木→コンクリ→ガルバリウム→サイディング
異なる素材を生かしたデザインで個性を演出

区画整理された分譲地だと、敷地形状が同じになるため、隣家の建物との違いを出しにくくなる。その中で建築家の塚本さんが設計したI様邸は、塀や外壁にあえて何種類もの異なる素材を使うことで個性を演出しつつ、奥行きにリズムをもたせる空間表現も考え抜かれた家。室内にも随所に、多彩な工夫が凝らされている。

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区画整理された住宅街の中にあって
4種の外装素材を使うことで個性を演出

高校の同級生だったというI様から、家づくりの相談を受けたのは、ちょうど塚本さんが勤めていた建築会社から独立するタイミングだった。I様が家を建てる予定の敷地は、キレイに区画整理された東西に長い長方形の分譲地。南側はI様の予定地よりも1m程高くなっており、その先には3階建ての住宅が2棟連なっていた。「決して日当たりがいい土地ではなかったのですが、東側の道路の向かい側は学校のグラウンドで、将来的に高い建物が建つことは考えにくかったので、東側からでも採光は得られると思いました」と塚本さん。

そこで、建物の配置計画を考える際、まず南側はI様邸の土地より少し高い位置にあった隣接地との境界から少し空けて、多少は南面からも採光できるようにし、さらに道路に面する東側は間口を大きめにとって、採光を十分に確保できるようにと考えた。
また、I様邸の計画段階では、隣接地には家がまだ建っていなくて更地の状態で、先々どういう家が建つのかわからなかったため、区画整理された住宅街の中でも何かしらの独自性を出したデザインにしたいという思いもあったという。

そこで、塚本さんが考えた外観のコンセプトは、長方形の敷地形状を生かし、手前から奥に向かっていくにつれ、段々と上がっていくような形をイメージ。さらに、手前から奥に向かっていくにつれて、木・コンクリート・ガルバリム鋼板・サイディングと、素材を変えることでデザインに個性を演出しようと考えた。「分譲地で同じような区画が並ぶため、奥行きにリズムを出すことで、隣家とは異なるオリジナリティを生み出すことができるのではないかと思いました」。

一番手前は木の柵、その後ろにコンクリート塀、さらに平屋部分はガルバリム鋼板の外壁、一番奥の2階建て部分をサイディングの外壁とすることをI様に提案。コンクリート塀の高さも前面の道路からの視線を切る高さに設定し、リビングなど家の中やオープンエアのプライベート空間であるウッドデッキで、I様ご家族が安心してくつろげるように配慮。「それと、アプローチから玄関ポーチまでは空間が一直線に抜けるようにし、奥行きの深さも表現できるよう設計した。
  • 手前から木製の柵、コンクリート塀、ガルバリウム合板外壁の建物部分、サイディングの建物部分と、あえて素材を変えて段違いに配置してリズム感を生み出している。木製の柵、コンクリート塀と二重にしたのは、道路からの視線を遮るという役割もふまえている

    手前から木製の柵、コンクリート塀、ガルバリウム合板外壁の建物部分、サイディングの建物部分と、あえて素材を変えて段違いに配置してリズム感を生み出している。木製の柵、コンクリート塀と二重にしたのは、道路からの視線を遮るという役割もふまえている

  • 玄関ポーチ~アプローチを一直線に繋げて道路まで抜けることで、奥行きの深さも表現

    玄関ポーチ~アプローチを一直線に繋げて道路まで抜けることで、奥行きの深さも表現

開放感溢れるリビング空間に
多彩な「居場所」づくりを

間取りプランについては、「リビングは家族や友人が集まれるような場所にしたい」「子どもが外遊びをして帰ってきたら、洗面脱衣室に直行できるようにしたい」「子どもが成長しても家族が顔を常に合わせられるよう、リビング階段にしたい」というI様からのご要望があった。そこで、リビングとダイニングの間に段差をつくり、階段2段分、約40cm落としたダウンフロアリビングに。窓際には、ダイニングフロアと同じレベルの高さに腰掛けられるカウンターを設けて、大勢が集まりやすいように考慮。

さらに床高の異なるスキップフロアの畳スペース、その下には収納としても利用できるキッズスペースを設けるなど、リビング内だけでも様々な「居場所」をもつくった。スキップフロアは、I様の希望する書斎代わりでもあり、「御主人だけに、殿様スペースにしよう」と提案しました。「ときどき遊びに行くと、この畳敷きのスキップフロアから、お子さんたちがリビングのソファにダイブしたりもするんです(笑)。ちょっと危ないかなとも思いますが、とても楽しそうなんですよね」と塚本さん。

また、リビングの天井は勾配天井にして、LDKの東西の奥行きだけでなく、高さの奥行きの変化もつけるよう提案。「家族が顔を合わせられるように」とI様が希望したリビング階段は、建物の中心部に木製のストリップ階段を配置することで、1階~2階への行き来で家族同士が顔を合わせてコミュニケーションを取りやすくしたと同時に、リビング空間内に圧迫感をあたえることがないように配慮。ウッドデッキをLDKに面して設けることで、外と繋がるアウトドアリビングとしても活用でき、より開放感を感じられる空間を実現した。

インテリアは、白い壁や天井と「木」に囲まれたナチュラルな雰囲気で統一。梁見せのリビング天井や、造作家具・キッチン面材・建具などはすべてラワン材を採用することで、室内空間全体のデザインに統一感を生み出している。「子どもにはスポーツをやらせたい」というI様の話から、泥んこになって帰ってきてもいいように、アプローチから洗面脱衣室までには直通の動線を計画。キッチン横の勝手口のほかに、洗面脱衣室に直接繋がる勝手口も設けることで、お子様たちが帰宅後、浴室へ直行できるようにも。

ご家族のこれからの暮らし方に合わせた間取り提案に加え、外観、インテリアともに素材使いに工夫を凝らすことでオリジナリティを生み出したI様邸は、ツカモトケンジ建築設計事務所ならではの、十分に考え抜いた設計コンセプトを表現した1邸となっている。
  • リビングのテレビの両サイドには、ダイニングのフロアと高さを合わせてL字形のカウンターを造作。友人たちが集まるときなどは、丁度良い腰掛けとして利用できる。また、普段はお子様が机代わりに使って勉強などをできるよう、書棚や照明も備え付けた

    リビングのテレビの両サイドには、ダイニングのフロアと高さを合わせてL字形のカウンターを造作。友人たちが集まるときなどは、丁度良い腰掛けとして利用できる。また、普段はお子様が机代わりに使って勉強などをできるよう、書棚や照明も備え付けた

  • リビングは梁見せの勾配天井にすることで高さを出し、さらにダウンフロアリビングにすることで、空間をより広く感じられるようにした。リビングの床から天井までは最高部で約3.6mある

    リビングは梁見せの勾配天井にすることで高さを出し、さらにダウンフロアリビングにすることで、空間をより広く感じられるようにした。リビングの床から天井までは最高部で約3.6mある

  • キッチンはオーダーメイドのアイランドキッチン。面材もリビング天井と素材を合わせ、ラワン材を採用することで、LDK空間全体でデザインに統一感をもたせている。すぐ横には、I様の要望でもあるパントリー収納も設置

    キッチンはオーダーメイドのアイランドキッチン。面材もリビング天井と素材を合わせ、ラワン材を採用することで、LDK空間全体でデザインに統一感をもたせている。すぐ横には、I様の要望でもあるパントリー収納も設置

  • 存在感のあるリビング階段。ストリップ階段にすることで、リビング内に配しても空間に窮屈さを感じさせないようにしている

    存在感のあるリビング階段。ストリップ階段にすることで、リビング内に配しても空間に窮屈さを感じさせないようにしている

撮影:植村崇史

基本データ

作品名
守山の家
施主
I邸
所在地
愛知県名古屋市守山区
家族構成
夫婦+子供3人
敷地面積
184.00㎡
延床面積
135.83㎡
予 算
2000万円台