
洗練の大空間と、家族のためのくつろぎ空間
創造力を刺激するアトリエ兼住居
オン・オフを分けたアトリエ兼住居
仕事場のテーマは「倉庫のような無骨さ」
施主さまの要望に沿ってオン・オフのメリハリをつけるため、「House M / Port F」は1階がアトリエ&サロン、2階が住居という間取りでパブリックとプライベートをセパレート。1階の仕事場については、施主さまはアトリエ、サロンのほか作品展示を行うギャラリー利用も想定しており、「倉庫のような無骨な雰囲気」を望んでいた。天井が高く、使い方の自由度も高いシンプルな大空間というイメージだ。
となると、倉庫っぽい空間として頭の中に浮かんでくるのは柱と柱の間隔が広いがらんとした空間だ。建築の世界で「大スパン」といわれる造りだが、この建物は木造なので、ある程度の本数の柱を立てて建物を支えるつくり方が一般的。
もちろん、木造でも柱のない大スパンの空間をつくることはできる。けれど高木さんは大スパンにこだわらず、今回はあえて「柱のある空間」を提案。その理由を伺うと、クライアント目線に立った頼れる設計姿勢が見えてきた。
現実的な計画で多数のメリット
クリエイター好みの創造力を刺激する空間に
「大スパンの空間を木造で実現しようとすると、その分、梁が大きくなります。それはコストにも影響しますので、予算内でできるだけ広い空間をとることや、施主さまが望んでいらした天井の高さをとることに反していると感じました。また、大きな梁で空間の印象が重くなり、おおらかな居心地を生み出しにくいと考えました」
柱をなくすために、大きな梁をかけるより、コストメリットに優れた一般流通材のスマートな梁や柱を使って圧迫感を回避する。さらには、壁も最小限にとどめるように配慮して、高さ・広さを確保したというわけだ。
ちなみにこのプランには、「空間の使いやすさ」「広く感じる視覚効果」というメリットもある。柱や壁が適度にあると家具配置などのガイドになり、ただ広いだけの空間よりも格段に使いやすい。また、「House M / Port F」は間口から奥に向かって伸びた長い建物なので、柱があることで奥行きが強調され、のびやかな広がりを感じられる。
高さ・広さという点では、エントランスホールの天井を1.5層分取っていることも見逃せない。ここは上の2階にある主寝室の床を半階分ほど上げることでホールの天井を高くし、「上への抜け感」を出している。2階までの吹抜けにすると2階住居の床面積が減ってしまうが、これなら、生活空間の広さをキープしつつ吹抜けのような開放感を獲得できる。
こうした設計面での工夫に加え、内装に手をかけすぎていないことも重要なポイントだ。例えば、2階へ向かう鉄骨の階段は赤で塗装してあるものの、デザイン自体はとてもシンプル。トイレ以外はドアなどの建具や間仕切りを入れず、床はコンクリート土間、壁は石膏ボードをそのまま塗装と、いずれの仕上げも簡素。全ては施主さまが望んでいた「倉庫っぽい無骨さ」のためだが、コストを抑えるという嬉しい効果も生んでいる。
竣工後の現在、「House M / Port F」の1階は施主さま夫妻のセンスが光る素敵な空間となっている。のびやかなエントランスホールの傍らには、奥さまが営む美容サロン。その先は応接、制作、ギャラリーなどフレキシブルに使える中間スペース、さらに先の一番奥には施主さまのアトリエが広がる。いずれの空間も施主さま夫妻がコレクションしていたアンティークの木製ゲートやソファ、風合いの良いカーテンなどで彩られ、ミックステイストの洗練されたカッコよさ。簡素な内装に個性的なアイテムが映え、「絵になる空間」となって訪れる人を魅了する。
きっと、アートディレクターである施主さまがやりたかったのはこういうことなのだろう。家づくり・店づくりは、自分好みのアレンジで「空間を遊ぶ」ことも楽しみの1つ。クリエイティブの知見やセンスのある人ならなおさらだ。高木さんはその点を十分に理解して、余計な主張をしないシンプルな空間をベストな形で用意した──「House M / Port F」の1階を見ていると、高木さんのそんなホスピタリティを感じずにはいられない。
くつろぎの2階住居でスイッチオフ
日常にさりげない楽しみがある住まい
水まわりが集約されて家事動線が良く、将来は子ども室の間仕切りを外してLDKを広くすることもできる等、利便性への配慮も厚い。LDKより半階分ほど床が高い主寝室への階段スペースはクロークを兼ねるなど、空間の有効活用も図られている。
日常の楽しみへの心くばりもちりばめられ、寝室への階段途中には、向かいの公園にある桜を大きく眺めることができるピクチャーウインドーが。また、「周囲は住宅街で開放的な眺めを得にくいので」と、屋上には藻岩山を望む眺望抜群のルーフテラスをつくった。このテラスについては「施主さまのご実家に半地下の多目的スペースがあると伺ったので、そのサテライト的に、地下とは逆の屋上に用途多彩な空間があったら楽しいのではとの思いもありました」と笑顔で話す高木さん。
高木さんは肩肘張らずに相談できそうな親しみやすい雰囲気の方で、ご自身の設計スタイルについても「自分の作品!という妙なこだわりはないです(笑)」とニュートラル。けれど、「いつも、住まう方が楽しく暮らしてくださったらいいな、という思いがあります」と目を細める。
春は公園の桜を家の中でも見られたらいいな。開放的な景色を眺める場所も欲しいからルーフテラスがあると楽しそう。実家に半地下があるなら、この家に屋上空間があると面白いかも──。
高木さんの提案で実現に至ったこれらのアイデアが、この家での暮らしをぐっと豊かにしていることは想像に難くない。「楽しく暮らしてほしい」という建築家のシンプルな思いは、期待以上の日常をもたらしてくれるのだ。
間取り図
基本データ
| 作品名 | House M / Port F |
|---|---|
| 所在地 | 北海道札幌市 |
| 敷地面積 | 158.65㎡ |
| 延床面積 | 129.18㎡ |
| 家族構成 | 夫婦+子ども1人 |
| 予算 | 3000万円台 |
設計者情報
この実例を見た人はこちらも読んでいます

“視線をコントロールする壁”が創り出す すべての場所で違う景色を楽しめる空間
湯布高原の別荘地に誕生した、豪勢な保養所。建物から飛び出している、多くの巨大な壁が印象に残る。実はこの大きな壁が、この物件の最大の特徴だ。室内から外を見た時、場所によって景色の見え方が異なるように配置されているのだ。最大限に景色を楽しめる、この物件に込められた工夫の数々をご紹介しよう。

モットーは施主様のキャラクターに合う家作り 心地よく、長く住まい続けられるために
滋賀県大津市に、とても目を引く建物が誕生した。広大な横長の敷地に、1階がカフェで2階が住居、そして施主様(グラフィックデザイナー)の事務所小屋が同じデザインで建てられている。とある名所にほど近い場所にあるため、この敷地の前を多くの方が通り、足を止めて建物を眺める人も多い。この作品が誕生した背景をご紹介しよう。

広々とゆとりあるLDKを実現した、天井とルーフテラスの工夫とは?
視線を遮りながら明るく開放的で、テラスも備えた天井の高いLDKがほしい――。細長い旗竿地で、道路斜線による高さ制限もあるなか、建築家の川本達也さんは施主の想いを叶えた理想のLDKを作り上げました。軒梁を格子状にした天井、内から外へ連続するテラスなど、完成したLDKに隠された多彩な工夫に注目です。

光や風を家中に届ける格子天井 新たに暮らす街に馴染む、開放的な住まい
新たに土地を購入し、自宅を新築することにしたお施主さま。子育てに向け「部屋が孤立しないこと」を希望された。建築家の林さんは、1階と2階を格子で繋げることでそれを実現。同時に、視覚的にも感覚的にも周囲に馴染むオープンな雰囲気を持ちながらも、視線や距離感をコントロールできる家をつくり上げた。

可動の家具で緩く仕切ったモダンなワンルーム空間
1977年築、2LDKのマンションをリノベーションして出来上がったのは、広いワンルームに、そっと生活の補助線を引くように家具を配置した開放的な空間。リフォームに向く物件探しから家具探しまで全面的に協力したという、建築家こだわりの家づくりを覗いてみよう。

メリット多彩な大屋根が「家族を守る」 バルコニーや庭からは名物の花火も鑑賞
お施主様との会話や、敷地の特性からヒントを得て設計を行っている建築家・高瀬さん。今回は、厳しい気候条件に備える「大屋根」をかけた新築事例を紹介。敷地配置から外観デザイン、間取りのすべてを、お施主様ご家族のライフスタイルに合わせて、多彩な工夫を凝らしたプランの一邸だ

既製品を用いてコスパとデザインを両立 空間全体を見渡せる開放的な住まい
弟夫妻より家を新築したいと依頼を受けたいのはな建築事務所の2人。時期はちょうど工事費が高騰し始めた頃だった。コスト管理をしながら、望み通りの家をつくる。もちろんインテリアも妥協なく、と取り入れたのは既製品の建具など。意外かもしれないが、完成したのは洒脱なデザインの開放的な家だ。

里海の暮らしがすぐそこに。 自然の恵みを体感できる店舗併用住宅
「海が見える場所に店舗併用住宅を建てたい」と、レストランオーナーのお施主様より依頼を受けたあわデザインスタジオの岸田一輝さん。お施主様にとっての「普通の暮らし」を叶えるため、また、この場所だからこその海の風景を楽しむように岸田さんが作り出したのは、「くの字」に曲がった建物だった。

その土地を知り尽くした設計! 自然と共存し、暮らしを継ぐ家
いまだ自然あふれる東京郊外。その土地に住み兼業で農業を営むSさんは、家の老朽化により二世帯住宅への建て替えを考えていた。しかし、建て替えには難しい敷地条件があり、建築家の大沼徹さんに相談。谷あいという個性豊かな土地で大沼さんが実現した、農家という昔ながらのファクターを受け継ぎながらの新しい家づくりとは?
