コンクリート壁の中に明るく豊かな住空間。
家族が憩える、「使える中庭」のある家

建築家の江ケ崎雅代さんが設計したF邸は、研ぎ澄まされたアートのような外観が印象的。邸内に広がるのは、中庭付きの明るく心地よい住空間。「施主さまご一家が、楽しく快適に暮らせるように──」という、江ケ崎さんの温かな思いが伝わってくる住宅だ。

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住宅とは思えない、
立体美が目を引くRC造の家

茨城県水戸市。車の往来が多い市街地の大通り沿いに、一見すると住宅とは思えないRC造の建物がある。何しろ、その建物は道路側が全てコンクリート壁で、窓が1つもないのである。

まるで美術館のように洗練された建築だが、ここはれっきとしたFさまご一家の住まい。

「F邸は、敷地の北側が賑やかな大通りに面しています。そのため施主のFさまからは、人目や音を気にせずにすむ、プライベート感のある住まいにしたいとのご要望がありました」

そう教えてくれたのは、F邸を設計したe do design一級建築士事務所の江ケ崎雅代さん。だからこんなに潔く、道路に対して閉じたファサードになったのだ。

だが、「圧迫感のある無機質なコンクリートの箱にならないよう、立体、平面ともに細部までデザインを工夫しました」と江ケ崎さん。確かにF邸の佇まいに冷たさはなく、むしろ建築としての美しさが印象に残る。

2つの箱が、そうっと重ねられたような立体美。箱が重なることで生まれる奥行き感と、ガレージまわりの浮遊感。外壁のコンクリート壁は、一部にスギ板型枠で木目がつけられ表情豊か。重厚感と軽やかさ、自然のぬくもりが見事に調和する外観に、邸内への期待もおのずと高まる。

その期待通り邸内に広がるのは、スタイリッシュなのに家族の笑い声が聞こえてきそうな温かさのある住空間。

「何でも話せる家づくりのパートナーとして、施主さまの夢が詰まったお住まいを一緒につくりあげていきたいと思っています」と話す江ケ崎さん。そんな江ケ崎さんが「Fさまの思いやこだわりを形にしたい一心で設計からお引き渡しまで伴走しました」というF邸の魅力を、詳しくご紹介していこう。
  • ガレージから玄関を見る。玄関は写真右の道路側に配置せず、正面から見ると窓もドアもない完全に閉じたファサードを実現。住宅とは思えない洗練された佇まいとなった

    ガレージから玄関を見る。玄関は写真右の道路側に配置せず、正面から見ると窓もドアもない完全に閉じたファサードを実現。住宅とは思えない洗練された佇まいとなった

  • 南の外観。1階の窓はLDKの窓、2階の窓は浴室の窓。南側は私道で建物がなく、明るい光をストレートに取り込める

    南の外観。1階の窓はLDKの窓、2階の窓は浴室の窓。南側は私道で建物がなく、明るい光をストレートに取り込める

  • 北側の外観夕景。照明がともると凹凸のある造形美がますます際立つ。写真右側の飛び出したところは寝室のバルコニー。閉じているように見えるが、邸内にはここからも陽光が入ってくる

    北側の外観夕景。照明がともると凹凸のある造形美がますます際立つ。写真右側の飛び出したところは寝室のバルコニー。閉じているように見えるが、邸内にはここからも陽光が入ってくる

人目を気にせずお庭でのんびり。
LDKの一部になる、「使える中庭」

F邸は1階がLDKと客間の和室、2階が家族の個室や水まわり。パブリック、プライベートがフロアで分かれているので生活感が出にくく、遊びにいらした方からも「こういう間取り、いいね」と褒められることが多いという。

加えて、LDKは開放感があるにもかかわらず、市街地の喧騒を感じない「別世界感」もある。なぜなら江ケ崎さんがLDKに面した中庭をコンクリート塀や植栽で囲い、抜群のプライベート感を生み出しているからだ。

シンプルモダンなLDKに屋外の心地よさをもたらす中庭は、「使える中庭」として暮らしにすっかり溶け込んでいる。地面はタイルと芝生がバランスよく配され、楓の下の芝生の上は、第2のリビングスペースとして家族の居場所となっている。

夜は夜で、ふんわり広がるアッパーライトの光が中庭を照らし、ホテルライクな雰囲気に。外部の視線がカットされるので、窓のロールスクリーンはほとんど開けているというFさまご一家。人目を気にせず、常に中庭との一体感をもちながら暮らせるとはうらやましい限りだ。

キッチンには明るい光が入る幅広の窓があり、ここも閉塞感とは無縁なのびやかさが気持ちいい。ゆったりとした設計だから、親子で料理を楽しむこともできる。

F家はお子さま3人の5人家族で、2階には3つの子ども室がある。子ども室はコンパクト、かつ、いたってシンプル。その理由をFさまは、「あまり閉じこもってほしくないので(笑)、必要最低限の仕様をお願いしました」と話す。

でも、本当にそうだろうか。どんな子ども室をつくっても、お子さまたちは自然にLDKに集まるのではないだろうか。それくらい、中庭も空間の一部のように感じられるLDKは居心地がよく、仲のよいFさまご一家が笑顔で憩うシーンが実によく似合うのだ。
  • 玄関を入ると、トップライトから光が差し込むシンプルモダンな空間が出迎えてくれる

    玄関を入ると、トップライトから光が差し込むシンプルモダンな空間が出迎えてくれる

  • 1階LDK。広々とした空間は、キッチン(写真右奥)とダイニング&リビングをそれとなくゾーニングできるL字型。ダイニングは中庭(写真左)との一体感が高く、のびやかな開放感がある。南(写真奥)のハイサイド窓からも燦々と光が入る

    1階LDK。広々とした空間は、キッチン(写真右奥)とダイニング&リビングをそれとなくゾーニングできるL字型。ダイニングは中庭(写真左)との一体感が高く、のびやかな開放感がある。南(写真奥)のハイサイド窓からも燦々と光が入る

  • LDKの一部のような中庭はコンクリート塀や植栽で囲われているため、人目を気にせずにすむ。昼も夜も、窓のロールスクリーンはほとんど開けたまま過ごしているそう

    LDKの一部のような中庭はコンクリート塀や植栽で囲われているため、人目を気にせずにすむ。昼も夜も、窓のロールスクリーンはほとんど開けたまま過ごしているそう

「一緒につくる」から満足度が高まる。
使いやすさを考え抜いたプライベート空間

プライベートゾーンである2階も魅力的な空間だ。

寝室はベッドのほかにテレビ台やソファが置かれ、高級ホテルの客室のよう。就寝前にソファでくつろぎながら映画を見たり、雑誌をめくったり──。1日の終わりにちょっとした余暇時間を楽しめば、暮らしのオン・オフもつけやすい。

3つの子ども室も、窓際のカウンターで外の景色を見ながら勉強できる落ち着く空間。お子さまが独立したら間取りが変更できるよう、可変性に配慮した構造となっている。

同じく2階にある水まわりは、洗面室を入るとその奥に脱衣室、浴室が続く間取りだが、各スペースの出入りは床から天井までのフルハイトの引き戸。引き戸を開いておけば廊下のように行き来でき、閉めれば脱衣・浴室のプライバシーを保てる。

ミラーキャビネット付きの洗面カウンターは、Fさまの要望に沿って江ケ崎さんが設計した。ゆとりある幅で、使い勝手、収納力、掃除のしやすさに優れ、家族が多くても常にすっきり。また、水まわりは洗濯物を干すバルコニーと行き来しやすく、その動線上には室内干しスペースとファミリークローゼットがあり「洗う・干す・しまう」がスムーズ。生活のリアルや家事動線も綿密に考え抜かれている。

こうして、自身も3人の子どもをもつ江ケ崎さんが主婦目線、母親目線をまじえつつ設計したF邸。建築関係の仕事に携わり、一級建築士の資格ももつFさまは、江ケ崎さんとの家づくりをこう振り返る。

「完成した建物も素敵ですが、つくる過程が本当に楽しかったです。施主、設計者、施工者が三位一体となって多角的な視点から意見を交わし、一つひとつ重ねていくプロセスを楽しむことができました」

おかげで、引渡し時にはすでに愛着があったというFさま。新居での生活が待ちきれない想いとともに、家づくりが終わってしまう寂しさもあったという。

Fさまに江ケ崎さんの魅力を伺うと、「とにかくセンスのいい方です。それに、要望に寄り添ってくださるけれど、やめたほうがいいことはきちんと教えてくださるから信頼できる。何より、さまざまな要望、条件、要素をバランスよくまとめてくださることが江ケ崎さんの魅力だと思います」とのこと。江ケ崎さんは、同業者も全幅の信頼を寄せる建築家なのだ。

江ケ崎さんはこの家を、『sou』と名付けている。由来は、箱を「そうっと」重ねたような外観デザイン。そして、住まいに対するFさまご一家の思いを「層」のように重ねてつくり上げた住空間。

きっと、最後の『sou』はこれから綴られる家族の暮らしなのだろう。Fさまご一家は江ケ崎さんとともにつくり上げた大切なこの家で、家族の幸せな時間を「層」のように重ね続けていくはずだ。
  • 2階寝室。邸内でここだけ床がカーペット敷き。ベッドのほかテレビ台やソファを置くスペースもあり、高級ホテルの客室を思わせる。写真左のバルコニーは南に位置し、日当たり抜群。洗濯物干しに適している。写真右奥の窓からは、市街地を望む道路側のバルコニーに出られる

    2階寝室。邸内でここだけ床がカーペット敷き。ベッドのほかテレビ台やソファを置くスペースもあり、高級ホテルの客室を思わせる。写真左のバルコニーは南に位置し、日当たり抜群。洗濯物干しに適している。写真右奥の窓からは、市街地を望む道路側のバルコニーに出られる

  • 2階には同じデザインの子ども室が3つある。窓に向かったカウンターで外の景色を見ながら勉強できる

    2階には同じデザインの子ども室が3つある。窓に向かったカウンターで外の景色を見ながら勉強できる

  • 2階の階段まわり。写真右手に行くと水まわり。洗濯物を干す正面のバルコニーとの動線がよく、その途中に室内干しのバーを設置するなど家事への配慮も厚い。写真奥はウォークインクローゼット付きの寝室。写真左は大容量のファミリークローゼットで、お子さまの衣類などを収納

    2階の階段まわり。写真右手に行くと水まわり。洗濯物を干す正面のバルコニーとの動線がよく、その途中に室内干しのバーを設置するなど家事への配慮も厚い。写真奥はウォークインクローゼット付きの寝室。写真左は大容量のファミリークローゼットで、お子さまの衣類などを収納

  • 中庭はタイルと芝生できれいに整え、すっきりとした美しい空間に。写真左側がLDK、奥が和室、その右奥がガレージ

    中庭はタイルと芝生できれいに整え、すっきりとした美しい空間に。写真左側がLDK、奥が和室、その右奥がガレージ

撮影:西川公朗

間取り図

  • 間取図

基本データ

作品名
sou
施主
F邸
所在地
茨城県水戸市
家族構成
夫婦+子供3人
敷地面積
244.00㎡
延床面積
159.45㎡
予 算
5000万円台