白浜の絶景を開放感に満ちた別荘で楽しむ。
インパクトある建物は宿泊施設としても成功

オーナーが滞在することはもちろん、1棟貸しの宿泊施設としての稼働も見込んだ別荘の設計依頼を受けた建築家の藤本さん。白浜の美しい海をより美しく見せるため、1階と2階をV字型に重ねた建物を提案した。リフレッシュするための空間は、開放感に溢れ非日常感がたっぷり味わえる。

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海を美しく切り取るV字の建物。
1棟貸しの宿泊施設としても運用できる別荘

日本有数のリゾート地、和歌山県白浜町にある「テラス・ヴィラ・癒穏.PJ」は最近人気の1棟貸し切りの宿泊施設だ。オーナーのSさまは旅行会社を経営。1棟貸しの貸別荘経営にも興味があったことから、Sさまの別荘を兼ねて計画した。当初はSさまが利用しないときに宿泊施設として稼働できればいいという程度で考えていたが、オープン直後から話題が話題を呼び、すぐに人気の施設となった。

土地柄を気に入り、別荘をつくるなら白浜がいいと考えていたオーナー。喧騒を少し離れた現在の場所に土地を見つけ、温泉が引けるエリアだったうえに、隣に食事のおいしいオーベルジュもあったことから購入を決めた。この施設を設計、土地探しから携わった藤本高志建築設計事務所の藤本高志さんは「高台にあり、斜面地なので隣地に家などが建つ可能性が低いことも、土地の購入の決め手のひとつになりました。眺望を確保できますから」と話す。

プランニングにあたっての大きな要望は、非日常が味わえる、インパクトがある建物にしたいということ。また、オーナーは計画当初から1階2階それぞれに客室を設け、自分が滞在するときは2階の客室を使用したいと考えていたという。

北には海が広がるが、建物と海の間にどうしても目に入ってしまうビルがあり、それを避けたいと考えた藤本さん。そこで提案したのが、重層長屋の構造を取り入れたV字型の建物のプランだ。V字は南側を起点として1階が北西に、2階が北東に伸びる。いずれも避けたいビルが見えない方角で、1階でも2階でも、遮るものなく海を贅沢に楽しめる。さらに、海側の先端に設けたテラスは軒と壁で囲って筒状にすることで、室内から見える景色を美しく切り取ることに成功した。

また北東に伸びる2階でもサンセットを楽しみたいとの要望を受け、北西側にぽこっと突き出るように和室を設けた。道路側から見ても1階テラスと2階和室、さらに2階テラスがリズミカルに並んでおり、とてもチャーミング。宿泊者は到着してすぐに、素敵な滞在を予感して心を掴まれてしまうだろう。
  • 外観。建物は高台に位置する。建物の左には隣地が迫っているが、急斜面のため新しく建物は立たないだろうと判断して購入を決めた。道路を挟んだ向かいには、もう一つの購入の決め手となった食事のおいしいオーベルジュがある

    外観。建物は高台に位置する。建物の左には隣地が迫っているが、急斜面のため新しく建物は立たないだろうと判断して購入を決めた。道路を挟んだ向かいには、もう一つの購入の決め手となった食事のおいしいオーベルジュがある

  • 北から建物を見る。張り出した部分は左から2階テラス、2階和室、1階テラス。和室は、2階テラスが北東に向かっているため、室内からもサンセットを楽しみたいとの要望を受けて計画した。2階を支える柱を内側に入れ込み、まるで建物が浮かんでいるような効果を得た

    北から建物を見る。張り出した部分は左から2階テラス、2階和室、1階テラス。和室は、2階テラスが北東に向かっているため、室内からもサンセットを楽しみたいとの要望を受けて計画した。2階を支える柱を内側に入れ込み、まるで建物が浮かんでいるような効果を得た

  • エントランス。画像中央が1階玄関、右奥が2階の玄関。玄関扉とその並びの壁面は燻製処理を施したサーモウッドで揃え、かつ壁と扉が一体となって見えるようにデザインした。塗装の関係で画像では多少違って見えるが、現在は同じくらいの色味になっているという

    エントランス。画像中央が1階玄関、右奥が2階の玄関。玄関扉とその並びの壁面は燻製処理を施したサーモウッドで揃え、かつ壁と扉が一体となって見えるようにデザインした。塗装の関係で画像では多少違って見えるが、現在は同じくらいの色味になっているという

高い天井、海と空が見えるテラス、温泉。
非日常感をたっぷり味わえる室内空間

「テラス・ヴィラ・癒穏.PJ」には1階2階それぞれに独立した客室があるが、オーナーも滞在する2階から見ることにしよう。

「癒(いやし)」と名付けられた2階は、4~5名での利用を目的としてつくられた。寝室を2部屋設けたのに加え、和室に布団を敷くこともできるため、実際には7名程度まで対応できるという。オーナーはご家族や弟さま一家と滞在されることも多いのだとか。

LDKは使い勝手のよいキッチンと、大きなダイニングテーブル、ゆったりとくつろげるソファーと必要な設備が揃っている。宿泊施設としても使用するため、散らかしにくいレイアウトを心がけたと藤本さん。たとえばキッチンのごみ箱。一般の住宅では隠すことも多いが、使い勝手を第一としてあえてオープンに設置した。

特筆すべきはLDK空間の天井の高さだ。切妻屋根を反映した天井は、ゆったり広めに確保した横幅とあわせて高さのバランスをとっているため、一般的な住宅よりはるかに高い。「日常的に生活する場として考えると、ちょっと落ち着きが得られにくいかもしれません。しかし、これだけ開放感が得られる空間はなかなかないですから、非日常感というコンセプトは十分に味わえるでしょう」と藤本さん。

さらに、テラスと室内を仕切る壁面をガラス張りにしたことで、開放感は一層強まった。ガラスが天井と接する部分に枠を設けていないため、天井がそのまま軒へと続き、室内と屋外の境界線もあいまいに感じられる。

非日常感を味わえる、もう一つの大きな設備がかけ流しの温泉が楽しめる浴室だ。浴室の奥にバステラスを設け、入浴中、気軽に一休みできるようにした。浴室とバステラスを仕切る戸を開け放てば外部と浴室が一続きになり、露天風呂のような雰囲気になる。

1階の「穏(おだやか)」も、内装のコンセプトは2階と同じくして計画。こちらは、2~3名向けの客室だ。

1階のテラスは、先端が一段上がっている。室内からフラットにつながるテラスの奥に、少し床の上がったテラスがもう1つあるのだ。その理由も、海を美しく眺めるため。1階テラスの先には隣地の植栽があるが、床を上げたおかげでその植栽の上から海を見下ろせるようになった。

開放感いっぱいの空間でくつろぎ、温泉を堪能し、テラスでわいわいバーベキューをしたり、静かなひとときをすごしたり。客室は、まさにリフレッシュするための空間としてこだわりを持って整えられた。
  • 1階多目的スペース。2階を支える柱は建物の内側に入れ込んだ。外から見ると建物が浮いているように見え、洗練されたデザイン性が感じられる建物になった

    1階多目的スペース。2階を支える柱は建物の内側に入れ込んだ。外から見ると建物が浮いているように見え、洗練されたデザイン性が感じられる建物になった

  • 1階玄関。入った瞬間に海が視界に入ってくる感動的なシチュエーションが、気分を高める

    1階玄関。入った瞬間に海が視界に入ってくる感動的なシチュエーションが、気分を高める

  • 1階LDK。設備は過不足なく整えられ、ゆったりと過ごせる。テラスは余計なものが視界に入らないように壁面と軒で囲い、風景を切り取った。「望遠鏡のようなイメージ」と藤本さん

    1階LDK。設備は過不足なく整えられ、ゆったりと過ごせる。テラスは余計なものが視界に入らないように壁面と軒で囲い、風景を切り取った。「望遠鏡のようなイメージ」と藤本さん

  • 1階、窓側から室内を見る。テレビ(画像中央奥)を設置した壁面の裏には寝室がある。画像右奥、玄関へと続く部分を明るくするため足元に窓を設けた

    1階、窓側から室内を見る。テレビ(画像中央奥)を設置した壁面の裏には寝室がある。画像右奥、玄関へと続く部分を明るくするため足元に窓を設けた

素材選びも設計も、オーナーとともに。
環境に馴染みながら、インパクトある別荘

もともとはRC造が希望だったが、予算の都合から木造でつくることになった「テラス・ヴィラ・癒穏.PJ」。ユニークなV字型の建物を木造で実現するために、かなり複雑な床組みをしているという。

ニュアンスを左右するデザインにも妥協はない。建物が重ならずに柱のみで2階を支えている箇所は、柱が目立たないよう若干内側に入れ込んだ。浮遊感がある2階部分に、思わず目を止めてしまう人も多いに違いない。

土地柄に合わせて計画したところもある。建具は木製のものを多用し、周囲の緑にしっくりと馴染むようにした。環境のおおらかさにも着目し、全体的に細部まできっちりとつくりすぎず、宿泊者にあわせて変化できるような雰囲気も表現した。

「オーナーと一緒に考えながら家づくりをしたいと考えています」と藤本さん。梁や柱など使用している木材の一部は、木材を扱う仕事をされているオーナーの弟さまも一緒に選んだという。選んだ木材を弟さまと藤本さんで切り出して手すりを製作するなど、ともに作業をしたことも。和室の壁紙に使用した和紙も皆で京都まで出向いて選んだ。

コミュニケーションをとりながら得た信頼でチャレンジした部分もある。例えば階段は蹴上に和の素材である桧を、床面に洋の素材のウォールナットを使用した。質感も違うこの2つの素材を混ぜて使うことはあまりないというが、「面白そうだからやってみよう」ということになったのだそうだ。仕上がりは上々で、オーナーの望む、インパクトがある高級感が空間に加わった。

「一緒に考える」といっても、ここまで付き合ってくれる建築家は少ない。完成した「テラス・ヴィラ・癒穏.PJ」は、オーナーがとても気に入ってくださったのはもちろん、オーナーが泊まれないことも度々あるというほどの人気施設になった。その理由は、藤本さんが時間をかけてオーナーのこだわりの真の意味を理解し、調和を取りながら魅力的に表現したからだろう。
  • 1階テラス。隣地の植栽が正面にあるため、テラスの先端は床を上げ、植栽を越えて眼下に海が広がるようにした。室内の天井がそのまま延長されたかのように深い軒が出ていることで、雨が降っても快適に過ごせる

    1階テラス。隣地の植栽が正面にあるため、テラスの先端は床を上げ、植栽を越えて眼下に海が広がるようにした。室内の天井がそのまま延長されたかのように深い軒が出ていることで、雨が降っても快適に過ごせる

  • 1階洗面脱衣室。モダンで高級感ある設えを意識した

    1階洗面脱衣室。モダンで高級感ある設えを意識した

  • 2階LDK。ゆったり過ごすことが目的の空間であるため、ムードを重視し間接照明を多用した。画像奥、キッチンの左わきの通路を進むと寝室が2つある

    2階LDK。ゆったり過ごすことが目的の空間であるため、ムードを重視し間接照明を多用した。画像奥、キッチンの左わきの通路を進むと寝室が2つある

撮影:冨田 英次

基本データ

作品名
テラス・ヴィラ・癒穏.PJ
所在地
和歌山県西牟婁郡白浜町
家族構成
夫婦
敷地面積
416.18㎡
延床面積
246.67㎡
予 算
1億円台