プライバシーを守れて解放的、
2階で土に根を張る木々で「ホッ」

共働きで、かつ、ふたりともお医者さんというXさんご夫婦は、おばあさまの手も借りながら子育てもする忙しい毎日です。そんな日々のなかでもホッとできる場所がほしいと、庭も一緒に考えてくれるという勝田さんに相談をすることにしました。

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ライフスタイルに合わせて計算され尽くされた庭づくり

 ご夫婦ともにお医者さんとして働くXさんご夫婦。自分たちの家を建てようと考えた場所は、都心でターミナル駅も近い住宅密集地だった。活気のある街も近く、これでもかとひしめく家々のなかには、だいぶ年季の入った家や生活感あふれる家もある。そんな場所にあっても、家にはホッと一息つける庭が欲しい、それが忙しい日々をおくるXさん夫婦の願いだった。

 そこで、相談したのは家と庭を一緒につくってくれるガーデナー建築家の勝田さん。30坪ほどの狭い敷地だけれども、外に出かけることが少ない分、家にもちょっと屋外の空気を楽しめるところがほしいと話をした。目の前に見栄えのしない建物があり、隣もすぐ横に迫っている環境で、勝田さんがすすめたのは、自身が「囲いの建築」と名付けている手法だった。


「囲いの建築」とは文字通り、まず、敷地の周りを塀で囲ってしまう。往来からの視線が塀で遮られると、この中は「うち」という感覚ができる。プライベートエリアだとか、自分の縄張りだとか言い換えても良いかもしれない。外の顔をしなくてもよい領域だ。

 そして、そのなかに小さな庭をつくる。塀といっても素材は外の光が充分入る半透明のもの、空の方にも遮るものはなく、感覚としては屋外空間だ。1階は駐車場になっており、庭があるのは2階だが、鉢植えを並べたテラスではない。木も草花も地面に根を張った、より自然に近い庭だ。

 小さな庭には、シマトネリコとソヨゴを植えた。何十年も庭をつくり続けてきた勝田さんは、この人はどのぐらい庭の手入れをしたい人か、どのぐらいできる人かを話のなかで見極め、その人に合わせた品種を選ぶことにしているという。木や草花は生き物、どうしても建物に比べて維持に手間がかかる。

 せっかく心なごむ庭をつくっても、手入れが行き届かずに草ぼうぼうになってしまっては台無しだ。忙しい日々をおくるXさんご夫婦の家に、勝田さんが選んだのは、あまり手がかからない木だった。「シマトネリコやソヨゴみたいな山の木は、かえってハサミを入れない方がいいんです。もともと横に枝が伸びませんから。本当に外に出っ張った時だけ、ちょっと切ればいい。下草も刈り込みをしなくていいものにしていますので、ほぼメンテナンスフリーですね。」と勝田さん。下草が定着するまでは雑草も生えやすいため、土の上にウッドチップを敷き詰めて、草むしりの手間も省けるように配慮した。


 庭と家の設計は同時進行。庭を眺めたい部屋はやはりリビングだ。そこで、庭に面したところをリビングにして吹き抜けをつくり、2階・3階からも外の景色を楽しめるようにした。リビングと庭はフラットに続いており、リビングからそのまま、ひょいと外に出ることもできる。完全にリラックスした姿も囲いのなかなら近隣から見えることはない。「街のなかで、これだけ開放的に住めるとは思いませんでした。」と、Xさんご夫婦も満足のいく家になった。

「住宅の密集する街なかの狭い敷地でも、なかなか植木の手入れをする時間がなくても、庭のある住まいはつくれます。むしろ、住宅事情のよくないところの方が囲いの建築がいきてきますね」。
  • 植物が元気に育つ明るい庭。塀になっているFRPの折板は駅の屋根などにも使われている素材で、ジグザグに折れているため、上下の支えだけでピシッと自立する

    植物が元気に育つ明るい庭。塀になっているFRPの折板は駅の屋根などにも使われている素材で、ジグザグに折れているため、上下の支えだけでピシッと自立する

  • 道路からは、うっすら庭が透けて見えるが、部屋のなかは見えない。3階建てのこの家は、おばあさまも使われるため、玄関の奥にはホームエレベーターをつけた

    道路からは、うっすら庭が透けて見えるが、部屋のなかは見えない。3階建てのこの家は、おばあさまも使われるため、玄関の奥にはホームエレベーターをつけた

  • 1階の駐車場の奥は風呂場。湿気を逃がすためのドライエリアにも木が植えられ、窓から顔をのぞかせている。浴槽は外を眺めるように斜めに向けた

    1階の駐車場の奥は風呂場。湿気を逃がすためのドライエリアにも木が植えられ、窓から顔をのぞかせている。浴槽は外を眺めるように斜めに向けた

家での楽しみが増える、自由に使えるリビング

家ではゆっくりくつろぎたい、Xさんご夫婦が小さな庭を望んだのはそんな思いがあったからだった。庭を眺めてホッとしたい時もある。でも、また違った気分でリフレッシュしたい時もあるだろう。庭につながった開放的なリビングは、さまざまな過ごしかたができるようになっている。

 小上がりになった畳のスペースには掘りごたつがある。冬にはこたつにあたってテレビを見てもいい。庭の方から差し込む明るい日射しのもと、畳に寝転がってもいい。カーテンをしめればシアタールームにもなる。スピーカーも本格的なもので、迫力ある映像を自宅のソファでくつろぎながら、楽しむことができる。
 
 外へ出かけることが少ないXさんご夫婦にとって、多目的に使えるリビングは家での楽しみを増やしてくれた。

【勝田 無一さん コメント】
家づくりはコミュニケーションです。植物の手入れに限らず、普段の生活スタイルやご予算など、こんなことを言ったらいけないのではないかとためらわず、率直にお話いただくのが1番ですね。お話のなかからアイディアもわきますし、伺ったお話を受け止めてその人なりのお宅を提案するのが仕事ですから。
  • 畳とソファのあるリビング。左手にスクリーンをおろして、ホームシアター用のスピーカーを使えば、家で見る映画も迫力満点

    畳とソファのあるリビング。左手にスクリーンをおろして、ホームシアター用のスピーカーを使えば、家で見る映画も迫力満点

  • キッチンからリビング、庭まではひとつながりの空間。庭と吹き抜けが家族の生活空間を明るく開放的にしてくれる

    キッチンからリビング、庭まではひとつながりの空間。庭と吹き抜けが家族の生活空間を明るく開放的にしてくれる

基本データ

施主
X邸
所在地
東京都世田谷区
家族構成
夫婦+子供2人
敷地面積
98㎡
延床面積
148㎡