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70代での建替えに学ぶ!素材と採光で心地よい、がやっぱり大切

 退職をきっかけに築36年の家の建て替えを決めたIさん夫妻は70代。建築家の北川裕記さんは、これまでの夫妻のライフスタイルを大切にすべく、間取りは大きく変えずに素材や窓の工夫で快適さをグレードアップ。そして、どんな家に住むことが2人の今後の暮らしを充実させるのかを考えた。

自然素材の家で「持たない暮らし」を楽しむ

 時間に余裕が生まれて家づくりに専念できるタイミングを見計らい、奥さまの退職を機に築36年の住まいを建て替えることにしたIさん夫妻。建築家の北川裕記さんに提示された要望は、大きく分けて“快適な住み心地”、“耐震強化”、“バリアフリー”の3つだった。

 北川さんは、このうちの“快適な住み心地”の実現にあたり、Iさん夫妻の暮らしに対する合理的な考え方と向き合う。「Iさん夫妻が求めていたのはデザインより機能性。目新しさより慣れた家の住みやすさ。そこで、間取りはあまり変えずにこれまでの動線を守りつつ、採光や通風、建材などを工夫して、より快適に暮らせるよう考えました


 北川さんの言葉通り、完成したIさん邸は以前の住まいとほとんど同じ間取りと言っていい。大きく異なる点といえば、お子さんたちが独立して夫婦2人暮らしになったため、2階の個室を減らしたことくらいだ。

 一方で、内装材や窓の配置は熟考し、快適さをグレードアップ。窓は良好な採光と通風を目指し、すべての部屋に2面以上設けた。おかげで、どの時間帯もどこかしらの窓から光が入り、風も爽やかに室内を通り抜ける。

 床は国産スギのむく材、壁は火山灰を利用した自然素材を使った。「スギは適度な柔らかさがあり、素足で踏みしめたときの感触がいいんです。夏はさらりとした肌ざわりで、冬は冷たくならないので床材におすすめです」と北川さん。間取りはほぼ同じとはいえ、真新しいむく材が貼られた室内は心安らぐ木の香りに包まれ、新たな暮らしの始まりを物語る。

 収納の少なさも、Iさん邸の特徴だ。「私は京都出身で、部屋数が多く納戸や押入れがあちこちにある昔ながらの日本家屋で育ちました。そこで学んだのは、収納があればあるほどモノが増え、整理がつかなくなるということ。その反動で、いつからか『収納はできるだけ少なく』と考えるようになりました」と語るのは、Iさんの奥さま。「必要なものだけ持っていればいいし、必要なものは目につくところにあればいいと思っています。今で言うミニマリストですね(笑)」

 中でも、一般的には大容量収納が人気のはずのキッチンは、吊戸棚もなく実にシンプル。奥さまいわく、「既成のシステムキッチンは設備が多過ぎたので、不要と感じたものをなくしてもらったんです」。確かに夫婦2人暮らしなら、食器や調理器具は最低限揃えるだけで十分豊かな暮らしができるのだろう。

 南に位置するリビングの窓越しには、まだ更地のままの庭がある。取材時、1週間後にこの新居への引越しを控えていたIさん夫妻は、「何を植えようか考えているところです」と新生活が楽しみな様子。「以前の庭には夏ミカンの木があって、春になると妻がジャムをつくってくれました。美味しかったですよ。今度も、そんな季節感のある木がいいですね」と、嬉しそうに話してくれた。
  • 1階リビング・ダイニング/南に位置し、まばゆい自然光が燦々とそそぐ。以前とほぼ同じ間取りながら、国産スギのナチュラルな色合いのむく材で明るく爽やかな印象に。塗り壁は火山灰を利用した白洲そとん。調湿、吸臭効果がある

  • 1階畳コーナー/すっきりした暮らしを好みソファを置かないIさん夫妻だが、「お昼寝できる空間が欲しい」と、リビング・ダイニングの横に畳コーナーを設けた。コンパクトなため、収納の下に空きスペースをつくって男性でも足をのばせるようにしている

  • 1階畳コーナー/畳の下は収納になっている。以前は西に位置する奥の壁に大きな窓があったが、暑い西日を遮って明るさだけを得られるよう、ハイサイドの窓に変更した。対角の東側にもハイサイドの窓があり、風通しは極めて良好

人にやさしい家がいい。でも、バリアフリーはどこまで必要?

 自然素材の内装がぬくもりを醸すIさん邸だが、夫妻の希望で、コスト面では内装材よりも構造材に重きをおいている。もちろん、建て替えの目的のひとつであった“耐震強化”のためだ。屋根も重量が軽く耐久性の高いガルバリウム鋼板とし、さらなる耐震強化を図っている。

 将来のさまざまな可能性を見据えた“バリアフリー”は、北川さんが夫妻の意図を細やかに確認したことのひとつだ。「ひとくちにバリアフリーといっても、段差をなくす、水まわりや廊下を広くするなどいくつかの段階があります。完全なバリアフリーにすると居住空間の面積が減り、快適さが損なわれる可能性が高い。そうしたことも鑑みて仕様を考えていく方が現実的です。Iさん夫妻には、車椅子に頼らなくてはならないほど体が弱った場合でも、本当にこの家に住み続けるのかをあらためて考えていただきました」と北川さん。

 夫妻の答えは、「完全なバリアフリーにはしない」というものだった。結果、段差を極力減らし、トイレなどにゆとりを持たせたものの、廊下は車椅子でスムーズに動ける幅とはせず、必要があれば手すりをつけられる程度の広さとした。

 「一説によれば、老後に車椅子生活となる確率はかなり低いとも聞いたので」と、Iさん夫妻。完ぺきに準備を行い漠然とした不安を払しょくするか、適度な安心感を得ながらも現状の快適な暮らしを優先するかは人それぞれだろう。ただ、もしもの場合の選択をリアルにイメージすることは、住まいを通して大切にしたいものをじっくり考える機会になる。北川さんの問いかけを受けてIさん夫妻が出した答えは、これから新居で送る毎日をより充実させてくれるに違いない。


【北川 裕記さんコメント】
 自然素材を取り入れ、質感のほか調湿、吸臭面などで快適さをアップ。見た目的にもまったく印象の異なる空間になりました。耐震は構造材や軽量素材の屋根で対応。また、必要以上に窓をつくらず壁を残すことで、より地震に強い家としています。住宅密集地の場合は開口しても思うように光が入らない、外部の視線が気になるなどのハードルがあり、窓が多ければいいとも言えないんです。良好な通風、採光を守りつつ十分な耐震性を得られるよう、開口のバランスはかなり考えました。
  • 2階ご主人の寝室/奥さまの寝室を出てサンルームをはさんだところに、ご主人の寝室がある。写真の南の窓のほかもう一面に窓があり、2面採光で心地よい光が入る

  • 2階洗面室、トイレ/夫妻の寝室がある2階にも、洗面室とトイレをつくった。夜中にトイレに行きたいとき、その都度階段を下りずにすむ

  • 外観/道路に面した西から見たIさん邸。駐車場は来客のことを考え、2台分用意した。強い西日を遮り適度な光と風を採り込むハイサイドの窓があるのみで、通りを行く人から室内の様子がわかりにくいようになっている

撮影:アトリエあふろ(鈴木暁彦)

お家のデータ

家族構成
夫婦