ストーリーが生まれる家づくり。
国産の木材、自然素材を厳選した心地よい家

新築する自宅には、いつか教室を開くためのピアノ室が欲しいと考えていたお施主さま。建 築家の小野さんは、教室として使わない時も、常に生きたスペースになるよう考慮した。日 ごろからストーリーのある家づくりを提案する小野さん。素材の選択にもこだわり、居心地 がよく、快適に暮らせる家ができた。

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ピアノ室を生きたスペースにした配置の妙
リビングとつなげ、生活の一部にする

埼玉県日高市にある「音がつなぐ家」は、施主の O さま夫妻が将来ピアノ教室も開けるよ うな自宅を新築したいと計画した家だ。
依頼を受けた設計室 en の小野和良さんはまず、ピアノ室をどこに配置するかを考えたとい う。グランドピアノが置けるピアノ室を設けることは一番大きな要望だったが、ピアノ教室 については「いつか開きたい」と具体的なことは決まっていない状態だったからだ。
例えば玄関から右に進むとピアノ室、左に行けば住空間へつづく配置の可能性もある。しか し小野さんは「はっきり分けて独立させると、普段使われない部屋、スペースになってしま いますから」と、リビングとピアノ室をつなげることにした。
リビングとピアノ室の間は 3 枚の引き戶で仕切るのみ。戶はきれいに壁の中に引き込める ため、開けると自然に空間がつながる。ピアノ室そのものはそんなに広いスペースとはいえ ないが、リビングと一体となることで空間に余裕が生まれた。さらにはリビングには畳スペ ースもあり、大人数のお客さまを迎えたときでも居場所には困らない。おかげで、クリスマ スには友人たちと一緒に小さな演奏会を開くこともできたという。空間を分けなかったこ とで、小野さんの意図した通りに利用の幅が広がったのだ。
もちろん教室として使用するときのことも考えられている。まず、ピアノ室に設けた掃き出 し窓を教室の出入口にできるよう玄関へ向かうものとは別に、専用のアプローチを設けた。 また、トイレはピアノ室の中に配置し、生徒たちが住空間に入り込む機会を省いた。
ピアノ室が生活空間に隣接していることによって音楽を楽しむことが日常に馴染み、奥さ まが弾くピアノの音が家中に優しく届く。この家は、まさに「音がつなぐ家」なのだ。
  • 1 階。画像右奥にピアノ室がある。あえて LDK とつなげ、生活空間の中にピアノがあり、
ピアノの音が家に溢れる暮らしを実現した。リビングまで一体の空間と見なして、友人たち を招きサロンコンサートを実現するなど、配置の妙のおかげで使用方法の可能性も広がっ た

    1 階。画像右奥にピアノ室がある。あえて LDK とつなげ、生活空間の中にピアノがあり、
    ピアノの音が家に溢れる暮らしを実現した。リビングまで一体の空間と見なして、友人たち を招きサロンコンサートを実現するなど、配置の妙のおかげで使用方法の可能性も広がっ た

  • 1 階ダイニングからリビング、ピアノ室を見渡す。画像左奥のテレビ台は、地元のナラの木 から造作した

    1 階ダイニングからリビング、ピアノ室を見渡す。画像左奥のテレビ台は、地元のナラの木 から造作した

地域とのつながりも重視した素材選び。
竣工までのプロセスも楽しめる家づくり

小野さんは、自然素材かつ、できるだけ国産の素材にこだわって家づくりをしている。「地 元や地域とのつながりも大切に考えています。ですから地産地消というか、できるだけ国産 の素材を使いたいんですよね」と語る。
自宅は木の家にしたいと望んでいた O さま夫妻は、ホームページで小野さんを知り、ファ ーストコンタクトを取ったのだそうだ。実際に会ってみて、年齢も近いため相談もしやすい と正式に依頼。皆でカウンター材を選びに行くなど、素材へのこだわりをお互いに尊重し合 い、共有しながら家づくりを進めていった。
素材ひとつひとつを自分たちで選ぶことによって、ストーリーが生まれるという小野さん。 ひとつの例がテレビ台に使用したナラの木だ。なんと O さまたちが時折行くという近くの 山から伐採されたもので、しかも、その場所もはっきりしているのだそうだ。将来、一緒に 散歩に行って、「あの木はここに立っていたんだよ」と話したらお子さまはきっと驚くこと だろう。
また大黑柱は杉を用いる予定だったが、見学に行った材木屋さんでの会話の中で、奥様の出 身地である東北の栗の木がちょうどあるということになり、変更したのだとか。大黑柱にで きるほどの栗の木は珍しいとのこと。なかなか手に入らない貴重な資材でも、いいきっかけ だからと惜しみなく提供してもらえるのは、信頼関係があってこそ。小野さんが真摯な姿勢 でコミュニケーションを欠かさないからだ。
他にも、照明器具も作家のもとへ出向き一緒に決定するなど、お施主さまの好みに合わせた 質の高いものを提供。選んだ経験も、かけがえのないストーリーのひとつになっている。
また、施工を体験できることも魅力的だ。もちろん希望を伺ったうえで、適度なボリューム で作業を用意するという。O さま夫妻は外壁の木材部分の塗装を行った。サンプルを検討し
たところ、ちょうど中間くらいの色にしたいと考え、2色を混ぜてオリジナル色をつくった とのこと。
これは、将来を見越した小野さんの気配りでもある。「木材ですから、将来メンテナンスが 必ず必要になります。やり方を覚えれば、自分たちでできますから」と話す。だからこそ、 外壁の木材部分は足場を組まなくても手の届く範囲の中で計画した。
家は⻑い期間暮らすものだ。家を構成しているものにストーリーを感じ、メンテナンスも楽 しんでやることができれば、愛着が強まり、居心地もよりよくなるだろう。
  • 1 階 LDK。画像右に進むとピアノ室がある。トイレ(画像右端の扉)はピアノ室に設け、教 室時に生徒が生活空間へ入らないように配慮した。リビングは 2 階までの吹き抜けになっ ており開放的な雰囲気。畳スペースの奥の窓からはご両親の畑も見える

    1 階 LDK。画像右に進むとピアノ室がある。トイレ(画像右端の扉)はピアノ室に設け、教 室時に生徒が生活空間へ入らないように配慮した。リビングは 2 階までの吹き抜けになっ ており開放的な雰囲気。畳スペースの奥の窓からはご両親の畑も見える

  • 1 階、ダイニングキッチン、畳スペース。この部分は 2 階の床を兼ねた踏み床天井とした。 構造材を現しにしたおかげで、材木の温もりがより強く感じられる。畳スペースは小野さん の提案によるもの。赤ちゃんを寝かせたり、人が集まったときの居場所になったりと便利に活用されている

    1 階、ダイニングキッチン、畳スペース。この部分は 2 階の床を兼ねた踏み床天井とした。 構造材を現しにしたおかげで、材木の温もりがより強く感じられる。畳スペースは小野さん の提案によるもの。赤ちゃんを寝かせたり、人が集まったときの居場所になったりと便利に活用されている

  • リビングには薪ストーブを設置。1 台で家中を温められる。照明は作家もの。皆でアトリエ に出向き、選んだ

    リビングには薪ストーブを設置。1 台で家中を温められる。照明は作家もの。皆でアトリエ に出向き、選んだ

機能的なキッチン、自由に使える子ども部屋
⻑く住むことを念頭に置いた暮らしやすさ

木の温もりが存分に感じられる室内は、2 階までの吹き抜けによって開放的な部分がある一 方で天井が低めに計画されている箇所もあり、メリハリがきいている。また家の中からの抜 け感をもたらすため、窓は景色がよい方角の、特に目線が遠くまで伸びる場所に計画した。
もちろん暮らしやすさにもこだわっている。まず、階段下や畳スペースの下にさりげない収 納を設けて、片付きやすく、室内をすっきりとした印象で保てるように配慮した。その他キ ッチンは、カウンターと収納をダイニングテーブルに組み合わせ、さらに回遊性を持たせた。 ダイニングテーブルとカウンターの高さを揃えたことでテーブルが拡張し、使い勝手が向 上。食事以外でも家族が集まる場のひとつになっている。
2 階には書斎を設けた。2 畳ほどの小さなスペースだが、片側の壁面に本棚を設け O さまが 望む量の書籍を収められるようにした。また、幅いっぱいに造作したカウンターのおかげで、 パソコンやプリンターなど仕事で使うものも余裕をもって置ける。作業することを見越し て、コンセントが多めに用意されているのも心憎い。
将来、子ども部屋とするスペースも 2 階に配し、吹き抜けの上部に面するように計画した。 必要に応じて 2 部屋にもできるよう、照明や窓を配置している。現在はリビングから丸見 えになっているそのスペース。理由を尋ねると「子ども部屋として使う時期って意外に短い んです」との答えが返ってきた。
子どもが使う時期を小学校の高学年から大学を卒業するまでと考えると、その期間は 10 年 程度であるため、フレキシブルに使えるスペースとして計画したという。「子ども部屋とし て使うようになったら、下から見えないようにいろいろ工夫するのもきっとお子さまにと って楽しい作業になるのではないでしょうか」。新たなストーリーが生まれるきっかけも用 意しているのだ。
小野さんの力強いサポートによって、素材選びや実際の作業まで体験できた O さま夫妻。 竣工する前から、この家での暮らしを想像してきっとワクワクしていたのではないだろう か。こんな暮らしがしたいと願っていたことが余すことなく叶えられた「音がつなぐ家」。 その証拠に、小野さんのもとへ「今日はこんなことをしました」という嬉しいお便りが、今 も時折届くのだそうだ。
  • 2 階フリースペースは、将来子ども部屋として使用する予定。2 部屋にもできるよう、照明 や窓を配置した

    2 階フリースペースは、将来子ども部屋として使用する予定。2 部屋にもできるよう、照明 や窓を配置した

  • 2 階、コンパクトで使いやすい書斎。壁面の本棚は収納力抜群。山桜を用いたカウンターに はゆとりがある

    2 階、コンパクトで使いやすい書斎。壁面の本棚は収納力抜群。山桜を用いたカウンターに はゆとりがある

撮影:袴田和彦

間取り図

基本データ

作品名
音がつなぐ家
所在地
埼玉県日高市
家族構成
夫婦+子供1人
間取り
2LDK+ピアノ室
敷地面積
329 m²㎡
延床面積
103.92 m²㎡
予 算
2000万円台