
居場所をデザインしたワンルームの大空間。
家族がゆったりくつろげる平屋の家
床の高低差や「座」の仕掛けで、
大きなワンルームに居場所をつくる
望んでいたのは、ご夫妻と小さなお子さま2人の4人家族がのびのび暮らせるワンルームの家。そこで、設計を担当した蘆田暢人建築設計事務所の蘆田暢人さんは、天井の高い平屋の住まいを提案。寝室以外の部屋はLDKだけで、ワンルームというAさまの要望にばっちり応えるプランだ。
しかし、「ただ広いだけの単調な空間はどこをどう使うか悩んでしまい、住み心地がいいとはいえません」と蘆田さん。空間には、「居場所」をつくるための何かしらの仕掛けが必要なのだという。
居場所をつくるために蘆田さんがA邸に施した仕掛けの1つが、LDKの一角にある小下がりだ。一部の床を低くすることで大空間をやんわりとスペース分けし、ホッと落ち着く居場所を生み出したのである。
小下がりの窓際には造り付けのベンチがあり、床はLDKの中で小下がりだけがカーペット。床の高低差によるほどよい独立感だけでなく、気軽に座れる「座」のスペースも用意され、ベンチで本を読んだり床に寝転がってテレビを見たりと、自由気ままにくつろげる。
この小下がりは場所もいい。LDKの南東角に位置し、南東2面は大きな窓。窓越しには庭代わりに使える広い外土間があり、その先は隣地の駐車場。窓を全開放しても外部の視線が気にならない。
屋根が外土間まで大きくかかり、外土間との一体感が高いことも小下がりの特徴だ。陽光や外気が心地いい外土間も住空間の一部のように感じられ、とても豊かな気持ちになる。
A邸のLDKはともすれば単調になりかねない大空間だが、所在なさはみじんもない。蘆田さんが生み出した小下がりという居場所が、ワンルームの開放感や一体感と心落ち着くくつろぎを両立し、抜群の住み心地を誇る住まいとなった。
アイデアと設計力が光るダイニング。
美しい現しの天井で、空間がますます豊かに
蘆田さんが住宅設計で大切にしていることの1つが、家族のコミュニケーションや心豊かな暮らしを生み出す「食卓の演出」だ。A邸でも、「食卓をどうつくるかには相当こだわりました」と蘆田さん。
キッチン&ダイニングは小下がり同様に床が低く、広いLDKの中で独立したスペースであることをさりげなく主張。造り付けのダイニングテーブルは、キッチン側は椅子、リビング側は床の段差を利用して掘りごたつのように座るスタイル。キッチン側の床が低いのでテーブルの高さが目立たず、LDK全体のすっきりとした印象が際立つ。
加えて、ダイニング上部のトップライトは空からの光がテーブルに落ちるように計算されており、特に朝は、すがすがしい朝日がダイニングを照らす最高のシチュエーションに。蘆田さんはこうした食卓演出で居場所を創出すると同時に、ワンルームの大空間に表情を添えている。
そしてもう1つ、ダイナミックな現し(あらわし)仕上げの天井も、大空間を豊かにしている立役者。
A邸の屋根はトップから4つの屋根面が伸びる方形屋根をアシンメトリーにしたデザインで、屋根面によって勾配や長さが異なる。そのため邸内で天井を見ると、垂木の傾斜や長さが4方向で微妙に違い、建築としての味わいや美しさを楽しめる。
……と、さらりと書いたが、アシンメトリーな方形屋根でこれだけ美しい現しをやり切るにはかなり高度な技術が要る。それでも、「大工さんの素晴らしい施工のおかげで、非常にきれいに仕上がりました」と蘆田さん。
蘆田さんはこんなことも話してくれた。「腕のいい職人さんは、つくることがお好きなんです。ですから僕も腕をふるっていただけるような設計をして、日本の建設業界の技術継承に貢献できたら……という思いもあります」
普通なら天井を張って隠す部分を見せる現し仕上げは、職人の腕の見せどころ。ハウスメーカーなどで建てた家ではまず見られないだけに、蘆田さんのような建築家が手がける注文住宅ならではの醍醐味でもある。建築家と職人が最高の仕事をしてつくり上げた家に住まう贅沢感は、蘆田さんに設計を依頼する大きな魅力といえるだろう。
変化を柔軟に受け入れる
「居場所をデザインした大空間」
ワンルームという要望に応えたA邸は、洗面・浴室、トイレなどの水まわりが道路側にまとまっており、その奥に広いLDKが配されている。道路から距離を取っているおかげで、LDKは安心してくつろげる快適なプライベート空間に。それでいて水まわりとキッチンの距離が近く、家事動線も良好だ。
また、現在のA邸で個室らしきものは奥の寝室だけだが、蘆田さんはAさまの意向に沿い、LDKの一部に壁を立てて2つの個室を設けられるように設計。お子さまの個室が欲しくなったときに対応できる可変性の高さもある。
折しもA邸が竣工したのは、コロナ禍で家での過ごし方が大きく変わった時期だった。家は単なる生活の場ではなく、仕事、食事、余暇など、あらゆるシーンの舞台になった。
A邸はそうした新たな住まい方においても、高いポテンシャルを発揮する。
蘆田さんはいう。「書斎、子ども室など用途を決めた部屋は、用途以外の使い方をしようとすると意外に使いづらいものです。その点、使い道を限定しない居場所がたくさんある住まいは過ごし方の自由度が高くなり、暮らしが豊かになるのではないでしょうか」
大空間をつくるときに大切なのは、「居場所をデザインした大空間」であることだ。A邸のように心地よさ・使いやすさをイメージし、居場所がしっかりとデザインされた大空間ならどこで何をするか住む人が創造でき、暮らしの楽しみやフレキシビリティがぐっと増す。
家での時間が長くなり、家に求められることが変化しつつある昨今。「居場所をデザインした大空間」は、これからの住まいのあり方の大きなヒントになりそうだ。
間取り図
基本データ
| 作品名 | 水戸市の家 |
|---|---|
| 所在地 | 茨城県水戸市 |
| 敷地面積 | 224.91㎡ |
| 延床面積 | 98.03㎡ |
| 家族構成 | 夫婦+子ども2人 |
| 予算 | 2000万円台 |
設計者情報
この建築家が建てた家
この実例を見た人はこちらも読んでいます

日当たり良好 さまざまな窓が生み出す 「開かれた家」の居心地の良さ
住宅の顔ともいえる窓は。窓の大きさや数、形によってその家の印象はもとより、暮らしやすさにも左右する重要なアイテム。大きな窓をはじめとした、さまざまな窓で、陽当りや開放感を実現し、居心地の良い家を作ったのは、伊藤明良一級建築士事務所の伊藤さん。つい長居したくなる、この家の秘密に迫る。

ここまで開放的な平屋だから、自然満喫と落ち着く空間を両立!
窓いっぱいに広がる高尾の自然の景色、家のなかを通りぬける気持ちのよい風。存分に自然を味わえる家は、建築家の望月さんが家族と暮らすならと考えて設計した理想の家でした。

オンオフがスムースでハッキリ!こんなオフィス兼用住宅が欲しい
Hさんご一家は「ご夫婦+お子様2人」の4人家族。長らく都内のマンションで暮らしてきましたが、お子様の成長に伴い居住空間が手狭になり、さらに、ご自身の仕事を集中して行える環境を自宅内に設けたいという思いから、一戸建てオフィス兼用住宅の新築を決意しました。

自分の「好き」を形にした 建築士の自邸兼アトリエ
イシマルデザイン一級建築事務所の岸絹子さんが、自身が設計した自邸兼アトリエ「福角の家」をつくったのは、今から4年前のこと。「自分が本当に好きなモノ、好きな空間」を形にしたというその家は、岸さんならではのセンスがそこかしこに溢れていました。

家族が集い、ご近所の輪も広がる 新しいコミュニティ型賃貸住宅
防災・防犯・子育てなどの面からコミュニティ形成への意識が高まっている昨今、地域住人との関りが希薄な賃貸住宅でも近隣住人との自然な交流を生み出そうとする物件がある。それが今回紹介する「MOB TOWN ミナミシモハラ」。‟賃貸でも自由に楽しく住む”をコンセプトに建てた井村さんならではの想いやこだわりに迫ります。

家の中に公園があるかのよう。 子どもがのびのび遊べる住まいのつくり方
ノアノア空間工房の大塚泰子さんがプランニングしたのは、敷地内の高低差を活かし、中庭を周遊しながら2階に上がっていくスキップフロアの家。大人が心地よくくつろげて、子どもはのびのびと育つ──。中庭はつくり方次第で暮らしの豊かさに大きな差が出ることを実感する、魅力的な住まいのポイントを聞いた。

密集地×狭小地でも抜群の開放感。 大人が憩える、土間と吹抜けのある家
横浜の高台に佇むF邸は、青空を望む吹抜け空間でゆったりとくつろげる住まい。建物に囲まれた狭小地で土地のポテンシャルを見抜き、大人が憩える快適空間をつくったBATTIRI DESIGN(バッチリデザイン)金刺久順さんの設計の魅力とは?

窓辺の光が宿る家 100年を経た古民家の再生
推定築100年以上の古民家のリノベーションを手がけた建築家・北村拓也さん。住まいを囲む下屋(げや)に着目し、雪国の知恵を現代の暮らしへとつなぐ魅力的な空間を完成させた。時間を重ねたものへの愛情と敬意を感じる北村さんならではのリノベを紹介。

東京・軽井沢の2拠点生活を満喫。緑に包まれたアウトドアリビングのある別荘
軽井沢に別荘を建て、東京との2拠点生活を計画していたAさま一家。設計を担当した奥野公章さんは、環境を読み解き快適な住まいをプランニング。高原リゾートの非日常感と、テレワークをしながらの日常生活、2つのライフスタイルを包み込む家が完成した。









