家族の声が届く、20坪の狭小2階建て
田園風景の中に佇む「大きな窓の小さな家」

眼前に広がる青々とした田園風景、背後には悠々たる吾妻連峰の山並み。幼い頃から慣れ親しんだロケーションに、奥様&お子さんと暮らす自邸を構えた一級建築士の齋藤さん。20坪の狭小住宅とは思えないほどに、明るく開放的な住空間を獲得するまでのストーリーを紐解いていく。

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「小さく建てる」を制約ではなく
可能性として捉え、設計する

「家に愛着を抱いて住んでいただきたい、ご家族で家を育ててもらいたい」。そんな想いから、施主との対話を大切にした家づくりをモットーとする、さいとう建築工房の齋藤史博さん。

今回紹介するのは、ご実家の一部を解体し建て替えた自宅兼仕事場。「夏や冬の過ごし方も含めて、生まれ育ったこの場所を一番知っている設計士は自分」の想いを胸に、周囲の環境、そして自分自身との対話を重ねながら、理想とする暮らしを丁寧に描いていった。

建てられる土地の広さに限りがあるため、その制約をコントロールしつつ、いかに魅力に転換していくかがカギとなった家づくり。

「敷地の奥まった場所に小さく建てなくてはいけないからこそ、どうしたら明るくなるか、広く感じられるかをとことん考えた家です。空間のつながりを大切に設計することで『家族の声が聞こえる家にしたい』というイメージも形にできました」。

そう齋藤さんが語る20坪の狭小2階建て。設計者かつ住まい手としての、どんな視点や工夫が盛り込まれているのだろうか?
  • 雄大な自然との対比に目を奪われる「大きな窓の小さな家」。美しい景観の形成に貢献する“ふくしま”らしい住まいとして、2024年 第24回ふくしま住宅建築賞「優秀賞」を受賞した

    雄大な自然との対比に目を奪われる「大きな窓の小さな家」。美しい景観の形成に貢献する“ふくしま”らしい住まいとして、2024年 第24回ふくしま住宅建築賞「優秀賞」を受賞した

  • ご実家の敷地内、ご両親が住まう平屋に寄り添うように建てられた狭小2階建て。休耕田が広がる東側の開けた眺めを借景として取り入れるため、2階LDKに大きな窓を設けている

    ご実家の敷地内、ご両親が住まう平屋に寄り添うように建てられた狭小2階建て。休耕田が広がる東側の開けた眺めを借景として取り入れるため、2階LDKに大きな窓を設けている

  • 広々とした土間の玄関ホールとシームレスにワークスペースを設計。1階フロアにも東側に向かって大きな開口を設け、自然光と眺望をダイナミックに取り込んでいる

    広々とした土間の玄関ホールとシームレスにワークスペースを設計。1階フロアにも東側に向かって大きな開口を設け、自然光と眺望をダイナミックに取り込んでいる

建物のない東側に大きく開き
光と借景を取り込んだ2階建て

光の差し方・風の流れなど、その土地の気候風土を読み解くことで、その場所ならではの「居心地のよさ」をデザインする。齋藤さんが設計において重視する一つが、外部条件の取り入れ方。

「大きな窓の小さな家」が建つ福島市は、吾妻連峰をはじめとした雄大な自然が広がるエリア。四季折々の自然景観、山々に囲まれた盆地特有の気候条件とどう向き合うかも、外観のデザインや内部空間を考える上でのファクターとなった。

「建築地の東側には市街化調整区域の休耕田が広がり、将来にわたり建造物が建つことはないことから、大きな窓を設け、朝日と借景を取り込む計画としました。東側の眺望を最大限に生かすため、大きな窓と吹抜けを設ける2階にLDKをレイアウト。親世帯が暮らす平屋が南側に隣接するので、採光を確保する意味でもリビングは2階がベストだと考えました」。

東に向かってダイナミックに開けた窓は、遠くから見てもひときわ目を惹く齋藤邸のシンボル。玄関は反対側に設けてあるものの、大きな窓のある東側が住まいの顔、ファサードとしての役目も果たしている。

「東側の外壁は鎧張りのレッドシダーで仕上げ、経年変化を楽しめるようあえて無塗装に。メンテナンスを考えて塗装を希望されるお客様が多いのですが、木って思った以上に耐久性があるんですよ。それを伝えられたらと実験的な要素も含めて無塗装を選びました。東側を外に開いた一方で、西側と北側は、夏のジリジリした西日と冬の季節風(吾妻おろし)に考慮して開口を最小限に。屋根材と同じ黒色のガルバリウム鋼板を外壁まで下ろし、閉じた外観としています」。
  • 空間を分断せずつながりを持たせ、上階からの光を階下に届けるスケルトン階段。時間の経過が劣化ではなく味わいとなる無垢材を内装にふんだんに用いたのも齋藤さんのこだわり

    空間を分断せずつながりを持たせ、上階からの光を階下に届けるスケルトン階段。時間の経過が劣化ではなく味わいとなる無垢材を内装にふんだんに用いたのも齋藤さんのこだわり

  • 古材の梁は、江戸後期の納屋で使われていた丸太をリユースした物。曲線のフォルム、変化した色。狙ってつくることはできない、時間の経過でしか生まれない個性を楽しんでいるそう

    古材の梁は、江戸後期の納屋で使われていた丸太をリユースした物。曲線のフォルム、変化した色。狙ってつくることはできない、時間の経過でしか生まれない個性を楽しんでいるそう

  • 地産地消を意識し、足触りのいい杉の無垢材をフローリングに採用。ロフトの床部分の杉材もそのまま現しの天井になっており、リビングで過ごしている時も五感で木の心地よさを味わえる

    地産地消を意識し、足触りのいい杉の無垢材をフローリングに採用。ロフトの床部分の杉材もそのまま現しの天井になっており、リビングで過ごしている時も五感で木の心地よさを味わえる

天井高のメリハリで広がりを演出
「用途を重ねた」多目的なLDK

1階にワークスペースとご夫婦の寝室、2階に眺望を生かしたLDK、さらにお子さんのプライベート空間になるロフトを設けた2LDKの住まい。1階・2階ともに10坪程度ではあるものの、「間仕切り壁を極力少なくし、廊下を省き、階段ホールを室内に取り込むなど、高低差と奥行きを有効利用。小さいながらも広く感じられる工夫を随所に施しました」と齋藤さん。

天井高は一番高い所で4.15m、ロフト下の低い所で2.1m。この高低差のメリハリによって、延床面積以上の広がりを体感できる仕掛けとなっている。

また、狭小住宅で心地よく暮らすために必要だと齋藤さんが挙げるのが「用途を重ねる」こと。使い方をかっちりと決めず、多目的に利用できるように設計しておくことで、ひとつの場所にいくつもの機能を持たせるという考え方だ。

齋藤邸ではLDKの中心にソメイヨシノの天板の大きな造作テーブルを据え、家族団らんのリビング、食事を楽しむダイニングとしてフル活用。時には齋藤さんが図面を広げて仕事をしたり、お子さんが勉強をしたりと、暮らしの中心として愛される場所になっているそうだ。

「パントリーをつくる余裕がなかったので、テーブルの下部を食器棚や食品庫として使っています。広いテーブルの上に出来上がった料理を全部並べることができて配膳もスムーズ。何かをする時は自然とこのテーブルに集まり、家のどこにいても家族の声が聞こえる理想としていた暮らしが叶っています」。
  • 収納一体型のダイニングテーブルで限られたスペースをフル活用。その家の用途やサイズに合った造作の収納家具を提案してくれるから、希望やイメージを伝えてみて

    収納一体型のダイニングテーブルで限られたスペースをフル活用。その家の用途やサイズに合った造作の収納家具を提案してくれるから、希望やイメージを伝えてみて

  • 高い所が4.15m、ロフト下の低い所が2.1mと高低差をつけることで、フロア全体の広がりを演出。内装は白を基調としたのも、小さな家をより広く明るく感じさせる工夫の一つ

    高い所が4.15m、ロフト下の低い所が2.1mと高低差をつけることで、フロア全体の広がりを演出。内装は白を基調としたのも、小さな家をより広く明るく感じさせる工夫の一つ

  • ロフト下の4畳のスペースは、天井高を抑えているからこそ落ち着ける空間。ダイニングの近くにありながらも程よいおこもり感があり、ソファに座ってゆったりとくつろげる

    ロフト下の4畳のスペースは、天井高を抑えているからこそ落ち着ける空間。ダイニングの近くにありながらも程よいおこもり感があり、ソファに座ってゆったりとくつろげる

「自分たちでつくった家」と
お客様が誇れる家づくりを

「さいとう建築工房は、私ひとりだけの設計事務所。設計中は話し相手がいない代わりに、お客様との対話で発想をふくらませ、自分にないものを引き出してもらっています。ご自身で思い描くものを具現化してほしいという方や、なかなかイメージが湧かないという方もいらっしゃいますが、お客様をしっかり観察し、お客様の色と私の色が混じり合う『接点』を見つけることを心がけています」。

そんな信念のもと、自邸以外にも個性豊かな住宅を手がけている齋藤さん。一邸一邸、オリジナルの物語を紡ぐ家づくりでは、その出発点となる「対話」の時間を何より大切にしているという。

「おすすめできない要望が出てきた時にはその理由をきちんとお伝えしますし、これまでにやったことがなくても『面白そう!』と思ったらそのアイデアに乗っかってみることも。『自分たちでつくった家』とお客様に感じていただき、住まいの完成後は気持ちよく育てながらずっと大切にしていってほしい。私だけの想いでつくった家では絶対にそうならないからこそ、お客様の声を柔軟に受け止め、自分の設計に取り入れていくバランス感覚を大事にしたいと考えています」。

陶芸や料理にも興味があるという齋藤さんは、あらゆる料理を引き立てる「シンプルな器」こそが、自らが設計する住まいの理想であると話す。ある日はお肉や魚を、またある日にはサラダやデザートを。何を載せても馴染み、用途が固定されない器のように、どんな暮らしも受け止めてくれる大らかな家。

思い描く理想の家がある方も、自分に似合う家を建築家と一緒に探したいという方も。齋藤さんとの対話にワクワクしながら、家づくりという特別な体験を思いきり楽しんでほしい。
  • 外の景色を切り取るフレームであり、光や風の通り道でもある、天井近くまで届く大きな窓。福島盆地の厳しい冬も、この窓から差し込む陽光のおかげで暖かく過ごせているそう

    外の景色を切り取るフレームであり、光や風の通り道でもある、天井近くまで届く大きな窓。福島盆地の厳しい冬も、この窓から差し込む陽光のおかげで暖かく過ごせているそう

  • レッドシダーの鎧張りの外壁は、下から上に斜めにハングする(せり上がる)造り。上部の窓枠に奥行きが生まれ、庇として機能し、雨水などによる木製窓の劣化を防いでくれる効果も

    レッドシダーの鎧張りの外壁は、下から上に斜めにハングする(せり上がる)造り。上部の窓枠に奥行きが生まれ、庇として機能し、雨水などによる木製窓の劣化を防いでくれる効果も

  • 冷気で暖気を押し上げる重力換気を採用。玄関の通風窓から空気を取り入れ、2階の高窓から外へ排出。仕切りのない空間設計と効果的な窓の配置により、機械に頼らない自然な換気を実現した

    冷気で暖気を押し上げる重力換気を採用。玄関の通風窓から空気を取り入れ、2階の高窓から外へ排出。仕切りのない空間設計と効果的な窓の配置により、機械に頼らない自然な換気を実現した

基本データ

作品名
大きな窓の小さな家
所在地
福島県福島市
家族構成
夫婦+子供1人
敷地面積
301.34㎡
延床面積
70.32㎡
予 算
〜2000万円台