狭小地でも明るく広々。
木のぬくもりに包まれるカフェ風リビング

コンパクトな敷地で「広く感じられる家」をつくった建築家の吉田祐介さん。狭小地だからと安易に3階建てにせず、施主さまが好きなもの・好きなことを第一に考えたプランとは? 吉田さん独自の感性が光る、住む人の好みやライフスタイルを反映した家づくりを見てみよう。

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敷地条件・予算のバランスを取り、
「好きなもの」を最大限に楽しむプラン

還暦を過ぎ、長年住んでいた家を建て替えることにしたMさま。美術品のコレクションが趣味で、木のぬくもりを感じられるカフェ風の空間が好き。そんなMさまの目に留まったのは、独特の感性が光る家づくりで人気を博す建築家の吉田祐介さんだった。

「敷地は約19坪とコンパクト。加えて、以前のお住まいを建てたときから法律が変わっており、現行法では建築可能な面積が減ることは避けられませんでした」と吉田さん。「明るく、広く感じられる家」「木のぬくもりを感じたい」「美術品を飾りたい」というリクエストに応えるため、まず決めたのは建物を2階建てにすることだった。

「敷地がコンパクトな場合、3階建てにして延床面積を増やそうと考える方も多いでしょう。しかし、延床面積が増えればその分、費用も高くなります。Mさまは奥さまと2人暮らしなのでそこまでの広さは必要ないでしょうし、自然な木の素材感をお好みで、美術品を飾るスペースなども望んでいらっしゃいました。そこで、建物は2階建てにして延床面積を抑え、内装や美術品スペースにご予算を充てたほうがいいのでは、と考えました」

吉田さんはいつも、こんな風に予算とのバランスを考えながら「欲しかったもの」を一番いい形で提案してくれる。もちろん、Mさまもこの提案を気に入ってくださり、1階にご夫妻の個室と水まわり、2階にLDKというプランで家づくりがスタートした。

  • 2階LDK。手前のリビングは天井も壁も板張り。高い天井は3方向に勾配がついており、のびやかな開放感を生んでいる。対して、奥のキッチン・ダイニングは天井高を抑えて白壁とし、間仕切りを設けずに空間を分けている。ダイニング上部には左の梯子でのぼる収納スペースも

    2階LDK。手前のリビングは天井も壁も板張り。高い天井は3方向に勾配がついており、のびやかな開放感を生んでいる。対して、奥のキッチン・ダイニングは天井高を抑えて白壁とし、間仕切りを設けずに空間を分けている。ダイニング上部には左の梯子でのぼる収納スペースも

  • 2階リビング。明るい光が入るハイサイドライトと、最大3.3mの天井高で開放感たっぷり。中央のグレーのスレート部分はアートをディスプレイするニッチ棚。ダイニングからもリビングからもお気に入りのアートを眺めることができる

    2階リビング。明るい光が入るハイサイドライトと、最大3.3mの天井高で開放感たっぷり。中央のグレーのスレート部分はアートをディスプレイするニッチ棚。ダイニングからもリビングからもお気に入りのアートを眺めることができる

気になるかわいさのある佇まい。
仕切りを設けず「広く感じられる家」に

吉田さんが手がける家は、ふと足を止めたくなる不思議な「かわいさ」が魅力だ。完成したM邸も例にもれず、外観がすでにかわいい。薄いグレーのスレートと白のやさしい色合わせ、玄関ドアや軒天などに使った木材のブラウン。このバランスで、愛着の湧く親しみやすさと洒落た雰囲気を共存させている。

角地という立地を活かしたファサードも印象的だ。角の部分を切り取った玄関ポーチの前から全体を見ると、シンメトリーですっきりとしたデザイン。なのに、どこかぽてっとした愛らしさもあるのはいかにも吉田さんらしい。

そんなキュートな建物の中に、Mさまが望んだ「明るく、広く感じられる」空間はあるのだろうか? ちょっと疑問を抱きつつ2階に上がると、驚くほどのびやかな空間が広がっていた。まず、階段をのぼりきると正面にキッチン・ダイニング。左手には天井の高いリビングと畳スペースがあり、南の窓から明るい陽光が差し込んでいる。

「Mさまは木の素材感がお好きなので、リビングは小屋風にしてみました」と吉田さん。その言葉通り、リビングは天井も壁も板張りで、3方向に勾配がついた天井はとても高く、居心地のよいカフェを思わせるおおらかな空間。対してキッチン・ダイニングは天井高を抑えてあり、ベースカラーは白で統一。畳スペースはリビングより床が高く、内装テイストも全く違う。

実は、これは吉田さんの計算の1つ。狙いは空間ボリュームや内装を変えることでスペースを分け、間仕切りをなくすこと。天井の高さはそれだけで広がりを生むが、さらに仕切りがない大空間にすることで、コンパクトでも広く感じられる家を見事につくり上げたのだ。
  • 南西角地に立つM邸は、グレーの人工スレートと白壁、レッドシダーなどの木材を組み合わせた洒落た色使いが印象的。玄関は角地に配し、邸内に使いにくい凹みができないようにした。玄関ポーチの上部には三角形のバルコニー。すっきりシンプルな中に、愛らしさも感じさせる外観だ

    南西角地に立つM邸は、グレーの人工スレートと白壁、レッドシダーなどの木材を組み合わせた洒落た色使いが印象的。玄関は角地に配し、邸内に使いにくい凹みができないようにした。玄関ポーチの上部には三角形のバルコニー。すっきりシンプルな中に、愛らしさも感じさせる外観だ

  • 玄関を入ると美術品を飾る小さなニッチ棚がお出迎え。ペンダントライトはMさまがロンドンで購入したもの

    玄関を入ると美術品を飾る小さなニッチ棚がお出迎え。ペンダントライトはMさまがロンドンで購入したもの

  • 写真左、玄関ドアの脇にはガラスを入れ、たっぷり採光。上がり框はMさま所有の一枚板。奥は大容量の靴収納

    写真左、玄関ドアの脇にはガラスを入れ、たっぷり採光。上がり框はMさま所有の一枚板。奥は大容量の靴収納

照明や家具も気軽に相談。
建築家とともに家をつくる楽しさ

M邸は「美術品を飾りたい」という要望もかなえるため、ニッチ棚やディスプレイスペースが豊富に設けられている。中でも、リビングで最も目が行く場所にあるディスプレイスペースはギャラリーそのもの。グレーのスレートで煙突状にデザインした部分を彫り込み、小さなスポットライトも付いている。ほか、Mさまのコレクションは内装素材にも使われ、テレビ台や玄関ホールの上がり框にはMさま所有の一枚板を使用。照明もMさまが選んだものが多数用いられている。

注目したいのは、これらのMさまセレクトのアイテムと吉田さんがつくる空間が、とても好相性なことだ。吉田さんは内装の素材感や、光、動線、目線などにこだわり、Mさまの選んだものが映えるよう細やかに配慮。Mさまと吉田さんの絶妙なコラボレーションが、ギャラリーのように洗練され、カフェのようにくつろげるM邸を完成させたといえる。

「僕の設計は施主さまとの対話を重視して、ご要望やライフスタイルに合わせて提案していくスタイルです。Mさまも気になるものを見つけるとすぐに相談してくださり、その都度見せていただきながら空間を考えていきました。そうやって一緒につくり上げる過程も楽しんでいただけたらうれしいですね」と、ニコニコしながら語る吉田さん。

建築家というと、アーティスト的な気難しいキャラをイメージする人もいるかもしれない。でも吉田さんは、いい意味で、そんな敷居の高さを全く感じさせない人だ。それでいて、プロならではのアドバイスはきちんとくれる。建築家とともに家づくりを楽しみたい人にとって、願ってもないパートナーといえるだろう。
  • 2階リビングの脇にある畳スペースは、南の窓に面した明るい空間。近くに住むお孫さんが来ると、ここでよく遊んでいるそう。畳下には床下収納があり、スペースを有効活用

    2階リビングの脇にある畳スペースは、南の窓に面した明るい空間。近くに住むお孫さんが来ると、ここでよく遊んでいるそう。畳下には床下収納があり、スペースを有効活用

  • 2階の一角には、気軽に音楽を楽しめるピアノスペースもつくった。ここにもハイサイド窓があり、2階の採光は抜群。写真奥にはトイレがある

    2階の一角には、気軽に音楽を楽しめるピアノスペースもつくった。ここにもハイサイド窓があり、2階の採光は抜群。写真奥にはトイレがある

間取り図

  • 1F間取り図

  • 2F間取り図

基本データ

施主
M邸
所在地
東京都北区
家族構成
夫婦
敷地面積
61.63㎡
延床面積
83.18㎡
予 算
2000万円台