おうち時間を便利に、豊かに。
家族が憩うリゾートヴィラ風の住まい

建築家の齋藤文子さんが手がけたS邸は、アジアンリゾートのヴィラを彷彿とさせるナチュラルで心地よい空間。光や緑を間近に感じ、家事効率もよい理想的な家だ。どんな要望に応えるときも、生活しやすさ・楽しさをプラスする齋藤さんの設計の魅力とは?

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木の風合いと緑に包まれる心地よさ。
ゆったりくつろげるヴィラ風リビング

3110ARCHITECTS一級建築士事務所の齋藤文子さんが設計したS邸は、自然豊かな庭園、大学、運動場などに囲まれた、都心の閑静な住宅街に立つ。施主のSさまは、ご夫妻とお子さま2人の4人家族。どこに行くにもアクセスがよく、子育てに適した静かで緑も多い環境を気に入って、この地に家を建てることにした。

完成したS邸は地下1階+地上2階建ての3層構造。最上階の2階をまるごと使ったLDKに入ると、一瞬にして、ここが東京の住宅街であることを忘れてしまいそうになる。

まず目を奪われるのが、屋根の垂木を現し(あらわし)にした開放的な山型天井。シックなウォルナット材を使ったダイニングの床は一段高くなっており、食事の時間が華やぐ特別感を演出する。一方、リビングは緑が広がる大きな窓に3方を囲まれ、屋外にいるような心地よさ。その先には青空と緑を望むテラスもある。

この雰囲気、何かに似ている……と思ったとき、奥さまはタイがとてもお好きで、アジアのリゾートヴィラのようなリビングを望んでいたと聞き、「それだ!」と納得した。齋藤さんはヴィラによくある木の天井や緑に包まれたリビング&テラスをつくり、おおらかな自然を感じるリゾート風の空間をデザインしたのだ。

まばゆい光や緑が気持ちいい開放的なLDKは、当然のことながら家族全員のお気に入り。お子さまたちはいつもリビングやテラスで元気に遊び、ご夫妻も家にいる時間のほとんどをLDKで過ごしているという。
  • 道路側の外観。建物の奥は地中に埋まっており、地下1階+地上2階の3層構造になっている

    道路側の外観。建物の奥は地中に埋まっており、地下1階+地上2階の3層構造になっている

  • 建物の1層目は奥のほうだけが地中に埋まった“地下”。1階の玄関は道路から階段をのぼってアプローチする

    建物の1層目は奥のほうだけが地中に埋まった“地下”。1階の玄関は道路から階段をのぼってアプローチする

人と人のふれ合いを生むプラン。
生活しやすい家事効率のよさも魅力

設計時に齋藤さんが意識していたことの1つに、家事のしやすさがある。共働きのSさまご夫妻は、仕事や子育てで多忙を極める方々。そういった家庭では、仕事と家事の両立が大事なテーマになるからだ。

中でも1階にある水まわりは、おそらく世の主婦が憧れてしまうスペースだろう。浴室前の洗面室をランドリールームに見立て、洗濯乾燥機置場や物干しバー、造り付けのアイロン台のほか、お風呂上がりに着る衣類用の造作収納まで設置。洗濯にまつわる「洗う・乾かす・畳む・しまう」の一連が、この場所で完結する。

キッチンまわりもいい。家事をしているときもお子さまの様子が視界に入る、キッチンからLDKとテラスを見通せるレイアウト。ダイニングの横には、家族の近くで仕事ができるワークスペースもある。

キッチンについては、「自然に人が集まるような場所になったらいいな、と思って」と齋藤さん。その言葉通り、キッチンまわりに居場所がたくさんあることもS邸の特徴だ。

窓際の収納棚は、大人が軽く腰掛けるのにぴったりの高さ。ワークスペースからダイニングまで延びた造作カウンターは、ダイニングの床が一段高い段差をうまく利用し、ワークスペースではデスクに、ダイニングではベンチになる設計。

ダイニングセット以外にこれだけ居場所があるとお子さまにとってもキッチンが身近になり、楽しみながら料理のお手伝いをすることも。ホームパーティーのときは、キッチンまわりでドリンク片手に雑談する和やかな時間が生まれている。

日々の暮らしや家事の流れを具体的にイメージし、気の利いたアイデアで生活しやすい家をつくるのは、自身も主婦である齋藤さんの得意分野。でも齋藤さんの設計の魅力は利便性だけではない。人と人のふれ合いを生む心のこもったプランニングこそ、齋藤さんがつくる家の大きな魅力といえるだろう。
  • 2階LDKのリビングスペース。大きく開けた窓に鮮やかな緑が広がり、屋外のようなすがすがしさ

    2階LDKのリビングスペース。大きく開けた窓に鮮やかな緑が広がり、屋外のようなすがすがしさ

  • 2階リビングからダイニングを見る。木の山型天井、段差のある造りなど、ヴィラ風の洒落た空間でくつろげる

    2階リビングからダイニングを見る。木の山型天井、段差のある造りなど、ヴィラ風の洒落た空間でくつろげる

  • 2階キッチンからの眺め。右奥のリビング、テラスまで見通せて、キッチンにいるときも、遊んでいるお子さまの様子がよくわかる

    2階キッチンからの眺め。右奥のリビング、テラスまで見通せて、キッチンにいるときも、遊んでいるお子さまの様子がよくわかる

条件・規制クリアもぬかりなし。
建売とは違う“オンリーワン”の家づくり

ところで、S邸を見て疑問に思うことがある。S邸は地下1階+地上2階建ての3層構造なのだが、道路から見ると地下っぽさがなく、普通の3階建てに見えるのだ。

この疑問を齋藤さんにぶつけてみると、「S邸の敷地は、道路から奥に向かって土地が盛り上がっている形状でした。なので道路側は普通に建物が立っていますが、奥の半分ほどは盛り上がった土地に埋まった“地下”なんです」との答え。

地上3階建てにすることができないわけではない。しかしそうなると、法規制のさまざまな制約が生じてくる。その1つが耐火規制に絡む「ナチュラルな木を多用した内装」だ。つまりSさまが望む「アジアンヴィラ風のリビング」にぜひとも欲しい、木の風合いを生かした天井をつくれなくなってしまう。

また、この土地は敷地の奥が北になるのだが、北側には斜線制限がある。南の隣地の採光を遮らないよう、建物の北側の高さを制限する法規制だ。S邸の敷地はこの規制が厳しく、地上3階建てにすると北側の天井がかなり低くなる。同じ3層の建物でも地下1階+地上2階建てにしたのはこれらの制約を回避するためで、要望・生活しやすさ・規制のバランスを熟考した結果なのだ。

さらにすごいのは、家の約半分を地下に埋めたことで生じた“室内の段差”をうまく活かしていることだ。LDKでダイニングとリビングの段差を利用し、ベンチなどの居場所を生み出したのもその一例。要望に応えるだけでなく、敷地形状を逆手に取って空間にプラスアルファの楽しさをつくる──。想像以上に考え抜いてくれている齋藤さんには、もはや頭が下がる思いだ。

S邸は、難解な条件や規制をクリアしながら「施主がどう暮らしたいか」を形にする、齋藤さんの思いと高度な設計力の賜物だ。そうして完成した家は文字通りの“オンリーワン”。最後に齋藤さんは、「施主さまごとに異なる要望や条件を反映した、建売とは違う住まいのよさを感じていただけたらうれしいですね」と、にこやかに語ってくれた。
  • 2階リビングとテラス。窓際にベンチがあるリビングは3面が窓で、抜群の開放感。齋藤さんは室内天井と同じレッドシダーを張った屋根をテラスにつくり、その屋根で家を支えるというアイデアで耐力壁を不要に。おかげで大きく窓を取ることができた

    2階リビングとテラス。窓際にベンチがあるリビングは3面が窓で、抜群の開放感。齋藤さんは室内天井と同じレッドシダーを張った屋根をテラスにつくり、その屋根で家を支えるというアイデアで耐力壁を不要に。おかげで大きく窓を取ることができた

  • 地下1階の書斎。広々したドライエリアから明るい光や風が入ってきて、気分よく過ごせる空間だ

    地下1階の書斎。広々したドライエリアから明るい光や風が入ってきて、気分よく過ごせる空間だ

  • 2階ダイニング。窓際の収納棚は大人がちょっと腰掛けるのにちょうどよい高さ。反対側の壁沿いにもベンチがある。キッチンまわりの居場所が豊富で、人が自然に集まるスペースになった。齋藤さんはアイデアあふれる造作家具が得意で、家具購入がほとんど不要な家をつくることが多い

    2階ダイニング。窓際の収納棚は大人がちょっと腰掛けるのにちょうどよい高さ。反対側の壁沿いにもベンチがある。キッチンまわりの居場所が豊富で、人が自然に集まるスペースになった。齋藤さんはアイデアあふれる造作家具が得意で、家具購入がほとんど不要な家をつくることが多い

撮影:新澤一平

基本データ

施主
S邸
所在地
東京都文京区
家族構成
夫婦+子供2人
敷地面積
89.28㎡
延床面積
142.9㎡