外観や図面からではわからない開放感
光あふれるコートハウス

電車や踏切の騒音問題、通りを行きかう人からのプライバシーの確保。そんな課題を抱えた土地での設計依頼に、外観からは想像もつかないような、開放的で明るい住宅を生み出したのは、「空間づくりの匠」アトリエスピノザの井東さんと市原さんでした。

この建築家に
相談する・
わせる
(無料です)

騒音問題の解決と快適空間の両立は
外には閉じ、内には開くコートハウスで

世田谷区の閑静な住宅地にA様邸はある。ソリッドな形状、左官仕上げの外壁の一部にチーク材があしらわれたスタイリッシュな外観は、まさに邸宅と呼ぶに相応しい。外を行き交う人々からの視線を防ぐかのような、閉じられた佇まい。しかし、中に入ると外観からは想像もつかないような開放的な空間が広がっているのだ。

この家をつくったのは、アトリエスピノザの井東さんと市原さん。お2人はこれまでの長いキャリアで、戸建て住宅を中心に集合住宅や商業施設のインテリアなど数多くの物件をてがけてこられた「空間づくりの匠」だ。

ある日、スピノザに一通のメールが届く。Aさんから「WEBサイトを見て、自邸の設計をお願いしたい」との依頼だった。

事務所での面談の後、「私たちが過去に手掛けた物件を見ていただきました。そこで気に入っていただけたようです」と井東さん。建築家は、ハウスメーカーのようなモデルハウスをもたない。手掛けた物件には実際に人が住んでいるため、簡単に見学できないことも多い。しかし、今回はそれが叶ったという。それは施主とスピノザの関係性が良好に保たれていることでもあり、施主も家に満足していることの現れ。

こうして始まったA邸の設計、1つ大きな課題があった。A邸は、閑静な住宅地にある角地で広さも十分、変形地でも傾斜もない、申し分のない土地。だた1点、すぐ近くに電車が通り踏切もある。車通りは少ないものの、人々が行きかう生活道路に面していた。
「騒音をどうにかしてほしい」というリクエストだったのだ。

さらには「A様より『リビングは1階にしてほしい』との要望もあったんです」と市原さん。
住宅密集する都会では、陽当たりや外からの視線を避けるため2階にリビングを設けることも多い。実際スピノザでも、両方のパターンで提案することも多いのだという。

こうした要望に、井東さんは「この案件は、外にどう閉じて、内をどう開くかがカギになるな」と感じたのだという。
2人でアイデアを出し合い、試行錯誤を重ねて導き出したのが、踏切や線路に近い北側を塀や駐車スペース、建物で塞ぎ、光が差し込む南東方向に中庭を設けるコートハウスとする案だった。

スピノザでは、最初基本構想を考える際には、まずは井東さん、市原さんそれぞれに数パターンの案を考え、それを持ち寄るのだという。

「2人の案を見ることで『この案にはこんなメリットがある、こっちはここが面白い』という気づきにもなります」と井東さん。

その後、2人のアイデアが入った複数案をお客様に提示、それをもとに話し合いを重ね煮詰めていくのだという。
「出した案の1つがそのまま採用されることもありますし、お客様のご意見で良いとこ取りのプランとなることもあります」と市原さん。
プラン決定後は、主に井東さんが構造や素材といったハード面を、インテリアやキッチン、照明計画などのソフト面を市原さんが担当し、1つの家に仕上げていくのだとか。

男性目線と女性目線の異なる感性からのアイデアが磨かれ、1+1以上のものとなることだろう。自分達の家のことについてたくさん考えてくれるのは、施主にとっても何よりうれしいことに違いない。
  • ソリッドで高級感のある外観。窓は最小限で外から中をうかがうことができない閉ざされ たイメージだ。

    ソリッドで高級感のある外観。窓は最小限で外から中をうかがうことができない閉ざされ たイメージだ。

  • 玄関を開けると、視線の先に明るい空間がみえてくる。まるでトンネルの出口のよう。

    玄関を開けると、視線の先に明るい空間がみえてくる。まるでトンネルの出口のよう。

  • シームレスにつながる中庭と、吹き抜けからくる開放的抜群の LDK。小上がりのようなウ ッドデッキ上のステージは、室内側はベンチの役割も。

    シームレスにつながる中庭と、吹き抜けからくる開放的抜群の LDK。小上がりのようなウ ッドデッキ上のステージは、室内側はベンチの役割も。

  • 吹き抜けと高窓からも光が入り込み、室内を明るく照らす。家族の行き来を感じられるよう あえて中央に置かれた階段も、オブジェのよう。

    吹き抜けと高窓からも光が入り込み、室内を明るく照らす。家族の行き来を感じられるよう あえて中央に置かれた階段も、オブジェのよう。

  • 外からは想像もつかないほどの開放感を生む中庭。ウッドデッキの下から生えてくるよう に植えられた木々の緑が目を楽しませてくれる。

    外からは想像もつかないほどの開放感を生む中庭。ウッドデッキの下から生えてくるよう に植えられた木々の緑が目を楽しませてくれる。

リビングが延⻑した中庭や宙に浮くロフト
図面には現れない、快適な空間づくりの妙

それでは、A邸を見ていこう。玄関扉を開けると、視線の先に光あふれるリビングが見える。歩を進めていくと、その先には外からは想像もつかなかった大空間が広がっていた。トンネルを抜けきたかのように景色がガラリと変わるのだ。

目を外に向けるとLDKがそのまま外に延長したかのように、ウッドデッキの中庭が見える。この中庭には、ウッドデッキの下から生えるかのように植栽が植えられ、緑が目を楽しませてくれる。中庭には、一段高くなったステージのような部分がある。まるで縁側。ここは室内においてはベンチとして腰掛けるのにちょうど良い高さだ。一方扉を開け放つと、ベンチと一体化した小上がりのようでもある。気候の良い時期には、この中庭でお茶やお酒を飲んだり、BBQも愉しめることだろう。夏には子供用プールを出しても、外からの視線に晒されることもない。

上方向に目を移すと、大きな高窓からも日の光が入りこむ。さらには吹き抜けとなっているため、高さからくる開放感に包まれる。

この室内と外とがシームレスにつながる横方向の広がりと、吹き抜けがもたらす縦方向の広がり、2つの空間の拡張によってLDKは図面以上に広さを感じられるのだ。

閉じた感じの外観からは全く想像もつかない空間が広がっていた。家族が集まるLDKが、こんなにも気持ちの良い場になるとは、スピノザの手腕には驚かされる。都心では閉塞感が出がちな1階リビングという課題を見事に解決してみせた。

LDK中央に鎮座しているといってもよいスケルトン階段も、このLDKでは決して邪魔にはならない。むしろオブジェのようにすら感じてくる。階段がLDKの中央にあることで、上り下りする際は必ずLDKを通ることになり、家族のコミュニケーションにもつながることだろう。

2階に歩を進めると、階段の周りには作り付けのカウンター机が配されている。子供たちがそれぞれの部屋に籠ることなく、勉強や読書などができるオープンスペース。視線の先には中庭の景色が見えるというおまけもついた。

階段の最上部には、太い梁でつながった木の箱のようなものが浮いている。これは宙に浮くロフト。6.5畳ほどもある大容量のロフトは、子供たちにとっての秘密基地のようでもあり、荷物の収納場所としても大活躍することだろう。

A邸は、家のどこにいても、光が差し込み、外の景色も愉しめる。1階、2階、ロフトという区別はあるが、それぞれが完全に分断しているのではなく、空間を共有しながら有機的につながっているのだ。

「私たちがつくる家は、どの方向に抜けを作るとか、視線の先に開放感を与えるかということを大事にしています。部屋数とか、畳数というスペックでは測れない空間の快適さを追求しているのです」と市原さん。

井東さんも「画一的に部屋を並べたり上下を分断する設計ではなく、空間をどう繋げ、光をどう取り入れるか、また居場所によって変化が感じられるシークエンスにこだわりがある」と語る。

スピノザのつくる家は実に三次元的だ。
スピノザの仕事は建物をつくっているが、「空間をつくっている」ともいえる。

過去には、ハウスメーカーに断られたという変形地や狭小地に、施主から「こんなに広い空間になると思っていなかった」と言わせるほどの家を何軒も建ててきたという。

自分達が住む家を、広さや間取りというスペックから考えるのではなく、「快適な空間」であることを重視するのであれば、その第一歩は、スピノザに連絡をとることなのかもしれない。井東さんと市原は、きっと想像以上の快適空間を実現してくれる。
  • 夜の中庭はライトアップされ、幻想的な雰囲気に。これだけこんなに大きな開口があっても、 外からの視線が気にならないような建物配置となっている

    夜の中庭はライトアップされ、幻想的な雰囲気に。これだけこんなに大きな開口があっても、 外からの視線が気にならないような建物配置となっている

  • LDK から和室へは、小径のような通路を進む。広から狭へと視線を変えることでイメージ も変わる

    LDK から和室へは、小径のような通路を進む。広から狭へと視線を変えることでイメージ も変わる

  • 落ち着きのある和室。障子を開けると躙り口のような窓の先に、植栽の緑が愉しめる

    落ち着きのある和室。障子を開けると躙り口のような窓の先に、植栽の緑が愉しめる

  • 二階の階段の周囲には作り付けのカウンター机。子供たちが自室に籠ることなく勉強や読 書などができる。

    二階の階段の周囲には作り付けのカウンター机。子供たちが自室に籠ることなく勉強や読 書などができる。

  • 上空からみた中庭。和室の上のバルコニーも、中庭とはまた違った気持ちのよいスペースの 1つだ。

    上空からみた中庭。和室の上のバルコニーも、中庭とはまた違った気持ちのよいスペースの 1つだ。

撮影:中村 絵

基本データ

施主
TA邸
所在地
東京都世田谷区
敷地面積
163.09 ㎡
延床面積
149.83 ㎡