海を楽しむ和のリゾート。貸別荘の運用を
見据えた設計で居心地も利便性も極上に

海沿いに別荘を建てたいと望まれたお施主さま。設計を依頼したのは、地元の南房総エリアで活躍する建築家の島﨑さんと石井さんだ。土地の特徴に心得があり別荘建築の経験が豊富だからこそ、海を満喫でき過ごしやすい別荘ができた。不在時は貸別荘としても運用。当初からプランに組み込むことで高い利便性が実現した。

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海沿いの立地の魅力を最大限に引き出す演出
美しくフレーミングされた一面の海と空

千葉県館山市。美しい海が広がるその場所に、別荘「AWAKA」はある。

兼ねてより海沿いに別荘を持ちたいとお考えだったお施主さま。夢をかなえるため土地を購入され、設計を依頼したのは株式会社SALab.の島﨑将人さんと石井円花さんだ。きっかけはインターネット。南房総エリアで活躍する建築士を調べられたうえで、デザインも性能もよい家を建てると感じてくださったのではないかと2人は話す。

別荘を建てるにあたっての一番大きな要望は、やはり「海が見たい」ということ。そこで島﨑さんは、海に面する幅を可能な限り広げて建物を計画。その大胆な間口の取り方がこれ以上ない形で生かされているのが、空が広がり、海を見下ろす2階だ。

2階はLDKと和室、寝室のほか、浴室などの水回りも配置。そのうえで海に向かって間口の端から端まで、一面を開口した。室内のどこにいても海が見えることはもちろん、浴室も窓に面しており、海を楽しみながら入浴することができる。

海をどう見せるかにもこだわった。「海の風景をフレーミングしたかったのです」と島﨑さん。さらにはこれだけの大開口ゆえの日射コントロールも必要だった。取り入れたのは切妻屋根を生かした天井と、そこから続く軒。深い軒を出すことで強すぎる日差しを防ぎながら、開放的な雰囲気は失うことなく視界を制御し、目の前に広がる海と空をより印象的に切り取ったという。

海を魅力的に見せる工夫はそれだけではない。視界の邪魔にならないようにと、階段やエレベーターを窓とは反対の壁側にまとめて配置し、さらに2階のエレベーターホールに仕切り戸を設けたのだ。階段を上がってきてなんとなく海が見え始めるというのではなく、戸を開けるというアクションとともに絶景が一気に目に飛び込んでくる。きっとそれは、海を楽しみたいと望まれていたお施主さまが「来てよかった」「この別荘を建ててよかった」と強く感じる一瞬になることだろう。
  • 上空から見た「AWAKA」。画像左側に海がある。自然公園法の規制を守りながら、海に向かって可能な限り建物の間口を広く取った

    上空から見た「AWAKA」。画像左側に海がある。自然公園法の規制を守りながら、海に向かって可能な限り建物の間口を広く取った

  • 外観。1階右側の通路部分は駐車場。玄関にダイレクトにアクセスできる。建物で海が見えなくなってしまうのではなく、建物から海を垣間見せることでリゾート感を高めたかったと島﨑さん。2階外壁は浮造り杉板の上に塗装を施した。特に別荘においてはメンテナンスのしやすさも重要

    外観。1階右側の通路部分は駐車場。玄関にダイレクトにアクセスできる。建物で海が見えなくなってしまうのではなく、建物から海を垣間見せることでリゾート感を高めたかったと島﨑さん。2階外壁は浮造り杉板の上に塗装を施した。特に別荘においてはメンテナンスのしやすさも重要

  • アプローチから庭を見る。生垣裏の扉は階段下収納。ゲストと顔を合わせず備品などを届けられる。画像右のヤシの木は土地を購入した際に植えられていたものを移植。1階ゲストルームの丸窓を開けると眺められる。その丸窓は、外部からは一般的な窓に見えるように計画(画像中央)

    アプローチから庭を見る。生垣裏の扉は階段下収納。ゲストと顔を合わせず備品などを届けられる。画像右のヤシの木は土地を購入した際に植えられていたものを移植。1階ゲストルームの丸窓を開けると眺められる。その丸窓は、外部からは一般的な窓に見えるように計画(画像中央)

  • 玄関は下足収納の扉を鏡とし、庭を写り込ませた。広々と開放的な仕上がりは、滞在の素晴らしさを期待させる。奥の収納にはゲストが自由に使えるのシーツやリネンを仕舞う。光沢がある唐紙による光の反射が美しい。竹製の取手からも高級感が感じられる

    玄関は下足収納の扉を鏡とし、庭を写り込ませた。広々と開放的な仕上がりは、滞在の素晴らしさを期待させる。奥の収納にはゲストが自由に使えるのシーツやリネンを仕舞う。光沢がある唐紙による光の反射が美しい。竹製の取手からも高級感が感じられる

選び抜いたモチーフで「和」を表現
非日常が味わえる贅沢空間

別荘「AWAKA」のコンセプトは「和のリゾート」。訪れる人たちは、到着したとたんにどことなく和が感じられ、非日常感がたっぷりと味わえるデザインに惹きつけられることだろう。

例えば先述した日本家屋でよく用いられる切妻屋根と軒は、外観にも内部にも和のエッセンスを加えている。切妻屋根を生かしたおかげで天井が高く、ゆったりとした設えのLDKはまさに非日常的な空間だ。障子戸を模した引き戸や、壁面や梁のつくりもさりげなく和のイメージを纏っている。

和室がまた素晴らしい。縁に殴り仕上げを取り入れたほか、収納の扉には伝統的な文様のひとつである青海波柄の襖紙を採用。また、作家物の茶碗を飾るために計画したニッチの枠には、自ら探し、選んだタモ玉杢を使用した。「タモ玉杢には青海波に似た自然の柄があるんです」と島﨑さん。穏やかな波の動きを室内に取り込んだような和室では、深いくつろぎが生まれることだろう。

1階に設けた畳敷きのゲストルームは、来客だけでなくお施主さまたちも使用することを前提として計画した。何泊かしていれば、海ではなく庭が見たい日もあるだろうと考えたからだ。「海からの強風が吹く時も多く、そんな時でもお庭側にもひらけた景色があると良いと思いました」とのこと。

明るい2階に対して、落ち着いた色合いでまとめた1階。その対比もおもしろい。明るさを抑えることで、より鮮明に外の景色を見せる効果もあるとのこと。

ゲストルームから庭を臨む窓は、日本古来のモチーフである丸窓を採用。しかし、その先に広がるのは和風の庭ではなく、ヤシなどが植わる南国チックな庭だという。ギャップがサプライズとなって、滞在がまた思い出に残るものになるに違いない。

玄関にも和と非日常感の心憎い演出がある。大きな窓の外にはアイコニックな庭が広がり、それが玄関収納の鏡に反射するのだ。玄関とは思えない伸びやかな広がりをつくり上げたのと同時に、奥の収納には柄入りの唐紙を採用し、室内に入ってきた日射がキラキラと輝くように設えた。さらに収納扉には竹製の取手を取り付け、高級感ある和のイメージを印象付けている。
  • 2階エレベーターホールから室内を見る。障子を模した引き戸があり、開け放した瞬間にこの絶景が見える。深い軒が眺望をフレーミングし、洗練された美しさを演出

    2階エレベーターホールから室内を見る。障子を模した引き戸があり、開け放した瞬間にこの絶景が見える。深い軒が眺望をフレーミングし、洗練された美しさを演出

  • 2階LDKからベランダ、眺望を見る。間口いっぱいに計画した窓は全て引き違い窓で、空間の使い勝手に自由さがある。切妻屋根による深い軒によって日射がコントロールされ、より一層海の眺めを楽しめるようになった

    2階LDKからベランダ、眺望を見る。間口いっぱいに計画した窓は全て引き違い窓で、空間の使い勝手に自由さがある。切妻屋根による深い軒によって日射がコントロールされ、より一層海の眺めを楽しめるようになった

  • 2階リビングエリアからダイニングキッチンを見る。自炊だけでなくケータリングにも対応できる広めのカウンターが使いやすい。食卓では誰もが均等に海を眺められるよう配置を工夫。雰囲気に合わせダイニングテーブル上部の照明は造作した。右の仕切り戸を入ると水回りへ続く

    2階リビングエリアからダイニングキッチンを見る。自炊だけでなくケータリングにも対応できる広めのカウンターが使いやすい。食卓では誰もが均等に海を眺められるよう配置を工夫。雰囲気に合わせダイニングテーブル上部の照明は造作した。右の仕切り戸を入ると水回りへ続く

  • キッチンから2階を見渡す。左側2つの個室は奥が寝室、手前が和室。ゆとりあるつくりに加え切妻屋根を生かした高い天井のおかげで、開放感いっぱいの空間。自然な流れで張り出した軒により、室内には強い日差しが入らない。ソファに座り、ゆったりと海を楽しみながらくつろげる

    キッチンから2階を見渡す。左側2つの個室は奥が寝室、手前が和室。ゆとりあるつくりに加え切妻屋根を生かした高い天井のおかげで、開放感いっぱいの空間。自然な流れで張り出した軒により、室内には強い日差しが入らない。ソファに座り、ゆったりと海を楽しみながらくつろげる

  • 2階、リビングからキッチン方向を見通す。寝室に設けたエアコンの空気を部屋中に循環させられるよう、仕切り戸と天井までの間を空けた。また風の流れを計算し、高い断熱性も確保している。キッチンの壁面にもエアコンがあるが、寝室のものだけで十分涼しいという

    2階、リビングからキッチン方向を見通す。寝室に設けたエアコンの空気を部屋中に循環させられるよう、仕切り戸と天井までの間を空けた。また風の流れを計算し、高い断熱性も確保している。キッチンの壁面にもエアコンがあるが、寝室のものだけで十分涼しいという

お施主さまが使用しない期間は貸別荘に。
別荘だからこその暮らしやすさを実現

「AWAKA」は、お施主さまご夫婦やお母さま、妹さま家族などが一緒に、またお好きな時に各々で楽しむための別荘だ。ただ、それでも使用しない日は少なくない。そこで、貸別荘としても活用することを前提に計画が始まったという。実はSALab.は、貸別荘の運営管理を担う別会社も持っている。設計から運用までワンストップで相談できることは、活用をお考えのお施主さまにとってとても便利だったに違いない。

貸別荘として使用することを考慮したプランニングのおかげで、使い勝手は抜群に向上。例えば階段下収納は外部からもアクセスできる扉を計画。管理人と顔を合わさずに備品などのやりとりができるようにした。また、唐紙を貼った玄関収納はシーツなどがストックできるゆとりと容量を確保している。

ゲストたちが気兼ねなく過ごせる工夫もある。玄関からだけでなく、1階の洗面脱衣室を抜けても、そのまま海に出られるという。
「1階と2階それぞれで過ごす皆さんが同じ行動をするわけでもないですし、自由に楽しんでいただきたかった」と島﨑さん。

これだけの細やかなプランニングができるのも、別荘に対する経験が豊富かつ、貸別荘の管理運営までやっているからこそだからだといえる。別荘としての暮らしやすさを重視し、メンテナンスのしやすさや、不在時に室内が荒れないための工夫もしっかりと配慮するという。

さらに、南房総が島﨑さんの地元だということも大きい。海沿いだからこその課題を熟知しているのだ。「植栽なども、きちんと対処しなければすぐに枯れてしまいますから」と話す。普段は遠い場所で暮らすお施主さまには想像できないことを、丁寧にカバーする。「南房総で別荘を建てるならSALab.に依頼したい」とお施主さまが見極められた理由も、そこにあるのだろう。

別荘について、設計から管理運営まで全てを任せられるならばこんなに心強いことはない。これからも貸別荘としての「AWAKA」に訪れ、居心地のよさや絶景の虜になる人が絶えず生まれるに違いない。それはお施主さまにとって、また建物においても、きっととても幸せなことだ。



撮影者:河田弘樹
  • 2階寝室。壁面にエアコンを隠し、コンパクトな空間をすっきりと整えた。高級感あるベッドは造作。別荘らしい非日常感を味わえる。東側に計画した窓から朝日が優しく射し込み、気持ちのよい朝を迎えられそう

    2階寝室。壁面にエアコンを隠し、コンパクトな空間をすっきりと整えた。高級感あるベッドは造作。別荘らしい非日常感を味わえる。東側に計画した窓から朝日が優しく射し込み、気持ちのよい朝を迎えられそう

  • 2階和室。縁には殴り加工を施した。ぼこぼこした床は表情があり美しいだけでなく、足触りもよい。画像右奥、襖紙には青海波の文様が入っている。その左、ニッチのタモ玉杢の柄も含めて和室には「波」を感じさせるモチーフを多く取り入れた。海が室内にも入ってきたよう

    2階和室。縁には殴り加工を施した。ぼこぼこした床は表情があり美しいだけでなく、足触りもよい。画像右奥、襖紙には青海波の文様が入っている。その左、ニッチのタモ玉杢の柄も含めて和室には「波」を感じさせるモチーフを多く取り入れた。海が室内にも入ってきたよう

  • 1階洗面脱衣室。1階は2階と対照的に暗めの色を取り入れ落ち着いた雰囲気。奥のウッドデッキからはそのまま海へ進むことができる。ゲストが自由に過ごせるための工夫が要所要所に感じられるのも、経験豊富な島﨑さんが手掛けるからこそ

    1階洗面脱衣室。1階は2階と対照的に暗めの色を取り入れ落ち着いた雰囲気。奥のウッドデッキからはそのまま海へ進むことができる。ゲストが自由に過ごせるための工夫が要所要所に感じられるのも、経験豊富な島﨑さんが手掛けるからこそ

  • 1階ゲストルームには日本古来のモチーフである丸窓を取り入れた。コンセプトである「和のリゾート」を表現するとともに、その窓から見えるのは和の庭園ではなく南国の雰囲気に満ちたヤシが植わった庭とするなど、ユニークさもプラス

    1階ゲストルームには日本古来のモチーフである丸窓を取り入れた。コンセプトである「和のリゾート」を表現するとともに、その窓から見えるのは和の庭園ではなく南国の雰囲気に満ちたヤシが植わった庭とするなど、ユニークさもプラス

  • 1階ゲストルームでは、2階とはまた違う表情の海を眺められる。全体的に暗い色を取り入れたほか、2階の和室とは畳の色合いも変えたと島﨑さん。背面には丸窓。庭を楽しみたい日はお施主さまもこの空間でお過ごしになられていたとのこと

    1階ゲストルームでは、2階とはまた違う表情の海を眺められる。全体的に暗い色を取り入れたほか、2階の和室とは畳の色合いも変えたと島﨑さん。背面には丸窓。庭を楽しみたい日はお施主さまもこの空間でお過ごしになられていたとのこと

  • 2階浴室。石やタイルなどの素材はお施主さまの要望に沿って選んだ。壁一面を開口し、絶景に包まれるような感覚で入浴できる贅沢空間を実現。面積も広く、家族風呂としての使用もできる

    2階浴室。石やタイルなどの素材はお施主さまの要望に沿って選んだ。壁一面を開口し、絶景に包まれるような感覚で入浴できる贅沢空間を実現。面積も広く、家族風呂としての使用もできる

基本データ

作品名
AWAKA
所在地
千葉県 館山市
家族構成
夫婦+母
敷地面積
672.16㎡
延床面積
173.29㎡