幼いころからの夢が叶った
音も広がり家族の和も広がる大黒柱のある家

幼い頃に思い描いた「こんな家に住みたい」をどれだけの人が叶えているのだろう。Mさんは、幼少期に近所あった設計事務所がつくる「赤瓦屋根とコンクリート壁の混構造の家」を「かっこいい!」と思い、30年以上の時を経て自邸の設計を依頼したという。その事務所こそ沖縄の風土に根差した家づくりを続ける東設計工房でした。

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幼い頃から憧れ続け30年
小学生をも魅了する東設計工房の家づくり

夫婦共に音楽の先生だという施主のMさん。離島への赴任が終わる時までに自邸を建てたいと思っていたMさんは、その家づくりを幼い頃のご近所さんだった東設計工房に依頼した。実はMさんは当時から現会長の山城東雄さんがつくりだす家を「かっこいい!」と思っていたという。幼少期からの憧れを30年以上も持ち続けていたのだ。

東設計工房の家づくりの特徴は、沖縄の風土に根差すということ。沖縄は、年中高温多湿、照りつける日差しも強く、台風も多い。そんな環境で育まれてきた先人たちの知恵を取り入れている。

その1つはコンクリート壁と木造屋根の混構造。頑丈なコンクリート壁で台風やシロアリから家を守るものの、天井や梁には木を用いることで、木の温もりや、空間の広がりをもたらしている。

また、基本的に平屋で屋根には赤瓦を用いる。赤瓦は水分を吸収・蒸発し、涼しさをもたらしてくれる。部分補修ができるというメリットもある。そして「沖縄らしい」ビジュアルにもなる。

Mさんは自邸にこの「混構造の赤瓦屋根の平屋」を望み、東設計工房へ依頼をした。

「事務所が移転してもうしばらく経っているのに、依頼があるなんて、本当にうれしかった」と山城さん。

山城さんのつくり出す家は、当時小学生だった子供の心をも魅了し、そこから30年も憧れをもち続けるほど、人の心を惹きつける。そして30年を過ぎてもなお色あせることなく、進化を続けていることも、凄いとしか言いようがない。
  • Mさんが憧れ続けた混構造の赤瓦屋根の平屋。シーサーやヒンプンなど、沖縄の伝統的建築の要素や、琉球風水も取り入れた配置。

    Mさんが憧れ続けた混構造の赤瓦屋根の平屋。シーサーやヒンプンなど、沖縄の伝統的建築の要素や、琉球風水も取り入れた配置。

  • 24畳もある大空間をチャーギの大黒柱が支える。三角屋根部分は光や風の通り道に。テレビ前は、畳敷きとし、地べたに座ってのんびりできる。オーディオ製品のコードは壁に通すなどしてごちゃつきを防いだ。

    24畳もある大空間をチャーギの大黒柱が支える。三角屋根部分は光や風の通り道に。テレビ前は、畳敷きとし、地べたに座ってのんびりできる。オーディオ製品のコードは壁に通すなどしてごちゃつきを防いだ。

実家を減築し接道を確保するという妙手で
袋地に憧れの家が建った

長年の憧れだった家づくりがスタートしたものの、そこには大きな問題が立ちはだかった。

それは、予定していた奥様の実家を建て替え、2世帯住宅にするというプランを平屋で実現するには、土地の面積が狭いということ。そのため、2階建てなども検討したというが、Mさんは平屋で実現したいという思いがあった。

そんな折、実家のすぐ裏の空き地が売りに出されたという情報が入った。しかしその土地は周りを他人の土地に囲まれた袋地だった。現状、人が通るための通路があるだけで、道路に2m以上接していなければならないという、建築基準法の接道義務を満たしておらず、このままでは新築の家が建たない土地。

しかしこの話を聞いた、山城さんは「実家の真裏という絶好の土地は二度と出ることはありません。ぜひ購入してください。あとは私がなんとかしますから」と話したのだという。

では、山城さんはどうやってこの接道問題を解決したのだろう。まず1つめは、この土地を塞ぐ形となっていた奥様の実家を減築することを提案。子供たちも巣立ち老夫婦2人だけの暮らしでは「今の広さがなくても十分」「むしろ娘夫婦や孫たちが来てくれるなら喜んで」ということで、快く引き受けてくれた。そしてもう1つは、隣家と交渉し土地の一部を等価交換してもらうこと。粘り強い交渉によって応じてくれたという。

こうして2mの接道が確保でき、家を建てられるようになった。

この家は、Mさんが安易に2階建てプランで妥協しなかったこと、ちょうど良いタイミングで裏の土地が売りに出されたこと、山城さんが減築・等価交換という妙手を思いついたこと、さらにはご両親や隣家が協力してくれたこと、といったいくつもの要素が重なってできた幸運がもたらした家なのだ。
  • ダイニングテーブルは、キッチンカウンターと一体化。チャーギの大黒柱は、あえて節のあるものを選んだことで、背もたれとして使ったり、お子さんが木登りをして楽しんでいるという。屋根を支える垂木は、左は短く右は長くて二重構造に。こうすることで軒を大きくせり出させることができ、瓦屋根もきれいに見える。

    ダイニングテーブルは、キッチンカウンターと一体化。チャーギの大黒柱は、あえて節のあるものを選んだことで、背もたれとして使ったり、お子さんが木登りをして楽しんでいるという。屋根を支える垂木は、左は短く右は長くて二重構造に。こうすることで軒を大きくせり出させることができ、瓦屋根もきれいに見える。

  • 三角屋根の下、書斎上部はロフトに。ガラス張りとすることで、奥行き感をもたらしている。書斎のドア上部には、スピーカーを設置。立体的な音響を実現した。

    三角屋根の下、書斎上部はロフトに。ガラス張りとすることで、奥行き感をもたらしている。書斎のドア上部には、スピーカーを設置。立体的な音響を実現した。

チャーギの大黒柱が支える空間は
家族が集い音楽も楽しむ憩いのスペース

実家横の道路を進むと、赤瓦の屋根が美しい平屋のM邸が見えてくる。家の前には広々とした駐車スペース。舗装されているため、子供たちの遊び場としても活用できそうだ。実家が目隠しをしてくれるような配置のため、プライバシーも確保されている。

「大きな窓は実家に向いているので、カーテンを開けていても気になりません。間に駐車スペースがあるので、程よい距離感です」と奥様も語るように、実家のご両親にとっても、すぐ近くに住みながらも、子供の声や音楽はほとんど聞こえない。それでも明かりが灯れば「帰宅したな」といった家族の存在が感じられる距離感だ。

屋根の上には、知人に特別に頼んで焼いてもらったというシーサーが鎮座。玄関前には、ヒンプンも置かれ「琉球風水」の要素も取り入れられている。風水的には、この家の配置も理想的だ。

吉方である東南の方角は、開放的な場所として駐車スペースやエントランス、濡れ縁が設けられている。その一方で、風呂場やトイレ、キッチンといった水回りは、北西の方角にまとめられている。これらが1つのゾーンにまとまることで、抜群の家事動線も実現している。

邸内に入りLDKに進むと、24.6畳もある大空間が広がる。天井の最大高は4mを超え、家を支える梁や垂木、それを支える大黒柱などが、力強さを感じさせてくれる。濡れ縁に面した大きな窓や屋根の三角の部分につけた窓からは、光が降り注ぎ居心地のよい空間だ。この高窓は、風の通り道でもあり、夜になると星空も眺められるのだという。

直径15㎝もある大黒柱は、硬くて丈夫、耐湿性もありシロアリにも強いと、琉球王朝時代では貴重木として重宝され、首里城にも使われているというチャーギ(イヌマキ)の木を採用した。この家を支えるだけでなく、この柱にもたれかかり読書をしたり、お子さんが木登りをしたりと、この家のシンボルツリーにもなっている。

共に音楽の先生というMさん夫妻。この家では、音楽に対するこだわりも実現した。LDKでは、音の響きの良い位置を探り、スピーカーを設置。立体感のある音響はまるでホールのよう。配線類も壁の中に通すなどして見た目もスッキリさせることも忘れない。

LDKの隣には、ピアノが置かれた書斎兼音楽室。音を吸収すべく有孔ボードで囲い、完全防音室をつくることに比べ、はるかに安価で音楽や楽器演奏を楽しむ空間を実現した。扉を開け放てば、LDKと音も共有できる。籠って集中するもよし、開放して皆で楽しむもよしの使い勝手のよい部屋だ。

キッチンには、奥様こだわりの食器乾燥機も設置。キッチンに居ながら、子供部屋の様子もわかり、さらには家族が帰ってくる様子もわかるという。

この家は、家族がどこにいてもその存在を感じ、それぞれがそれぞれの好きなことをやる、共に楽しむことができる。音も広がり、家族の和も広がる家に仕上がった。

この家の出来栄えにMさんも「音へのこだわりが実現できた。よく響くので映画も迫力がある」「最近は庭でのBBQにはまっている」と、この家での暮らしを楽しんでいるご様子。

東設計工房の家づくりは、施主の要望を叶える建物をつくることだけが仕事ではない。そこに住まう家族が、家に愛着をもち、幸せに暮らしていけるようにと、さまざまな配慮も行う。

東設計工房では、家の引渡し前に「点灯式」というのを行っているという。夕方家族に集まっていただき、部屋中の灯りを一斉に点灯する。家に命が吹き込まれるようなセレモニーだ。

「これからこの家での生活が始まるんだと思ってもらうために、ご家族に集まっていただきます。灯りが着いた瞬間、皆さん『わあー』と感動していただけます」と山城さん。

またM邸では、山城さんが棟木に「天官賜福 紫微鑾駕(てんかんしふく しびらんか)」と書かれた板をとりつけた。天の神様が福を授け、北極星の神様が金の馬車に乗ってやってくるという意味。昔の沖縄ではよく行ったことのようだが、現在は少なくなっているという。

東設計工房は、施主の要望を叶えるだけでなく、気候風土に合い、古き良き風習をも取り入れた家づくりを行った。Mさんが幼少の頃から30年を過ぎても憧れ続けてきた「混構造、赤瓦の平屋」が実現し、Mさん家族に幸せをもたらした。
  • 奥様こだわりの食器乾燥機を取り入れたキッチンは、あえて天井高を低くすることでリビングの開放感が増す。キッチンからは学習コーナーや子供部屋も見渡せ、リビングの先も見えるため、家族の帰宅もわかるという。

    奥様こだわりの食器乾燥機を取り入れたキッチンは、あえて天井高を低くすることでリビングの開放感が増す。キッチンからは学習コーナーや子供部屋も見渡せ、リビングの先も見えるため、家族の帰宅もわかるという。

  • 深い軒をもつ濡れ縁。夏の日差しを遮り、明るさをもたらす。最近はこの濡れ縁で毎週のようにBBQをして楽しんでいるのだとか。

    深い軒をもつ濡れ縁。夏の日差しを遮り、明るさをもたらす。最近はこの濡れ縁で毎週のようにBBQをして楽しんでいるのだとか。

  • 書斎兼音楽室。壁は有孔ボードを採用し、防音室をつくるよりもはるかに安価に防音を実現した。扉を閉め籠ることも、扉を開けLDKと音楽を共有することも可能な空間

    書斎兼音楽室。壁は有孔ボードを採用し、防音室をつくるよりもはるかに安価に防音を実現した。扉を閉め籠ることも、扉を開けLDKと音楽を共有することも可能な空間

  • 子供たちが並んで学習する学習コーナー。寝室となる部屋とあえて分けることで集中して勉強ができる。

    子供たちが並んで学習する学習コーナー。寝室となる部屋とあえて分けることで集中して勉強ができる。

  • 山城さんからが墨書きした「天官賜福 紫微鑾駕」の木札。沖縄に古くから伝わる除災招福のお守りだ。

    山城さんからが墨書きした「天官賜福 紫微鑾駕」の木札。沖縄に古くから伝わる除災招福のお守りだ。

  • 完成間際の夕刻に行われる「点灯式」。灯った瞬間、家族からも「わあー」と感動の声があがるという。

    完成間際の夕刻に行われる「点灯式」。灯った瞬間、家族からも「わあー」と感動の声があがるという。

基本データ

作品名
大黒柱のある家
施主
M様
所在地
沖縄県中頭郡西原町
家族構成
夫婦+子供3人
敷地面積
481.93㎡
延床面積
125.08㎡