ホテルのような贅沢さに、毎日感動する。
20年後も、年を取らない家をつくる

建てたい家のイメージはあるのに、実現してくれる施工会社が見つからないという問題に直面する人も多いだろう。T様もその一人だったが、建築家の桑名さんと出会って状況が一変した。 要望の本質を探ることでイメージを的確に形にし、かつ、期待以上の魅力をプラスした桑名さんの家づくりを紹介する。

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実現は難しいといわれた家を
丁寧なプランニングで可能に

福島県福島市に事務所を構える、アーキトリップ建築設計事務所の桑名翔太さん。福島の住宅について伺うと「福島は庭付き一戸建てが多く、景観に対する家の比重が大きいのが特徴です。たとえば、家が1軒建て替わるだけでも、その街の風景が変わるなんてこともあります」と言う。

その桑名さんが、お施主であるT様より「周辺で見ないような、かっこいい家を」というご要望を受けて建てたのは、スタイリッシュなフォルムが印象的な家だ。家は中心にあるデッキテラスを囲むようにコの字型で構成され、テラスの奥にある大きな窓も目を引く。コの字の辺ごとに建物の高さも変わり、潔さのなかにこだわりが伺える。

家づくりについて、ご自分で調べたり考えたりするのがお好きだったというT様。ご自宅を建てるにあたり、すでに外観や間取りのイメージが固まっていた状態だったそうだ。そのイメージをもとに、多くのメーカーや工務店にあたってみるも難しいといわれることがほとんどだったころ、桑名さんと出会う。

T様がお持ちだった明確なイメージや要望を表面的に判断するのではなく、細やかにヒアリングを重ねた桑名さん。初回プレゼン時、要望の本質を掴み、それに基づいた提案を行う桑名さんのプランニングスタイルに、T様はほかの会社にはない魅力を感じたという。納得いくプレゼンをしてくれた桑名さんとならば、同じ目標を持って家づくりができるのではないかと正式に依頼することを決められたのだそうだ。

「他社からは、T様のイメージ通りにするのは構造的に無理だとか、この予算では難しいとおっしゃられていたと伺いましたが、一つ一つのご要望をより深く読み解いていけば、何か方法はあるのではないかと思いました」と話す桑名さん。T様が諦めかけていたという外観の雰囲気や大きな開口も、緻密なプランニングで見事に実現。T様イメージ通りの家ができた。
  • 洗練されたスタイリッシュなフォルムと大きな窓が目を引く外観。中央のデッキテラスを囲むように、ボリュームや高さを変えてコの字型に配置した。写真右に玄関、左に倉庫、中央にリビングがある。デッキテラスの上部は空いていて、室内に十分な日光が取り込める

    洗練されたスタイリッシュなフォルムと大きな窓が目を引く外観。中央のデッキテラスを囲むように、ボリュームや高さを変えてコの字型に配置した。写真右に玄関、左に倉庫、中央にリビングがある。デッキテラスの上部は空いていて、室内に十分な日光が取り込める

  • 家の北東には、ベンチを配置した。近隣の学校の通学路に面しており、「お子様たちが学校帰りにお友達とここで立ち話をするようになったらいいなと思っています」と桑名さん。建物側のコンクリート部分には、今後プランターや鉢を置き庭のようにする予定だとか

    家の北東には、ベンチを配置した。近隣の学校の通学路に面しており、「お子様たちが学校帰りにお友達とここで立ち話をするようになったらいいなと思っています」と桑名さん。建物側のコンクリート部分には、今後プランターや鉢を置き庭のようにする予定だとか

  • 玄関から屋内を見る。2階に上がる螺旋階段はT様のこだわりのひとつ。玄関の正面に窓があるため、家の向こう側まで視線が抜け、空間が広く感じられる

    玄関から屋内を見る。2階に上がる螺旋階段はT様のこだわりのひとつ。玄関の正面に窓があるため、家の向こう側まで視線が抜け、空間が広く感じられる

コンセプトは「ホテルライクな暮らし」。
常に美しく整う空間の秘訣は、素材と色調

T様が本当にこだわりたいことを丁寧に解き明かし、コンセプトを明確なものにすることからはじまったT邸のプランニング。T様がお持ちだった要望やイメージに対して「なぜ、このデザインがよいと感じられるのか」「どうして家の中にこの機能が欲しいのか」ということを深堀りし、その理由を探っていったのだそうだ。

「かっこいい」「スタイリッシュだ」という感覚的な部分をひも解いていくと、「帰宅したとき常に家が整っている」「経年変化を感じにくい建物にしたい」という具体的なイメージが見えてきた。加えて、細やかなヒアリングを通して得られたT様のライフスタイルなどを整理した結果、桑名さんが導き出した答えは「ホテルライクな暮らし」というコンセプトだった。今までバラバラだった要望が明確なコンセプトに向かってまとまったことで、プランニングがスムーズに進むようになったという。

象徴的なのはラグジュアリーな空間に仕上げたリビングだ。2階までの吹き抜けは開放感があり、その場に身を置くと得られるちょっとした緊張感も心地いい。日常と非日常、寛ぎと緊張感。その絶妙なバランスが、まさに「ホテルライク」な生活の場として機能している。

もちろん、そのバランスは桑名さんの緻密な計算によるもの。まず、室内空間はモノトーンで統一。白と黒の単純な組み合わせにも思えるモノトーン。しかし質感や、色調のバランスを考慮しないと、かえって落ち着かない印象になってしまうのだそうだ。「ホテルライク」な格調に合わせ、壁面は白、床は大理石風のPタイル、黒が基調のシステムキッチンで設えた。加えてインテリアにはどっしりとした黒い革張りのソファー、モダンなスタイルのダイニングテーブルを配置。「帰宅時に『高級感のあるホテルに来たようだ』と感じられることを10年後20年後まで保つには? と考えて選びました」と桑名さん。

一貫してつるりとした、テクスチャーが主張しない素材で構成されたリビングの中で、存在感を放っているのはテレビを設置した壁面だ。石調のタイルを配し、ここだけはごつごつとした質感が感じられるほか、色も黒と白の中間色であるグレーを持ってきている。素材感という点ではアクセントになるものを、それでいて色調という点からはコントラストを和らげる効果を同時に担っており、まさにプロの技。この壁面があるからこそ、室内に調和が生まれ、また高級感も一気に増しているのだ。

2階には6.2畳と3.2畳という大きなウォークインクローゼットを2つ配置。一般的なサイズ感を超えるクローゼットは、ラグジュアリーホテルのそれを彷彿させる。また、家中の物をほぼすべてここに収納し、生活空間をすっきり整えることで家全体にホテル感をもたらしている。
  • 玄関からリビングに続く廊下も、ホテルの廊下の雰囲気を重視した。優しいグレーの壁面が場の印象を和らげる

    玄関からリビングに続く廊下も、ホテルの廊下の雰囲気を重視した。優しいグレーの壁面が場の印象を和らげる

  • 1階吹き抜け、リビング。建物をコの字型に計画しデッキテラスを家の中央に設けたことで、リビングにいながら玄関の様子まで伺える。モノトーンでまとめられた室内は、高級感たっぷり。テレビの背面の壁面のみにごつごつとした質感を感じる石調パネルを配し、空間を格上げした

    1階吹き抜け、リビング。建物をコの字型に計画しデッキテラスを家の中央に設けたことで、リビングにいながら玄関の様子まで伺える。モノトーンでまとめられた室内は、高級感たっぷり。テレビの背面の壁面のみにごつごつとした質感を感じる石調パネルを配し、空間を格上げした

  • 1階リビング。床暖房を配し、大理石風のPタイルから受ける印象とは違い冬も温かな空間。吹き抜けのおかげで開放感があるのに加え、リビング裏の廊下や、画像右壁面の裏にある水回りまで視線が抜け空間をより広く認識できる。視線の抜けは、家族の気配を感じるためにも重要

    1階リビング。床暖房を配し、大理石風のPタイルから受ける印象とは違い冬も温かな空間。吹き抜けのおかげで開放感があるのに加え、リビング裏の廊下や、画像右壁面の裏にある水回りまで視線が抜け空間をより広く認識できる。視線の抜けは、家族の気配を感じるためにも重要

  • 1階脱衣室から浴室を見る。黒が多めのモノトーンでシックな印象

    1階脱衣室から浴室を見る。黒が多めのモノトーンでシックな印象

大きな吹き抜けをつくりつつ耐震性も保証。
家族が住む家だからこその安心感を

ホテルライクな暮らしを追求しつつ、家族の生活基盤としての安心・安全の確保や、家族のつながり、快適性や豊かさへの配慮も厚い。

T様が他社で難しいといわれていたことのひとつに、「吹き抜けや大きな開口を設けながら耐震性を確保すること」があった。桑名さんは構造計算事務所と協力し構造を設計。使用する木材も強度を優先して選定しこの問題をクリアした。長期優良住宅の認定も取得し、「諦めかけていたので、桑名さんに依頼してよかった」とT様もお喜びだそうだ。

キッチンから吹き抜けを通して家全体が見渡せるということは、T様の奥様のご要望だった。そこでまず、2階の居室は吹き抜けを囲むように配し一目で全体を見渡せるようにした。

1階は中央のデッキテラスに秘密がある。コの字のすべての辺においてデッキテラス側に窓があるおかげで、生活の中心であるリビングから家の中や周辺の状態を把握できるのだ。加えて、リビングと水回りのエリアを仕切る壁面や、2階の居室など所々に視線が抜ける窓を設けている。「所々にガラス面や小窓を設けることで、家のどこにいても家族の気配を感じ安心につながります。また、視線が抜けるので空間が広く感じられる効果もあります」と桑名さん。

また寝室は、南西の壁をダークブラウンに、天井を一部くり抜いて下から照明を当て、直接光が目に入らないようにするなど、眠るための落ち着きを備えた空間に仕上げている。

その土地の特性に合わせて、立つべき姿の家があると考える桑名さん。学校が近所にあり、子どもが行き来することも多いというT邸の周辺。自販機もすぐそばにあることから、家の裏手にちょっとしたベンチがあるスペースを設けた。また、玄関ポーチやデッキテラスの照明は温もりが感じられる色温度のものを用い、街に対しての印象は優しい。

「家づくりにおいて竣工はゴールといえますが、お施主様にとってはスタートでもあるわけです」と桑名さんは言う。だからこそ、お施主様がその時点では想像しにくい可能性がある10年後、20年後のことをくみ取ってデザインに反映させるのだそうだ。

「たとえば将来T様のお子様たちが、学校帰りにこのベンチで友達と別れがたく過ごすとか、たくさんの思い出をつくってもらえたら嬉しいと思っているんです」と桑名さん。家族一人一人が、それぞれにいくつもの記憶を刻む家をつくっている。
  • 2階、東側の廊下から見たところ。1階に見えるのはキッチン。奥様の「キッチンから室内が見渡せるように」というご要望が反映されているのがわかる。写真奥、黒枠の窓は寝室の窓。「空間につながりを持たせるためにも、家の内側に向かった窓をたくさんつけました」と桑名さん

    2階、東側の廊下から見たところ。1階に見えるのはキッチン。奥様の「キッチンから室内が見渡せるように」というご要望が反映されているのがわかる。写真奥、黒枠の窓は寝室の窓。「空間につながりを持たせるためにも、家の内側に向かった窓をたくさんつけました」と桑名さん

  • 2階北東、居室B。T様のご要望だった、差し色としてのライトなブルーグリーンは収納の壁面に使用した。扉を開けると明るい色が目に飛び込んできて、毎回新鮮な感動が得られる

    2階北東、居室B。T様のご要望だった、差し色としてのライトなブルーグリーンは収納の壁面に使用した。扉を開けると明るい色が目に飛び込んできて、毎回新鮮な感動が得られる

  • 2階寝室は、ほぼ眠るためだけに使用。横になったとき照明の光が目に直接入らないよう、折り上げ天井にし、間接照明を設けた。床も落ち着いた色味に床は落ち着いた色味に。ほか、写真左のドア手前、掃き出し窓に相対する壁はダークブラウンで仕上げている

    2階寝室は、ほぼ眠るためだけに使用。横になったとき照明の光が目に直接入らないよう、折り上げ天井にし、間接照明を設けた。床も落ち着いた色味に床は落ち着いた色味に。ほか、写真左のドア手前、掃き出し窓に相対する壁はダークブラウンで仕上げている

  • 夜の外観。土地の特性や、そのエリアに家が与える印象を重視する桑名さん。室内のキリリとした佇まいとは反対に、家の外に向かっては温かな色味の照明を選んだ。北東のベンチ部分も明るい照明が点され、道行く人に安心感を与える

    夜の外観。土地の特性や、そのエリアに家が与える印象を重視する桑名さん。室内のキリリとした佇まいとは反対に、家の外に向かっては温かな色味の照明を選んだ。北東のベンチ部分も明るい照明が点され、道行く人に安心感を与える

撮影:イエフォト

基本データ

施主
T邸
所在地
福島県福島市
家族構成
夫婦+子供2人
敷地面積
630㎡
延床面積
150㎡
予 算
3000万円台