
三角形の変形敷地は、余白を活用。
ひとり時間も、大勢での集いも楽しめる家

戸川 賢木
とがわ さかき
一級建築士事務所サカキアトリエ
静岡県 静岡市
読書が好き。ミステリー小説とかで1頁1頁、1字1字、ドキドキしながらゆっくり読むのが好き。ポジティブになれる本が好き。でもあまり難しい本は読みません。 ジョギングが好き。でも気ままなので頻度は疎ら。 休日はバルコニーでBBQ。お酒?飲みますよ。 基本ポジティブ。 良いと思ったものは使い続ける、食べ続ける、眺め続ける。 良い出会いを大切にしています。
三角形の敷地に正方形のLDKを配置。
余白を活用し、暮らしを満喫できる家に
購入したのは、接道する1角だけが少し欠けているほぼ三角形の土地。とはいえ、変形敷地ながら環境は最高だった。まず、一番長い斜辺は樹齢100年という立派な樹木も立っている記念碑と接しており、緑豊かな借景が期待できた。さらに記念碑との間には川が流れ、また別の方角は、賑わうことがあまりないという公園とも隣り合っている。つまり、住宅街の中にありながら隣家との距離がすごく開いているのだ。
設計依頼を受けた一級建築士事務所サカキアトリエの戸川賢木さんは、ご要望を伺ったうえで大きなワンルームのような空間をつくりたいと考えたそうだ。「ひとりでお住まいになるので、メンテナンスや掃除が楽なほうがいいですよね。それに、仕切りをつくるとその分狭くなってしまいます」と語る。
そこでまず、三角形の敷地の中に3間×3間=9坪の正方形のちいさなモジュールを配置。中に入るのはLDKだ。さらにその4分の1は2階までの吹き抜けとした。コンパクトな空間ながら人が集まるのにふさわしい開放感がある。
そして、周囲にできた余白には水回りやサウナ、デッキや庭などの寛ぎの場を設けたという。余白は大小さまざま。駐車場としたり、バーベキューパーティーを開いたりと、人数や用途に合わせて自由に使えるのが魅力的なスペースができた。
2階には寝室、クローゼットなどのプライベートな居室を計画。吹き抜けによりゆったりとした縦の繋がりがありつつ、パブリックとプライベートをしっかり分けた間取りにはメリハリがある。
9坪というととてもコンパクトに思えるが、とてもそうは感じられない。余白や吹き抜けを活用し、ひとり暮らしにぴったりなボリュームの家を開放感たっぷりにつくりあげた。
吹き抜けと大開口で開放感抜群
どんな使い方にも適応するシンプルなLDK
LDK空間そのものはとてもシンプル。ダイニングテーブルと一体となったアイランドキッチンと、2階と繋がるスケルトン階段がアクセントになっている。余計な凹凸をつくらず、可能な限り直線的に空間を整えたことには理由がある。シンプルに整えれば、人数や目的によって感覚的な区切りを自在に変えられるからだという。
窓際にあるのはリビングエリアだ。ダイニング、キッチンエリアよりも床レベルが一段低く設定したのは、人が集まる空間だからこそだと戸川さん。「庭やデッキに繋がる掃き出し窓はもう一度床レベルを上げ、ダイニング・キッチンに合わせた高さにしています。段差は座ったり寄りかかったりできますからそれだけで居場所のひとつになります」と語る通り、椅子やテーブルが数多くなくても落ち着ける場所が多くあるのはありがたい。もちろん、階段も居場所になるだろうし、大きなアイランドキッチンと一体化したダイニングテーブルも便利に使えそうだ。
階段を上がり2階に進むと、寝室として使用する洋室がダイレクトに繋がり、さらに吹き抜けを囲むようにクローゼットまでが一続きになっている。1階と同じくシンプルに整えられたこの空間にも、戸川さんの心憎い気づかいが感じられる部分がある。吹き抜けを囲う腰壁を一般的なものより10センチ程度高くし、寝転がったり座ったりしたときには吹き抜けの窓が目に入らないようにした。個室感が強まることで、寝室らしい落ち着きが得られるとのこと。さらに、腰壁は下から見上げたとき居室の中を見えづらくする役割を果たしている。開放的なワンルーム空間という印象は保持しながら、プライバシーを確保する。ひとり暮らしだからこそ大事なことが妥協なく整えられた住まい。お施主さまの安心感もひとしおだろう。
造作キッチンと配色で抑揚ある空間づくり
景観も引き立たせる、美しいスケルトン階段
3間×3間のLDKの中で大きなポイントとなっているのはやはりキッチンと階段だろう。
キッチンシンクとダイニングテーブルが一体化した、大きなアイランドキッチンは、シンクからテーブルへと切り替わる曲線がどことなく近未来的で美しい。当初、既製品を入れることも検討されていたそうだが、この空間の顔になると考えた戸川さんは造作を提案。大工仕事のひとつとして取り入れることで、コスト面もクリアしたという。おかげで、この空間にしっくりと馴染むデザインの大きなカウンターを設置することができた。
質感を存分に楽しめる魅力的なカウンターは、モールテックス仕上げ。「こんなに大きなカウンターは外から運び込めませんから、現場施工ができるのもモールテックスの利点のひとつといえます」と戸川さんは語る。
1階の上り口が螺旋を描くスケルトン階段は、お施主さま一番のお気に入りの場所なのだとか。CGでシミュレーションし提案したところ、施工会社もぜひやりましょうとおっしゃってくださり実現したという。階段そのものに高級感が生まれたのはもちろん、窓の外の木々の様子が向こうに透けて見えるその雰囲気にお施主さまは魅了されたとのこと。
もう一つの要素は配色。「グレーひとつとっても、色味の近いもので統一すると陰影も薄くなってしまいます」と戸川さん。空間の抑揚や奥行き感を演出するため、色味を微妙に変化させたのだとか。仕上がりをCGでひとつひとつ確認しながら作業を進め、思い通りの雰囲気を表現することができたという。
落ち着きと、ホテルライクな華やかさ、高級感がある空間。居心地も使い勝手も、お望み通りのひとり暮らしを満喫するための家が完成した。
撮影者:橘薫
間取り図
基本データ
| 作品名 | 3角形の中の3間角 |
|---|---|
| 所在地 | 静岡県静岡市 |
| 敷地面積 | 166.91㎡ |
| 延床面積 | 43.05㎡ |
| 家族構成 | 男性1人 |
| 予算 | 2000万円台 |
| 施主 | Y邸 |
設計者情報
この建築家が建てた家
この実例を見た人はこちらも読んでいます

快適と省エネを両立した高性能住宅のポイントは、”窓”にあり!
建築家に家を頼みたいと思っていたものの、断熱性など住宅性能面に不安を持っていたというAさん。高断熱・高気密の家を建ててくれる建築家を長年探していたなか、ようやく出会ったのが建築家の河辺近さんでした。

庭の心地よさを取り込んだ、リビングが暮らしの中心にある平屋
奥様の実家でもある築100余年の家を大切に守り、暮らしてきたSさんご夫婦。ご子息が巣立ち、夫婦二人のこれからの暮らしや耐震性への不安を考慮して、建て替えることにしました。Sさんご夫婦のリクエストは心地よく暮らせる平屋。石川さんが提案したSさんの住まいの工夫をご紹介します。

2世帯住宅でも非日常の空間を実現!ひとつ屋根の下で心地良く暮らせる住まいとは?
食事、睡眠、家族との会話…。それはまさに自宅における「日常の暮らし」そのものです。しかし、施主であるSさんご夫妻が住まいに求めたのは「非日常の空間での暮らし」。さらに、息子さんご夫婦との同居が決まり、S邸のプランは2世帯住宅へと変化していきます。ひとつ屋根の下で2つの家族が適度な距離感を保ちつつ、非日常空間が感じられる住まいを実現したのは、腰越耕太建築設計事務所代表の腰越耕太さん。今回は、相反する要素を見事に両立した家づくりをご紹介します。

敷地条件が厳しくても、豊富な光の通り道で 余すところなく明るい家
静かな住宅街の一角に自邸を建てることになった建築家の芝田知巳さん。引っ越し前の住まいは昼間でも照明が必要な状況だったことから、隅々まで明るい家をつくりたいと考えた。敷地条件などが厳しい中、芝田さんはどのように家中に光を届けたのだろうか。光だけでなく風も季節も感じられるS邸の秘密に迫る。

網戸から透けて見える中庭。 豊かに暮らす住まい手の魅力がにじみ出る家
区画整理によって生まれた、新しい住宅地。周辺に家がない状況で、要望を叶えつつ、将来どんなふうに近隣の家が建っても住環境に影響を受けないプランを考えなくてはならなかった。建築家の箕輪さんが出した答えは「中庭」。外からは想像できない、明るく開放的な庭が中心にある、豊かに暮らせる家ができた。

眺望も明るさも! 無柱の開放空間をかなえた“キール”とは?
見晴らしがよくて、明るくて、開放的。家族の居場所がゆるやかにつながる一体感や遊び心もあり、夏も冬も快適に過ごせる──。施主様の理想をかなえたY邸ですが、実は西向き・傾斜地など気になる条件もあったのだそう。そんな懸念材料をメリットに変え、魅力的な住まいをつくり上げたのは建築家の蘆田暢人さん。「これぞ建築家の建てる家!」といいたくなる、高度な設計ノウハウと発想力に迫ります。

都市の中に適切な余白をつくり出し 居場所をデザインした「廻廂の家」
「そこにしかない、居たい建築」を目指して、邸宅街の20.6坪の土地を「平面/立体」の両軸から捉え、暮らしに余白と豊かさをもたらす居場所をデザイン。「an Archi-Lab.一級建築士事務所」のお二人が手がける「その地に建てるべきその人のための建築」を象徴する、アイコニックな一邸を紹介しよう。

自分の「好き」を形にした 建築士の自邸兼アトリエ
イシマルデザイン一級建築事務所の岸絹子さんが、自身が設計した自邸兼アトリエ「福角の家」をつくったのは、今から4年前のこと。「自分が本当に好きなモノ、好きな空間」を形にしたというその家は、岸さんならではのセンスがそこかしこに溢れていました。

日本最北端の厳しさでも快適に、デザインも諦めない工夫とは?
毎日、雪かきをしなければ生活できない北海道稚内市の住宅では、雪対策・防寒対策が何よりも重視されます。そうした生活ニーズとデザインの両立は難しいと多くの人が思っていた場所に2014年、機能も充分に満たしたデザイナーズ賃貸が誕生しました。





