おうちでキャンプ気分。
土間を楽しむスキップフロアの家

土間のある家を得意とするコーデザインスタジオの小嶋直さんが、アウトドア好きのご一家に提案したのは、「土間でアウトドアグッズを普段使いする暮らし」。目からウロコの発想で、家族の楽しみも実用性も実現。土間を考えている人にぜひ見てほしい住宅だ。

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1階の約半分が土間。
大胆な発想で生まれたアウトドアリビング

コーデザインスタジオの小嶋直さんとの家づくりは、雑談に近いフランクな会話から始まる。もちろん間取りなどの話もするが、それよりは、好きなことやこだわりを共有し合う時間をたっぷり取るのが小嶋さんのスタイルだ。

Tさまご一家の家づくりもそうだった。まずはTさまの趣味や理想の暮らしについて思いつくまま話してもらい、小嶋さんも、日頃からストックしている住まいのアイデアをおしみなく伝える。小嶋さんはこの時間を「お互いに、好きなことをぶつけ合う時間です」と楽しそうに話す。

完成したT邸で最も個性的かつ魅力的なスペースは、1階の土間だろう。ご夫妻とお子さま1人という3人家族のTさまは、キャンプなどのアウトドアが大好きなご一家。そのため、事前の会話の中で「アウトドアグッズを収納できる土間があったらいいよね」といった話が出てきたのだ。

土間づくりはコーデザインスタジオが得意とすることの1つで、小嶋さんはこれまでにも、施主の暮らしに合わせたさまざまなタイプの土間を提案してきた。そんな小嶋さんがT邸につくった土間は、「アウトドアができる土間」。いったい、どんなスペースなのだろうか?

「アウトドアグッズを収納する土間という話が出たとき、それだとただの土間になるから面白みに欠けるかな、と思ったんです。だったら道具を片付けるのではなく土間に出しっぱなしにして、普段の暮らしで使っていただくのはどうだろう、と。いわば、毎日キャンプができるアウトドアリビングのような土間ですね」と小嶋さん。Tさまもこの提案を大いに気に入り、1階の約半分が土間という大胆な住まいがつくられた。
  • 道路から見るT邸。温熱環境を最適化するソーラーシステムを導入しており、太陽熱を得るために、南に下がる勾配屋根となっている。奥の玄関に続くアプローチは軒が大きく、小雨程度なら物干しなどが可能。駐車場はアプローチの横なので、雨天時も濡れずに車から邸内へ移動できる

    道路から見るT邸。温熱環境を最適化するソーラーシステムを導入しており、太陽熱を得るために、南に下がる勾配屋根となっている。奥の玄関に続くアプローチは軒が大きく、小雨程度なら物干しなどが可能。駐車場はアプローチの横なので、雨天時も濡れずに車から邸内へ移動できる

  • 南から見る外観。向かって右側が玄関。玄関扉は2枚の引き戸と1枚のドアで、間口がとても広い。玄関を入ったところは天井の高い大きな土間。玄関扉を全て開け放すと土間と屋外の一体感が増し、自然を間近に感じる半戸外空間に

    南から見る外観。向かって右側が玄関。玄関扉は2枚の引き戸と1枚のドアで、間口がとても広い。玄関を入ったところは天井の高い大きな土間。玄関扉を全て開け放すと土間と屋外の一体感が増し、自然を間近に感じる半戸外空間に

  • 土間の奥から玄関を見る。土間は1階の約半分ものスペースを取っており、Tさま所有の豊富なアウトドアグッズを「普段使いの道具」として置くことができる。板張りの壁(写真左)は棚板を自由に抜き差しできる造りで、お気に入りのアイテムを思い通りにディスプレー可能

    土間の奥から玄関を見る。土間は1階の約半分ものスペースを取っており、Tさま所有の豊富なアウトドアグッズを「普段使いの道具」として置くことができる。板張りの壁(写真左)は棚板を自由に抜き差しできる造りで、お気に入りのアイテムを思い通りにディスプレー可能

アウトドアグッズが彩る楽しいスペース。
半戸外でも暑さ・寒さ対策は万全

では、T邸にどんな土間ができあがったのかを見ていこう。T邸の玄関は、道路からのアプローチを進んだ敷地の奥にある。玄関扉は外壁沿いに引ききれる2枚の引き戸と1枚のドア。全開すると大きな道具もラクラク出し入れできる、かなり広い間口だ。

ここを入ると、1.5層分の天井高を取った開放感あふれる広い土間。その横はスキップフロアで1mほど上がったLDK。土間とLDKは「アウトドア」のテーマに合わせた特注のタープで仕切られ、タープを上げればLDKと土間、つまり1階全体が1つの大空間になる。

第2のリビングともいえる土間は、たたまずに広げた状態のアウトドアチェアが置かれ、ハンモック、造り付けのベンチなど、くつろげるスペースが盛りだくさん。板張りの壁は棚を自由に抜き差しできるようになっており、自転車やアウトドアグッズが店舗のようにディスプレーされている。

モルタル×木材×塗り壁の内装でインダストリアルな雰囲気をもつ土間は、Tさまの好きなミッドセンチュリーテイストのLDKとの相性もよく、アウトドアの要素と洒落たインテリアが見事に調和。土間の大きなハイサイド窓から入る南の日差しが空間全体を明るく照らし、とても気持ちがいい。

一方で、これだけ広い土間や大開口がある半戸外空間だと、暑さ・寒さといった温熱環境が気になるところ。だが小嶋さんはその点もぬかりない。夏は邸内の熱気を屋根から放熱し、冬は屋根で集めた太陽熱の暖気を邸内に行き渡らせるソーラーシステムを導入。自然の力で「夏涼しく、冬暖かい」が実現され、快適性でもパーフェクトな住まいとなっている。
  • 土間からLDK(写真奥)を見る。T邸はスキップフロアになっており、土間から1mほど上がったところがLDK。土間とLDKを仕切るタープを上げておくと1つの大空間として使用でき、リビングのソファや土間のハンモックといったくつろぎのスペースがゆるやかにつながる

    土間からLDK(写真奥)を見る。T邸はスキップフロアになっており、土間から1mほど上がったところがLDK。土間とLDKを仕切るタープを上げておくと1つの大空間として使用でき、リビングのソファや土間のハンモックといったくつろぎのスペースがゆるやかにつながる

  • ダイニング&キッチン。モザイクタイルがレトロな雰囲気を醸すキッチンカウンターは、手元が見えないよう高めに設置。床は濃いブラウンで塗装したオーク材。壁は天然素材のペンキ塗装。自然素材の質感が活きる内装で、ホッと落ち着ける空間になった

    ダイニング&キッチン。モザイクタイルがレトロな雰囲気を醸すキッチンカウンターは、手元が見えないよう高めに設置。床は濃いブラウンで塗装したオーク材。壁は天然素材のペンキ塗装。自然素材の質感が活きる内装で、ホッと落ち着ける空間になった

  • 2階への階段途中にあるロフトから土間全体を見渡す。天井が高く、南に上下2層の大きな窓を取った土間は、住宅なのにお店のようでもあり、倉庫のようでもあり、屋外のようでもあり、いるだけで楽しくなってくる

    2階への階段途中にあるロフトから土間全体を見渡す。天井が高く、南に上下2層の大きな窓を取った土間は、住宅なのにお店のようでもあり、倉庫のようでもあり、屋外のようでもあり、いるだけで楽しくなってくる

生活しやすく、実用性も高い間取り。
おおらかな空間で遊ぶように暮らす

T邸は思いきり「アウトドア」に寄せた個性的な家なのに、家族の居場所である土間とLDKを見渡せるキッチン配置、LDKの床下にある大容量収納など、生活しやすさへの配慮も行き届いている。

2階には寝室、水まわり、大きなファミリークローゼットのほかフリースペースも用意され、お子さまの成長に合わせて空間の使い方を変えることが可能。最上階には、多目的に使える大きなロフト。2階への階段途中にはスキップフロアの段差を活かした小さなロフトもあり、1階を見下ろす楽しい視界でパソコン作業などができる。こうした、実用性と遊び心が同居する空間は小嶋さんの設計の大きな魅力でもある。

とはいえ家中をぐるりと見まわしても、やはり、小嶋さんが得意とする土間のインパクトは抜きんでている。天気のよい休日は玄関扉を開け放し、やわらかな風を感じながらハンモックで本を読む。夕飯どきには同じく玄関全開のまま、土間にバーベキューコンロを出してキャンプ気分で魚を焼く。ホームパーティーの際は、土間のアウトドアチェアや造り付けのベンチでゲストと歓談……。

これらの生活シーンは全て、実際にTさまご一家が楽しんでいる日常だ。こうなってくると、もはや、どこまでが家でどこからが外なのか、どこまでが生活でどこからが遊びなのか、(いい意味で)わからなくなりそうだ。こんな毎日を送るT邸での暮らしは、楽しいに決まっている。
  • 冬は土間とLDKを仕切るタープを下げ、LDKの暖気を逃さないようにすることも可能。タープは小嶋さんが特注で用意。丈夫な帆布製で、テントの中にいるような気分を味わえる。LDKの床下の引き戸を開けると大容量の床下収納。日常使いしないアウトドアグッズをしまっておける

    冬は土間とLDKを仕切るタープを下げ、LDKの暖気を逃さないようにすることも可能。タープは小嶋さんが特注で用意。丈夫な帆布製で、テントの中にいるような気分を味わえる。LDKの床下の引き戸を開けると大容量の床下収納。日常使いしないアウトドアグッズをしまっておける

  • LDKの床下には、スキップフロアの段差を利用した大きな床下収納がある。Tさまは土間に出して使っているもの以外にも多くのアウトドアグッズを所有。場所を取る道具も、この床下収納に余裕で格納できる

    LDKの床下には、スキップフロアの段差を利用した大きな床下収納がある。Tさまは土間に出して使っているもの以外にも多くのアウトドアグッズを所有。場所を取る道具も、この床下収納に余裕で格納できる

  • 2階への階段途中にある、カウンター付きの小さなロフト。ここはパソコン作業などができる書斎的なスペース。1階を上から見下ろす位置にあり、秘密基地のようでワクワクする

    2階への階段途中にある、カウンター付きの小さなロフト。ここはパソコン作業などができる書斎的なスペース。1階を上から見下ろす位置にあり、秘密基地のようでワクワクする

間取り図

  • 配置図

  • 1F間取り図

  • 2F間取り図

  • ロフト間取り図

  • 断面図①

  • 断面図②

基本データ

施主
T邸
所在地
埼玉県川口市
家族構成
夫婦+子供1人
敷地面積
93.84㎡
延床面積
105.88㎡
予 算
3000万円台