
旗竿地でもこの明るさと開放感
人目を気にせず家族時間を楽しむ家
建物に囲まれた旗竿地に
子育て世代ファミリーの家をつくる
計画に当たり施主さまから提示された希望の間取りのイメージは、1階にLDKなどの共用スペース、2階に個室という構成だった。ファミリーが暮らしやすい素直でシンプルな間取りだが、プランニングには避けて通れないハードルもあった。先述の通り敷地は広いが間口の狭い「旗竿地」で、四方を建物に囲まれている環境だったのだ。しかも、敷地内には用途地域(建物の種類や大きさ・高さなどの制限)の境界があり、周囲には戸建て住宅だけでなく、マンションなど高さのある建物も存在する。外部の視線からプライバシーを守りつつ、家族がのびのび暮らすにはどうしたらいいか、工夫が求められる状況だった。
「とはいえ、世田谷で85坪以上の広さがあるのはかなりのアドバンテージです。この広さを生かして旗竿地の懸念を払しょくし、人目を気にせずに家族時間を楽しめる住まいをおつくりしたいと考えました」
そう話してくれたのは、共同設計者の1人であるa.d.p代表の坂田裕貴さん。旗竿地というハードルをどう乗り越えてどんな住宅ができたのか、ご紹介してきたい。
山間の谷を思わせる環境を生かし、
開放感とプライバシー確保を両立
最初に計画地を訪れたときのことを、坂田さんはこう振り返る。周囲の建物の不整形な凸凹ラインは山地の稜線を連想させ、計画地は「山間の谷のよう」に思えたのだそう。この家が「谷の家」と名付けられた所以でもある。
谷と聞くと閉鎖的に思えるかもしれないが、都市部の家づくりでは外部の視線をコントロールするために、わざと閉鎖的な環境をつくることが少なくない。今回も坂田さんたちは、建物に囲まれた敷地でも「家族だけで穏やかに過ごせる開放的な空間」を実現するべく、近隣の視線をさえぎる次のようなプランを作成した。
まず、隣に高い建物がある東側に背を向けるようなイメージで、コの字型の2階建ての建物を配置する。そして、コの字の中央にはウッドデッキを敷いた中庭をつくり、LDKなどの住空間からは中庭の緑が見えるようにする。さらには、広さを生かして建物周囲にも小さな庭を設け、要所要所に植栽を配置する──。
このプランだと中庭を囲む建物自体が外部の視線をカットする塀のような役割を果たし、適切なスポットに配した植栽も目隠しに。おかげで、中庭に向かった部屋の中では思いきり窓を開けられるし、中庭でも人目を気にせずに過ごすことができる。
実際、坂田さんたちの狙い通り、1階にあるLDKはとびきり明るく開放的な空間に仕上がった。床は中庭のウッドデッキとフラットに続いているから、窓を開ければLDKと中庭が一体化。LDKそのものが大きな半戸外空間のようになり、視線の先には中庭の緑~和室~その先の緑が見え、空間のレイヤーでのびやかな奥行きを感じられる。天井も最大で約4mの高さがあり、南向きのハイサイドライトには抜けるような青い空。明るい陽光もたっぷり入り、屋外のテラスにいるような心地よさがある。
うれしいのは、LDKがここまでオープンであるにもかかわらず、中庭を挟んだ正面は自分の家の和室でプライバシーを気にする必要がないことだ。もちろん、ハイサイドライトからも近隣建物の姿はほぼ見えず、目に入るのは青空や星空のみ。
坂田さんたちは設計の工夫によって、建物に囲まれた旗竿地であることを忘れてしまいそうな環境づくりに見事に成功。家やマンションという「山」に囲まれた「谷」のような空間で、外界を気にすることなくゆったりと、おおらかに、「自分たち家族だけ」の時間を満喫できる家が完成した。
姿を見ただけで幸せ気分
都市がつくる地形に宿る、温かな暮らし
この家は「天井の高い開放的なLDK」「床座に合わせて天井を抑えた和室」など、各部屋の空間ボリュームに違いがあり、その結果、屋根にも高低差が生じている。
坂田さんたちはその高低差を強調するかのようなデザインで、屋根に不規則な立体感をプラス。この不規則な屋根が、実に個性的でかわいい。アップダウンのある山並みのようで、凡庸とは真逆のユニークさが見る人を楽しい気持ちにさせてくれる。
それでいて、奇をてらったおしつけがましさがないのは坂田さんたちのセンスの賜物だろう。ナチュラルなグリーンの外壁は街路樹の多いこのエリアに違和感なく馴染み、「山っぽい屋根」とも好相性。緑色が選ばれたのには、中庭の植栽が育ったとき、樹木の緑と外壁がひとまとまりに見えるようにとの意図もある。
ランダムに設けられた窓に明かりが灯る夜の佇まいもいい。山々を思わせる黒いシルエットにぽつぽつと光が灯ると、山間に民家の明かりが点在しているように感じられ、ホッと心が和んでいく。仕事や学校から帰ってきて、路地の先にこのチャーミングな外観がちらりと見えたら、誰もが幸せな気持ちになりそうだ。
「どんな設計の仕事でも、愛着の湧くユニークさをプラスしたいと思っています」と話す坂田さん。施主との打ち合わせで「こんな家にしたい」と写真を見せてもらったら、なぜそうしたいかをヒアリングし、諸条件に照らし合わせて最適解を導くのが坂田さんのスタイルだ。でも、そのときの坂田さんの頭の中には「普通はこうだよね」がない。ありきたりの「べき論」にとらわれず、どうすれば住まう人が心地いいのか、その土地の魅力を生かせるのかを考え抜く。
だから、坂田さんがつくる家はいつもちょっとだけ変わっていて、住まう人は唯一無二のオリジナリティを誇りに思い、自分の家を大好きになって毎日を過ごしていく。自分自身や土地の個性を設計に反映したらどんな住まいができるのか──。興味がある人は坂田さんに相談すると、思いがけない楽しいプランに出合えるかもしれない。
基本データ
| 作品名 | 世田谷 谷の家 |
|---|---|
| 所在地 | 東京都世田谷区 |
| 敷地面積 | 285.93㎡ |
| 延床面積 | 148.19㎡ |
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設計者情報
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