白とグレーの空間に「足し算」し、
シンプルな中に贅沢さと個性が光る家

物を置かずに、シンプルな暮らしがしたいとお望みだったお施主さま。依頼を受けた建築家の武本さんは、いくらでもシンプルに整えることはできるが、そこにあえて足し算することで個性が感じられる家にしたいと考えた。手仕事ならではの質感や素材感を絶妙なバランスで引き立たせたこの家には、唯一無二の魅力がある。

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あえてデザインに「足し算」し
シンプル、ミニマル空間に個性をプラス

今回紹介する「white/gray」は、ミニマルに、シンプルに暮らしたいというお施主さまの要望を表現した家だ。

奥さまの妹さまの家の隣に、庭を共有するように建てられたL字型の2階建ての家。1階はLDKと水回りを配置、2階は北側の辺の上にのみあり、個室を集めて計画した。家は外観も内部も白とグレーを基調としている。設計した株式会社 one designの武本博徳さんに聞くと、色使いを抑えることで、シャープさを演出したとのこと。

ただ、この家にはシンプルさの中にもどこか人を惹きつける魅力がある。無機質な印象はなく、むしろ素材感や手仕事感などが感じられるのだ。

すっきりシンプルな家づくりをするには引き算していけばいいと武本さんは話す。しかし、それでは個性が出ないのだという。そこで武本さんは、ミニマルな設えの中に逆に足し算することで、唯一無二の魅力的な家をつくり上げた。

足し算とは具体的に何だろう。例えば階段。フレームや手すりは鉄製とし、踏板は薄い鉄板に木材を貼った。面白いのはフレームや手すり部分に同じく鉄製のビスが付いているのだが、本来それは必要ないというのだ。強度などは十分だったがあえてビスを打つことで、鉄の質感が強く感じられる、階段らしい無骨さを表現した。

さらに、踏板の木材はシナ合板を採用し、表面だけ白く塗装。側面から見ると、木材が重なり合う共芯の表情が見えてかわいらしい。逆に上から見れば木材の白い印象のみが際立ち、これ以上ないミニマルなスタイルを味わうことができる。

質感へのこだわりはまだある。室内を構成する二つの色のうちグレーは左官塗り、白は塗装で仕上げた。手仕事ならではのムラひとつひとつが表情になり、光の移ろいを美しく見せる。

シンプルな中にも、心を打つデザインで満たされている「white/gray」。足し算の妙によって、お施主さま一家が暮らすのにふさわしい個性豊かで贅沢な家ができあがった。
  • 1階LDK。配色を白とグレーに抑えシャープな印象を生み出した。玄関からLDKに入るとまず見えるのがこの風景。ニッチを効果的に使ってほしいと武本さん。視線の高さより上に物を置かなければ空間はシンプルに整えられるため、ニッチの高さも160cm程度にした

    1階LDK。配色を白とグレーに抑えシャープな印象を生み出した。玄関からLDKに入るとまず見えるのがこの風景。ニッチを効果的に使ってほしいと武本さん。視線の高さより上に物を置かなければ空間はシンプルに整えられるため、ニッチの高さも160cm程度にした

  • 造作した階段手すり。職人が意図をきちんと理解しているからこそ、図面上の指示を超えたデザインが生まれる

    造作した階段手すり。職人が意図をきちんと理解しているからこそ、図面上の指示を超えたデザインが生まれる

  • 2階寝室。右が夕日を眺めるための大きな窓。画像左、ニッチがある壁面がベッドの枕元になる。お子さまと一緒にベッドに入ったのち、いちいちベッドから出て電気を消しに行く必要がないように、ニッチにスイッチを設けた

    2階寝室。右が夕日を眺めるための大きな窓。画像左、ニッチがある壁面がベッドの枕元になる。お子さまと一緒にベッドに入ったのち、いちいちベッドから出て電気を消しに行く必要がないように、ニッチにスイッチを設けた

  • 階段は、無骨なイメージを表現するため、また印象がシンプルになりすぎないよう、デザインの足し算を施した。ビスは強度的には必要ないが、鉄の質感をより強く押し出すためにつけた。踏板のシナ合板は表面を白く塗装し、側面の共芯の表情は楽しめるようにした

    階段は、無骨なイメージを表現するため、また印象がシンプルになりすぎないよう、デザインの足し算を施した。ビスは強度的には必要ないが、鉄の質感をより強く押し出すためにつけた。踏板のシナ合板は表面を白く塗装し、側面の共芯の表情は楽しめるようにした

職人たちのやりがいを引き出しながら
相乗効果を感じる最良のデザインを実現

この家に品のよい個性を与えているのは武本さんの情熱から築かれた、施工を行う職人たちとの関係性によるものでもある。家づくりにおいて、職人たちが「ここをつくった」と語れる仕事をして欲しいと常に考えているという武本さん。そのための場も設けている。

階段に向かう壁面に露出した電気配管と、階段の手すりは同じ太さ。電気工事を担当する職人と、大工仕事を行う職人は普段交わることがほぼないそうだが、協業してひとつのものをつくる機会を生み出した。ともに相談し、ディテールを決めて実現する。苦労も多いがやりがいがある仕事であることは間違いない。美しいカーブを擁する手すりと配管は、こうして実現した。

外観も職人の工夫と確かな技術によって魅力が増した箇所のひとつだ。家は旗竿地の最奥にあるため、道路からよく見える2階部分を目立たせたかったと武本さん。1階は左官仕上げ、2階はガルバリウム鋼板と素材を変えたうえ、接点を丁寧に揃えたおかげで2階は浮いているようにも見える。

最もこだわったのは、ガルバリウム鋼板の張り方だ。こちらも、シンプルになりすぎないようにとの思いがあった。そこで、鋼板の横幅を6種類にわけ、つなぎ目が揃わないように張ってもらったという。「職人さんたちはすごく悩まれてましたね」と笑う武本さん。しかし、他になかなか見ないこの張り方は、同業者などの間で話題になるだろう。こだわり抜いたデザインが、話のきっかけになってくれればうれしいと考えているのだ。そして、こうして職人ひとりひとりが考え表現したデザインだからこそ、お施主さまは完成時にこの上なく喜ばれたのだろう。
  • 普段交わることが少ない業種の違う職人が協業してつくった手すりと配管。空間がひとつにまとまった

    普段交わることが少ない業種の違う職人が協業してつくった手すりと配管。空間がひとつにまとまった

  • 南からみた外観。旗竿地の最奥にあるため、道路から見えやすい2階が目立つように計画。1階のサッシの高さと、2階外壁のガルバリウム鋼板の高さを揃え、外観のラインもシンプルに整えた。家の手前は中庭。左隣の建物は親族の家。庭を共有し、行き来できるよう家を配置した

    南からみた外観。旗竿地の最奥にあるため、道路から見えやすい2階が目立つように計画。1階のサッシの高さと、2階外壁のガルバリウム鋼板の高さを揃え、外観のラインもシンプルに整えた。家の手前は中庭。左隣の建物は親族の家。庭を共有し、行き来できるよう家を配置した

  • 1階LDK。左奥のキッチンカウンターの一角を凹ませ、食事用のテーブル使用できるようにした。ダイニングテーブルとしてと、キッチンカウンターとしてでは適した高さが異なるため、キッチンの床レベルを下げて調節。両方の用途で快適に使えるようにした

    1階LDK。左奥のキッチンカウンターの一角を凹ませ、食事用のテーブル使用できるようにした。ダイニングテーブルとしてと、キッチンカウンターとしてでは適した高さが異なるため、キッチンの床レベルを下げて調節。両方の用途で快適に使えるようにした

要望を叶えながら、居心地や使い勝手も追求
丁寧なヒアリングで満足度の高い家づくり

もちろん、大きな要望である「物をあまり置かない、シンプルに暮らせる家」であること、お施主さまに合わせた暮らしやすさを確保することは第一に考えられた。

今まで足し算の話をしてきたが、シンプルな空間をつくるには、目線より上に物を置かないことが大切だという。生活の場であるLDKでは特にそれが徹底され、キッチンの背面に設けられたダイニングまで続く長い収納も腰の高さに抑えられている。収納は押して開閉するプッシュラッチを採用。取手もなくこれ以上ないすっきりとした佇まいだ。

また、収納棚の上に2つのニッチを計画したが、こちらも視線の高さに配置した。玄関からLDKに入る仕切り戸を開けると目に入る位置にあるといい、ミニマル空間にちょっとした彩を添えることだろう。

キッチンは対面型とし、カウンターの一角で食事がしたいとお考えだったお施主さま。土台の一部を凹ませ、椅子を置けるようにした。それだけではない。キッチンで調理をするのに適した高さと、ダイニングテーブルとして適した高さとは違う。そこでキッチンの床レベルを一段低くし、両方に合う高さとした。

もうひとつ、お施主さまが希望されていたことがある。夕日を望みたいということだ。武本さんは2階の西端に夫妻の寝室を配置。そのうえで、夕日をきれいにフレーミングして見せる大きな窓を開口した。夕暮れ時の美しさには目を見張るものがあり、時間になると2階に上がり眺めるひと時を楽しみにされているとのこと。

完成した家に対して「本当に素敵」と大満足くださったお施主さま。それもそのはず、武本さんの丁寧なヒアリングには定評がある。この「white/gray」のお施主さまも回を重ねるごとに信頼を深めてくださり、途中から細かなデザインまでお任せくださったそうだ。お施主さま、職人たち、家づくりに関する全ての人と確実な信頼関係を築く武本さん。そんな武本さんがつくる家が、お施主さまにとって期待以上でないことなどありえない。
  • 1階キッチン。冷蔵庫は生活感が出ないよう右奥のパントリーに設置する。左奥の仕切り戸は水回りへ続く

    1階キッチン。冷蔵庫は生活感が出ないよう右奥のパントリーに設置する。左奥の仕切り戸は水回りへ続く

  • 1階、キッチン背面からダイニングまで伸びる収納。プッシュラッチのおかげで、空間全体のシンプル、ミニマルな印象を損なわずに大容量の収納を設置できた。壁面に余計なものを出さないため、コンセントはカウンターの上部に設けた

    1階、キッチン背面からダイニングまで伸びる収納。プッシュラッチのおかげで、空間全体のシンプル、ミニマルな印象を損なわずに大容量の収納を設置できた。壁面に余計なものを出さないため、コンセントはカウンターの上部に設けた

  • 洗面脱衣室。洗面台の下は予定のラックやカゴが入る高さに計画。ご要望からアイロン台も置けるようしている。洗濯に関する家事はこの場所で全部完結できる

    洗面脱衣室。洗面台の下は予定のラックやカゴが入る高さに計画。ご要望からアイロン台も置けるようしている。洗濯に関する家事はこの場所で全部完結できる

  • 2階寝室、夕暮れ時の様子。ゆっくりと日が沈む姿を、窓が絵画のように切り出している

    2階寝室、夕暮れ時の様子。ゆっくりと日が沈む姿を、窓が絵画のように切り出している

間取り図

  • 1階 平面図

  • 2階 平面図

基本データ

作品名
white/gray
施主
H邸
所在地
静岡県富士市
家族構成
夫婦+子供1人
敷地面積
306.11㎡
延床面積
107.66㎡
予 算
2000万円台