お施主様ご夫妻の暮らしに寄り添う、
「ふたり」と「それぞれ」の寛ぎがある家

真鶴町に長くお住いで、気風や風土を知り尽くしているI様ご夫妻から、2人で暮らす家をつくりたいとご相談を受けた一級建築士の徳家明美さん、統さん。真鶴半島の美しい景色を活かしながら、ご夫妻の今とこれからのライフスタイルに合わせた家づくりには、どのような物語があったのかを追う。

この建築家に
相談する・
わせる
(無料です)

そこに暮らす人々が大切にする精神も
デザインに込めた家づくり

神奈川県足柄下郡真鶴町は、おおらかな空気に包まれた、ノスタルジーを感じる街だ。全国的にも珍しい、単純な景観だけではなく空気感を含めた風景を守るために制定された「美の基準」という街づくり条例があることでも知られる真鶴町。合同会社 team AeO 一級建築士事務所の徳家明美さんと夫の統さんは、「美の基準」は以前から知っていたものの、真鶴町に近い湯河原町へ移住して改めてその冊子を手にしたという。「そこに書かれたキーワードや描かれた絵をじっくりと読み解き、その奥深さに感動しました」と明美さん。それと同時に、そこに住む人たちが真鶴半島や海とみどりに抱かれた生活を愛する思いを感じたのだそうだ。

2人が設計したI邸のリビングからは、真鶴半島の先端とゆったりした海という絶景が楽しめる。家の正面からは、エントランスアプローチの先に素晴らしい眺望がのぞき、ふと通りかかった人にもはっとするような感動を与えている。

予定地へ下見に行くと、敷地から真鶴半島の先端がとても印象的に見えた。これは計画上の大きなキーワードになると考え、写真を撮ったという2人。また、敷地の公図を見ると西側に畦畔(けいはん。その土地が田畑(もしくは農地)として使われていた時代のあぜ道のこと)の表記があったため、住宅地として開発されるまで人々はここを通るたびに半島の景色をみてきたに違いないと想像した明美さん。プランを考えるうち、その軸線を海のほうへ伸ばすと、神聖な土地と知られている半島先端の「お林」、さらに「景勝三ツ石」までまっすぐに繋がることに気が付いた。家をここに建てるならこの特性を活かしたものにしたいと、初回のプラン提案時、プランの表紙に下見で撮った写真を採用。「アプローチを抜けると、まさにこの景色が見えます」と軸線のストーリーも説明しながらご説明したという。するとI様は「それはいいね」とおっしゃってくださり、最後まで変わることない大事なコンセプトとなった。

「美の基準」も意識した。数あるキーワードから、例えば屋根と壁を同素材で連続させ流れるようにデザインし「舞い降りる屋根」を、屋外には真鶴産の石材である本小松石を使用して「地の生む材料」を表現している。
  • 海へ向かうアプローチ。プライバシーを保つため、侵入防止の意味も込めて設置した水平なエントランスバーの先はプライベートエリアで、半島を望むテラスへと繋がる。

    海へ向かうアプローチ。プライバシーを保つため、侵入防止の意味も込めて設置した水平なエントランスバーの先はプライベートエリアで、半島を望むテラスへと繋がる。

  • トーンを抑えた落ち着いた佇まいの外観。「美の基準」から屋根と壁面で「舞い降りる屋根」を表現した。低い軒、石貼りの緩やかな階段の連なり、表札を兼ねたコーナースリットが、訪れる人を自然にエントランスへと誘うアプローチとなっている。

    トーンを抑えた落ち着いた佇まいの外観。「美の基準」から屋根と壁面で「舞い降りる屋根」を表現した。低い軒、石貼りの緩やかな階段の連なり、表札を兼ねたコーナースリットが、訪れる人を自然にエントランスへと誘うアプローチとなっている。

オープンな空間の中につくった
めいめいが自分の時間を持てる場所

I様ご夫妻のご要望は「海と半島の眺望を大切にすること」「夫婦各々が思い思いに過ごせるスペースがあること」「外部からの視線は適度に遮りプライバシーを保つこと」とシンプルなものだった。

それに応えるため、核になったのは全体的な空間の構成だという。1階と2階を吹き抜けで繋げ、大きな1つの空間にしたうえでそれぞれの場所をつくった。「一緒に過ごす場所があって、各人の居場所があって。別々のところにいても、お互いの気配が感じられるようにしました」と明美さん。

南に位置するオープンキッチンとダイニングは、パブリックかつご夫婦がともに過ごす場所。全体的に落ち着いた雰囲気の室内で、唯一ともいっていいビビッドなアイランドキッチンの赤が目を引く空間だ。窓からは初回の提案で提示した写真そのものの、海と半島の景色が楽しめるようになった。家の中でも天井が低いところにあり、落ち着いた雰囲気の中ゆったりと過ごせる。

プライバシーを保つため、人の出入り時に家の中が見えないように玄関を道路に対し直角に位置する西側に配置した。玄関を入ると、目の前には吹き抜けのリビングが広がる。ご主人が希望した「ヴィラのような雰囲気の中、ごろりと横になってテレビが見られるところ」だ。天井が高く開放感に満ちているのに加え、フローリングの一部に段差なく敷かれたカーペットと、特徴的な三角形の背もたれでリゾート気分も高まる一角となっている。背もたれは実際にモックアップで使い勝手を確かめながら設計した造り付けだ。

奥様の居場所は趣味の洋裁をするためのミシンコーナー。家の東、家事室の手前にありキッチンにも近いので、洗濯や台所仕事の合間でも趣味の時間が持てると喜ばれているそう。引き戸を開けておけば閉塞感なく家の中の様子を感じながら作業でき、閉じてしまえば散らかしっぱなしでも大丈夫というところも気に入られているとか。

リビングやダイニングは、I様ご夫妻や訪れた方々が半島の眺めを楽しむ寛ぎの場所として、生活感のない心地よい空間になるよう工夫されている。階段を支える壁の向こうに洗面、トイレ、家事室などにつながる廊下を設け、それぞれの引き戸はリビングから見えないところに配置した。自然な動線で行き来できつつ、リビングやダイニングからはプライベートな部屋の存在が感じられないよう配慮されているのだ。「ひらけた空間のなかで扉を見えなくすることで、日常生活の暮らしのエリアを少しだけ非日常っぽく、よりヴィラ感を出せるのではと思いました」と統さん。

主寝室の位置にもこだわり、パブリックな場を通らなくても玄関からダイレクトにアクセスできるようにした。明美さんは「もし、帰宅したときにご家族がダイニングでお友達と過ごしていたとしても、顔を合わせることなくクロゼットへ入り着替えることができます。洗面所で手を洗ってリビングに出ても、寝室に戻ってもいいですよね」と話す。
  • 玄関扉を開けた瞬間に広がる、ひとつ屋根の吹抜空間。リビングはフローリングと同面のカーペット敷きで、空間がより高く広く感じられる。階段の壁面のスリットからは、トップライトからの光が間接光となって溢れ出る。

    玄関扉を開けた瞬間に広がる、ひとつ屋根の吹抜空間。リビングはフローリングと同面のカーペット敷きで、空間がより高く広く感じられる。階段の壁面のスリットからは、トップライトからの光が間接光となって溢れ出る。

  • 料理の時間も楽しく使いやすく。シンクを備えたアイランドキッチンはビビットな配色で吹抜側に、調理や収納スペースは壁側に。「使い勝手と機能配置を何度も考え合いました」と明美さん。

    料理の時間も楽しく使いやすく。シンクを備えたアイランドキッチンはビビットな配色で吹抜側に、調理や収納スペースは壁側に。「使い勝手と機能配置を何度も考え合いました」と明美さん。

  • 1階家事室の一角にあるミシンコーナー。作業途中で広げたままにもしておけるこうした場所をプライベートゾーンに設けることで、家の中の整理整頓がいつでも容易に

    1階家事室の一角にあるミシンコーナー。作業途中で広げたままにもしておけるこうした場所をプライベートゾーンに設けることで、家の中の整理整頓がいつでも容易に

デザインされた光の計画で
洗練された空間と暮らしやすさを追求

照明も大事なデザインの要素と語る明美さん。リビングの柱のような照明、ダイニングテーブルの上にある丸い照明など特徴あるインテリア照明が多く使われている理由は、「家全体を明るくするのではなく、明るさが欲しいところが明るいようにしたかった」からだと統さんは言う。では家の中は薄暗いのかといえば決してそんなことはなく、海に向かう大きな窓に加え家のほぼ中央部分に天窓、2階の北側上部には高窓がある。

階段のスリットから1階部分を明るく照らす天窓は、2階の収納にも南側から光を落とす。そのため窓がなくても十分に明るく、南側が抜けているので狭さも感じない。「収納としていますが、I様も充分に居室にでも使えるいい部屋だとおっしゃってくださいました」と明美さん。

2階に見える高窓も、ふたつのエリアに光を注いでいる。ひとつは1階のリビングダイニング、もうひとつは2階の客室だ。客室には北側に大きく窓があるが、廊下に面した反対側上部のスリット部分にその高窓があり、細長い天窓のような役割をしている。「入ってくる面積は少なくても、太陽の光には力がある」と統さんは言う。

家づくりの途中I様ご夫妻からいただいた、とても嬉しかった言葉があるそうだ。やむなくご予算などの関係で調整せざるを得なくなったとき「最初の提案で示されたコンセプトや、何が大切だったかをもう一度振り返り、それを損ねないようにしたい」とおっしゃってくださり、背筋が伸びるような思いだった、と明美さんは語ってくれた。しかしそれは、それまでの過程でお互いに理解を深め、信頼関係が築かれていたからだといえる。「家づくりを楽しんでいただきたい」と話すteam AeOの2人。お施主様の要望に応えるのは当然のことで、それにプラスして、お施主様の想像をちょっと超えたような空間の提案をすることが大事だと考えている。驚きがワクワクするような楽しさに代わり、毎回の打ち合わせを楽しみにしていただけたら嬉しいという。

team AeOは明美さんと統さんご夫妻の事務所だ。家づくりにおいては、男女両方いることにメリットがあると明美さん。「女性だから台所のことは詳しいとかそういうことではなくて、女性から男性に相談しにくいこともあるでしょうし、もちろんその逆も。同性だからこそ微妙なニュアンスまで理解できる話もあるのではないでしょうか。それぞれがそれぞれに響きやすく、調整できるのは強みだと思っています」
  • 1階と2階がひとつになったオープンなパブリックゾーン。開閉可能な高窓を吹抜上部に設けたことで、北側からの安定した自然採光と南北の通風換気ができ、いつも明るく心地よい。寝室などのプライベートゾーンは、階段の右の壁の向こう。自然な動線で行き来できる。

    1階と2階がひとつになったオープンなパブリックゾーン。開閉可能な高窓を吹抜上部に設けたことで、北側からの安定した自然採光と南北の通風換気ができ、いつも明るく心地よい。寝室などのプライベートゾーンは、階段の右の壁の向こう。自然な動線で行き来できる。

  • 2階から見下ろす。外部(テラスと中庭)と内部(テラスリビングとエントランス、2階)が立体的に繋がりあうプランは、面積以上に空間の拡がりが感じられ、どこにいても自然の光と風を享受できる。

    2階から見下ろす。外部(テラスと中庭)と内部(テラスリビングとエントランス、2階)が立体的に繋がりあうプランは、面積以上に空間の拡がりが感じられ、どこにいても自然の光と風を享受できる。

  • 明るく風通しのよい2階収納。窓は無くとも、開閉可能な天窓に面しているので、換気ができる清潔な空間になった。収納に欠かせない壁面の長さも十分にとり、収納量と使い勝手に優れている。

    明るく風通しのよい2階収納。窓は無くとも、開閉可能な天窓に面しているので、換気ができる清潔な空間になった。収納に欠かせない壁面の長さも十分にとり、収納量と使い勝手に優れている。

間取り図

  • 1F 間取図

  • 2F 間取図

お家のデータ

施主
I邸
所在地
神奈川県足柄下郡
家族構成
夫婦
敷地面積
197㎡
延床面積
115㎡
予 算
3000万円台

この建築家が建てた家