パーゴラ、円形の吹抜けリビング…。
ホテル以上にくつろげる、リゾート風邸宅

オン・オフの切り替えができる住まいを望んだ施主さまに、ホテルのようなリゾート風の邸宅を設計したのは、東京・世田谷に事務所を構える株式会社フレイム。玄関を入る前からくつろぎの時間が始まる、上質な空間づくりのポイントを聞いた。

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住まいを豊かにするポイントは、
「心の転換スペース」にあった

仕事場の建物を増築し、自邸をつくることになったFさまご夫妻。仕事や子育てで多忙な日々を送るご夫妻が望んでいたのは、「オン・オフの切り替えができる家」。しかし、増築なので仕事場と住空間の移動距離はごくわずか。そのため、設計を担当した株式会社フレイムの小俣忠義さんと金子有太さんは、豊かな「心の転換スペース」のある家づくりにこだわった。

「もちろん、住まいがくつろげる空間であることは不可欠です。でも僕らは、そこに行くまでの空間体験が寂しいと、魅力が半減すると考えています」と小俣さん。例えば、風情あふれる和風旅館。道路からいきなり入るのと、しっとりとした露地を通って入るのとでは、心の落ち着き具合も幸福感も全く違う。それと同じことが住宅でもいえるという。

この考え方が表現されている場所の1つが、玄関へのアプローチだ。F邸は敷地に入ると手前に仕事場があり、住まいの玄関はパーゴラが連なる長いアプローチの奥にある。このアプローチを進むうちに湧いてくるのは、心のゆとりと贅沢感。連続するパーゴラが「先へ先へ」と進みたくなる心理的な効果ももたらし、家に入るまでに自然と気分が切り替わる。

だが、F邸の敷地は約660坪。これだけ広いからこんなに素敵な空間ができたのでは? と穿った見方もしたくなる。すると、「僕らは都市部の狭小地でも豊かなアプローチづくりを大切にします。F邸も、仕事場と自邸をつなぐ日常使いの渡り廊下は短いですが、両サイドに中庭を設けて心の転換を図りました」と金子さん。

いわれてみるとF邸の渡り廊下はほんの1~2mだが、ガラス越しの庭のおかげで瞬時に仕事の緊張感がほぐれていく。フレイムの2人の「住空間へのプロローグの演出力」は、敷地の大小に左右されることがないのだ。
  • 円形の吹抜けリビングからウッドデッキに出ると、川沿いのガーデンにつながる。F邸にはコンパクトな中庭を含め5つもの庭があり、どこにいても屋外とのつながりを感じられる

    円形の吹抜けリビングからウッドデッキに出ると、川沿いのガーデンにつながる。F邸にはコンパクトな中庭を含め5つもの庭があり、どこにいても屋外とのつながりを感じられる

  • 自邸玄関に続くパーゴラのアプローチは青空と植栽に彩られ、リゾート感たっぷり。いきなり玄関があるのではなく、住まいへの序章ともいえるこうした空間を経ると気持ちが和らぎ、オン・オフを自然に切り替えることができる

    自邸玄関に続くパーゴラのアプローチは青空と植栽に彩られ、リゾート感たっぷり。いきなり玄関があるのではなく、住まいへの序章ともいえるこうした空間を経ると気持ちが和らぎ、オン・オフを自然に切り替えることができる

  • パーゴラのアプローチの先には、ルーバーと石畳で仕上げられた玄関ポーチが。ここで写真左手に折れて玄関扉にたどり着く動線が、くつろぎの自邸への期待を高める

    パーゴラのアプローチの先には、ルーバーと石畳で仕上げられた玄関ポーチが。ここで写真左手に折れて玄関扉にたどり着く動線が、くつろぎの自邸への期待を高める

「ホテルよりくつろげる」
デザイン性が高く、遊び心もある住まい

邸内はどのスペースも広々とした贅沢な造りだが、広過ぎるがゆえの所在なさは皆無だ。小俣さんと金子さんは内装や目線・動線の向きに変化をつけ、「ある程度、囲われていた方が落ち着くので」と、石壁やルーバーを使ってスペースごとにほどよい「囲われ感」も創出。各所で異なる居心地を楽しみつつ、ゆったりと過ごせる住まいをつくり上げた。

中でも1階LDKのリビングは、円形の吹抜けという大胆なデザイン。ほかのスペースとは一味違うやさしい曲線と高い天井がホテルのロビーを思わせ、ダイニングやキッチンとつながりながらも、くつろぎの場として適度な独立感がある。

そしてLDKの中央には、2階へ続くリビング内階段。階段途中にはオープンな中2階が設けられ、本棚や椅子も置かれている。「パブリックなLDKからプライベートな2階の寝室・個室へ向かう際、こういう空間を通っていくと気分が切り替わると思うんです」と金子さん。遊び心が息づくこの空間も、フレイムの2人が大切にする心の転換スペースなのだ。

川沿いに立つF邸はただでさえ明媚な水の景色に恵まれているが、邸内には中庭が複数あり、至るところで自然を感じて心が和む。さらにはシアタースクリーンを備えたゴルフ練習スペースなど、好きなことに没頭できる空間まである。

Fさまは家族旅行でリゾートホテルに滞在した際、「自宅の方がくつろげる」と感じたという。気持ちが休まり、決して飽きることがないラグジュアリーな魅力にあふれたF邸は、まさにホテル顔負けの邸宅といえるだろう。
  • 1階LDKの中央に位置する中2階。写真奥のリビング側は石壁で仕切られているが、ほかの面は壁がなく、家族の気配もわかるほどよい「こもり感」が魅力。ワインが好きなご夫妻のために、段差を活かしてワインセラーも設置した

    1階LDKの中央に位置する中2階。写真奥のリビング側は石壁で仕切られているが、ほかの面は壁がなく、家族の気配もわかるほどよい「こもり感」が魅力。ワインが好きなご夫妻のために、段差を活かしてワインセラーも設置した

  • 1階リビング。ただ広いだけの無表情な空間にならないよう、木、石、ガラスと、異なる素材を組み合わせ、飽きずに落ち着ける空間に仕上げた

    1階リビング。ただ広いだけの無表情な空間にならないよう、木、石、ガラスと、異なる素材を組み合わせ、飽きずに落ち着ける空間に仕上げた

ベテランの知見と若手の感性。
幅広いニーズに応える最強タッグの家づくり

小俣さんと金子さんはリビングなどのスポットの魅力にとどまらず、空間に入るまでのプロセスも大切にする。その姿勢は設計スタイルにも反映され、依頼を受けたらフレイムと施主それぞれに、検討履歴を記録するノートを用意。今後はクラウド管理など運用の進化を目指しているというが、いずれにせよ施主としっかりプロセスを分かち合い、納得の家づくりができるようにしている。

ところで、フレイムは建築家2人がタッグを組む事務所だが、小俣さんと金子さんはこうした体制の事務所に多く見られる「同年代もしくは師弟」という関係性ではない。

実は、これがフレイムの大きな強み。小俣さんは建築家として30年以上のキャリアをもち、地元のまちづくりにも協力している実力派。小俣さんより2まわり年下の金子さんは、フレッシュな感性をもつ若手建築家。経験値に差はあるが、「プレゼンの際は各々にプランをつくり、2人で社内コンペを行います」と金子さん。取材中のコミュニケーションでも、小俣さんは懐が深く、金子さんは謙虚ながらも物怖じせず、互いをリスペクトする理想的な関係性が見えてくる。

小俣さんはいう。「実績や人脈など、金子にないところは僕がもっているし、逆も然り。そのへんを認め合うということなんだと思います」。ベテランの知見と若手の感性が融合するフレイムは、ある意味、最強。絶妙なバランスのマルチな建築事務所が手がける家が、多くの施主に支持されていることはいうまでもない。
  • 1階LDK。写真左がダイニング、右はキッチン。奥にはリビング、正面のルーバーの先には中2階が見える。キッチン&ダイニングは北欧風のタイルや天然木をあしらい、視線が通るルーバーで適度に仕切ることで、つながりを保ちつつもそれぞれの空間の落ち着きを生み出している

    1階LDK。写真左がダイニング、右はキッチン。奥にはリビング、正面のルーバーの先には中2階が見える。キッチン&ダイニングは北欧風のタイルや天然木をあしらい、視線が通るルーバーで適度に仕切ることで、つながりを保ちつつもそれぞれの空間の落ち着きを生み出している

  • 1階キッチン&ダイニング。キッチンカウンターの腰壁は、上部を手前に倒してテーブルにすることもできる。キッチンの奥に見えているのは邸内に複数ある中庭の1つ。その先にはゴルフ練習スペースがある

    1階キッチン&ダイニング。キッチンカウンターの腰壁は、上部を手前に倒してテーブルにすることもできる。キッチンの奥に見えているのは邸内に複数ある中庭の1つ。その先にはゴルフ練習スペースがある

  • 1階キッチンからの眺め。ダイニングだけでなく円形の吹抜けリビングも見通せて、青空や屋外の景色を眺めながら料理ができる

    1階キッチンからの眺め。ダイニングだけでなく円形の吹抜けリビングも見通せて、青空や屋外の景色を眺めながら料理ができる

撮影:新澤一平

基本データ

施主
F邸
所在地
群馬県太田市
家族構成
夫婦+子供1人
敷地面積
2182.48㎡
延床面積
699.87㎡
予 算
5000万円台