鎌倉の古い民家の改修。
初めて現場を訪れた時、趣があるが傾きもある、そんな誇りと限界の間にあるような民家の姿があった。
求められたのは大きな音で音楽の流せる飲食店と、2人暮らしの住宅。
防音も断熱も無い既存家屋の雰囲気を守りながら、高いスペックの防音性能と断熱性能の両立が課題だった。
1階飲食店では、床を解体し剥き出しとなった土部分に、基礎の代わりとなっている大谷石に緊結するよう配筋した土間コンクリートを施工し、耐震性を高めると共に、飲食店としての天井高と清潔感を確保した。また、壁は全面を有孔の木製ベニヤ貼りとし、吸音性能に木のあたたかさをプラスした。
防音、断熱の弱点となる開口部は、外観を印象付ける既存の木製建具はそのままに、内部に防音サッシを設けた。玄関には防音サッシで挟まれた風除室を設け、外観の優しさを持ったまま、防音と断熱を実現した。
住居となる2階は既存の柱梁がそのまま見えるワンルーム空間とし、断熱材を追加した壁は既存の柱梁に負けないテクスチャーとするべく、ボードのパテをそのまま見せる土着的なアートのような荒々しい仕上げとした。
永く街並みの一部となってきたこの民家の雰囲気は保ちながら、内部には新しい営みと生活が宿っている。
撮影:建築設計事務所 可児公一植美雪