
元に戻すのではない、進化させるのだ
古民家リノベの新機軸
古民家が生まれたときの原点に立ち返り、「本質」はそのままに、現代に生まれ変わらせたリノベーションの新機軸に迫る。
減築、ガラス屋根、高床
本質を捉えた大胆な手法
「まだ建築途上なのか?」「災害で屋根が飛ばされた?」と想像するが、近づいてみると
そうではないことに気づく。屋根はあった。むき出しに見えたのは、ガラスの屋根だったのだ。
この家をつくったのは、オリジナリティーにあふれた唯一無二の作品を数多く手掛けている、建築設計事務所 可児公一植美雪の可児さんと植さんの夫婦ユニット。
実はこの家、施主のKさん家族が代々住み続けてきた、築約120年の古民家をリノベーションしたもの。可児さん・植さんに相談があった当初は、子どもたちも巣立ち、60代を迎えた夫婦の終の棲家として建替えを考えているとのことだったという。
奥様には「大きい家は掃除も大変だし、コンパクトな家にしたい」「明るく、白い家に住みたい」という希望があり、それを叶える上での建替えだった。
「一方でご主人の方は『お母さんがそういうなら…』と、建替えには同意しているものの、どこか寂しそうで、この家を残したいという気持ちがあるのでは?と思ったのです」と可児さん。
そこで可児さんと植さんは、今ある家の良さを残しつつ、快適で現代的な生活を送れる、リノベーションを提案することに。リノベーションといっても、「外見はそのままに、内側を整える」で終わらせないのが可児さん・植さん流。この家ができた120年前の原点に立ち返り、その「本質」とは何かを問い、昔の姿をそのまま取り戻すのではなく、進化した形で蘇らせた。
リノベーションは「どこを残し、どこに手を入れるのか」が問われる。可児さんと植さんがこの家で残したのは、軸組までとした。
「この家は増改築が繰り返され、建築当初の潔さは失われていました。一方で、梁や柱などは、今ではなかなか手に入れるのが難しい立派な木材が使われていて、これは活かせると考えたのです」と可児さん。
「次に、空間に余白を取り戻すことが必要だと考えました」と植さん。この家の隣には、住戸や土蔵、倉庫などが建っており、敷地の割に建物が窮屈に並んでいた。それをアウトラインはそのままに、大胆に減築し、コンパクトで使いやすい住戸を出現させた。減築部分は、土間と板間という、外でもあり内でもあるユーティリティーな空間もできた。
「明るい」というリクエストについては、茅葺きトタンの屋根をガルバリウム鋼鈑に葺き替えその一部をガラス製にするという大胆なアイデアを採用。日本家屋の屋根の一部がガラスというと、奇抜なアイデアと感じるかもしれないが、考えてみると、今まで誰もやらなかっただけで、現代建築では天窓として広く使われている手法なのだ。
またこの家は、「湿気」という問題も抱えていた。実は家が建っている場所は僅かな窪地。そのため湿気が溜まりやすく抜けにくい土地だった。Kさんから直々に「湿気をなんとかしてほしい」というリクエストがあったほど。この問題に対しては、床を通常よりも50cmほど上げ、基礎から1mの高床とした。そうすることで、風の抜けをよくするとともに、湿気が貯まりにくい場所で生活を送れるようになったという。
住まいが変わると
暮らしが変わる、気持ちが変わる
「新しい家になってから訪れる人が増え、板の間でお話をするようになった」
「見に来る人もいて、誇らしい気持ちだ」
「縁側に椅子とテーブルを出して、コーヒーを飲むのが楽しい」などなど
そしてKさんからの「自分の家から見る景色がこんなにキレイだったとは思わなかった」という言葉が印象的だったと、植さんは語る。
高床にしたことで、前の家よりも50cmほど視界が高くなった。たった50 cm。実際には、目の前の景色は今までと変わってなどいない。しかし、新しく開放的で、湿気に悩まされないという暮らしが、実際の数字以上に気持ちを高みに持ち上げたのだろう。
住まいが変わると、暮らしが変わり、気持ちも変わるのだ。
可児さんと植さんがつくる建物は、どれも目を引くものばかりだ。ともすれば、デザインありき、見た目の派手さを重視していると捉えられかねないほど、個性にあふれている。
しかし、それは2人の建築の真髄ではない。2人は常に「本質は何か」を考えて設計を行う。施主からの要望、機能性、予算面といった複雑に絡み合う事情を、何が大事なことなのかを整理し、その解決方法を1つひとつ足し算で解決するのではなく、シンプルに解決する方法として生み出されるのが、個性的なデザインなのだ。その様子は「複雑な事象を解き明かす画期的な数式が、実は単純で美しいと感じるほどだ」ということに似ている。
「この物件の経験の中で、次の建築に活かしてみたい手法はあったか?」との問いに対して、可児さんは「ない」と答えた。そして「何かの焼増しのようにしたくないんです」と。
それは、2人の建築スタイルがその案件ごとに、その本質を見抜き、解決方法を1から探るからに他ならない。これまでの経験は、あくまでもアイデアのベースの1つとして生きることはあっても、「あのときのパターンを使おう」という発想はなく、一期一会の心境で取り組んでいるのだ。
なるほど、どうりでこれまでの2人の作品を見ても、1つとして同じテイストのものはないはずである。可児さんと植さんは、1つの型に縛られず、さまざまなパターンの建築を世に送り出せる稀有な建築家だ。そしてその価値は、数多くの受賞歴が証明してくれる。
その実力の根源には、可児さんと植さんがご夫婦の建築家ユニットであることが無関係ではないだろう。お2人は、お互いにそれぞれ1人で案件をこなすだけの実力者であるにも関わらず、どの案件も必ず共作するのだ。常に2人で意見を出し合うことで「こんな風にするのはどうだろう?」「こうしてみたら?」「こっちもアリだね」と新しいアイデアや違った角度からの意見が出て、プランがどんどんブラッシュアップされる。
そうして生み出された建物は、快適さとデザイン性を兼ね備え、住まう人の気持ちも変えてしまうような唯一無二のものとなる。
2人の化学反応は、可児さんと植さんにしかつくれない建物を今日も生み出し続ける。
間取り図
基本データ
| 作品名 | YUKISHIMO-K |
|---|---|
| 所在地 | 岡山県 |
| 敷地面積 | 914.3㎡ |
| 延床面積 | 115.55㎡ |
| 家族構成 | 夫婦 |
| 予算 | 2000万円台 |
設計者情報
この建築家が建てた家
この実例を見た人はこちらも読んでいます

七里ガ浜と大島を望むパノラマビュー。 海好き憧れの暮らしがここに
敷地は南に七里ガ浜の海を望む恵まれたロケーション。鎌倉に事務所を構える建築家の工藤宏仁さんはその贅沢な眺望の魅力を、設計の力で最大限に引き出した。耐震性能や土地の課題も見事にクリアし、施主の理想の暮らしをかなえた家づくりとは?

都内なのにまるで別荘!ケヤキの保存樹木を借景にした「外に開く家」
目の前に立つ東京都の保存樹であるケヤキの木を気に入り、土地を購入したというOさんご夫婦。お2人が夢見たのは「美しいケヤキの景色を生かした家」だった。この要望に見事に応え「外に開きつつ、外からは閉じる家」を設計したのが、一級建築士事務所プレイスの山本稚保子さんだ。Oさんご夫婦との二人三脚でつくりあげたという、理想の住まいを紹介しよう。

縦にも、横にも、上下にも広がる空間使い 敷地の周囲の緑を暮らしに取り入れた家
「どういう家なら楽しく住めるか」を考え、住むプラスアルファの要素を加え、他人に自慢できる家をと、常に住む人の暮らしのことや家づくりの満足度を意識しているという建築家の塚本さん。そんな塚本さんが設計事務所を起ち上げて最初の顧客となるM様邸は、敷地条件を生かしたコンセプトワークにも注目してほしい。

趣味を超えた工房と理想の間取り!4年の設計期間を経た納得の家
家で仕事をしていて家事もこなすTさん。これからずっと過ごす家をつくるなら、納得のいくものにしたいと細部までこだわり抜きました。その甲斐あって、趣味のものづくりに没頭できる工房、お気に入りの椅子が映えるリビングと、どこをとっても申し分のない理想の家になりました。

築15年の鉄骨造の家を大胆リフォーム。 森のような庭を楽しむための贅沢な住まい
洋風な外観、建売住宅を彷彿とさせるインテリアの築15年の家を、リフォームすることに決めたお施主さま。素材感が楽しめる、格調ある家にしたいと考え建築家を探し始めた。依頼を受けた傳寶さんは、お望み通りの品格ある佇まいの家と、豊かな庭を実現。居心地も含め全てが上質な家ができた。

まさか室内に水面!?震災に学んだ、住まいと自然の付き合い方
家の中にプール……ではなく、美しい水をたたえた“水盤”がある。一瞬度肝を抜かれるこの家は、建築家が自邸として建てたもの。さすがは斬新!と思いがちだが、決して奇をてらったわけではない。建築家が水盤を設けたのには、本人なりの強い想い入れがあったからだ。

100年の旧宅に出現! 驚きのエコ手法が生む、完ぺきな統一感
ぐるりと敷地を取り囲む古いお屋敷の塀の内側、もとは築100年以上の蔵が建っていたところに新しくできたのは、黒い焼き杉で覆われたモダンな家でした。室内は一面、同素材で統一された空間。柱から扉、家具に至るまで、同じ素材で統一されているのには、実は、大きな理由がありました。

次は夢の地下ゴルフ練習場?120%満足だから、また建てたい!
初めは家を買おうとしていた山田さんご夫婦は家を建てることになり、自分たちが住む家を考える機会に恵まれました。初めに描いた夢こそ実現しませんでしたが、ふりかえれば家づくりは楽しい時間でした。あれこれ考えて建てた家は自分たちの家だという実感がわきます。

1棟4役? 毎週3時間かけて通いたくなる 富士山の見える別荘
あるときは、家族が休日をのんびり過ごす別荘として。あるときは、社員の保養所・研修所として。またあるときは友人や取引先を招く迎賓施設として。さらには一人集中して仕事に没頭できるプライベートオフィスとしての顔をもつ建物。非日常の高級感と使いやすさを兼ね備えたセカンドハウスを作ったのは、建築家の牧野嶋さんでした。









