
冬でも無暖房18度以上の快適ハウス
良質素材でコストも抑えられる理由とは?
日本にはまだ少ない?
WHOが推奨する「室温18度以上」の家
おそらく多くの人が抱いているこの感覚、世界保健機関(WHO)のお墨付きであることをご存じだろうか。同機関は2018年に公開した「住宅と健康に関するガイドライン」の中で、健康維持のために「室温18度以上」の家を強く推奨しているのだ。
「けれど今の日本の住宅は、例えばZEH基準を満たしていても、無暖房だと冬の室温が18度に届かないケースは珍しくありません。朝方室温は13度前後のことが多いのではないでしょうか」
この気になる情報を教えてくれたのは、埼玉県飯能市の設計事務所「koharubi-lab.(コハルビラボ)」の代表・薄井隆生さんだ。
大学卒業後の会社員時代、設計に携わった住宅の竣工検査で室内の寒さに驚いたという薄井さん。日本の基準は海外に比べて遅れていると感じ、ヨーロッパなどの断熱住宅先進国で普及しているパッシブデザイン(太陽の力を生かして快適室温を保つ設計)を猛勉強。環境建築設計に強い工務店の門を叩いて研鑽を積み、独立してからは、インプットした多くの知見を踏まえて独自の“標準設計”を確立した。
その内容は、断熱等級は最高等級の7に迫る6+α以上、一次エネルギー消費量等級は最高等級の8とハイスペック。詳細な数値は公式HPで公開されているが、UA値、C値、ηAc値なども超がつく高性能だ。
これは薄井さんが設計する住宅の断熱・省エネ性能がものすごく優れていて、ものすごく快適なことを意味する。そして、その快適性を実証する住宅の1つが、これからご紹介する「ソラドマの家」である。
強みは、“理系少年”の妥協のなさ
年間光熱費わずか9万円、耐震も最高ランク
だがパッシブデザインを実践する薄井さんの場合、要望に応える間取りをプランニングする前に、時間をかけて行う重要な仕事がある。それは計画地における“太陽の軌道”の徹底的なリサーチと、季節ごとに得られる熱量のシミュレーションだ。
「春夏秋冬、いつ・どこに・どれだけ日が当たってどこに影ができるのか、間取りを描く前に敷地に細かくプロットします。そうすると“真冬の8~15時はここにしっかり太陽が当たる”といったことがわかって日射取得による熱量を計算でき、どの部屋をどこにつくるのが最適か、間取りもおのずと決まってくるんです」
これは薄井さんの設計の序の口で、このあとも間取りと同時進行で窓や換気で損失する熱量を計算したり、風の流れを読んだりと、手間のかかる作業や計算が竣工までえんえん続く。
そう、薄井さんは高度な調査やシミュレーションも妥協せずにやり尽くす、根っからの“理系少年”タイプ。これこそが、薄井さんが生み出す真の高性能住宅の秘密であり、強みでもある。
成果も確実に出していて、「ソラドマの家」は冬の朝方室温が無暖房で18度以上、日中は25度前後とポッカポカ。夏場もエアコン1台で家じゅう涼しくなるという。また、リースの太陽光発電も活用しており、年間光熱費はわずか9万円程度。電気代が気になる昨今、家計に差がつく優秀な省エネ住宅だ。
しかも──。
薄井さんの設計は耐震も相当なハイレベルで、国土交通省が定めた耐震等級基準は最高ランクの3が標準仕様。家の安全性を数値で裏付ける構造計算は専門家に外注する建築家が多い中、薄井さんは自分で構造計算ができるという万能ぶりで、柱や梁一本一本の強度を厳密に検証する「許容応力度計算」も全件で実施する。
さらには、高層ビルなどの大型プロジェクトで行う「時刻歴応答解析」も自ら実施。これは大地震を想定して行う超高度な“揺れ方シミュレーション”で、一般の木造住宅ではまずやらない。
それなのに、「僕自身、興味があるのでやらせていただいているんです」と笑顔で爽やかに言われてしまうと、耐震を極める姿勢に恐れ入るのを通り越し、神々しいまでの“理系少年”っぷりに圧倒される。
いずれにせよ、その甲斐あって大満足の暮らしを送っているようで、Iさん夫妻からはこんなコメントが──。
「冬でも暖房なしで暖かく、家の中は半袖で十分。外との温度が違いすぎて感覚がバグるほどですが(笑)、毎日家に帰るのが楽しいです。電気代も気にならないし、本当に感謝しかありません」
プライバシーを守ってのびのび暮らす
空が近い“ソラドマ”付きのLDK
この家は1階が家族の個室と収納で、2階がロフト付きのLDKと水まわり。来客が最初に目にする1階の玄関ホールは、飯能の無垢の杉や高級石材の大谷石で仕上げた本物志向。一角には明るい陽光がそそぐ吹抜けのオープン階段があり、階段をのぼりきると開放的なLDKが迎えてくれる。
LDKは玄関ホール同様に飯能の無垢材で仕上げたナチュラルなテイストで、空間を見渡せるキッチン、邸内が見えないように手すりの高さを調整したバルコニーなど、「子どもを見守れる」「プライバシー確保」といったIさんの要望もしっかり反映。
ちなみに、バルコニーは室内との一体感が高く、テーブルを出して休日ブランチを楽しむなど、アウトドアリビング感覚で使えることもポイント。空を間近に感じながらゆったりとくつろげて、 “ソラドマ(空土間)”という呼称通りの気持ちの良い空間となっている。
年間3棟だけに全力投球
低コストの秘密は、仕事と人柄で得た信頼
先述のように構造計算を自身で行い、合理的に設計している
「ありがたいことに地場林業や採掘林業や採石の事業者さんたちとのつながりができ、コストを抑えて仕事を受けていただけるようになったんです」と薄井さん。「建築費高騰で家づくりをあきらめかけている方にもご予算内のご提案ができるかもしれません」と、うれしい言葉も加えてくれた。
薄井さんは飯能に事務所を構えるタイミングで商店会などの活動に参加し始め、徐々に人の輪を広げていったという。優しく穏やかな印象だが骨太で信頼のおける仕事ぶり、関係性を大切にする人柄が、地域の人にすぐに受け入れられたのは想像に難くない。それに、建築のことになると途端に目を輝かせる“理系少年”タイプの薄井さんが、職人気質の先輩諸氏にかわいがられるのはなんだかすごく納得がいく。
そんなことを思っていたら、最後に大事な話を打ち明けられた。
「今、うちの事務所でお受けできる年間設計棟数は、全力投球できる3棟までなんです」
多くはないので、これにはいろいろな感想がありそうだ。でも、薄井さんほど妥協のない仕事を1人でやるなら3棟くらいが限界だろうし、だからこそ信頼できるともいえる。何より、薄井さんが手がけた「高性能で優しい価格の素敵な家」の魅力をよく知れば、少し待つことになってもその価値はあるだろうと思うのだ。
基本データ
| 作品名 | ソラドマの家 |
|---|---|
| 所在地 | 埼玉県東松山市 |
| 敷地面積 | 147㎡ |
| 延床面積 | 109㎡ |
| 家族構成 | 夫婦+子供2人 |
設計者情報
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