これぞ、リノベーションの醍醐味。
逗子・葉山を見渡すヴィンテージモダンな家

desus(デサス)建築設計事務所が設計した『TIME』は、築45年の日本家屋をフルリノベーションした住宅だ。贅沢な眺めを生かした開放的な設計と、新築では難しい「リノベーションだからできる空間デザイン」の魅力を解き明かす。

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眺望抜群の高台に立つ、
築45年の平屋をフルリノベーション

鎌倉の隣に位置する神奈川県逗子市は、マリンスポーツを楽しむ人で賑わう海の街というイメージが強い。しかし、実は山の自然も意外に近く、海からちょっと離れれば、豊かな緑や高台からの素晴らしい眺めに恵まれる。

築45年の平屋を購入し、フルリノベーションしたTさま一家の住まいも、市内の山側の高台に位置する。購入の決め手は逗子の街並みと葉山の山々を見渡せる、この立地ならではの抜群の眺望だった。

リノベーションにあたり、Tさまは複数の工務店や設計事務所にプランを相談。提示された案を比較検討した結果、鎌倉にアトリエを置くdesus(デサス)建築設計事務所(以下、desus)の稲垣裕行さんと花形将壽さんに設計を依頼した。

稲垣さんと花形さんは、屋外と一体化する開放的な空間と、洗練されたシンプルモダンなデザインで多くの支持を集める建築家だ。

それだけに今回も、建物をきれいに整えるだけのリノベーションとはひと味もふた味も違うプランを提案。新築同様のドラスティックなプランニングがTさまの心を掴み、「この場所ならでは」の眺望と開放感、「リノベならでは」のデザインを併せもつ新空間がつくられることとなった。
  • 玄関まわり。逗子の山側の景色に馴染むしっとりとした外観は、そのまま生かしてリノベーション。外装はタイルの修復など最小限にとどめ、コスト圧縮にもつなげている

    玄関まわり。逗子の山側の景色に馴染むしっとりとした外観は、そのまま生かしてリノベーション。外装はタイルの修復など最小限にとどめ、コスト圧縮にもつなげている

  • 既存の目透かし天井やシーリングライトを残した廊下。光が当たるニッチ棚を新設し、空間に彩りを添えた

    既存の目透かし天井やシーリングライトを残した廊下。光が当たるニッチ棚を新設し、空間に彩りを添えた

高台にせり出すウッドデッキが大活躍。
LDKから望む景色がスケールアップ

既存住宅は、寄棟の瓦葺き屋根や大谷石の石積塀など、しっとりとした意匠が素敵な純日本家屋だった。市街地を望む南東側には3間の和室が並んでおり、日当たり抜群の広縁もあったという。

奥ゆかしい魅力をたたえた住宅だったが、Tさまはご夫妻と専門学校生の息子さんの3人家族。

現役世代の大人3人のライフスタイルに合うように、desusの2人は和室のうちの2室と広縁を1つにまとめ、広々としたLDKとウッドデッキに一新。洗面などの水まわりや寝室といったプライベート空間は、独立感をもたせながらもウォークスルークローゼットを介してスムーズに行き来できるように計画。オン・オフのメリハリと効率的な動線を両立させている。

そんな新生・T邸のメイン空間といえるLDKは、約50㎡もの贅沢な広さを誇る。

だが、もっと贅沢なのは眺望だ。LDKは新設された広いウッドデッキと大きくつながり、その先には、逗子の市街地から葉山にかけての圧巻のパノラマビュー。

眺望がひらけた南東側は隣地が約8mも低いため、視界を遮るものは何もない。

しかも、ウッドデッキは高低差を生かして高台にせり出すようにつくられているから、視覚的にも体感的にも、壮大な景色に包まれているかのよう。

アウトドアリビング的に使えるウッドデッキは、青空の下で家族や友人との食事を楽しむのにもぴったり。LDKとの一体感も高く、邸内にいてもおおらかな景色を身近に感じながら生活できる。

「この場所ならでは」の魅力的なロケーションをこれ以上ないほど生かし切り、最高レベルの眺めと開放感を生み出したdesusの設計は見事としかいいようがない。
  • 贅沢な眺望と、2方向に視線が伸びる抜群の開放感に圧倒されるLDK。「視界を遮るものがない高台」というロケーションを最大限に生かした設計の力だ。築古なので、耐震も入念に強化。熱環境の快適性にも配慮し、屋根、壁、床下に性能の高い断熱材を入れている

    贅沢な眺望と、2方向に視線が伸びる抜群の開放感に圧倒されるLDK。「視界を遮るものがない高台」というロケーションを最大限に生かした設計の力だ。築古なので、耐震も入念に強化。熱環境の快適性にも配慮し、屋根、壁、床下に性能の高い断熱材を入れている

  • リビング。天井は既存の皮付き丸太梁を現しにし、空間デザインに深みをプラス。高さも出て開放感が増した。床は荒々しい天井に負けないよう、節が目立つオークを使用。エタノール暖炉(写真左)も存在感のあるネロマルキーナをあしらいつつ、上部は収納を豊富に設けて実用性も担保

    リビング。天井は既存の皮付き丸太梁を現しにし、空間デザインに深みをプラス。高さも出て開放感が増した。床は荒々しい天井に負けないよう、節が目立つオークを使用。エタノール暖炉(写真左)も存在感のあるネロマルキーナをあしらいつつ、上部は収納を豊富に設けて実用性も担保

  • ウッドデッキとLDKは、大開口とフラットな床で一体化。内と外のつながりが大胆に強調された設計は、desusの得意分野だ。高台にせり出すウッドデッキは空中のステージのようで、壮大な景色を独占した気分に。デッキ自体も広いので、屋外での食事ものびのびと楽しめる

    ウッドデッキとLDKは、大開口とフラットな床で一体化。内と外のつながりが大胆に強調された設計は、desusの得意分野だ。高台にせり出すウッドデッキは空中のステージのようで、壮大な景色を独占した気分に。デッキ自体も広いので、屋外での食事ものびのびと楽しめる

あえてリノベを選ぶ価値。
新築では表現できない、本物のヴィンテージ

眺望に惹かれがちなLDKだが、邸内も心満たされるリゾートホテルのような空間だ。

desusの2人はTさまの希望でリビングにしつらえたエタノール暖炉に、スペイン産の黒大理石・ネロマルキーナを使用。暖炉を囲むソファまわりの照明は、インゴ・マウラ―のツェッツルと、セルジュ・ムーユのブラケットライト。高級感漂う暖炉とデザイン性の高い照明のおかげで、LDKの非日常感や贅沢感がいちだんと増している。

すると、「こうした空間をデザインできたのは、今回の計画がリノベーションだったからです」と稲垣さんと花形さん。

2人は、今回のデザインの起点は皮付きの丸太梁など、既存住宅にもともとあった、荒々しい印象の構造だったと振り返る。

「天然の皮付き丸太を使った構造は希少ですし、経年によるなんともいえない味わいがありました。ならばと、天井を外して構造を現しで見せ、デザインに生かそうと考えました」

2人は耐震や断熱といった住宅性能を強化しつつ、丸太梁がかかった天井、タイルや瓦を使った外装など、古いものもできるだけ生かしている。

この判断はむやみに廃材を出さないサステナブルな考え方や、古き良きものへのリスペクトに合致するし、現実的なところでは施工コストの圧縮にもつながる。

だがそれ以上に2人が狙っていたのは、長い時間を重ねた「本物のヴィンテージ感」というリノベならではの魅力を生み出すこと。この家が、『TIME』と名付けられたゆえんでもある。

フルリノベーションは、調査や施工に複雑な手間を要して新築よりコストがかさむケースもある。だから、いちがいに「リノベは新築よりお手頃」とはいえない。

けれど、時間を重ねた建物の表情や質感には、新築では到底表現できない奥深い魅力がある。

実際、45年モノの皮付き丸太を見せた高天井は、新しく生まれ変わったLDKの中で圧倒的な存在感を放つ。その強い存在感を上手に生かした空間は、インゴ・マウラ―のようなエッジの効いた照明にも負けず、お互いを引き立て合う。

「この雰囲気は、新築では出せなかったでしょうね」

竣工後、desusの2人が『TIME』に招かれ一緒にお酒を楽しんでいたときに、Tさまはリビングの天井や照明を眺め、笑顔でそうおっしゃったという。小手先の「ヴィンテージ風」は足元にも及ばない、ホンモノのカッコ良さ──これこそがリノベーションのアドバンテージであり、醍醐味だ。

desusの2人は既存の構造・デザインを再構築して新旧を共存させるスキルと、「リノベならでは」のヴィンテージモダンを創造する確かなセンスをもっている。その好例といえる『TIME』という住宅は、「あえて、リノベーションを選ぶ価値」を私たちに教えてくれる。
  • 冬場はエタノール暖炉の幻想的な炎と、アーティスティックな照明が極上の時間を演出

    冬場はエタノール暖炉の幻想的な炎と、アーティスティックな照明が極上の時間を演出

  • ダイニングからキッチン方向を見る。新建材を使った規格品はこの空間に似合わないからと、キッチンもオリジナルで造作。モルタル調の素材がLDKの木の風合いと好相性。写真左の階段をのぼるとロフトがある

    ダイニングからキッチン方向を見る。新建材を使った規格品はこの空間に似合わないからと、キッチンもオリジナルで造作。モルタル調の素材がLDKの木の風合いと好相性。写真左の階段をのぼるとロフトがある

  • ウォークスルークローゼット。このクローゼットを介して洗面脱衣室とキッチン、ダイニング、ウッドデッキなどをスムーズに行き来でき、家事動線が抜群。クローゼット内には化粧台など多目的に使える造作カウンターも。寝室も近く、便利な身支度スペースになっている

    ウォークスルークローゼット。このクローゼットを介して洗面脱衣室とキッチン、ダイニング、ウッドデッキなどをスムーズに行き来でき、家事動線が抜群。クローゼット内には化粧台など多目的に使える造作カウンターも。寝室も近く、便利な身支度スペースになっている

  • 「プラスアルファの空間も欲しい」との要望に応えてつくったロフト。音楽に詳しいご主人の趣味部屋となっている。リノベで新たに用いた資材は、45年の歴史を感じる既存の柱に合わせてウォールナット色で塗装。邸内全体のデザインに統一感をもたせている

    「プラスアルファの空間も欲しい」との要望に応えてつくったロフト。音楽に詳しいご主人の趣味部屋となっている。リノベで新たに用いた資材は、45年の歴史を感じる既存の柱に合わせてウォールナット色で塗装。邸内全体のデザインに統一感をもたせている

  • 逗子の街並みから葉山の山々までを一望。ウッドデッキは隣地との高低差を生かして高台にせり出すようにつくられており、視界を遮るものがない迫力満点の景色を堪能できる

    逗子の街並みから葉山の山々までを一望。ウッドデッキは隣地との高低差を生かして高台にせり出すようにつくられており、視界を遮るものがない迫力満点の景色を堪能できる

撮影:ヤマベスタジオ 山邊章史

間取り図

  • 1F-Plan_TIME

  • 小屋裏_TIME

基本データ

作品名
TIME
施主
T邸
所在地
神奈川県
家族構成
夫婦+子供1人
敷地面積
306㎡
延床面積
111.27㎡