家族をつなげる「吹穴」とは?
居心地抜群のLDKをローコストでも可能に

独創的でセンスあふれる空間設計を得意とし、多大なコストをかけずに「洗練された住みやすい家」をつくってくれるイノウエヨシムラスタジオ。N邸でもその手腕は発揮され、一般的な家では見かけない「吹穴」があるという。いったい、どんな家なのだろうか?

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家全体の気配がわかる、
ぽっかり穴の開いたLDK

家族が帰ってきたら顔を見て、「ただいま」「おかえり」と声をかけ合える住まいを希望する人は多い。2人のお子さまがいるNさまご一家もそんな暮らしを望んでおり、計画当初は1階に玄関とLDKがある家を考えていたという。

しかし敷地の周囲はそれなりの住宅密集地。そこで、設計を担当したイノウエヨシムラシタジオ(IYs.inc)の井上亮さんと吉村明さんは「LDKが1階だと採光・プライバシー確保が難しい」と判断。2階全体をLDKにするプランを提案した。

……と、ここまでなら、都市部の家づくりでは珍しい話ではない。ところが完成したN邸は、はっきりいって珍しい。何しろ2階のLDKの中央に、大きな「吹穴(ふきあな)」が開いているのだ。

そもそも吹穴とは何か。「1階から見れば吹抜けの空間ですね。でも2階から見ると、吹抜けは1階とつながる大きな穴なので吹穴と呼んでみました(笑)。いわばN邸は、1階LDKに吹抜けがある家を、上下逆さにしたような住宅なんです」と、井上さんと吉村さんは楽しそうに話す。

この吹穴にはさまざまなメリットがある。一番のメリットは、住環境が良好な2階にLDKを配しても、Nさまが望む「家族のつながり」を保てること。玄関や個室のある1階とLDKを大きなタテ空間でつなぐので、お互いの気配がわかるし声もかけやすい。

次に大きなメリットは、「空間の広がり」だ。LDKの吹穴空間は、1階では吹抜けのエントランスホールにあたる。N邸はこのエントランスホールが7畳以上と実に広く、視線を上げると2階の広がりも感じられ、抜群の開放感。上方からの光もふんだんに入ってくる。

N邸を訪れる人はみな、玄関を入った瞬間「わあ……!」と声を上げるという。世の中には狭くて暗い玄関が多いのに、N邸では、いきなり上に向かって大きく広がる明るい空間が現れる──。誰もがワクワクしてしまうのは当然のことだろう。
  • シンプルで洗練された外観。「四角い家」との要望に応え、フォルムだけでなく窓もスクエアで統一している

    シンプルで洗練された外観。「四角い家」との要望に応え、フォルムだけでなく窓もスクエアで統一している

  • 吹穴のおかげで1階と2階の一体感も十分。2階にいても1階の様子がよくわかり、気軽に声をかけ合える

    吹穴のおかげで1階と2階の一体感も十分。2階にいても1階の様子がよくわかり、気軽に声をかけ合える

  • 2階LDK。1階を見下ろすフロア中央の吹き穴を挟んで、右にリビング、左にダイニング・キッチンが配置されている。1つの空間としてつながりながらも居場所がそれとなく分けられており、とても生活しやすい空間だ

    2階LDK。1階を見下ろすフロア中央の吹き穴を挟んで、右にリビング、左にダイニング・キッチンが配置されている。1つの空間としてつながりながらも居場所がそれとなく分けられており、とても生活しやすい空間だ

豊富な居場所と心地よい開放感。
明るさ、熱環境も快適

吹穴は2階LDKの中央にあり、リビング、ダイニングはこの吹穴を挟んで配置されている。

井上さんと吉村さんはいう。「僕らはリビングとダイニングを離して設計することが多いんです。分かれていないと食卓のすぐ横でお子さまが遊んだりして、落ち着かない空間になりやすいからです」。1つの空間としてつながっていても、どこで何をするかイメージしながら複数の居場所をつくったほうが、家族全員がくつろげるLDKになるという。

また、2人はいつも、ドーンと大きな窓にはこだわらず、空間の両サイドに窓をつくることを意識する。その理由は、あまりに大きな窓は夏に暑すぎるなどの問題が生じることもあるためだ。「居場所の両サイドに適度な大きさの窓があると屋外を感じられますし、熱環境も整えやすくなります」と話す。

確かにN邸のLDKは、どこにいても居場所の両サイドから外の景色が目に入り、天井を見上げれば青空を望むトップライトも。壁で閉じた部屋の中というよりは、公園のベンチにいるような開放感が気持ちいい。

熱環境も快適だ。日当たり抜群の窓計画の効果で、2階は冬でも半袖で過ごせるほど暖かい。夏はエアコンを使うが、2階にあるロフトに設置した空気循環システムで暑さを緩和。このシステムは、2階にたまる熱気を床下に送り、床下のひんやりした空気を1階の排気口から吹き出すというもの。吹穴のおかげで空気がスムーズに循環し、爽やかな空気を保ちやすくなっている。
  • 2階リビングスペース。隣家の窓を避けながらあちこちに窓が設けられ、天井にはトップライトも。時間帯を問わず光が差し込んできて風通しもよく、明るく気持ちのいい空間になった

    2階リビングスペース。隣家の窓を避けながらあちこちに窓が設けられ、天井にはトップライトも。時間帯を問わず光が差し込んできて風通しもよく、明るく気持ちのいい空間になった

  • 2階リビングスペース。イノウエヨシムラスタジオは、両サイドに窓がある空間づくりを意識している。どこにいても「外と外」に挟まれるため、大胆な大窓がなくても屋外のような心地よさ

    2階リビングスペース。イノウエヨシムラスタジオは、両サイドに窓がある空間づくりを意識している。どこにいても「外と外」に挟まれるため、大胆な大窓がなくても屋外のような心地よさ

  • 2階ダイニングスペース。壁がライトグレーなので白い照明や椅子が映え、洗練された北欧風の空間に仕上がっている。写真右はキッチン。キッチンカウンターはGRAFTEKTのもの。テーブルはキッチンに合わせてセレクトした

    2階ダイニングスペース。壁がライトグレーなので白い照明や椅子が映え、洗練された北欧風の空間に仕上がっている。写真右はキッチン。キッチンカウンターはGRAFTEKTのもの。テーブルはキッチンに合わせてセレクトした

多額のコストをかけなくても、
センスのいい上質な住まいはできる

気持ちよくくつろげる北欧風の内装も、N邸の魅力だ。青空や光を感じる窓がたくさん設けられたLDKは、全ての壁がライトグレー。「光がたっぷり入る部屋は壁が白だとまぶしいですが、ライトグレーなら落ち着きます。それに、色のトーンを少し落とした方が外の景色が映えるんです」と、井上さんと吉村さん。

LDKの窓枠やサッシは全て白。照明や引き戸、ダイニングの椅子も白だ。これが白壁の空間ならぼんやりしそうだが、壁がライトグレーだと白いアイテムがびっくりするほど引き立つ。「白をベースにするのではなく、白をアクセントにする」。たったそれだけのことなのに、2人の発想の転換力にあらためて驚いてしまう。

空や光を感じるすっきりとした2階に対し、個室がある1階のエントランスホールは木で仕上げられ、どことなく大地を感じさせる。「日中は明るい地上(2階)にいて、寝るときは外界から守られた洞穴的な空間(1階)に戻る」という感覚が楽しいし、暮らしにメリハリも生まれる。

Nさまもこうした内装デザインをとても気に入ってくださり、「北欧のホテルに泊まってるような気分です」と大満足。

イノウエヨシムラスタジオはどの家づくりでも、施主の予算に合わせてこんなにも住み心地のいい洒落た住まいをつくってくれる。N邸も壁クロスや構造材を加工した木材などを多用し、内装にはあまりコストをかけていない。だが、クオリティの高い空間設計と洗練されたセンスのおかげで凡庸さは全くなく、品のよい上質なオリジナリティにあふれている。

内装はともかく、家の骨格は簡単に変えられない。それだけに、住みやすくて独創的な空間設計は重要なポイントだ。建築家、いや、イノウエヨシムラスタジオに注文住宅を依頼する一番のメリットではないだろうか。そこに卓越した内装センスが加われば、まさに鬼に金棒。

結論をいおう。「イノウエヨシムラスタジオの2人となら、限られた予算でもそれ以上のいい家を建てられる」
  • 玄関を入ると、広々したエントランスホールと2階が見える吹穴がお出迎え。正面の視線も抜け、抜群の開放感

    玄関を入ると、広々したエントランスホールと2階が見える吹穴がお出迎え。正面の視線も抜け、抜群の開放感

  • お子さまの遊び場にもなっている1階エントランスホールは木の空間。大地に守られているような安心感がある

    お子さまの遊び場にもなっている1階エントランスホールは木の空間。大地に守られているような安心感がある

撮影:渡邊 聖爾

間取り図

基本データ

施主
N邸
所在地
神奈川県川崎市
家族構成
夫婦+子供2人
敷地面積
132.79㎡
延床面積
101.85㎡
予 算
2000万円台