三角形の変形敷地は、余白を活用。
ひとり時間も、大勢での集いも楽しめる家

ひとりで暮らす自宅を新築するため、ほぼ三角形の敷地を購入されたお施主さま。建築家の戸川さんは、三角形の敷地に小さな正方形を配置し、余白も活用しながらゆとりある家をつくりあげた。ご友人たちとパーティーをしたり、ひとり時間を楽しんだり。どんなシーンにもフィットする家はどのように完成したのだろうか。

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三角形の敷地に正方形のLDKを配置。
余白を活用し、暮らしを満喫できる家に

ひとりでお住まいになる家を新築することに決めた、30代男性のお施主さま。ご友人たちと一緒にパーティーをしたり、サウナを楽しんだりと、ひとり暮らしを存分に満喫できる家を望まれていた。

購入したのは、接道する1角だけが少し欠けているほぼ三角形の土地。とはいえ、変形敷地ながら環境は最高だった。まず、一番長い斜辺は樹齢100年という立派な樹木も立っている記念碑と接しており、緑豊かな借景が期待できた。さらに記念碑との間には川が流れ、また別の方角は、賑わうことがあまりないという公園とも隣り合っている。つまり、住宅街の中にありながら隣家との距離がすごく開いているのだ。

設計依頼を受けた一級建築士事務所サカキアトリエの戸川賢木さんは、ご要望を伺ったうえで大きなワンルームのような空間をつくりたいと考えたそうだ。「ひとりでお住まいになるので、メンテナンスや掃除が楽なほうがいいですよね。それに、仕切りをつくるとその分狭くなってしまいます」と語る。

そこでまず、三角形の敷地の中に3間×3間=9坪の正方形のちいさなモジュールを配置。中に入るのはLDKだ。さらにその4分の1は2階までの吹き抜けとした。コンパクトな空間ながら人が集まるのにふさわしい開放感がある。

そして、周囲にできた余白には水回りやサウナ、デッキや庭などの寛ぎの場を設けたという。余白は大小さまざま。駐車場としたり、バーベキューパーティーを開いたりと、人数や用途に合わせて自由に使えるのが魅力的なスペースができた。

2階には寝室、クローゼットなどのプライベートな居室を計画。吹き抜けによりゆったりとした縦の繋がりがありつつ、パブリックとプライベートをしっかり分けた間取りにはメリハリがある。

9坪というととてもコンパクトに思えるが、とてもそうは感じられない。余白や吹き抜けを活用し、ひとり暮らしにぴったりなボリュームの家を開放感たっぷりにつくりあげた。
  • 1階、3間×3間の正方形の中に配したLDK、リビングからキッチン、ダイニングを見る。アイランドキッチンは造作し、ダイニングテーブルと一体化させた。背面の棚には食器に加えて冷蔵庫を含む家電なども収納でき、生活感がない空間を実現。左壁面の仕切り戸は水回りに続く

    1階、3間×3間の正方形の中に配したLDK、リビングからキッチン、ダイニングを見る。アイランドキッチンは造作し、ダイニングテーブルと一体化させた。背面の棚には食器に加えて冷蔵庫を含む家電なども収納でき、生活感がない空間を実現。左壁面の仕切り戸は水回りに続く

  • 1階LDK。正方形のうち4分の1を吹き抜けとし、開放感をプラス。キッチン・ダイニングのエリアよりリビングのエリアの床レベルを下げ、段差を活用して居場所の多い空間をつくりあげた

    1階LDK。正方形のうち4分の1を吹き抜けとし、開放感をプラス。キッチン・ダイニングのエリアよりリビングのエリアの床レベルを下げ、段差を活用して居場所の多い空間をつくりあげた

  • 1階LDK。質感が感じられる素材をテーブルや床などに選び、かつ要望のモノトーン配色もグラデーションを取り入れて色味を決定した。おかげで室内に入る光から生まれる陰影が美しく、空間に奥行きが感じられるようになった

    1階LDK。質感が感じられる素材をテーブルや床などに選び、かつ要望のモノトーン配色もグラデーションを取り入れて色味を決定した。おかげで室内に入る光から生まれる陰影が美しく、空間に奥行きが感じられるようになった

  • LDKは吹き抜けを活用し2方向を大開口した。記念碑のおかげで隣家まで距離があり、視線は気にならない

    LDKは吹き抜けを活用し2方向を大開口した。記念碑のおかげで隣家まで距離があり、視線は気にならない

吹き抜けと大開口で開放感抜群
どんな使い方にも適応するシンプルなLDK

1階、3間×3間のLDKを詳しく見てみよう。まず驚くのは、吹き抜けを活用し、記念碑側に2階まで伸びる大きな開口があることだ。北、西の2方向に連続して設けられた大きな窓からはパノラマのように景色が広がる。記念碑に植えられた木々の景色折々の姿をゆったりと眺めるのは、何よりも贅沢な時間になることだろう。

LDK空間そのものはとてもシンプル。ダイニングテーブルと一体となったアイランドキッチンと、2階と繋がるスケルトン階段がアクセントになっている。余計な凹凸をつくらず、可能な限り直線的に空間を整えたことには理由がある。シンプルに整えれば、人数や目的によって感覚的な区切りを自在に変えられるからだという。

窓際にあるのはリビングエリアだ。ダイニング、キッチンエリアよりも床レベルが一段低く設定したのは、人が集まる空間だからこそだと戸川さん。「庭やデッキに繋がる掃き出し窓はもう一度床レベルを上げ、ダイニング・キッチンに合わせた高さにしています。段差は座ったり寄りかかったりできますからそれだけで居場所のひとつになります」と語る通り、椅子やテーブルが数多くなくても落ち着ける場所が多くあるのはありがたい。もちろん、階段も居場所になるだろうし、大きなアイランドキッチンと一体化したダイニングテーブルも便利に使えそうだ。

階段を上がり2階に進むと、寝室として使用する洋室がダイレクトに繋がり、さらに吹き抜けを囲むようにクローゼットまでが一続きになっている。1階と同じくシンプルに整えられたこの空間にも、戸川さんの心憎い気づかいが感じられる部分がある。吹き抜けを囲う腰壁を一般的なものより10センチ程度高くし、寝転がったり座ったりしたときには吹き抜けの窓が目に入らないようにした。個室感が強まることで、寝室らしい落ち着きが得られるとのこと。さらに、腰壁は下から見上げたとき居室の中を見えづらくする役割を果たしている。開放的なワンルーム空間という印象は保持しながら、プライバシーを確保する。ひとり暮らしだからこそ大事なことが妥協なく整えられた住まい。お施主さまの安心感もひとしおだろう。
  • 1階キッチン・ダイニングからリビング方向を見る。住宅街でこれだけの大開口ができるのは珍しい。外部へは窓からも直接行き来できるように計画しており、室内外を繋げてのバーベキューなども可能。2階の腰壁を高めに設定し、1階から個室へ伸びる視線を遮った

    1階キッチン・ダイニングからリビング方向を見る。住宅街でこれだけの大開口ができるのは珍しい。外部へは窓からも直接行き来できるように計画しており、室内外を繋げてのバーベキューなども可能。2階の腰壁を高めに設定し、1階から個室へ伸びる視線を遮った

  • キッチン、ダイニングテーブルは造作ならではのラインの美しさが際立つ。大きなテーブルはパーティーシーンでも役立ちそう

    キッチン、ダイニングテーブルは造作ならではのラインの美しさが際立つ。大きなテーブルはパーティーシーンでも役立ちそう

  • 接道部分から見た家。左は川と記念碑、右は公園と変形敷地ながら恵まれた条件の土地といえる。小さな正方形をまず配置し、余白に水回り(左の突き出した部分)玄関(手前部分)、庭などを設けた。余白にゆとりがあるおかげで、様々な用途に応用できる

    接道部分から見た家。左は川と記念碑、右は公園と変形敷地ながら恵まれた条件の土地といえる。小さな正方形をまず配置し、余白に水回り(左の突き出した部分)玄関(手前部分)、庭などを設けた。余白にゆとりがあるおかげで、様々な用途に応用できる

  • 記念碑側、南西から見た外観。吹き抜けの角右側にサウナを設置し、中央のデッキで寛ぐ。さらにデッキから直接出入りできるよう計画した浴室でシャワーを浴びることを想定している

    記念碑側、南西から見た外観。吹き抜けの角右側にサウナを設置し、中央のデッキで寛ぐ。さらにデッキから直接出入りできるよう計画した浴室でシャワーを浴びることを想定している

造作キッチンと配色で抑揚ある空間づくり
景観も引き立たせる、美しいスケルトン階段

インテリアは、ご希望通り全てモノトーンでまとめられている。ただ、シャープな印象でありながら静謐すぎる雰囲気ではなく、どこか有機的で贅沢な仕上がりだ。なんといっても大きな窓から入ってくる光による陰影が美しく、ホテルライクな居心地を楽しみながら過ごすことができる。

3間×3間のLDKの中で大きなポイントとなっているのはやはりキッチンと階段だろう。

キッチンシンクとダイニングテーブルが一体化した、大きなアイランドキッチンは、シンクからテーブルへと切り替わる曲線がどことなく近未来的で美しい。当初、既製品を入れることも検討されていたそうだが、この空間の顔になると考えた戸川さんは造作を提案。大工仕事のひとつとして取り入れることで、コスト面もクリアしたという。おかげで、この空間にしっくりと馴染むデザインの大きなカウンターを設置することができた。

質感を存分に楽しめる魅力的なカウンターは、モールテックス仕上げ。「こんなに大きなカウンターは外から運び込めませんから、現場施工ができるのもモールテックスの利点のひとつといえます」と戸川さんは語る。

1階の上り口が螺旋を描くスケルトン階段は、お施主さま一番のお気に入りの場所なのだとか。CGでシミュレーションし提案したところ、施工会社もぜひやりましょうとおっしゃってくださり実現したという。階段そのものに高級感が生まれたのはもちろん、窓の外の木々の様子が向こうに透けて見えるその雰囲気にお施主さまは魅了されたとのこと。

もう一つの要素は配色。「グレーひとつとっても、色味の近いもので統一すると陰影も薄くなってしまいます」と戸川さん。空間の抑揚や奥行き感を演出するため、色味を微妙に変化させたのだとか。仕上がりをCGでひとつひとつ確認しながら作業を進め、思い通りの雰囲気を表現することができたという。

落ち着きと、ホテルライクな華やかさ、高級感がある空間。居心地も使い勝手も、お望み通りのひとり暮らしを満喫するための家が完成した。



撮影者:橘薫
  • 2階洋室(手前)、クローゼット(中央)、納戸(奥)。洋室は寝室として使用、クローゼットまで一続きとなっている。納戸はフレキシブルに使える空間。吹き抜けに接する腰壁は一般的な物より高めに設定。寝ている状態では窓が目に入らないようにし、寝室らしい落ち着きを与えた

    2階洋室(手前)、クローゼット(中央)、納戸(奥)。洋室は寝室として使用、クローゼットまで一続きとなっている。納戸はフレキシブルに使える空間。吹き抜けに接する腰壁は一般的な物より高めに設定。寝ている状態では窓が目に入らないようにし、寝室らしい落ち着きを与えた

  • 階段は位置的に切り返しが必要だった。そこで戸川さんは螺旋を提案。ホテルライクな優雅さも感じられる

    階段は位置的に切り返しが必要だった。そこで戸川さんは螺旋を提案。ホテルライクな優雅さも感じられる

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間取り図

  • 1階 平面図

  • 2階 平面図

基本データ

作品名
3角形の中の3間角
施主
Y邸
所在地
静岡県静岡市
家族構成
男性1人
敷地面積
166.91㎡
延床面積
43.05㎡
予 算
2000万円台