシューズクローゼットも徳島の杉板。好きなものを飾ることができるニッチ棚の壁は、土壁に光沢を出す大津磨きの技法を用いている。藤田さんと懇意にしている若い左官職人の手によるもの

  • ブルーグレーの壁は書斎の壁。その左脇にはクローゼットがある。クローゼットや、その手前の収納棚の扉に用いた杉は、木の赤い部分と白い部分が混じった「源平」という杉板で、かつ、節の少ないもの。時間が経つと赤と白が均一に馴染み、味わい深い色になる

    ブルーグレーの壁は書斎の壁。その左脇にはクローゼットがある。クローゼットや、その手前の収納棚の扉に用いた杉は、木の赤い部分と白い部分が混じった「源平」という杉板で、かつ、節の少ないもの。時間が経つと赤と白が均一に馴染み、味わい深い色になる

  • LDKの中心に位置する書斎。壁は呉須という焼き物の顔料で色付けした土壁。化学的な顔料とは一味違う温かみのある色合いが、天然の杉板と好相性

    LDKの中心に位置する書斎。壁は呉須という焼き物の顔料で色付けした土壁。化学的な顔料とは一味違う温かみのある色合いが、天然の杉板と好相性

  • 書斎の中。背後は一面の本棚で、普段から手に取る本が多いというNさんにぴったりの空間となった。前方のデスク側は中間が開いており、南東の窓越しの景色が見える。それでいてダイニング側からはデスクの手元が見えないので、書類が多少散らばっていても気にならない

    書斎の中。背後は一面の本棚で、普段から手に取る本が多いというNさんにぴったりの空間となった。前方のデスク側は中間が開いており、南東の窓越しの景色が見える。それでいてダイニング側からはデスクの手元が見えないので、書類が多少散らばっていても気にならない

LDKの中央に書斎。
永く、豊かに暮らせる間取りの魅力

自然素材へのこだわりだけでなく、間取り変更のオリジナリティも注目に値する。1人暮らしのNさんのために2LDKを1LDKにしたのだが、LDKが面白い。藤田さんはNさんが本好きで、家で仕事をすることも多いと聞き、LDKのど真ん中に書斎スペースをつくったのだ。

書斎は前後を壁で囲まれており、背後の壁は大容量の本棚になっている。一方、前方のデスクの正面は中段が開いていて、デスクにいると、南東の大きな窓の向こうに広がる青空が目に入る。

書斎の設計には、藤田さんのこんな思いが込められていた。「Nさんは1人暮らしでバリアフリーなどのご要望もあり、ここを終の棲家にしたいと考えていらっしゃるようでした。となると、年齢を重ねて体力的に少々しんどくなっても、元気でいられる家にしてさしあげたい。いつもいる書斎からその日の空の景色が見えたら、明るい気持ちで過ごせるのではと考えました」

その思いはしっかりと届いたようで、Nさんからは「空間の中央に書斎があり、書斎のデスクから外も見える造りがとても気に入っています」との感想が。全体の間取りは、仕事で多忙なNさんが書斎~キッチン~ダイニング~寝室~水まわりを回遊できる造りになっており、動線も風通しもいたって良好だ。

「住まいのリノベーションをお願いしましたが、結果として、“住まい方”のリノベができたように思います」とNさん。この言葉は藤田さんの設計が、期待を超える最高の暮らしを提供したことを物語っているだろう。
  • 開放感あふれるダイニング。写真右が書斎、写真奥がキッチン。天井や白い壁は漆喰、床は徳島の杉板。藤田さんはマンションリノベーションの場合、遮音に関する規約をクリアするために遮音性能がデータ証明された置き床を杉板の下に入れ、施工も細やかに配慮する

    開放感あふれるダイニング。写真右が書斎、写真奥がキッチン。天井や白い壁は漆喰、床は徳島の杉板。藤田さんはマンションリノベーションの場合、遮音に関する規約をクリアするために遮音性能がデータ証明された置き床を杉板の下に入れ、施工も細やかに配慮する

  • ダイニングの左に位置する、レールのペンダント照明の下にはカウンターを設置。キッチンから食事を出すときなどに重宝する。このカウンターは可動式で、雰囲気を変えたくなったら移動させることもできる

    ダイニングの左に位置する、レールのペンダント照明の下にはカウンターを設置。キッチンから食事を出すときなどに重宝する。このカウンターは可動式で、雰囲気を変えたくなったら移動させることもできる

  • 写真左、壁の国産タイルがかわいらしいキッチンには、食器などを多数もつNさんのためにたっぷりの収納を設けた。写真中央の書斎は左右どちらからも出入りでき、書斎~キッチン~ダイニング~寝室~水まわりまで回遊できる造りになっている

    写真左、壁の国産タイルがかわいらしいキッチンには、食器などを多数もつNさんのためにたっぷりの収納を設けた。写真中央の書斎は左右どちらからも出入りでき、書斎~キッチン~ダイニング~寝室~水まわりまで回遊できる造りになっている

素材を最大限に活かす設計スタイル。
施主が家づくりに参加する喜びも

自然素材の家を多数生み出しているBios設計室だが、暮らしぶりや好みを丁寧に反映しつつ、施主が家づくりに参加できるようにしてくれることも大きな魅力となっている。

例えばこのリノベーションでは、陶芸用の顔料・呉須で土壁を色付けするというNさんのアイデアを取り入れ、Nさんが海岸で拾ったお気に入りの陶片をどこかに入れたいとのリクエストがあれば玄関の三和土に埋め込むアイデアを提案。また、キッチンのタイルを国産にしたいとNさんがいえば、半日かけてショールームめぐりにお供する。こうしたプロセスを振り返り、「自分でつくっていく楽しさがありました」と話すNさんは、自らの住まいにいっそう愛着が湧いたという。

Nさんに、自然素材に特化した数々の設計事務所の中でBois設計室を選んだ理由を尋ねると、「藤田さんがつくる家は作品ぽくなかったから」との答えが返ってきた。

この言葉を受け藤田さんはいう。「そうおっしゃっていただけてうれしいです。暮らしというのは、等身大の普通の日々の連続です。私はそういう暮らしを受け止める空間に過度な装飾や演出は不要と考えていて、住まいが“いかにも建築家の作品”といった印象にならないよう心がけているんです」

かといって、Bois設計室がつくる空間は決して素っ気なくない。人が心地いいと感じる、デザインへのさりげない心遣いが随所にある。また藤田さんは年に数回、陶芸、鉄などさまざまな作家さんの作品を集めた『木の家と暮らしの手仕事展』を企画しており、交流のある若手の作家さんが大勢いる。施主のリクエストがあれば家づくりにもそれらの作品を取り入れ、味わいのある雰囲気のよい空間に仕上げてくれる。

何より、藤田さんの確かな目で選んでいく自然素材の力は大きい。素材に力があるから、過度なつくり込みは要らないのだ。素材の魅力を最大限に引き出したシンプルな家は肩肘張らない居心地のよさがあり、住む人が好きなものをプラスして、好きな空間に仕立てる楽しみもある。そんな藤田さんの設計スタイルに、多くのファンがいることはいうまでもない。
  • ダイニングテーブルのペンダントライトは、アンティークのガラスシェード。ほんのりと光を透過し、心が和む。藤田さんはインテリアの小物選びのセンスも抜群。相談すれば、さまざまな作家さんの作品など、知る人ぞ知る素敵なアイテムを教えてくれる

    ダイニングテーブルのペンダントライトは、アンティークのガラスシェード。ほんのりと光を透過し、心が和む。藤田さんはインテリアの小物選びのセンスも抜群。相談すれば、さまざまな作家さんの作品など、知る人ぞ知る素敵なアイテムを教えてくれる

  • 寝室はNさんのリクエストで和室に。天井は呉須で色付けした漆喰。グレーの壁は同じく呉須で色付けした土壁。グレーの壁には深めに掘ったニッチ棚があり、寝る前に読む本などを置ける

    寝室はNさんのリクエストで和室に。天井は呉須で色付けした漆喰。グレーの壁は同じく呉須で色付けした土壁。グレーの壁には深めに掘ったニッチ棚があり、寝る前に読む本などを置ける

  • リノベーションでは将来を考えて全体をバリアフリーにしている。水まわりも、車いすでも使える広々した空間。中央の柱の部分は壁があり、壁の右側は浴室前の脱衣室。左のトイレスペースの窓の先はLDKで、水まわりにも光と風を入れることができる

    リノベーションでは将来を考えて全体をバリアフリーにしている。水まわりも、車いすでも使える広々した空間。中央の柱の部分は壁があり、壁の右側は浴室前の脱衣室。左のトイレスペースの窓の先はLDKで、水まわりにも光と風を入れることができる

撮影:遠山功太

間取り図

  • 改修後(After)

  • 改修前(Before)

基本データ

所在地
神奈川県
家族構成
一人暮らし
間取り
1LDK
延床面積
67.63㎡
予 算
〜2000万円台