のびやかな空間で豊かに暮らす。
季節を感じ、夫婦がくつろげる住まい

「部屋数はあるけれど住みにくい」と、3階建ての建売住宅を建て替えたご夫妻の新たな家は、3つのテラスとロフトのある2階建て。空間ののびやかさ、季節を感じる心地よさ、使い勝手のよさまでパーフェクトな住み心地をかなえた新居には、設計を担当した齋藤文子さんの豊かな感性が活きている。

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2階建て+ロフト+3つのテラス。
2人暮らしにちょうどいい、ゆとりの空間

「19年暮らした建売住宅。でも、住み心地はイマイチ……」。ご紹介する家づくりは、ご夫妻2人で暮らす施主さまのそんな思いがきっかけだった。

住んでいたのは、約20坪の敷地に立つ3階建ての建売住宅。部屋数があっても2人の生活ではもてあますし、そもそも部屋数より空間の広がりを大事にしたい。いちいち階段を使うのも、年齢とともにおっくうになりそう……。

こうしたお悩みを解決すべく建て替えを決意したご夫妻は、3110ARCHITECTS一級建築士事務所の齋藤文子さんに設計を依頼。話を聞き、齋藤さんが提案したのは「ロフト付きの2階建て」。LDKは2階、寝室や水まわりは1階に配するプランだった。

よくあるプランのように思えるが、完成した住まいには、齋藤さんが得意とする「豊かな空間づくり」の魅力が随所にちりばめられている。

まず、2階をロフト付きにした理由を齋藤さんに聞いてみた。

「ロフトをつくると吹抜けができて、天井が高くなりますよね。このお宅のように20坪ほどの敷地の場合、ある程度天井を高くしたほうがおおらかな印象になります。また、南には光を遮ってしまう隣家があるのですが、天井が高ければハイサイド窓で高い位置から採光でき、十分な明るさを得られます」

ロフトは構造強化のためにL字型になっているが、齋藤さんはL字の一辺を収納に、一辺はカウンターを設けることでちょっと楽しい「居場所」にした。このカウンターは正面に屋外を望むハイサイド窓があり、視線を落とせばLDKを見下ろせる。どことなく秘密基地のようでもあり、大人でもワクワクする空間だ。

次に気になるのが、1階の南に1つ、2階の南と東に1つずつ、計3カ所に設けられたテラスだ。なぜ、テラスを小分けにしてつくったのだろうか?

「テラスを設けた南と東は隣家のある方角です。容積率いっぱいに住空間をつくるより、テラスで少し余白を設けるほうが、『お隣さんと離れている』という心のゆとりをもてます。同時に四季の移ろいを感じる光や風、視線の抜けといった心地よさも生み出します」と齋藤さん。

それだけでなく、洗濯物を干す、植物を置いて庭として楽しむなど、テラスごとに用途を使い分けることもできる。齋藤さんは「観葉植物の上に洗濯を干す」といった事態を避けられるよう生活の現実を十分にイメージし、心地よく暮らせることを何よりも大切にしているのだ。
  • 正面外観。隣家側に駐車場を取り、その一角を玄関に。車から邸内への動線がよく、荷物などを運びやすい

    正面外観。隣家側に駐車場を取り、その一角を玄関に。車から邸内への動線がよく、荷物などを運びやすい

  • 2階LDKはロフト付き。天井高約4mの大空間となった。写真奥には東のテラス、写真右手前には南のテラスがある。南は隣家が迫るが、ハイサイドの連続窓からたっぷり入る光で心地よい明るさに包まれている。ハイサイド窓の下はテレビ台や収納棚を造作したリビングスペース

    2階LDKはロフト付き。天井高約4mの大空間となった。写真奥には東のテラス、写真右手前には南のテラスがある。南は隣家が迫るが、ハイサイドの連続窓からたっぷり入る光で心地よい明るさに包まれている。ハイサイド窓の下はテレビ台や収納棚を造作したリビングスペース

  • 2階リビングからダイニングを見る。写真左は造作の収納棚。この部分は天井を下げ、その先にある南のテラスの軒裏と高さをそろえた。天井と軒裏は素材もそろえてあり、どちらもレッドシダー。室内からテラスまでが一直線につながるように見え、のびやかな印象に

    2階リビングからダイニングを見る。写真左は造作の収納棚。この部分は天井を下げ、その先にある南のテラスの軒裏と高さをそろえた。天井と軒裏は素材もそろえてあり、どちらもレッドシダー。室内からテラスまでが一直線につながるように見え、のびやかな印象に

  • 1階納戸。正面奥は引き戸を開けた寝室。納戸と寝室は出入口の位置をそろえてあり、スムーズに行き来できる

    1階納戸。正面奥は引き戸を開けた寝室。納戸と寝室は出入口の位置をそろえてあり、スムーズに行き来できる

楽しみから実用性まで、
豊かに暮らすアイデアが盛りだくさん

内装や細部のしつらえにも、「豊かな暮らし」を創造する齋藤さんならではのセンスが光る。

内装は白と木目を基調にしたナチュラルな仕上げ。2階は南のハイサイド窓の下にリビング、隣家のない西の窓まわりにはダイニングや造作カウンターを設け、気分に合わせて好きな居場所でくつろげるようにした。また、南のテラスに面したスペースは天井とテラスの屋根の軒裏を同じ高さにし、かつ、同じ木材で仕上げて「外とのつながり」を演出。空間をよりのびやかに感じられる。

1階の寝室は、「寝るだけのコンパクトな部屋ですが、自分の家らしさがあるとうれしいと思うので」と、天井の構造材の一部を見せてアクセントに。出入口の引き戸や壁の一部は黄色みのあるペパーミントグリーンで塗装し、表情のある空間に仕上げている。

心がほわっと温まる、小さな仕掛けもある。玄関を入ると、正面にコンパクトなディスプレー棚。階段の手すり壁にはかわいい小窓があり、いずれもお気に入りのアイテムを飾るのにぴったりだ。さらに、「垂れ下がる植物を置けるように」と、2階のロフトの手すりにも小窓を設置。ハンギンググリーンのような「垂れるグリーン」を気軽に楽しめるアイデアは、齋藤さんらしい遊び心といえるだろう。

造作収納など実用的なものの設計も丁寧だ。齋藤さんはいつも、施主さまの持ち物を大まかに確認し、どこに何をしまうか動線などもイメージしながら収納を計画する。この家では1階の寝室近くに造作棚をたっぷり設けた納戸をつくり、敷地の形状的にできてしまった三角形のスペースは、ハンガーパイプを付けて衣類用のクローゼットに活用。「三角形は収納ケースが収まりにくいから柔らかいものを」との説明には、主婦業もこなす女性建築家が建てる家の魅力を垣間見た気がした。

竣工後、「家でごはんを食べることが多くなった」という施主さまに招待された際は、ご主人が料理をふるまってくださったという。「以前はご主人がキッチンに立つのを拝見したことがなかったので驚きました」と笑顔で話す齋藤さんは、とてもうれしそうに見える。「心が豊かになる上質な住まいを提供したい」と、常に全力で施主さまと向き合う齋藤さんにとって、住む人のそんな変化は最上の喜びなのかもしれない。
  • 写真右の玄関を入るとすぐに2階への階段がある。LDKへの動線が良好で生活しやすい

    写真右の玄関を入るとすぐに2階への階段がある。LDKへの動線が良好で生活しやすい

  • ロフトのカウンターからの眺め。写真奥上部もロフトの一部。手すりの小窓からグリーンを垂らして楽しめる

    ロフトのカウンターからの眺め。写真奥上部もロフトの一部。手すりの小窓からグリーンを垂らして楽しめる

  • ご主人が読書などを楽しむという、ロフトのカウンター。ここに座ると正面にハイサイド窓があり、LDKも見下ろせて無条件でワクワクしてしまう。ロフトはL字になっており、写真奥まで続いている。奥には季節用の寝具など、普段使わないものを収納している

    ご主人が読書などを楽しむという、ロフトのカウンター。ここに座ると正面にハイサイド窓があり、LDKも見下ろせて無条件でワクワクしてしまう。ロフトはL字になっており、写真奥まで続いている。奥には季節用の寝具など、普段使わないものを収納している

撮影:新澤一平

基本データ

施主
O邸
所在地
埼玉県富士見市
家族構成
夫婦
敷地面積
67.5㎡
延床面積
66.17㎡