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仕事も家族も満たされる!建築家が提案する新しい「田舎暮らし」

ハウスメーカーでの経験を反面教師に、家でなく「生活」を提案

 自身の設計事務所・スタジオアンビエンテを1999年に設立するまで、窪田さんは複数の設計事務所やハウスメーカーで十数年に渡り技術を磨いてきた。その経験が、一種の“反面教師”として、窪田さんの仕事のモチベーションになっているという。「メーカーで設計をしていると、どうしても企業の利益が優先され、設計のパターン化や建材の画一化が避けられません。私はできるだけ建て主さんの思いを形にしたかったので、独立するしかないと決断しました」。子どもがアトピーだったこともあり、窪田さんは生活拠点を故郷の山梨県甲斐市に置き、都内に設計事務所を構えた。

 建て主の声に耳を傾け、可能な限り要望に応え続けた窪田さんが、寄せられる相談内容の変化に気付いたのは今から10年ほど前だと言う。「30代40代の現役世代から、『自然が豊かで、東京からあまり遠くない場所で子育てをしたい』という相談が増えてきたのです。そこで私の地元・山梨を紹介し、土地探しから家づくりまでをお手伝いしたら、とても喜ばれました」。

 都会の人が田舎暮らしをしようとするとき、まず土地探しが大きな壁となる。地方の売り地情報はネット上で紹介されにくく、地元の不動産会社に相談しても、その会社が得意とするエリアの情報しか手にできない。かといって現地に何度も足を運んで自力で土地を探すのは、負担が大きすぎる。「ということは、逆に必要な情報をしっかり提供できれば、山梨に移住しようと考える若い家族が増えるのでないかと考えました。そこで地元の工務店や不動産会社などに声をかけ、2006年に〈甲斐田舎暮らしネットワーク〉という活動を立ち上げたのです」。

 ぜひ山梨に住みたいという家族もあれば、漠然と田舎暮らしを希望する家族もある。なぜ移住したいのか、何を求めるのかを詳細にヒアリングすると、土地勘のある窪田さんには「山梨のあのあたりが良さそうだ」とエリアが思い浮かぶ。メンバーの不動産会社に連絡すると、すぐに候補地が挙がる。幼稚園や小学校などの教育環境やスーパーなどの生活環境、先輩移住者の有無や冬の寒さまで、地元民だからわかる詳細情報も伝えながら、“そこで可能になる暮らし”を具体化していく。「人材派遣や人材紹介を行うメンバーもいて、仕事探しまで手伝ったケースもあります。これまでに山梨だけで30家族ほどが移住しました」。要望に応じて、長野や静岡、神奈川などへの移住も手がけたそうだ。

 東日本大震災後、ネットワークに寄せられる相談件数は増加している。「暮らしに対する価値観が、特に若い世代で変化しつつあると感じます」と窪田さん。「経済よりも、安全・安心や家族と過ごす時間を大事にしたい、という人が増えていますね。もちろん田舎に地震が起きないわけではありませんが、都心では不可能な備えも、地方なら可能なのです」。そう言って、窪田さんは2015年に川崎市から山梨県北杜市に移住したAさん一家の例を挙げた。「山梨に地縁のない、2歳と0歳のお子さんがいる30代のご夫婦です。都心に出やすく、子育て環境の良い土地をご希望だったので、独自の教育方針を持つ学校に近い土地をご紹介したら、気に入ってくださいました」。特徴的なのは、その土地だからこそ可能になった住まいだ。「170坪の土地に、建坪50坪の平屋を建てました。太陽光発電を取り入れて、余った分は売電しています。万一地震が起きて電気が止まっても、2台の電気自動車に蓄えた電気と太陽光発電でかなりの電力がまかなえます。近隣に井戸があり、水の心配もありません。庭が広いので、小さな家庭菜園もできます。そもそも平屋は揺れに強く、かなり安心感があると思います」。

 ちなみに山梨県は日本有数の晴天率を誇り、Aさん宅は月に約6万円の売電収入があるそうだ。「土地と建物でおよそ4500万円かかり、Aさんは毎月10万円のローン返済がありますが、うち6万円は売電でまかなえている。金銭面だけでなく、家族と過ごす時間などをトータルに考えたら、都会で無理をするよりもずっと楽で安心な暮らしだと思います」。電力会社の発電網に頼らない“オフグリッド”な生活が話題になっているが、「田舎暮らし」はその近道と言えそうだ。「都会を離れることで、電力網に接続しないだけでなく世界経済の変動からも距離を置いた、真にオフグリッド生活が可能になります。ひとつの潮流となる予感がしています」。土にまみれるとか悠々自適という従来の田舎暮らしとは違う生き方が、静かに広がりを見せているのだ。
  • スタジオアンビエンテ代表の建築家 窪田さん

  • ノーベル賞受賞者 大村博士の生家をリノベーションした、シェア型田舎体験ハウス「蛍雪寮」の古民家再生プロジェクト

「今はないが、あるべきもの」を想像し形にするのが建築家の仕事

 その背景には、「多くの企業で進むワークスタイルの変化も影響している」と窪田さんは指摘する。「AさんはIT系のエンジニアで、週に1回都心の事務所へ出勤する以外は在宅勤務でOK。そういう働き方が、私の周囲でも急速に増えています。そうなると、都会にしがみつく必要などなくなります。また、これは〈甲斐田舎暮らしネットワーク〉を始めて痛感したのですが、山梨のような首都圏近隣エリアは都心への人材流出が深刻で、優秀な人材を求めている優良企業がたくさんあるのです。我々が転職までサポートした別の40代の男性は、経験豊富な営業担当だったので、給与水準を下げることなく新しい仕事に就けました」。

 もはや建築家の仕事領域を超えた活躍に思えるが、「これこそが建築家本来の役割」だと窪田さんは言う。「建築家は家をデザインするのが仕事だと思われがちですが、それはほんの一面です。私は、『建築は想像力だ』と思っています。『今はないけれど、あるべきもの』を想像して形にするのが建築家で、大規模な都市計画も住宅づくりも基本は一緒です。個人の住宅を設計するなら、建築家は『どこにどんな家を建てたら、その家族がより幸せに暮らせるか』を考え、家族の暮らしと住宅をしっかりと対応させるなければいけません。もしもその家族が都会よりも地方で幸せに暮らせそうだと思えば、選択肢として提示できるのがプロの建築家だと、私は思うのです」。

 この〈甲斐田舎暮らしネットワーク〉だけでなく、古民家再生を手がける一般財団法人の〈田舎力研究所〉など、「住まいを軸にした地方再生・活性化」に、窪田さんは幅広く取り組んでいる。「その土地の気候風土に合わせて建てられた伝統的家屋の良さと、最先端の建築技術を融合させて、日本では軽視されがちな『うわもの=家の資産価値』を再構築できれば、と考えています。若い家族が文字通り“地に足の付いた暮らし”のできる住まいを、これからも追求していきます」。
  • 自身も山梨と東京の二拠点生活を行っている

  • 都市を離れた環境にての子育て。自然から子供は多くのことを学ぶ。

  • 山梨県韮崎市の自然豊かな車道風景