学生に大人気の集合住宅。
ひと目で住みたくなる魅力を探る

少子化が進む今、学生街の賃貸住宅で安定経営を図るには差別化が欠かせない。そんな中、ムービング・アーキ一級建築士事務所の李孝哲さんが手がけた「木造2階建てアパート」は、あっという間に満室に。その理由を探ると、さまざまな建築に造詣の深い「李さんならではの住まいづくり」の魅力が見えてきた。

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同じ部屋は1つもない。
将来も競争力を保てる集合住宅

今回ご紹介するのは「木造2階建てアパート」と聞き、長方形の建物に玄関ドアが並び、外階段をトントン上がって部屋に入る……そんな集合住宅をイメージした。

ところが、ムービング・アーキ一級建築士事務所代表の李孝哲さんが設計した「木造2階建てアパート」を見て驚いた。外観は白でまとめたシンプルで洗練されたデザイン、エントランスはオートロック、通路は内廊下。おまけに、敷地内にはシンボルツリーが植えられた中庭まである。

この集合住宅のオーナーさまは、定年を機に初めて賃貸経営に臨むご夫婦だった。建築予定地は大規模な大学のキャンパスがある街で、ニーズがあるのは学生向けの賃貸住宅。だが、少子化の影響もあって昨今は空室物件も目立ち、競争は熾烈を極める。それゆえ、「長期にわたり競争力を保てる物件づくり」が望まれていた。

この要望に対し李さんは、設備や仕様が充実し、魅力的なコンセプトのある集合住宅をプランニング。オーナーさまのリクエストに応えてオートロックや内廊下を取り入れつつ、それぞれの部屋のプランを変更。全8戸、同じ部屋は1つもない集合住宅をつくったのである。

李さんはいう。「例えば1階の道路側の部屋は、『道路が近くても気にしない男の子が住むかな』とか、1つ1つどんな学生さんが住むかイメージしながら設計しました。ですから間取りや内装は全部違いますし、中には天井高まで異なるプランもありますよ」
  • 正面の外観。「室内に個性をもたせているので、すっきり仕上げました」という李さんの言葉通り、シンプルなデザインで色も素直なホワイトで統一。1階中央の共用エントランスはオートロックでセキュリティにも配慮

    正面の外観。「室内に個性をもたせているので、すっきり仕上げました」という李さんの言葉通り、シンプルなデザインで色も素直なホワイトで統一。1階中央の共用エントランスはオートロックでセキュリティにも配慮

  • 共用エントランスから先へ進むとシンボルツリーのある中庭に出る。1階の部屋の玄関はいずれも中庭に面しており、毎日必ず緑を眺める心地よい暮らしがかなう。白い非常階段の奥には2階への内階段があり、2階に住む学生さんも中庭を見てから出入りできる

    共用エントランスから先へ進むとシンボルツリーのある中庭に出る。1階の部屋の玄関はいずれも中庭に面しており、毎日必ず緑を眺める心地よい暮らしがかなう。白い非常階段の奥には2階への内階段があり、2階に住む学生さんも中庭を見てから出入りできる

一人ひとりの暮らしをイメージした、
注文住宅のような部屋づくり

ではここで、全8戸のプランを簡単に紹介しよう。いずれも個性が際立ち、「李さんは8人の施主の家づくりを行った」ともいえるバリエーション。約27㎡と同じエリアのワンルームより広めの造りで、どの部屋に住もうか迷ってしまうほど魅力的なラインアップになっている。

#101 カフェ風空間で料理を楽しむ
1階だが南から明るい光が入る部屋。道路から奥まった位置なので、女の子を想定。自炊生活がしやすいよう、キッチンとリビングを分けた。

#102 友達が遊びに来やすい部屋
グリーンのアクセントクロスをポイントにした、男女ともに好まれる内装。造作のオープンキッチンがあり、友達と鍋パーティなどを楽しめる空間。

#103 男の子ウケするカッコよさ
道路側の部屋。自転車で活発に行動するような男の子を想定。表情のある床とコンクリート打ち放し風の壁でカッコよく仕上げている。

#105 広い土間のある和空間
玄関を開けると共用部の中庭があるため、キッチン付きの広い土間を設けて住空間と中庭の距離を確保。琉球畳の洒落た和室で落ち着ける。

#201 中庭を眺めながら勉強を
中庭側の窓の下にカウンターを造作。緑を眺めながら勉強できる。きちんとした暮らしを好む女の子を想定し、キッチンやトイレは独立させた。

#202 どんなインテリアも映える空間
木目クロスと白が基調のデザインで、どんなインテリアも映える。玄関を入ったところに目隠しになる収納棚を造作し、プライバシーにも配慮。

#203 ロフト付きでスペース広々
道路側なので男の子を想定。天井が高く、寝室として使えるロフトもあるためベッドが不要。その分、スペースを広く使える。

#205 屋根裏風の天井高空間
天井を張らず、構造材を見せることで天井高の空間に。シーリングファンもある屋根裏風のデザインで、クールな雰囲気。
  • 101号室。シックな木目やアクセントクロスでカフェ風の空間をイメージ。料理好きな女の子の入居を想定し、キッチンは独立したレイアウトに。どの部屋も洒落た内装だが床はフローリング風の塩ビタイルを用い、デザイン性とメンテナンスの利便性を両立している

    101号室。シックな木目やアクセントクロスでカフェ風の空間をイメージ。料理好きな女の子の入居を想定し、キッチンは独立したレイアウトに。どの部屋も洒落た内装だが床はフローリング風の塩ビタイルを用い、デザイン性とメンテナンスの利便性を両立している

  • 103号室。道路に面した1階なので男の子の入居を想定。木型を使ったコンクリート打ち放しを思わせるクロスを張り、ダクトもあえて見せた内装は、まさに男の子が喜びそうなカコよさ

    103号室。道路に面した1階なので男の子の入居を想定。木型を使ったコンクリート打ち放しを思わせるクロスを張り、ダクトもあえて見せた内装は、まさに男の子が喜びそうなカコよさ

  • 105号室。琉球畳の洒落た和室で床座の生活ができる。右奥の玄関ドアを開けるとほかの学生さんも通る中庭なので、広い土間をつくって中庭と住空間の距離を確保した

    105号室。琉球畳の洒落た和室で床座の生活ができる。右奥の玄関ドアを開けるとほかの学生さんも通る中庭なので、広い土間をつくって中庭と住空間の距離を確保した

  • 203号室。天井を高く取り、ロフトを設置。ビルを描いた青いクロスや白いシーリングファンが爽やかな印象

    203号室。天井を高く取り、ロフトを設置。ビルを描いた青いクロスや白いシーリングファンが爽やかな印象

心豊かに暮らせる共用部。
「内見すれば即決」で、すぐ満室に

李さんは自分らしく学生生活を謳歌できるコンセプチュアルな部屋をつくっただけでなく、建物全体における「暮らしの豊かさ」や「快適性」にも配慮している。

象徴的なのは中庭だろう。この集合住宅は、共用エントランスを入って先に進むと中庭に出る造り。1階の4部屋はいずれも玄関が中庭に面しており、2階への階段も中庭を見てアプローチする配置だ。

これは「オートロックで守られた中庭から自分の部屋に入ることで、安心感を提供したい」という李さんの思いから。同時にこの動線や部屋配置によって、各部屋の間に適度な距離感も生まれている。

さらに、「学生さんが一息ついたり、お互いに声をかけ合ったりできる場になれば」と、中庭にはシンボルツリーも植え、緑が身近にある気持ちよさもプラス。また、共用部は内廊下、内階段の贅沢な仕様にしたほか、2階共用部の床にはタイル風のシートを使うなどデザインにも妥協しない。

李さんによると、「学生向けの賃貸住宅ですから、メンテナンスコストも考慮して高額な素材は使っていません」とのこと。それでも、暮らしていて心地いいと思える空間に仕上げているのはさすがだ。

肝心の入居状況だが、高額家賃を設定したにもかかわらず即満室になったという。通学しやすい立地やハイスペックな設備・仕様も影響しているだろうが、一番の決め手は住空間。

李さんがつくった8戸の部屋は、ひと目で「ここに住みたい!」と思う魅力にあふれ、不動産会社に「内見すれば必ず決まる」といわしめた。そんな李さんの力量が、オーナーさまの安定経営と学生さんの豊かな暮らしを生んだのだ。
  • 写真中央の上部は2階の内廊下。連続窓があり、中庭を見下ろしながら行き来できる

    写真中央の上部は2階の内廊下。連続窓があり、中庭を見下ろしながら行き来できる

  • 2階への内階段や、2階の共用廊下にも明るい陽光が入る。床にはタイル風のシートを張って高級感を演出

    2階への内階段や、2階の共用廊下にも明るい陽光が入る。床にはタイル風のシートを張って高級感を演出

間取り図

  • 1F間取り図

  • 2F間取り図

基本データ

所在地
神奈川県平塚市
敷地面積
367.40㎡
延床面積
265.50㎡
予 算
4000万円台