
大らかな空間、実家の陽当たり、庭の緑
敷地条件を乗り越えて実現した混構造の住まい
実家の庭に息子家族の家を
夫婦建築家が手間を惜しまず施主と向き合う
このI邸を手掛けたのは、神奈川・横浜を拠点とするCHAの星野さんと原﨑さん。住宅、商業施設の設計をはじめ、インテリアデザイン、イベント会場構成など様々なプロジェクトに携わっているふたりだが、今回のプロジェクトに関わるきっかけは、ある「縁」だった。。
実は原﨑さんのお父様も設計事務所を主宰しており、Iさんのお父様とは以前から仕事上の付き合いがあり、その仕事ぶりに信頼を寄せていた。あるとき「自邸の庭の一部に息子家族の家を建てたいと考えている」と相談を受け原﨑さんのお父様は、「それならば、息子夫婦が住宅を得意としている。若い世代同士で一度話をしてみては?」と提案したという。父と父の信頼関係が、子と子の縁を生んだのだ。
後にI邸が建つ土地を見たときの印象を「いろいろな樹木が育ち花が咲く、生命力のある庭だと感じました。この庭を無くしてしまうのはもったいないと思いました」と星野さんは振り返る。
一方Iさんのご家族の要望は驚くほどシンプルだった。「あれを入れたい、ここをこうしたい」という細かな要望があるのではなく、「実家の陽当たりの確保」「明るく広がりが感じられる家」という大きな2つの軸だけ。
「とても大らかなご家族で、私たちにお任せいただきました」と星野さん。
さらに設計者として「庭の樹々を活かしたい」という想いの3つの柱としてプランニングがスタートした。
CHAのふたりには、独特の設計スタイルがある。夫婦で設計事務所を営むケースでは、例えば一方がメインで設計を行いもう一方がアシスタントとして図面に落とし込む、あるいは「このクライアントは夫、こちらは妻が」と担当を分ける形が多い。しかし星野さんと原﨑さんは、基本的にふたりでアイデアを出し、議論を重ねる。
「それぞれが案を持ち寄ることもあれば、一緒に1つにしていくこともあります」(原﨑さん)
「意外とお互いに相手の案のほうが良く感じたりすることもあるんです」(星野さん)
また、晩ごはんの話題が、そのとき手掛けている案件の話になることもしばしばだという。気になっていることは随時ふたりで議論する。そこまでしても、1つの建築で得られる対価は2人分となるわけではない。それでも「建築が好きなので」と原﨑さんは語る。
I邸でも、このスタイルは貫かれた。「実家の陽当たり」「明るく広がりのある家」「庭の樹々を活かす」という3つの要望を満たすゾーニングを、ふたりはいくつも検討していった。建物を道路側に寄せるプラン、敷地奥に横長な建物を配するプランなど、様々な可能性が模型と共にIさん家族に提示された。
「3DCGだと、スケール感覚がズレることも多いので、私たちは模型も用意します」と星野さん。この手間暇を惜しまない姿勢もCHA流だ。
こうしてプランは、施主との対話を通じて少しずつ煮詰められていった。
2棟構成と混構造で難問を解決
3つの出入り口で1つの庭を共有
1つ目は、ボリュームを南北に大小2つの棟が寄り添うような構造とすること。庭を大きく残すため、建物を道路側に寄せて配置すると、隣接する実家との距離が近くなり、厳しい斜線制限にかかってしまう。そこで2棟構成とし、北側の高さを抑えることでこの問題をクリアした。
2つ目は、高低差を解消するための混構造。実はこの敷地は、斜面地にあり道路面と庭側の地盤面に約1~2mの高低差があった。そこで半地下となる部分を擁壁と一体化したRC造とし、その上に木造2階建てを載せるような構造を採用したのだ。
「擁壁と家が連なるひな壇のような街並みに馴染むよう計画しました。道路側と庭側、それぞれの高さに合わせて3つの出入り口を設けました」と星野さん。
星野さんと原﨑さんの2つの頭脳によって、法規制と地形という2つの大きな課題が見事に解決された。1+1=2という単純な足し算ではなく、化学反応によってそれ以上の答えを導き出したといえるだろう。
こうして3つの出入り口を持ち、大小2棟が寄り添う構成で、実家と1つの庭を共有する家が完成した。
では、具体的にI邸を見ていこう。
RC造の土台の上に、木造による窓のないサイディング外壁の小さな建物と、窓を持つモルタル塗装の大きな棟が寄り添っている。地階のRCは、擁壁や玄関上の庇、庭側のテラスの床下と一体で構築することで、構造を合理化し、コンクリート打設の工期も短縮した。
「構造設計事務所と検討を重ね、木造部分は短手の耐力壁を北側の下屋部分に集約しました。小さいほうが、大きいほうを支えているようなイメージです」と原﨑さん。
「今回の新築に合わせて、ご実家の外壁塗装をしていただいたので、並んだ2軒の色味が揃いました」と星野さん。新旧の家が調和し、一体感のある佇まいとなった。
1つ目の出入り口である玄関を入ると、視線の先に開口が見える。半階分上がった先の庭につながる2つめの出入り口だ。ドアをガラスにしたことで、光を取りこみ、半地下で暗くなりがちな地階部分を明るくしている。このフロアには洗面やお風呂といった水回りと主寝室を配置。寝室も高窓からの光が入るため地下の閉塞感はなく、心地良い空間となった。
階段を上り、扉を開けると、道路側からは想像できないほど、豊かな景色が現れる。広々としたウッドデッキ、その先には色とりどりの植物や果実。ふたりが残したいと考えていた庭がそこにあり、実家への陽当たりも損なわれていない。
ウッドデッキは、実家のデッキとシームレスにつながり、子どもたちは毎日のようにここを通って実家と行き来しているのだという。また夏にはプールを出して、人目を気にせず遊べる場ともなっている。
振り返って建物を見上げると、半階分高い位置にテラスと大きな窓が見える。ここが1階のリビングへとつながる3つ目の出入り口だ。
中へ入ると東西に延びる開放的な大空間が広がる。オーク材の床に白い壁。半階分上がっただけなのに、視点が変わることで驚くほどの抜け感が生まれている。道路側の窓前には、子どもの勉強やテレワークなどにも便利なデスクをつくりつけた。キッチンは奥側に配置し、リビングダイニングを見渡せるよう直線的なレイアウトだ。
「実はこの大小の棟は、外形だけでなく内部にもそれぞれの役割があるんです」と原﨑さん。
どういうことかというと、空間的にはひとつながりでありながら、大きな棟は天井が高く、小さな棟は天井が低い。開放的な大空間の隣に、こもる形の小空間が寄り添うという対比によって、体感的に広さが際立つという仕掛けだ。
この大小の棟という構成は、「法規制」「地形」への対応だけでなく、内部空間の体験としても機能している。ふたりのアイデア力には驚かされる。
さらに上階に進むとまず目に入るのが、洗面スペース。小さな棟の低い勾配天井を巧みに利用し、絶妙な高さに設置されている。
その先へ進むと、思わず「おおー」と声が出る。三角屋根の下に、大らかな空間が広がっているのだ。
「この子ども部屋は、今は可動式の収納棚でゆるく仕切っていますが、左右対称につくってあるので、将来は間仕切りを入れて、それぞれの個室にすることもできます」と原﨑さん。
こうしてI邸は「明るく広がりのある家」へと結実した。Iさんご家族からの評価も高く「素敵な家になった」「快適で過ごしやすい」という声が届いている。
「お父様を含め、Iさんご家族が、私たちを信頼して委ねてくださったことが、とてもありがたかったです。」と星野さん。
CHAのふたりは、施主に寄り添い、家づくりというゴールに向かい伴走をする。その過程で、施主も「施主力」を高め、その相乗効果で期待を超える家が生まれるのだ。
星野さんと原﨑さんはこれからも、力を合わせ、施主と真摯に向き合い続けていく。
撮影:鳥村鋼一
基本データ
| 作品名 | あざみ野の住宅 |
|---|---|
| 所在地 | 神奈川県横浜市 |
| 敷地面積 | 126.9㎡ |
| 延床面積 | 109.41㎡ |
| 家族構成 | 夫婦+子供2人 |
| 予算 | 4000万円台 |
| 施主 | Iさん |
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設計者情報
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