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歴史ある土地建物を驚きのバランスで守る!?セカンドハウス作り

先祖から受け継いだ300坪以上の敷地に建つ家を、セカンドハウスとして建て替えたい。そんな要望を受けて建築家の北園徹さんがつくった住居は、伝統的な日本家屋でありながらエキゾチックで前衛的。遠い過去と現在が、不思議なバランスで邂逅する空間だ。

庭と蔵。歴史あるものに敬意を表した平屋の家

 敷地300坪。素人目にも、10年や20年ではこうはならないと思える風趣に富んだ庭がある。その一角には、ずっしりと存在感あふれる蔵もある。建築家の北園徹さんに建て替えの依頼があったのは、蔵の隣にぽつんと建つ、長年空き家のままの古びた小さな家屋だった。

 依頼主は、東京都内に住むHさん夫妻。家屋は静岡県内を流れる天竜川にほど近い、広大な土地に建っていた。歴史を感じさせる庭や蔵は、地の利を活かし、江戸時代に舟運業を営んでいたHさんの先祖が残したものである。

 北園さんには詳しい事情はわからない。とにかく、その立派な庭を擁した土地は、少なくとも人が住む場所として活きてはいなかった。Hさん夫妻には、遊ばせておくのはもったいないし、先祖の忘れ形見ともいえる場所を何らかの形で活かしたい、との思いがあったのかもしれない。還暦を過ぎた夫妻は以前より休息の時間を持てるようになり、そこにあった古い家屋を取り壊し、「余暇に東京を離れ、ゆったりくつろげるセカンドハウスをつくりたい」と希望した。

 プランにはいくつかの具体的な要望も反映しているが、すべてにおいて北園さんが意識したのは、現存する庭と蔵に敬意を表することだった。具体的には、まず、室内のどこにいても庭の景色を楽しめること。次に、庭と蔵のある風景に調和する建物をつくること。「敷地はたっぷりありますから建物は平屋にし、日常的に庭を眺められるよう、各居室に庭向きの大きな開口を設けています。また、しっかりとした庭と呼応する建物は互いを引き立て合うので、完成した瞬間から庭や蔵と馴染む住居にしようと考えました


 門扉から20mほど歩いてたどり着く新しいH邸は、落ち着いた黒のスギ板張り。スギ板は木目の風合いが際立つオイル塗装で仕上げてあり、庭の自然に見事に調和。広い屋根には瓦が整然と並び、同じ敷地に重厚な蔵があっても何の違和感もない。美しく凛とした日本家屋の佇まいに身が引き締まると同時に、初めて訪れてもなぜだか安心した心持になる。

 邸内は庭側のそこかしこに窓を設けてあり、四季折々の眺めを存分に楽しめる。だが、H邸の主要な窓はすべて西向きで、南を好む一般的なセオリーとは異なる造り。「以前あった家屋は南向きでしたが、今回は西に開けた居住空間を希望していらっしゃいました。というのも、Hさんの敷地から見て西に天竜川があり、心地よい川風が西から吹いてくるんだそうです。幸い敷地は余裕がありますから、西向きで懸念される強い西日は長い庇と樹木で避けられるように配慮しています


 建築家が建物をつくるとき、当然のことながら敷地条件はプラン作成の要になる。知識、経験を結集させ、さまざまな環境を加味してプロの視点から見たベストな策を提示する。それでも、北園さんは施主の思いに耳を傾け、たとえ一般論から外れていても可能な限り尊重する。「打ち合わせを重ねる中で、この土地に対するHさんご夫妻の思い入れを強く感じたんです。となれば、なんとかして、そのお気持ちに応えたいですよね」
  • 風呂外観/木造部分から少し飛び出たような“白くて大きくて丸っこいもの”は、一見何だかわからないが実は風呂。近未来的なようでもあり、原始的なようでもあり、鑑賞する側の想像力をかき立てる形状が強烈なインパクトを残すが、不思議と周囲の景色に溶け込んでしまう

  • 風呂内部/Hさんが「孫たちを喜ばせたい」とオーダーした“面白い風呂”は、どこの温泉旅館に行ってもお目にかかれそうもない、個性豊かな異空間。丸みのある広々した浴室で湯に浸かると何かに守られているような安心感を得られ、身も心もリラックス

孫が大喜び! 草むらにふわりと降り立つ、“お供え餅”の正体は

 風情あふれる庭や蔵としっくり馴染むH邸の外観だが、ひとつだけ、「ん?」と目を凝らしてしまうものがある。木造家屋の中央に位置する、草むらに降り立ったUFOを思わせる大きく白い物体だ。「ここ、お風呂なんです。この家は余暇を過ごすためのセカンドハウスですが、静岡のご親族が集まって法事などを行えるようにもしたい、とのお話でした。ついては、大勢のお孫さんたちが喜びそうな面白いお風呂をつくってほしいというご依頼があり、こんなお風呂になったのです」と北園さん。

 丸みのある分厚い円盤のようなのものが重なる白いコンクリートの物体は、中に入ると確かにお風呂。丸い膨らみの部分がふわっとやさしげな雰囲気をつくり出し、広さは贅沢に8畳ほど。庭の緑が見える窓のほか、上部にも小さな丸い明かりとりの窓が設けられ、頭上から柔らかい光が落ちてくる。「庭を眺めてゆったり入浴できます。僕も、“試運転”なんて称して入浴させていただいたんですが、なかなか気持ちいいですよ」

 “面白いお風呂”とオーダーされたとはいえ、どうしてこんな形になったのだろうか? 「どうしてでしょうね(笑)。イメージとしては、細胞分裂というか……。何かが生まれる第一段階、原形。そういうものが、子どもたちにはいいかなと思ったんです」。北園さんの狙い通り、お孫さんたちはもちろん、Hさんご自身を始めとする一族の大人からも大好評。Hさんの奥さまも「お供え餅みたいでいいわねえ」と、楽しい感想をくださったという。

 邸内の間取りは非常にシンプルで、LDK、和室、寝室と、“お供え餅”のお風呂を含む水まわりだけ。深い色合いの木材を用いたリビング・ダイニングを彩るのは、Hさん夫妻が海外の旅先で買い集めたアジアンテイストの家具の数々だ。純然たる日本家屋でありながら、差し色となるオレンジ色の柱も効いて現代風のオリエンタルな情緒が漂う空間は、「懐かしくて、新しい」というHさん夫妻の言葉そのもの。広々としたリビング・ダイニングを見渡せる和室には、一堂に会する子孫を見守るように大きな仏壇が設えてあった。


【北園 徹さんコメント】

 年配のご夫妻が、月の1/3程度だけ滞在するセカンドハウスです。江戸時代から続く旧家の土地なので、歴史ある庭や蔵を活かした景観にしようと考えました。特に、「室内から見える庭」についてはかなり気を配りましたね。植栽も少し手を入れましたが、木の配置を決める際は何度も繰り返し屋内外を行き来して、室内からの庭の見え方を念入りに確かめました。ご夫妻からは「全部気に入っている。特にお風呂は来る人みんなに喜んでもらえる」と、嬉しい感想をいただいています。
  • 玄関ホール/大勢の親族が集うことを想定し、土間も玄関ホールも贅沢な広さをとった。和の空間と相性の良いアジアンテイストの家具は、Hさん夫妻が海外旅行の際に買い求めたもの。「気に入った家具を置き、インテリアを楽しんでくださっているようです」と北園さん

  • リビング/「10年経っても20年経っても変わらない空間を」というコンセプトでデザイン。全体的にダークな色使いだが、柱の1本を明るいオレンジ色にしたおかげで重苦しさがない。このセカンドハウスは親族が集まって法事などを行う場としても使われており、奥には仏壇を設えた和室もある

  • 和室/リビング・ダイニングとひと続きの和室からは、古くから残る蔵が見える。伝統的なナマコ壁も取り入れられた蔵の存在が、和の庭の魅力をいちだんと際立てる

撮影:石黒 守

お家のデータ

家族構成
夫婦
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