年間約170万人の参拝者が訪れる滋賀県の多賀大社における参拝者用トイレの計画です。既存の参拝者用トイレは器具数が少ないことによる慢性的な混雑、建物と設備の老朽化といった問題を抱えていたため、神社のイメージアップにつながるトイレへの改築を目指して計画は始まりました。
計画にあたり、神社の新たな顔として現代的なシンボル性のあるデザインとすること、同時に歴史ある建物との親和性も併せ持つことが求められました。加えて県内でも特に雪の多い気候と日々の清掃を考慮し、耐久性のある寿命の長い建築とすることも課題となりました。
このようにトイレとしての快適性やランドマークとしてのシンボル性を備えつつ、時代の変化や地域の気候にも長期間耐えうる、不変的価値のあるデザインを模索しました。
計画地周辺は、かつて既存トイレを隠すために植えられた多くの木々に囲まれていました。この木々に囲まれた既存環境を利用し、緑の風景とその間から差し込む木漏れ日を顕在化させることを考えました。
トイレ空間を 2.6m高のコンクリート壁で囲み、その上に本殿・拝殿を踏襲した反り屋根を架けています。トイレ空間のプライベート性を保ちつつ、室内はコンクリート壁と反り屋根の隙間から境内の木々の緑が望め、木漏れ日で満たされた明るい空間を実現しました。
1mの積雪荷重に耐える反り屋根は鉄骨梁と木梁を合板で挟んで必要最小限の厚みとしました。堅牢なコンクリート躯体で長期的な耐久性を担保しつつ、軽やかさを両立させています。夜間には照射された反り屋根の天井がやわらかく浮かび上がり、大きな提灯のような役割を果たしています。
ソリッドなコンクリートとその上に浮かぶ抽象的な反り屋根の構成は数百年に渡る境内の風景に馴染みつつ、現代的なシンボル性も併せ持つ新たなランドマークとなっています。
撮影:髙橋 菜生