神は細部に宿る──。施主の“美意識”を
チーム一丸となって形にした崖の上のヴィラ。

沖縄本島のほぼ最南部に位置する南城市。海岸線から直線距離で約200m離れた高台の傾斜地、眼下に沖縄特有の青く澄み切った海を一望する絶好のロケーションに「The VILLA Okinawa」はあった。施主の“美意識”が反映されたこの別荘を手掛けた、Atelier Teteの山本 隼也さんと香織さんのお二人に話をうかがった。

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コンペ形式ではじまったプランニング
ディスカッションを繰り返し方向性を模索

本プロジェクトは、Atelier Teteを含む県内5社程度の設計事務所によるコンペ形式で行われたという。コンペ形式の場合、クライアントが提示するテーマや予算に沿って、設定された期日までにプランを提案し、そのなかから最優秀案を選ぶのが通常の流れであろう。しかし、本プロジェクトではやや事情が異なった。

「施主のFさまから最初にお電話でご依頼をいただいた時には、土地の資料が送られてきて、崖地なので使える面積が少なく平たい土地も少ないので30坪ぐらいの平屋で、凝ったものではなく白い四角い箱でいいというお話でした。また、ディスカッションしながら進めたいので、完成されたプランではなくラフプランの段階で提出してほしいとも言われていました」と、一級建築士事務所 Atelier Teteの山本さん。

施主は県外に住まわれていたため、打ち合わせは主にZoomでのやり取りだった。初回の打ち合わせからディスカッションを重ね、さまざまなアイデアを提案。そうしたキャッチボールを繰り返すなかで、施主が頭の中に思い描くイメージを丁寧に掬い取り、初回のプランを提出。そのプランは現在の完成した建物より2回りほど小さな規模だったという。

「ラフプランでいいというお話でしたので、本当に手書きをちょっと図面化したぐらいのものを提出しました。そのプランをベースにまたディスカッションをするのですが、2回目、3回目と打ち合わせが進むうちに、当然ですがどんどん要望が出てくるんですよ。友人みんなで楽しめる建物にしたいとか、プールやジャグジーもいいよねとか。そしてだんだんと方向性が固まってきて、3回目に提出したプランで、現在のような形に落ち着きました」と、打ち合わせ当時を振り返る。

5社によるコンペ形式だったが、3回目のプランを提出したタイミングのあたりで「じゃあ、もう契約しましょう」という話になったそうだ。しかも突然に。

「弊社が選ばれた理由ははっきり分からないのですが、雑談するなかで『スピード感があり、レスポンスが早かった』というようなことは言われました。なにせ3回目のプラン提出まで1ヶ月程度のスパンでしたから。他社さまは最初から“ザ・プレゼン資料”みたいな完成されたプランを出されたようですが、先程の通り弊社はラフに近いプランでした。ただ、打ち合わせの度に出てくる施主さまのアイデアを細かく反映していましたので、それも決め手になったのかな。何より『一緒につくっていこう』というフィーリングが合ったのかも知れません」と、お二人は話す。

建物の大枠の方向性は決まった。しかし、ここからがさらにお二人の頭を悩ませることになる──。
  • エントランスから入ってすぐの玄関ホール。アーチ型の両開きドアが印象的だ。トップライトから日差しが差し込み、季節や時間帯によってさまざまな陰影を生み出す。水廻りを除く室内の壁は、沖縄の漆喰で仕上げている

    エントランスから入ってすぐの玄関ホール。アーチ型の両開きドアが印象的だ。トップライトから日差しが差し込み、季節や時間帯によってさまざまな陰影を生み出す。水廻りを除く室内の壁は、沖縄の漆喰で仕上げている

  • 玄関ホールを抜けると、この景色がいきなり目に飛び込んでくる。「ゲストをもてなしたい」というオーナーの要望を見事に形にした粋な演出だ。天井に3本伸びるヒノキの丸太梁が唯一無二の雰囲気を醸す。ダイニングのエゾジカのシャンデリアも独特の雰囲気づくりに一役買っている

    玄関ホールを抜けると、この景色がいきなり目に飛び込んでくる。「ゲストをもてなしたい」というオーナーの要望を見事に形にした粋な演出だ。天井に3本伸びるヒノキの丸太梁が唯一無二の雰囲気を醸す。ダイニングのエゾジカのシャンデリアも独特の雰囲気づくりに一役買っている

  • LDKの別アングル。天井高は約3.5mあり、幅約8mという圧倒的な広さを誇る開口部から見える青い海と空と相まって、開放的な非日常空間を創り出している。エゾジカの角を使ったシャンデリアの下に据えた8人掛けのテーブルも特注品だ

    LDKの別アングル。天井高は約3.5mあり、幅約8mという圧倒的な広さを誇る開口部から見える青い海と空と相まって、開放的な非日常空間を創り出している。エゾジカの角を使ったシャンデリアの下に据えた8人掛けのテーブルも特注品だ

  • 料理をしながらみんなで楽しさを共有できるよう、LDKの一角に設けられたキッチン。コンクリートで造作したオリジナルで、キッチンカウンターだけは汚れが付きにくいよう、漆喰ではなくツルッとした質感の塗り仕上げを採用。小さな作業台も家具職人につくってもらったオリジナルだ

    料理をしながらみんなで楽しさを共有できるよう、LDKの一角に設けられたキッチン。コンクリートで造作したオリジナルで、キッチンカウンターだけは汚れが付きにくいよう、漆喰ではなくツルッとした質感の塗り仕上げを採用。小さな作業台も家具職人につくってもらったオリジナルだ

  • LDKに接するリネン庫へ向かう廊下からの眺め。アーチ型の開口で切り取られた絵画のような景色

    LDKに接するリネン庫へ向かう廊下からの眺め。アーチ型の開口で切り取られた絵画のような景色

話し合いを重ねるなかで浮かび上がった
施主が希望する3つの要件を実現するには?

ほぼ白紙の状態からスタートした本プロジェクトだが、打ち合わせを重ねるなかで浮かび上がってきた施主の要望は大きく3つだ。
①友人たちとみんなで一緒に楽しめる空間にしたい。
②室内外の仕上げは角をなくして有機的な空間にしたい。
③崖地で海が見えるロケーションを活かした建物にしたい。
ということ。

ひとつ目の要望を実現するため、広いLDKを玄関から入ってすぐの建物の中心に据え、キッチンをその一角にレイアウト。料理をしている人も孤立することなく、みんなで楽しみを共有できる造りとなっている。一方で、ゲストが気兼ねなく過ごせるよう、それぞれの個室はLDKを挟んで反対に配置し、個室の扉を開け放していてもホストとゲストがお互いに気を遣うことなく過ごせる距離感を確保。個室の引き戸をすべて開けると、フロア全体がワンルームにもなる。

ふたつ目の「室内外の仕上げは角をなくして有機的な空間にしたい」という要望はかなり難題だった。
「施主さまは『ありとあらゆるコーナになるべくアールをつけてほしい』とのご希望でしたので、できる限り丸くしました。ただ、建物の角にアールを付けるにしても、型枠の段階でやるのか、左官の仕上げでやるのかとか、施工会社さんと型枠屋さん、左官屋さんを交えすごく話し合いました」と話す。

アールを反映したパースも一応つくったが、やはり分かりづらく、丸みの説明ができない。結局現場に足を運び、1箇所1箇所その場で全員で話し合いながら進めるしかなかったという。建物は大きく、工期が夏だったのでコンクリートが固まるのも早い。それゆえ総勢15名もの左官職人が作業にかけつけた。
「デザインに強い左官屋さんとつながってたので、施工をお願いしたらすごく楽しんでやってくれました。『こんな依頼やったことないから、やりがいある』って。それで、みんなでいろんな角度から見て、ここにトップが来るのが一番きれいだよねみたいな感じで進めました」。

3つ目の要望には、崖地だったこともあり、ドローンを使ってLDKから一番きれいに海が見える高さのシミュレーションを行った。各部屋からもテラスに出られて、海が見えるように部屋を配置。また、海に向かってプールとテラスが張り出すような造りにすることで、崖下の集落が視界に入ることなくプール越しに海が眺められるようにした。リビングの開口部は幅約8.0m、高さは約2.9m。窓を開け放てば、段差のない部屋とテラスがつながった気持ちのいい大空間が生まれている。
  • 南西側に位置する広々としたテラス。部屋とテラスに段差がなくフラットにアクセスできる。水を目一杯溜めるとインフィニティスタイルとなるプールは、海側の壁がガラス面になっている。サイズは約8m×3m、深いところは水深約2mもある

    南西側に位置する広々としたテラス。部屋とテラスに段差がなくフラットにアクセスできる。水を目一杯溜めるとインフィニティスタイルとなるプールは、海側の壁がガラス面になっている。サイズは約8m×3m、深いところは水深約2mもある

  • プールの隣にはジャグジーと掘り込みのベンチをレイアウト。モールテックスでつくったベンチは目に優しい色にこだわり、階段や造り付けのベンチの高さも計算されているという。建物外壁のエッジ部分もことごとくアール仕上げ。とにかく仕事が丁寧で細かい

    プールの隣にはジャグジーと掘り込みのベンチをレイアウト。モールテックスでつくったベンチは目に優しい色にこだわり、階段や造り付けのベンチの高さも計算されているという。建物外壁のエッジ部分もことごとくアール仕上げ。とにかく仕事が丁寧で細かい

  • 2階南側、LDKの奥側にレイアウトされたプライマリーベッドルーム。開口部の高さは約2.5mあり、テラスへ直接アプローチできるようになっている。ベッドの裏側には洗面脱衣所と浴室があり、小さなミストサウナも備えている

    2階南側、LDKの奥側にレイアウトされたプライマリーベッドルーム。開口部の高さは約2.5mあり、テラスへ直接アプローチできるようになっている。ベッドの裏側には洗面脱衣所と浴室があり、小さなミストサウナも備えている

  • ベッド裏側の洗面脱衣所と浴室。浴室にはトップライトを設けた。浴室の奥がサウナとなっている

    ベッド裏側の洗面脱衣所と浴室。浴室にはトップライトを設けた。浴室の奥がサウナとなっている

  • LDKの左手にレイアウトされたセカンドリビング&ゲストルーム。スライドドアを締めると(写真下参照)それぞれ独立した部屋になる。各部屋ごとにトイレとシャワールームを備え、ゲストが気兼ねなく快適に過ごせるよう配慮されている

    LDKの左手にレイアウトされたセカンドリビング&ゲストルーム。スライドドアを締めると(写真下参照)それぞれ独立した部屋になる。各部屋ごとにトイレとシャワールームを備え、ゲストが気兼ねなく快適に過ごせるよう配慮されている

  • セカンドリビングとゲストルームの間にあるスライドドアを締めた状態。各部屋ともテラスへ直接アプローチできる

    セカンドリビングとゲストルームの間にあるスライドドアを締めた状態。各部屋ともテラスへ直接アプローチできる

『The VILLA Okinawa』に携われたことは
大きな喜びであり、得がたい経験になった

施主が希望した3つの大枠のほかにも、頭を悩ませたことがまだまだあった。例えば、LDKの天井に伸びる丸太の梁だ。

部屋の端から端まで通貫した3本の梁はヒノキの丸太。壁に埋め込んだ部分を含めると長さは8m以上。そんな丸太は材木市場に出回らない。建材に使用するヒノキは長くても6mまで。それ以上のものは競りにもなかなか出てくることはないという。いろんなところに問い合わせるも空振りが続いたという。しかし探しはじめてしばらく経った頃、ある材木屋さんから「宮崎で8m以上のヒノキが4本出た」と連絡があった。

「材木屋さんも、『タイミングよく競りにこんな丸太が出てくることはなかなかない」と驚いていましたから、もう奇跡ですよ。山から切ればありますが、それを切っても1年以上乾燥させないと使い物になりません。ですので、すぐさま現地へ赴き手に入れました。失敗が許されませんから、製材の場にも立ち会いましたね」と、山本さんは話す。

LDK開口部のサッシや網戸も特注品だ。サッシは高さが約2.9mもあり、一般住宅に採用されるのはここ「The VILLA Okinawa」がはじめてだったという。また網戸も当時はそんなに大きなものは国内になく、全国の業者に問い合わせても「無理」という返事しかもらえなかった。

「それでもいろいろ調べていたところ、オーストラリアで特注でつくっている会社を探し当てました。しかも、たまたま日本に代理店ができたタイミングだったんです。こちらもすぐに問い合わせ、3ヶ月間ほどかけてオーストラリアで制作し、日本へ送ってもらいました」。 

ほかにも、深いところで水深2mあるガラス張りのプールや、エゾジカの角を何本も使ったハンドメイドのシャンデリア、1階に設けられたドライサウナなど、一般的な住宅建築においてはおよそ規格外なものばかり。

「施主さまは世界中でビジネスを展開している方。海外各地で得たインスピレーションを持ち帰ってきては『こんなことができないか』と、たびたび相談されました。なにぶん過去に事例がなく、経験したことがなかったものが多かったので正直大変でした。できないと断ることは簡単です。ただ、施主さまから『こういうことはできますか、やってもらえますか』って聞いてもらえることが、設計を依頼してもらえる醍醐味だと思っています。建売りではなくマンションでもなく、設計事務所にお願いするっていうことは、やはりこだわりを形にしたいという思いがあってこそ。その強い思いをどう実現するか。とても大変なんですけど、それ以上に楽しみでもあります」と、お二人は語る。

Atelier Teteのお二人は口を揃える。「もう一度同じものをつくれと言われても無理かも知れません。同じ材料を揃えるのも多分不可能ですしね。施工会社さんも職人さんたちも、資材業者さんも、みなさんの理解と協力があったからこそ、この『The VILLA Okinawa 』は完成したのだと思います。チーム一丸となって、ある意味こういった普通じゃない、固定概念にとらわれないおおらかで自由な建築物に携われたことは、私たちにとって何物にも代えがたい喜びであり、得がたい経験になりました」と。
  • 1階に設けられたドライサウナ。ベンチに腰を掛けた状態で小窓から海が眺められるよう高さが計算されている。ベンチの立ち上がりは、垂直ではなく斜めに仕上げている。ふくらはぎが直接当たらないので熱くない

    1階に設けられたドライサウナ。ベンチに腰を掛けた状態で小窓から海が眺められるよう高さが計算されている。ベンチの立ち上がりは、垂直ではなく斜めに仕上げている。ふくらはぎが直接当たらないので熱くない

  • ドライサウナに隣接したととのいスペース。鋳物の五右衛門風呂が3つあり、そのうちひとつにチラー(水風呂冷水機)を採用しているので、水を適温まで下げることができる

    ドライサウナに隣接したととのいスペース。鋳物の五右衛門風呂が3つあり、そのうちひとつにチラー(水風呂冷水機)を採用しているので、水を適温まで下げることができる

  • 1階の一角にもミニキッチンを設えたゲストルームがある。2階に比べると開口部が小さく、こぢんまりした空間だが、ゲストには殊のほか人気だとか

    1階の一角にもミニキッチンを設えたゲストルームがある。2階に比べると開口部が小さく、こぢんまりした空間だが、ゲストには殊のほか人気だとか

  • 道路側に面したエントランス

    道路側に面したエントランス

  • 玄関ホールにはお気に入りのアートを飾って

    玄関ホールにはお気に入りのアートを飾って

  • 海から昇る朱い朝日が、海と空、LDKを美しく染める

    海から昇る朱い朝日が、海と空、LDKを美しく染める

基本データ

作品名
The VILLA Okinawa
所在地
沖縄県
敷地面積
624.56㎡
延床面積
408.99㎡