フレキシブルな空間がゆとりをもたらす
木製ルーバーが印象的な二世帯住宅

ご両親が2人住まいをしていた実家を、二世帯住宅に建て替えることにしたお施主さま。人数もライフスタイルも違う2つの家族がともに暮らす家の計画には、限られた敷地面積、日射の条件、住宅街の中にあるが故の様々な制限と課題が多くあった。木製ルーバーが美しいこの家の、暮らしやすさの秘密を探る。

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美しい木製ルーバーが
日射や視線を遮り、安心安全も確保

ご両親と一緒に暮らそうと、ご実家を二世帯住宅に変更することを検討していた施主のOさま。以前の実家は2階建てで、1階はそのままに、ご一家が入居する予定の2階のみを改修する案もあったが、子世帯であるOさま一家は5人家族。それではどうしてもスペースが足りなかった。

「家の耐久性の問題もありました」と話すのは、この「具志の二世帯住宅」を設計した株式会社ADeRの仲本昌司さんだ。以前の実家は築42年。ただ、沖縄の家の多くがそうであるようにRC造で建てられており、メンテナンスを施せばこののち20年程度は暮らせるだろうと思われた。しかし、Oさま夫妻はまだ40代。30年、40年後までと考えると確実に大丈夫だとは言えなかった、と仲本さんは語る。総合的に判断し、改修ではなく建て替えを選択したのだそうだ。

二世帯住宅と考えると敷地面積は決して十分とはいえない。住宅街の一角、また第一種低層住居専用地域の中にあり制限も多いことに加え、西日が当たる時間が長いという課題もあった。

容易ではない敷地条件をクリアすべく、仲本さんが採用したのは木製の縦ルーバーだ。外壁をルーバーで覆い、ダブルスキンにすることで沖縄の強い日射を遮蔽した。もちろん近隣の住宅や通行人からの視線も遮ることができる。

それだけではない。2階に上がる階段は、建物とルーバーの間にある。ルーバーによって外階段でありながら半分は家の中のような、守られている感覚が得られるという。子どもたちも道路に出ることなく、ルーバーの内側にある1階の玄関まわりで遊ぶことができ安心だ。

ルーバーのデザインに合わせ、外壁はコンクリートの部分も同じように凹凸をつけた。ルーバーで覆ったことにより家全体のファサードに統一感が生まれ、さらにコンクリートがいいアクセントとして効いている。快適さとデザインを両立させたチャーミングな家が完成した。
  • 2階LD。リビングに設けた窓は、アルミサッシが極力見えないように計画した。景色が大きく、くっきりと切り取られている。出窓のようになっており、軽く腰掛けたりもできる。窓と手すりの間には植物を置くことができるなど、「窓の周りを楽しい空間にしたかった」と仲本さん

    2階LD。リビングに設けた窓は、アルミサッシが極力見えないように計画した。景色が大きく、くっきりと切り取られている。出窓のようになっており、軽く腰掛けたりもできる。窓と手すりの間には植物を置くことができるなど、「窓の周りを楽しい空間にしたかった」と仲本さん

  • 2階。手前から画像左奥に向かいリビング、畳スペース、寝室と続く。寝室の脇には玄関へも抜けられるウォークスルークローゼットがある。お子さまが過ごす時間が長い畳スペースや寝室の壁面には、自然素材であるクレイ塗装を施した

    2階。手前から画像左奥に向かいリビング、畳スペース、寝室と続く。寝室の脇には玄関へも抜けられるウォークスルークローゼットがある。お子さまが過ごす時間が長い畳スペースや寝室の壁面には、自然素材であるクレイ塗装を施した

  • 木製ルーバーにより、美しい影が生まれる外階段。ほどほどに姿が隠れ、使用時に安心感がある

    木製ルーバーにより、美しい影が生まれる外階段。ほどほどに姿が隠れ、使用時に安心感がある

省スペース、フレキシビリティにこだわり
一家5人のゆとりある暮らしを実現

3階建ての「具志の二世帯住宅」は、1階が親世帯、2階に子世帯、3階にお父さまの書斎が設けられている。

Oさま夫妻と3人のお子さまで暮らす2階は、省スペースを意識して計画した。まず、単なる廊下を極力減らしたという。たとえば子どもたちは、2階の玄関からシューズインクローゼットを抜けてリビングに入る。ご主人は、玄関からウォークスルークローゼットに直接アクセスし、身支度を整えてから居室に入ってくる。

機能を兼ね合わせた廊下は単に便利ということ以上に重要な役割を果たしている。ひとつは、抜けられる箇所を効果的に配置したことで回遊性ができ、室内の移動がしやすいということ。ほかにも、収納がコンパクトにまとめられ、かつ室内に入る前に荷物が整理できることから、リビングやダイニングの環境をよりよく保てるなど、よいこと尽くめだ。

2階にはもう1つ大きな特徴がある。それは、リビングと寝室の間に位置する畳スペースだ。リビング側、寝室側それぞれに上吊りの引き戸を取り付け、床はナチュラルに繋げた。戸を引き込んでしまえば、遮るものなく空間がひとつになる。

畳スペースの間仕切り方で、空間をフレキシブルに使えるようにしたかった、と仲本さん。来客時には寝室側を閉じてリビングの一部としたり、寝るときは逆にリビング側を閉じて寝室を拡張したりと、TPOに合わせて居室を変化させられるのだ。

意外なところにもフレキシブルに使える部分を用意した。高い天井が欲しいという要望に応えてリビングは3階までの吹き抜けを設けているが、将来子ども部屋が足りなくなった場合にはその吹き抜け部分を居室に変更できるという。吹き抜けの上部にあるハイサイドライトも、居室をつくった場合には窓として使用するため開閉可能なものを設置した。

限られた面積でも、考え抜かれた動線や高い天井、臨機応変に変化できるスペースによってゆったりした暮らしを実現した2階。Oさまも機能的で暮らしやすいと大変満足されているそうだ。
  • 2階ダイニングからシューズインクローゼット、玄関までを見る。画像左の畳スペースの奥に寝室とウォークスルークローゼットがあり、玄関から居室までの間に回遊性が生まれ、室内の移動がしやすい。画像右奥は子ども部屋。キッチンから目が届きやすいよう、ガラス扉とした

    2階ダイニングからシューズインクローゼット、玄関までを見る。画像左の畳スペースの奥に寝室とウォークスルークローゼットがあり、玄関から居室までの間に回遊性が生まれ、室内の移動がしやすい。画像右奥は子ども部屋。キッチンから目が届きやすいよう、ガラス扉とした

  • 1階、玄関から生活空間を見る。右の扉はトイレへ続く。緩やかなアールを描く天井を生かすため、天井には照明器具を取り付けなかった。画像右奥のテラスの外へと天井は続く。左側壁面の親しみが感じられる黄色は、沖縄の土由来のものだという

    1階、玄関から生活空間を見る。右の扉はトイレへ続く。緩やかなアールを描く天井を生かすため、天井には照明器具を取り付けなかった。画像右奥のテラスの外へと天井は続く。左側壁面の親しみが感じられる黄色は、沖縄の土由来のものだという

  • 2階、畳スペースからリビング。境目には吊り戸を設置した。敷居がなく、開けるとスムーズに空間が繋がる

    2階、畳スペースからリビング。境目には吊り戸を設置した。敷居がなく、開けるとスムーズに空間が繋がる

シンプルに整えた、ご両親が暮らす1階。
天井が低くても開放的な半屋外のリビング

ご両親は1階で2人暮らし。将来を見据えてバリアフリーに配慮したうえで、間取りをLDK+テラス、水回り、寝室とシンプルに整えた。

これらの気遣いは暮らしやすさにダイレクトに影響する。たとえば、玄関框の高さは一般的なものよりもだいぶ低い7cmに設定。さらに、アプローチと玄関はフラットに続き、広さがある。そのうえで玄関からLDKに上がる段差が限りなく低く抑えられているため、出入りしやすいのだ。現在も外に出ることが億劫にならないと喜ばれているそうだが、将来、万が一車いすなどを使用することになったとしてもその印象はほぼ変わらないだろう。

普段から、室内と外部をパキっと分けることなく、自然に、緩やかに繋げることを大切にしているという仲本さん。その考えがよく表れているのがアールを描く天井だ。

LDKをすっぽりと覆う天井の頂点が、室内の中心とは少しずれている。リビングから繋がるテラスまでを一続きの空間と捉え、天井の弧もテラスの先端に向かっているからだ。天井は室内からシームレスに繋がり、テラスの軒のような役割も果たしているため、テラスもまるでリビングの一部のように感じられる。さらにテラスの窓は完全に壁に引き込めるように計画。遮るものがなくなり、リビングは半屋外のような居心地を得られるようになった。

リビングからテラスへと同じように、玄関方向にもルーバーを抜けて外部まで視線や意識が伸びる。敷地の制限により、かなり天井高を抑えなくてはならなかったという1階が、開放感に溢れ、住宅街の中とは思えないほどにのびのびと暮らせるのはそのためだ。

家の中に半屋外的なスペースをつくるなど、昔ながらの沖縄の家を感じる場所もある「具志の二世帯住宅」。仲本さんが「沖縄の気候はやっぱり特殊ですから、それに逆らわない家をつくったほうがいいと思うのです」と語るように、様々な条件をクリアし、要望を叶えると同時に体感的にも暮らしやすい家となった。これからまた長い間、Oさま一家と歴史を刻んでいくことになるだろう。
  • 夜の外観。家から光が漏れ、ルーバーがより美しい陰影を生む

    夜の外観。家から光が漏れ、ルーバーがより美しい陰影を生む

  • 1階、アプローチ部分と玄関はフラットに繋がる。ルーバーに囲まれており安全性が高い一角は、お孫さんたちの格好の遊び場となっているのだそう。将来を考慮し、玄関からリビングへ上がる框の高さを低く抑えた。将来もし足が不自由になっても出入りしやすい

    1階、アプローチ部分と玄関はフラットに繋がる。ルーバーに囲まれており安全性が高い一角は、お孫さんたちの格好の遊び場となっているのだそう。将来を考慮し、玄関からリビングへ上がる框の高さを低く抑えた。将来もし足が不自由になっても出入りしやすい

  • 3階、お父様の書斎。あえて生活空間と切り離した部分に配置しており、落ち着きが得られる

    3階、お父様の書斎。あえて生活空間と切り離した部分に配置しており、落ち着きが得られる

撮影:Jonathan Liu

基本データ

作品名
具志の二世帯住宅
施主
O邸
所在地
沖縄県那覇市
間取り
親世帯:1LDK+書斎(3F)  子世帯:2LDK+和室
敷地面積
174.06㎡
延床面積
167.51㎡
予 算
5000万円台