何かが違う…。何が違う?
木造に見えない、上質モダンな木造住宅

「木造に見えない木造住宅」という施主のリクエストに応え、まるでRC造のようにモダンな住宅をつくった建築家の八田政佳さん。どんな希望も全力でかなえようとする設計姿勢、技術・デザインの引き出しの多さで人気を博す八田さんの家づくりの魅力とは?

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どこまでもすっきりと、シャープに。
RC造のようにモダンな木造住宅

「RC造の住宅」と聞くと、耐久性の高さに加え、洒落たデザインの高級住宅……といった意匠の魅力を思い浮べる人は多いのではないだろうか。実際、RC造は木造に比べデザインの自由度が高く、モダンな印象の建築が多い。

木造でもモダンな住宅はあるが、どうしても「木造感」がどこかに残る……と思っていたら、究極にシャープな木造住宅をつくった建築家がいた。八田政佳建築設計事務所の八田政佳さんだ。

千葉県船橋市の住宅街に立つI邸は、八田さんが設計した2階建ての木造住宅。施主さまはご夫妻と小学生のお子さま1人の3人家族である。

デザイン性の高い住宅を希望していたIさまが、開口一番に八田さんに伝えたのは「木造に見えない木造住宅にして欲しい」というリクエスト。このお題に対し、どんな思考を巡らせたのかを八田さんはこう振り返る。

「最初に考えたのは、“木造らしさ”。木造らしさを消せば、ご要望に沿う住宅になるのでは?と思ったからです」

完成したI邸は、全面が大判タイル張りの高級感あふれる住宅だ。フラットな屋根や正面の袖壁など、RC造を思わせる外観デザインが目を引き、「木造住宅に見えない木造住宅」を見事に体現している。

しかし、なぜI邸は木造に見えないのか。何かが違うことはわかっても、それが何なのか、素人が見抜くのは至難の業だ。すると八田さんは「マニアックなこだわりの積み重ねなんです」と笑いながら、実に興味深い工夫とこだわりを教えてくれた。
  • 中央の袖壁が四角い外観に表情を添え、オリジナリティのある佇まいとなった。袖壁の右は玄関ポーチ。玄関ポーチの大きな庇は肉眼でわからないほどゆるやかな勾配で水はけを確保し、フラットですっきりとしたデザインに仕上げている

    中央の袖壁が四角い外観に表情を添え、オリジナリティのある佇まいとなった。袖壁の右は玄関ポーチ。玄関ポーチの大きな庇は肉眼でわからないほどゆるやかな勾配で水はけを確保し、フラットですっきりとしたデザインに仕上げている

  • 夜は植栽に仕込まれた照明がタイル張りの外壁に草木のシルエットを映し出し、しばし眺めていたくなる美しさ

    夜は植栽に仕込まれた照明がタイル張りの外壁に草木のシルエットを映し出し、しばし眺めていたくなる美しさ

プロの視点と対処法で、
木造らしさを消した3つのポイント

「木造に見えない木造住宅」をつくるには、木造らしさを消せばいい──。その発想で昨今の木造住宅を分析し、八田さんが考えた木造らしさは次の3つだった。

1つは、「勾配屋根」。RC造住宅の屋根はフラットで、ナナメの屋根は非常に少ない。そのためI邸では、屋根はもちろん玄関ポーチの庇も肉眼ではわからないほどの勾配で水はけを確保。勾配屋根のない整形の住宅に仕上げ、RC造らしさを生んでいる。

2つ目は「外壁と同面のサッシ」だ。いわれてみると、RC造の住宅では窓が奥まったデザインをよく見かける。そこで、I邸では道路側の外壁の一部を凹まして、凹んだ部分に窓を設置した。

3つ目は「土台水切り」。これは建物の土台となる木材に雨水が侵入しないよう、外壁の最下部に取り付ける金具。八田さんはこの点も、「外壁は大判タイルをたくさん張りたい」というIさまの要望もくみ取って、全面タイル張りが可能な金属構法を取り入れることでクリア。雨水侵入防止や床下換気に配慮しつつ、タイルを地面まで張り伸ばした。

少し補足すると、接着剤で大判タイルを張る場合、落下リスクを考慮して、木造住宅では一定の高さまでしか張れない製品がほとんどなのだという。しかしI邸のように、外壁に取り付けた金属レールにしっかりとタイルを留め付ける金属構法なら高い位置もOK。全面タイル張りが可能になる。

3つのポイントは高度な知識と技術を要することばかりだが、「僕が大切にしているのはどんなことでもあの手この手で考え抜き、ご要望をかなえる。それだけです」と八田さん。

実は、前述の金属構法のコストは一般的な接着剤使用の場合の約4倍。高額なので八田さんも普段は提案しないが、デザイン性を重視するIさまに選択肢の1つとして提示したところ「それでもやりたい」とおっしゃったのだという。

八田さんは「施主さまが選べることを大事にしたい」と話す。自分のアイデアや、専門的な視点でどれだけこだわったかを決して施主に押し付けない。要望に沿いながら常に「選ぶ自由」を提供し、きっちりと結果を出す。そんな設計スタイルも、八田さんが多くの施主に支持される理由なのだろう。
  • 玄関ホールに入るといきなり「白の世界」に引き込まれ、美術館か高級アパレルショップに足を踏み入れたような錯覚を起こす。正面には浮遊感のあるオブジェのような階段。写真手前右の壁は少し厚みをもたせ、間接照明を入れている。おかげで玄関土間もすっきり洗練された印象に

    玄関ホールに入るといきなり「白の世界」に引き込まれ、美術館か高級アパレルショップに足を踏み入れたような錯覚を起こす。正面には浮遊感のあるオブジェのような階段。写真手前右の壁は少し厚みをもたせ、間接照明を入れている。おかげで玄関土間もすっきり洗練された印象に

  • 段差がゆるやかな階段で、玄関ホール全体がゆったりとした雰囲気に。階段沿いは隣家と視線がぶつかる部分だけ壁があり、上下は大きなガラス窓。吹抜け上部から明るい陽光が入ってくる。階段下は窓越しの庭と同じ白い砂利石が敷かれ、屋外とのつながりを感じられる

    段差がゆるやかな階段で、玄関ホール全体がゆったりとした雰囲気に。階段沿いは隣家と視線がぶつかる部分だけ壁があり、上下は大きなガラス窓。吹抜け上部から明るい陽光が入ってくる。階段下は窓越しの庭と同じ白い砂利石が敷かれ、屋外とのつながりを感じられる

  • 玄関ホールの階段側から玄関を見る。玄関ドアの左、壁の上の窓から漏れる光は中庭からの自然光。I邸は勾配のある敷地形状を活かしたスキップフロアで、写真左の階段をのぼった通路の先にLDKが広がる

    玄関ホールの階段側から玄関を見る。玄関ドアの左、壁の上の窓から漏れる光は中庭からの自然光。I邸は勾配のある敷地形状を活かしたスキップフロアで、写真左の階段をのぼった通路の先にLDKが広がる

白い玄関ホールとホテルライクなLDK。
豊富な引き出しで希望をかなえる建築家

「木造に見えない」モダンなデザインは邸内にもおよぶ。

まず、強烈なインパクトがあるのが玄関ホール。広々した白い空間で目に入るのは屋外の緑、そして浮遊感のあるオブジェのような階段。白だけで構成されているが、微妙な色合いや素材の違いで不思議と表情豊か。ファッションでいえば上品なワントーンコーデ風で、美術館や高級アパレルショップを思わせる空間だ。

裏庭と中庭に面し、たっぷりの外光や緑に彩られたリビングダイニングは約30畳。床、天井、壁は外壁と同じ大判タイルや自然塗料の左官塗りで、こちらも素材の質感が美しい。

また、よくよく見ると照明器具の姿がない。Iさまの好みに合わせ、邸内のメインスペースは間接照明オンリー。柔らかく広がる光は空間の美しさを引き立て、高級感をランクアップさせている。

八田さんは細部も丁寧にデザインしていて、エアコンは目につかないようキッチンの天井裏に設置。ドア枠や巾木も目立たないように設計している。洗練を極め、心からくつろげるホテルライクなLDKは、そうした細やかな配慮の集大成なのだ。

とはいえ、八田さんは、決してデザイン至上主義の建築家ではない。

例えば巾木はないほうがすっきりするが、掃除機などがぶつかる衝撃や汚れから壁の最下部を守る重要な役割がある。だから八田さんは「なくす」という判断は絶対にせず、I邸では巾木が見えない入り巾木としている。

「性能を落としてまでデザインをよくしようとは思いません。住宅設計は芸術品をつくっているわけではなく、生活をつくるものだと思うので」

八田さんの話を伺い、過去作品も拝見して思うのは、建築技法やデザインの引き出しが非常に豊富だということだ。

たとえカッコよくても住みにくければ本末転倒。その点、どんな要望も知識とスキルをフル稼働して応えてくれる八田さんなら、間違いなくハイデザインで住みやすい家ができるだろう。I邸とは真逆な「木のぬくもりを感じる家」だって、びっくりするほど素敵につくってくれるに違いない。
  • リビングからキッチン、ダイニングを見る。間接照明のやさしい光で天井の美しい陰影が浮かび上がり、ホテルのラウンジのよう。写真左奥のタイル壁で囲われたスペースがキッチン。エアコンはキッチンの天井裏に設置し、LDK全体に空調が行き渡るようにしている

    リビングからキッチン、ダイニングを見る。間接照明のやさしい光で天井の美しい陰影が浮かび上がり、ホテルのラウンジのよう。写真左奥のタイル壁で囲われたスペースがキッチン。エアコンはキッチンの天井裏に設置し、LDK全体に空調が行き渡るようにしている

  • LDKの床、壁、天井は、外壁と同じタイルと自然塗料の左官塗りで仕上げ、上質素材の質感で高級感をアップ

    LDKの床、壁、天井は、外壁と同じタイルと自然塗料の左官塗りで仕上げ、上質素材の質感で高級感をアップ

  • 上品なマーブル模様のLDKの造作収納。ほか、I邸ではテレビ台も造作。いずれも取っ手をなくすなどディテールにこだわり、モダンな空間美をつくり上げている

    上品なマーブル模様のLDKの造作収納。ほか、I邸ではテレビ台も造作。いずれも取っ手をなくすなどディテールにこだわり、モダンな空間美をつくり上げている

間取り図

  • 1F 平面図

  • 2F 平面図

基本データ

作品名
西船橋の家
施主
I邸
所在地
千葉県船橋市
家族構成
夫婦+子供1人
敷地面積
332.87㎡
延床面積
208.11㎡
予 算
5000万円台