静かな中庭と明石海峡
2つの景色を望む家

島根県にある足立美術館の庭園をイメージした庭と、ダイナミックな海峡という、趣が異なる2つの景色を贅沢に楽しむことができるO邸。こちらを設計したのが、ef設計の木下 太さんだ。景色を中心に据えつつも、4人家族の暮らしやすさをしっかりと踏まえた家づくり。その詳細をご紹介しよう。

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立地を最大限に生かし
眺望と暮らしやすさを追求

兵庫県、淡路島の緑深い山間の高台、海を望む絶好のロケーションに誕生したO邸。こちらに住むのは、40代のOさんご夫婦と、お子様、そしてご高齢のお母様の4人家族だ。

この家が建つ土地は、北側が絶壁。購入すべきか最終判断に迷っていたとき、知人の紹介で出会ったのが、ef設計の木下太さんだった。木下さんとも相談のうえ、Oさんは土地の購入を決め、いよいよ家づくりがスタートすることとなる。

「Oさんは最初から希望が明確でした」と当時を振り返る木下さん。打合せの場でOさんが最初に口にしたのは、「日本庭園で有名な足立美術館のような庭のある家を建てて欲しい」。という言葉だった。

ここで、嬉しい偶然が発覚する。実は木下さんは、足立美術館がある、島根県安来市の出身だったのだ。もちろん足立美術館にもよく足を運んでいたため、2人はすっかり意気投合。話も大いに盛り上がったのだという。

打合せをするなかで、さらに木下さんに伝えられた希望は、「北側の明石海峡大橋のダイナミックな眺望を活かすこと」、「リビングかわりにもなる寝室を2階に置くこと」、そして、「書斎」と「ビルトインガレ-ジ」、「仏壇を置ける和室」だった。

これらを受けて木下さんが考えたのが、庭園を中心に、1階にはビルトインガレージ、水回り、そしてキッチンとLDK、離れの和室。さらに2階にベッドルームを配するプランである。

外観は、落ち着いた和モダンテイスト。右手には、趣のある格子の引き戸を用いたビルトインガレージが備えられており、シンプルながら高級感のある顔立ちだ。玄関から中に入ると、そこには腰掛けるのにちょうどいい高さのベンチが備え付けられている。これは、ご高齢のお母様が座って靴を履くことができるように工夫されたものなのだそう。細かなことではあるが、住む人には嬉しい工夫である。

ベンチに腰掛けると、目線の先には主役の1つともいえる中庭が目に飛び込んでくる。津村造園と協力してつくられたというこちらの庭。中心には苔庭が据えられており、その周りに山もみじや岩、水琴窟が配されている。小さなスペースではあるが、日本庭園らしい趣を感じさせる美しい庭だ。

この庭に色を添えるのが、奥に配された離れのような和室。こちらが茶室のような佇まいで、中庭との一体感を醸し出している。見えるものすべてを1つの風景としてまとめた、みごとな設計である。
  • 建物右手には車2台分のスペースを確保したビルトインガレージが。和モダンに合うように格子の引戸が用いられている

    建物右手には車2台分のスペースを確保したビルトインガレージが。和モダンに合うように格子の引戸が用いられている

  • 化粧垂木が美しく並べられた、雰囲気ある玄関ポーチ。ひさしがあるため、濡れずに玄関まで行けるのが嬉しい

    化粧垂木が美しく並べられた、雰囲気ある玄関ポーチ。ひさしがあるため、濡れずに玄関まで行けるのが嬉しい

  • 玄関を入ったところ。正面には中庭。その奥にリビング、そのさらに向こうには明石海峡を望む

    玄関を入ったところ。正面には中庭。その奥にリビング、そのさらに向こうには明石海峡を望む

  • 玄関から見た中庭の様子。備えられたベンチに腰掛け、庭を見ながらゆっくりと靴を履き替えることができる

    玄関から見た中庭の様子。備えられたベンチに腰掛け、庭を見ながらゆっくりと靴を履き替えることができる

海の景色を望む特等席に
広々とした寝室を配置

この庭を眺めながら廊下を渡ると、その先に現れるのが開放感たっぷりのキッチンとLDKだ。南に目をやると、静かな中庭、反対の北側を見ると、ダイナミックな明石海峡の景色が目に飛び込んでくる。木下さんいわく、室内のあらゆる所でピクチャーウインドーのように景色を切り取る技は、足立美術館でも取り入れられている、「庭」を切り取って一つの絵画のように見せる手法を取り入れたものなのだそう。同美術館を愛する、Yさんと木下さんだからできた、特徴あるプランといえるだろう。

北側にはOさんの希望によりリビングダイニングには大きな開口部が確保されており、リビングのどの場所からでも、広大な海の景色を眺めることができる。こちらの窓には全開放できる障子が備えられており、これを閉めることで、プライベートが確保された静かな空間に早変わり。外側に開くことも閉じることもできるつくりは、住み手にとっては嬉しい限りだ。

階段を上ると、2階に配されているのが、寝室である。こちらの窓からはもっともみごとに明石海峡大橋を望み、ときには雄大な雲海が現れるなど、四季折々の景色が楽しめる特等席となっている。寝室の奥にあるのが、Oさんたっての希望であった書斎コーナー。手前に間仕切りが設けられており、閉めれば静かな仕事スペースができあがる。

こうして、Oさんの希望をすべて叶えたO邸。実際に住み始めたOさんのご家族も、大いに満足されているとのこと。特に寝室からの眺めがお気に入りで、Oさんいわく「大きな船が行きかう景色は、1日中見ていて飽きない」そう。庭の景色と海の景色。2つを堪能できる日々の暮らしを満喫されているという。

最後に今回の家づくりで印象的だったことを、木下さんに尋ねてみたところ、こんな答えが返って来た。「家づくりを始めるとき、Oさんが、木下さんの代表作になるようなものを作って欲しい。ある程度お任せするので、やってしまってください。と言ってくださったんです。建築家冥利に尽きるお言葉をいただき、本当に嬉しかったですね」。

両者の信頼関係のもと、木下さんが存分に力を発揮して出来上がったO邸。きっとこれからも、Oさん一家から長く愛され続けることだろう。
  • 南側に設けられた中庭は、足立美術館のメインの庭ではなく、ちょっとそれたところにある庭をイメージして作られたそう。苔庭を中心に配置し、その周りを小路が囲む。まるで山の小路を散策しているような気分が味わえる

    南側に設けられた中庭は、足立美術館のメインの庭ではなく、ちょっとそれたところにある庭をイメージして作られたそう。苔庭を中心に配置し、その周りを小路が囲む。まるで山の小路を散策しているような気分が味わえる

  • ダイニングの夜景。大きく開いた北側、開口部の外には、明石海峡大橋を望む。美しい景色を眺めながらダイニングテーブルを囲み、家族で食事を楽しむことができるつくりとなっている

    ダイニングの夜景。大きく開いた北側、開口部の外には、明石海峡大橋を望む。美しい景色を眺めながらダイニングテーブルを囲み、家族で食事を楽しむことができるつくりとなっている

  • キッチン側から見たリビング。左手の窓の奥には真っ青な海の景色が広がっている

    キッチン側から見たリビング。左手の窓の奥には真っ青な海の景色が広がっている

  • 中庭から見た風景。小路を歩いた先はリビング。そしてその先の海の景色へとつながる

    中庭から見た風景。小路を歩いた先はリビング。そしてその先の海の景色へとつながる

  • 2階の寝室。奥がご主人の書斎コーナーとなっており、間仕切りで締め切ることもできる

    2階の寝室。奥がご主人の書斎コーナーとなっており、間仕切りで締め切ることもできる

撮影:宮本 淳

基本データ

作品名
二つの景色が望める家
施主
O邸
所在地
兵庫県淡路市
家族構成
夫婦+母+子供1人
敷地面積
310.65㎡
延床面積
185.31㎡
予 算
5000万円台