まちに開かれた1階、家族のための2階。
周辺環境をも豊かにする、オセロハウス

お子さまの小学校入学を前に、地元に戻る決断をされたY様ご一家。早く友達ができるように、この街で楽しく暮らせるように、との思いを形にしたのが建築家の中西正佳さんがプランニングした「オセロハウス」だ。オセロのように生活空間を反転させ、外部との交流と家族の生活のどちらも大切に考えられる家ができた。

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子どもを育てるのは夫婦2人だけじゃない
街の人々との交流を生む庭

昔ながらの住宅街の一角に、ぱっと明るい佇まいの家がある。周辺には石塀に囲まれた家が多い中、角地にあるその家は塀もなくオープンな雰囲気。昼間には近所の子どもたちがどこからともなく集まってきて、わいわい遊んでいる様子もうかがえる。

設計した株式会社 中西正佳建築設計事務所の中西正佳さんは、この外観からして魅力にあふれた家を「オセロハウス」と名付けた。その理由は、一般的な住宅とは生活空間の配置が逆になっているため。昔ながらの家が連なる住宅街では、LDKが1階に設けられていることが多いという。しかしオセロハウスではLDKを2階に上げ、1階は寝室のみを配置したのだ。屋内の構造を逆転すると、その場所で過ごす時間帯も同じように逆転する。この辺りは住宅が密集しているが、周辺の家が1階で生活している時間帯は2階で過ごすため、外部からの視線なども気にならず開放的に暮らせるという。

オセロハウスは、お施主様のYご夫妻の奥様が高校生まで暮らしていた家を建て替えたものだ。現在は隣にご両親宅がある。

お子様の小学校入学を機に引っ越しを決めたというY様夫妻。「お施主であるY様夫妻は共働き世帯で、しかもお二人とも特にお忙しい職種についておられます。ご夫妻二人だけでなくご両親や街の人々など、できるだけ多くの人が関わって子育てができればいいのでは、と考えました」と中西さんは語る。塀を取り払いオープンな雰囲気をつくったのも、子どもが惹かれるような庭を設けたのも、Y様のお子様たちが少しでも早く地域となじみ、友達と楽しく過ごせるようにというご夫妻の思いを受けてのプランだという。

その思いは、1階のつくりかたにも反映されている。まず、玄関からまっすぐ延びる廊下の突き当りに、隣の両親宅の敷地に繋がる扉をつくった。玄関や廊下は幅をゆったり取り、2階へ向かう階段下のスペースを利用してテーブルを設置。子どもたちが友達と勉強を教えあったり、訪ねてきたご近所さんたちとちょっと話をしたりするのにちょうどいい空間になっている。

1階のこの空間を、街が家に入り込んでくるかのようなイメージで計画したという中西さん。壁面は、1階の外観と同じく土壁を用いた。家の内部だが、Y様ご一家とご両親、尚且つ街の人々とをつなぐ結節点のような場所になればと考えている。

完成後、通りかかったご近所の方が「この街にこんな素敵な家ができて嬉しい」と喜んでくださったそうだ。すごくありがたくて嬉しかった、と中西さん。オセロハウスは、昔ながらの住宅街に新しい風を吹き込んだようだ。
  • 外観は石塀を取り払い、外部との境界線を曖昧にした。ご夫妻はともに車通勤のため、夜間は写真右側の1面に2台駐車する。庭には様々な植物が植えられ、周辺に住む方々に楽しまれているのだとか。1階のこの空間に人が集まっても生活空間は2階にあるため、プライバシーは保たれる

    外観は石塀を取り払い、外部との境界線を曖昧にした。ご夫妻はともに車通勤のため、夜間は写真右側の1面に2台駐車する。庭には様々な植物が植えられ、周辺に住む方々に楽しまれているのだとか。1階のこの空間に人が集まっても生活空間は2階にあるため、プライバシーは保たれる

  • 西側の外観。中央に玄関扉、右は納戸への扉。納戸は玄関の中にも扉を設け、屋内外両方からアクセスできる

    西側の外観。中央に玄関扉、右は納戸への扉。納戸は玄関の中にも扉を設け、屋内外両方からアクセスできる

  • 2階、ロフトからLDKを見下ろす。ワンルーム空間にダイニング、小上がり、リビング、そしてロフトと居場所をたくさん計画。大人数の集まりにも対応できるよう、ダイニングの椅子と小上がりの高さを同程度にするなど、使い勝手に直結するこだわりがそこかしこに感じられる

    2階、ロフトからLDKを見下ろす。ワンルーム空間にダイニング、小上がり、リビング、そしてロフトと居場所をたくさん計画。大人数の集まりにも対応できるよう、ダイニングの椅子と小上がりの高さを同程度にするなど、使い勝手に直結するこだわりがそこかしこに感じられる

一日のほとんどを過ごすからこそ魅力的に
居場所が多いワンルーム空間

生活に必要な要素のうち、寝室以外はすべて2階にあるオセロハウス。寝る以外は常に2階で生活するため、中西さんはできる限り魅力的にしようと尽力したという。

LDKをワンルームにまとめた空間は天井が高く、ウォールナットやチークなど表情の違う木材がふんだんに使用されている。田畑に面した西面から南面にかけては水平連続窓を設け、心地よい風や柔らかな光を室内に取り込んだ。窓の外には樹木も植えられ、室内にいながらまるで自然の中のようにリラックスできる。

ワンルーム空間は、お互いがどこにいても気配を感じられるようにしたいというご夫妻の要望にもぴたりと沿っている。しかし、中西さんは人の気配が窮屈に感じることもあるだろうと考えた。そこで、リビングやダイニングに加え、Y様夫妻が希望されたロフトや小上がり、勉強スペースといった要素を2階に入れ込みながら、1つの空間に趣の異なる居場所をたくさん設けたのだそうだ。その中には、もちろん一人で静かに過ごせる場所もある。

それだけでなく「空間に一応名前は付いていますが、その通りに使わなくてもいいんです。窓際の勉強スペースで食事をしてもいいでしょうし、その時々の気分をおおらかに包み込める空間にしたいと思いました」と中西さんは話す。

おおらかさは、家族の個性も柔らかく包み込む。オセロハウスは、先述の木材の種類だけでなく、住宅としてはなかなか考えられないほど多種多様な素材や仕上げが用いられている。夫婦でも完全に好みは一致しているわけではないし、これからお子様が大きくなればお子様それぞれの趣味も出てくる。そのとき、家の中にいろいろな素材が存在していたほうが、調和がとれやすいというのだ。家の雰囲気にそぐわないからこれは飾れない、そんな誰もが一度は感じたことがあるだろう残念な気持ちとは無縁の家。愛着が日に日に深まるのは間違いない。

家族の一人になりたい気持ちや好みを最大限に尊重するワンルーム空間。それでいて、皆でともに過ごすひとときが生まれる場もしっかり設けられており、LDKの魅力は増すばかりだ。例えば夫婦二人がゆとりを持って一緒に料理ができる広さのキッチン。ワークトップも幅広のものを選び、ダイニング側からお子様もお手伝いができるようにした。小上がりには掘りごたつを設置でき、冬は家族皆でそこに集まることも多いそうだ。
  • 2階は木の温もりが感じられる空間。米松、ウォールナット、チーク、チェリーなど木材を複数使用しているのが特徴的だ。加えてタイルや真鍮、ガラスなども取り入れたことで、今後どんなスタイルのものを室内に取り入れても大らかに受け入れられるという

    2階は木の温もりが感じられる空間。米松、ウォールナット、チーク、チェリーなど木材を複数使用しているのが特徴的だ。加えてタイルや真鍮、ガラスなども取り入れたことで、今後どんなスタイルのものを室内に取り入れても大らかに受け入れられるという

  • リビングエリアは「2階の中でもそこで過ごす時間が長い可能性がありますから、一番いい場所に据えました」と中西さん。西の窓の外には田畑が広がり、日よけのための大きな木もあって、より自然を感じられるという。壁面やソファはテーマカラーである青を取り入れた

    リビングエリアは「2階の中でもそこで過ごす時間が長い可能性がありますから、一番いい場所に据えました」と中西さん。西の窓の外には田畑が広がり、日よけのための大きな木もあって、より自然を感じられるという。壁面やソファはテーマカラーである青を取り入れた

  • 2階東側に設けられた勉強スペース。リビングやダイニングから少し離れており、集中するのに向いた空間

    2階東側に設けられた勉強スペース。リビングやダイニングから少し離れており、集中するのに向いた空間

家族それぞれの要望をすべて引き出す
急がば回れの「ニーズマップ」

驚くべきことに、今まで述べたすべてがY様夫妻のご要望に応えた結果であり、さらに西日対策、家事動線、収納、リモコン関係の配置に至るまでありとあらゆる希望が叶えられていることだ。中西さんのお話を伺えば伺うほど、なぜこれだけ多くの要望がすっきりとシンプルな、調和の取れた空間の中で叶えられたのか不思議に思ってしまう。

その秘密は、プランを立てはじめる前に約3か月かけて作成する「ニーズマップ」にあるという。簡単に応えられるアンケートのようなものから始まり、最後は模造紙に各部屋の希望について事細かに記入してもらうのだそうだ。記入はかならず家族が各々で行い、お互いに記入した内容を調整せずに中西さんが回収、まとめる。

書く作業は、自分が考えていることを整理できる利点があるほか、限られた打ち合わせ時間の中での伝え忘れも防ぐ。「口頭で伝えるなら、途中で遠慮がでてくることもあるでしょう。とにかく全部を出していただきたいのです」と中西さん。

もちろん、夫婦で意見が分かれることもある。そこで折衷案を出すのか、どちらかを優先するのか。そのようなこともプランニング前に決めるという。そうしてニーズをまるごと全部受け止めたうえで、それをできる限り叶えるためのプランを考えるからこそ、つくりをシンプルにできる。中西さんは「途中でぽつぽつ出てきた要望に対し、その場その場で対処していくとどうしても線が複雑になります」と言い、「せっかくすべてをオートクチュールで、オンリーワンのものをつくるのですから」と続ける。

家は人生最大の買い物といってもいい。だからこそ、家族全員、それぞれの夢が全部詰まったものにしたいのだと中西さんは言う。3人のお子様の名前がすべて青に関係していることから、家のそこかしこにさりげなく青が使われているように、親から子への気持ちや家族への思いすら受け取ったうえで、それらがぎゅっと詰まった家をつくる。しかも、わざとらしくなく、おおらかに、やわらかに。

「3か月も!? とびっくりされることも多いですし、面倒だなと思われることがあるのもわかります」と笑う中西さん。しかし、急がば回れという言葉のようにこのプロセスをたどったほうが、そこから加速するようにことは進み、さらに満足できる家がつくれると自信を持って言えるとのこと。

お施主様と同じか、それ以上の熱量を持って家づくりをする。一見当たり前のように思えるかもしれないが、中西さんのような建築家はなかなかいないに違いない。
  • ニーズマップの一例。居室ごとの要望だけでなく、雰囲気や夢、家族のこれからのビジョンなどまで設問は多岐にわたる。思いつくままに挙げていくうちに、だんだん自分の好みや具体的なイメージが掴めてくるという

    ニーズマップの一例。居室ごとの要望だけでなく、雰囲気や夢、家族のこれからのビジョンなどまで設問は多岐にわたる。思いつくままに挙げていくうちに、だんだん自分の好みや具体的なイメージが掴めてくるという

  • 1階廊下の突き当りは両親宅へ繋がる。将来、両親の足腰が弱くなる可能性を考え2軒は接続可能な状態にした

    1階廊下の突き当りは両親宅へ繋がる。将来、両親の足腰が弱くなる可能性を考え2軒は接続可能な状態にした

  • 2階トイレ。ご要望に応え手前に手洗いも設けている。曲線を用いるなど、さりげないセンスが光っている

    2階トイレ。ご要望に応え手前に手洗いも設けている。曲線を用いるなど、さりげないセンスが光っている

撮影:西川公朗

間取り図

  • 間取り図

お家のデータ

作品名
オセロハウス
施主
Y邸
所在地
大阪府高槻市
家族構成
夫婦+子供3人
敷地面積
144.1㎡
延床面積
144.93㎡

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