屋根裏部屋風の2階は総畳敷き。
庭と建物の境界を感じさせない「繋がる家」

見た目はもちろん、長く暮らしていくうえで快適な住環境づくりを実現するため、図面を詳細に至るまで検討し、熱の動きや空気の流れまでを設計することに努めているという「ELEPHANT DESIGN」の門脇さん。周囲の環境に溶け込むデザイン、可能な限り既製品を使わずに、その1軒の建物のためだけにデザインするという姿勢が、家づくりの常識の枠を超えた、Y様邸のような住まい空間を生み出すのだ。

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庭との繋がりを大切にした、フレキシブルな空間設計

建物だけでなく、庭を含むすべてが「住まい空間」と意識して設計されたY様邸。「平屋のような、地面に近い家をイメージされていました」と設計士の門脇さん。敷地面積は約150坪と十分な広さがあったが、単純に平屋にすると床面積が広がり、コストのことも考え、2階を屋根裏部屋のような空間にすることを提案。外観は、一見、平屋に見える大屋根の存在感のある建物だ。

昔の日本家屋に多く見られる南面が横に広く伸びるY様邸は、ほぼ中央にインナーテラスがあり、建物内と庭との境界を感じさせない。インナーテラスと庭の間に戸はなく、暖簾とカーテンが付いているのみ。さらに、採光性に配慮したリビングの窓は、ガラス面を大きくし、その向こうに広がる緑の庭が室内の延長線上にあるように感じさせる。インナーテラスと繋がる空間も、一風変わっている。階段下のホールにあたる部分なのだが、設えは応接間か、書斎か、セカンドリビングか。置かれる家具によって、どんな使い方も可能な空間になっている。「気が付いたら、家具の位置をよく変えているんです」と奥様が言うように、家具好きなY様。いつでも好きなように家具を配置できるように、「余白」ともいえる大らかな空間を多く設けたのも門脇さんのアイデアだ。大きなガラス窓はホールの横のLDK、ホールの先の玄関ドアにも使用され、限りなく仕切りのない感覚を演出。Y様のオーダーが、普通の家には当然のごとくある仕切りをなるべく排除し、「ハコだけ作ってもらえれば」というものだったため。ただ、「さすがに、それだと生活が苛酷になりすぎるので、ある程度の仕切りは設けつつ、フレキシブルな空間設計にすることで要望に応えました」と門脇さん。

通常、家の中でくつろぐ場所と言えば、リビングのソファなど「この場所」と決まっているものの、T様邸にはその時の気分やシチュエーションによって、異なる「くつろぎの場」がいくつもある。例えれば、レストラン&バーやカフェのよう。また、玄関を入って、靴を脱ぐ場所から、一歩入ると段差が低くなっている。ここも通常の家であれば、上がり框になっているはず。さらに、ホール横の階段から2階へ上がると、そこは勾配天井をそのまま生かした屋根裏部屋のような空間が広がる。この2階フロアは総畳敷きで、何とも足ざわりがよく居心地の良い空気感が漂っている。家族のプライベートスペースである。金属屋根をめくったような越屋根の窓が設けられ、明るい日差しが注ぎ込まれて、暖まった空気を抜くのにもひと役買っている。Y様邸は、家中のあらゆる部分が「普通」の家とは違う設計で、まさに世界に一つだけの家なのだ。
  • 杉板貼りの外壁に、柿渋と松煙を使った黒塗りで風合いを出した外観デザイン。のどかな周囲の風景に溶け込んでいる

    杉板貼りの外壁に、柿渋と松煙を使った黒塗りで風合いを出した外観デザイン。のどかな周囲の風景に溶け込んでいる

  • 階段下の広いホールは応接間のような設えに。インナーテラスから庭へと繋がる空間の広がりがあり、開放感あふれる

    階段下の広いホールは応接間のような設えに。インナーテラスから庭へと繋がる空間の広がりがあり、開放感あふれる

  • ナチュラルなインテリアのLDK。天井高は約2.1mとやや低めで、「座った時に落ち着きを感じる丁度良い高さ」と門脇さん

    ナチュラルなインテリアのLDK。天井高は約2.1mとやや低めで、「座った時に落ち着きを感じる丁度良い高さ」と門脇さん

自然のままの素材、手作業、不均質…、それが味わいになる

「設計をする上でいつも考えることは、可能な限り既製品を使わず、職人の手によって、その建物だけのためにデザインするということです」と門脇さん。メーカーの商品(素材)は性能や品質を重視して均質で、おもしろみに欠けるため、積極的には使わないという。Y様邸もそう。建物内の壁は一般的な塗料に石灰を入れたオリジナルで、これは、コストと風合いを両立させる建築家のアイデア。職人にはできるだけ無意識に、ランダムに施工してもらうことで生まれる「ゆらぎ」にも味わいを感じる。1階の天井板にはラワン合板を使用。安い素材で、通常は下地にしか使わないものだが、「木目がキレイにそろっていない」という風合いも、また味わいだと感じている。この感性は、Y様も共感するところだった。照明はY様自身が銅製の鍋などを使ってシェードを作り、裸電球を差し込んだ手作りで、その見た目の味わい深さが、しっくりとインテリアにマッチしている。

窓枠も木製で、既製品ではなく独自にあつらえたもの。テラスに向かうサッシは建物のデザインをするうえで肝となる部分だが、一般的に使用されるアルミサッシでなく、あえて木製建具を採用したことで、庭との繋がりが自然に感じられる。自然、庭、周囲の緑にとけこむ木製建具だが、熱損失にならないように、細部の納まりをミリ単位まで詰めて図面化することで気密性を計算したため、「すきま風とかは全然なくて、過ごしやすいですよ」と奥様。

外観においても、杉板に柿渋と松煙の入った塗料で外壁を黒く塗装して、ノスタルジックな風合いに仕上げている。庇の長さや開口部の位置を細かく検討することで、可能な限り雨掛かりを防ぐ。雨樋はあえて作らず、大屋根にはガルバリウム鋼板の波板で葺いているため、屋根を伝って雨が落ちてくるが、深い庇は1mも出ているため、雨水は庇の先から真下の地面まで一直線に落ち、建物自体にはかからないという。「家の中から見ていると、まるで滝のような雨水のカーテンが、実はすごくキレイなんです。特にどしゃぶりの雨の日はいいですよ」と奥様。日常生活において、多くの人が億劫に感じる「雨」さえ、暮らしのアクセントの一つとして楽しんでいる。休日のみならず、Y様は庭仕事にいそしんだり、照明やちょっとした棚を手作りしたり。Y様邸は、毎日の生活自体に多彩な楽しみがあふれている住まいなのだ。
  • 深い軒や越屋根を設けた大屋根が印象的で、平屋のように見える外観。伝統的な日本家屋のエッセンスとモダンを融合した

    深い軒や越屋根を設けた大屋根が印象的で、平屋のように見える外観。伝統的な日本家屋のエッセンスとモダンを融合した

  • リビングの窓は室内により光を取り込めるよう、ガラス面を大きくした。ソファに座って庭の緑を望める絶好のポジション

    リビングの窓は室内により光を取り込めるよう、ガラス面を大きくした。ソファに座って庭の緑を望める絶好のポジション

  • 大きな天板のカウンターもY様が使ってほしいと持ち込んだもので、これを最大限に生かして、キッチンを造作

    大きな天板のカウンターもY様が使ってほしいと持ち込んだもので、これを最大限に生かして、キッチンを造作

間取り図

  • 1F間取り図

  • 2F間取り図

基本データ

施主
T邸
所在地
岐阜県各務原市
家族構成
夫婦+子供1人
敷地面積
500㎡
延床面積
110.29㎡
予 算
2000万円台